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える『ちから』

2008.05.10 04:44

水上 える

なかなか寝付けないでいる夜だった。
暑いわけでも寒いわけでもない、春の夜。
「今日は昼寝もしてないのに……おかしいなあ」
羊を数え始めたら、その毛のもじゃもじゃが積み重なっていく様を思い浮かべてなんだか愉快になってしまい、
よけいにテンションがあがってしまったようだ。
あきらめて彼はむくりと体を起こした。
「ホットミルクでも飲んでみるかあ」
先日一人暮らしをはじめたばかりの部屋だった。
3つ目くらいの志望大学にどうにか受かり、親に小言を言われながらもどうにかはじめたこの生活。
これまでずっと、「なんとなく」生きてきた彼にとっての小さな自由。
牛乳を鍋に入れてコンロにかけ、沸騰する直前で火を止める。
マグカップに移し、角砂糖を3つほど投げ入れ、かき混ぜる。
猫舌の彼はすぐには飲めない。
銀色のスプーンで、白い液体に溶けていく白いカタマリをつつきながら、待つ。
「……こんな風に生きていくんだよ」
同じ色の中に自分は溶けていく。溶けてなくなっていく。
同級生は遊ぶために大学に入ってきたようなやつばかり。
ナンパ目的でテニスサークルに入って、合コンして彼女つくって、
雑誌見て格好をつけて、たまには似合わないあごひげなんか伸ばしてみたりして、
授業はサボってコピペでレポート出して、適当に人間関係をこなして……

『本当にそれでいいの?』

ふいに少女の声がした。
「また出てきたのか、お前」
最近は突然声をかけられても、驚かなくなった。
最初は受験勉強のノイローゼがついにきたかと思ったものだったが。
『私はよくない。はやく、決断をしてよ』
「する必要はないよ。お前は死んだんだ。俺の妹は、死んだ」
『だから、お兄ちゃんなら生き返らせることができるって、言っているじゃない』
「しない。親父たちだって、やっと心の整理がついた頃合だ。混乱させたくない」
『お父さんもお母さんも、私が生きている方が嬉しいに決まってる』
彼はスプーンをカップに入れたまま、斜め後ろを見やった。
ぼんやりとした形の、うっすらと透けた少女の姿がそこにあった。
「生きている人間には、生きている人間の都合があるんだよ」
『私だって、まだ、ここに、いるのよ』
「いるんなら、別にそのままでいいんじゃないか」
『生き返れるなら、生き返りたいに決まっているじゃない!私だって人間なのよ!』
「お前がそうやって、盲目的になればなるほど、俺はお前を信じられなくなる……昔からそうだった」
そろそろ牛乳が冷めた。角砂糖も溶けた。
彼はカップに口をつけた。甘い。
たったこれだけの、たったこれだけの甘さを感じさせてくれる世界。
それ以上を彼は望まない。これまでもそうだった。だからきっとこれからも。
『世界を変えることができる力を、手にすることができるのよ』
「それを手にして、どうすればいいんだ?」
『私を生き返らせて。そして、好きなように世界をつくりかえればいいわ』
「その世界は……この世界とどう違うんだろう」
『ぜんぜん違う!私がいるのよ!?』
「また死ぬかもしれない」
『じゃあ何度でも生き返らせて!』
「堂々巡りだな。いや、何度も死ぬ分だけよけいに悲しい」
少女が目に涙をためたのがわかった。
「俺だって考えないわけじゃないんだぜ。でもさ。駄目なんだ。追求していくと、その先が見えないんだよ」
少女はまだ何か反論しかけて、しかし言葉が出ないのか、息を吸ったまま止まった。
「じゃあ、ごめん。はっきり言う。俺はお前を信じられない。それだけなんだ。ごめんな」
少女ははっとしたように目を見開いた。
「俺を惑わせようとするのはやめてくれ」
少女はさあっと砂のようになり、やがて消えた。

彼がホットミルクを飲み干した頃には、もう空は明るくなっていた。
「あ、大学生初徹夜じゃん」
なんでもない日常のため、彼はカバンにノートと筆箱を突っ込んだ。

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なんかいろいろ混ぜ合わせたみたいになった。。もじゃ。。


abendrot
妹の悪魔の囁き!
なんか、おにぃちゃんを究極のシスコンな設定にしたら、深夜アニメのノリになりそうですね(笑05/10 13:57

水上 える
おにいちゃんをシスコンにしても、妹は幽霊だから、あんなことやこんなことはできないんだぞv05/10 21:38

野良(--)
完結しているお話だな。これ以上は広げてもあまりよい方向にはいかなさそうだ。
先が見えないからなにもしない、というのは甘えだな。
こいつはよほど満ち足りた生活をしているようだ。05/11 20:20
最終更新:2009年10月23日 02:55
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