2008.05.14 00:32
ミカヅキX
アラックさんと三匹の犬
村の少し外れのあたり。どちらかというと、村よりも森に近いあたりにアラックさんの家はありました。
昔は気難しかったアラックさんは、若気のいたりというやつで、こんな村外れに家を建ててしまったのです。
しかし、破れ鍋に小鳥が住まうの言葉通り、こんな辺鄙な家でもいいところはあります。
森から近いということは、森に行き易いということです。
そして、アラックさんは、よく森に行く狩人なのです。
今日も、アラックさんは、森に出かけて、二匹の丸々と太ったクリイノシシを捕まえてきました。
最近では、山に行っても森の声を聞くだけで、あまり狩りをしなくなっていたアラックさんでしたが、今日は違いました。
だって、もうすぐ春のお祭りがあるからです。
少し離れた村の中央からは、風に乗って楽器の音が聞こえてきます。
本当は春のお祭りには、狩人は立派な角の生えた牡のヒゲジカを狙います。
恋する季節のヒゲジカはとても怒りやすく、しとめるのが難しくなります。
そんなヒゲジカだからこそ、狩人は自分の腕を競うために追いかけるのです。
また、ヒゲジカの名前の由来になっている、首の付け根から生えている長い毛からは、丈夫な布が出来るので、若い狩人は好きな娘にこの毛を贈り、娘はそれで狩り衣を作ってお返しするのです。
しかし、一番大好きだった奥さんが無くなってから、アラックさんはヒゲジカを狙ったことはありません。
もしかすると、孫娘が大きくなったら、もう一度ヒゲジカを追いかけるかもしれませんが、当分はそんなことは無さそうです。
アラックさんは、三匹の猟犬を飼っています。
今日も、その三匹と一緒に狩りにいってきました。
一番大きな赤毛のヴァイは子牛ほどの大きさがあって、魔物のように恐ろしく見えます。
でも、三匹の中で一番臆病で、今日の狩りでもクリイノシシがヴァイに向かって走ってきたときに、慌てて逃げ出して樹に飛び登っていました。
そんなヴァイですが、大変な力持ちで、森の中のでこぼこ道を二匹の丸々と太ったクリイノシシを、一匹だけで家まで運んだのです。
狩りで一番活躍したのは、灰色の狼のようなアルです。
女の子ですが、三匹の中では一番アラックさんの言う事を聞きます。
アラックさんが狙った獲物を絶対逃さず、上手に追い詰める事ができます。
また、勇気もあり、ヴァイより大きいアカツメグマにも勇敢に飛び掛っていきます。
ちょっと、とっつきにくい感じがするライですが、水浴びが大好きで、アラックさんの孫やその友達と川遊びをするのが大好きです。
ただ、今の季節は水浴びにはまだ早いので、早く夏が待ち遠しいアルなのでした。
さて、狩りで一番の役立たずは小さな黒犬のライです。
毛がとても長く、丸まっているとモジャモジャのクッションにしか見えません。
どこが目で、どこが口なのかも良くわかりません。
但し、勇気だけならアルよりもあるかもしれません。
今日も、クリイノシシにヴァイが逃げ出したときも、すくっと地面に立って相手を睨みつけていました。
残念な事に、あまりにも小さいのでクリイノシシはアルの姿に気付かなかったのですが。
こんな三匹と狩りを終えて帰ってきたアラックさんは、お腹が減ったので台所に向かいました。
家の中には誰もいません。
きっと、お祭りの準備に出かけたのでしょう。
アラックさんは、息子のお嫁さんが作ってくれていた、固焼きパンの乗ったお盆を手に取りました。
そのまま、家を出て、入り口の横の大きな椅子に腰掛けました。
その椅子には、とてもきれいな彫刻が施されていて、芸術品のようでした。
じつは、この彫刻を彫ったのはアラックさんなのです。
アラックさんは、弓矢のほかに、彫刻もとても上手なのです。
アラックさんは、食事をしようと、お盆に掛けられた布を取りました。
そこには、アラックさんのお昼ご飯の固焼きパンのほかに、薄く切られたハムがあります。
それだけではありません。
その横には、ハムに付いていた太い骨と、角砂糖と、硬く乾燥された干し肉がありました。
それぞれ、アル・ヴァイ・ライの大好物でした。
それを見たアラックさんは、とても嬉しそうに目元を緩め、長い顎鬚を引っ張りました。
よくみると、固焼きパンの下に折りたたんだ紙が置いてありました。
「今年の子供相撲はわしの孫が大活躍するゆえ、アラック殿も見に来るがよろしかろう」
村長さんからの手紙でした。
アラックさんは、少し眉間に皺を寄せました。
それは、盲目的に孫を可愛がる村長さんからの、挑戦状だったのです。
「うちの孫が勝つに決まっとるわ」
そう呟いてから、アラックさんは、はたと村長さんの本当の気持ちに気付きました。
子供相撲の話をして、孫を可愛がる事にかけては村長さんに負けてはいないアラックさんを祭りに呼び出そうとしたのでした。
アラックさんは、手紙を見ながら少しの間考え込んでいました。
やがて、アラックさんは大事そうに手紙をたたみ、チョッキのポケットに入れました。
そして、三匹の犬を呼んで、それぞれに好物を与えました。
アルは、唸りながら太い骨にかじりつきます。
ヴァイは高価な角砂糖を一瞬でバリバリと噛み砕き、鞭のように細い尻尾を振りながら、もらえない二個目を待っています。
ライは、細くて硬い干し肉を大事そうにくわえて、お気に入りの場所でゆっくりと食べるために歩いていきました。
お腹がいっぱいになったアラックさんは、椅子の上でうとうとし始めました。
足元には、アルとヴァイが寝そべっています。
春の陽は暖かく、遠くから笛の音が聞こえてきます。
いつの間にもぐりこんだのか、ライが、アラックさんの長い顎鬚の間から顔をのぞかせています。
もうすぐ春のお祭りの日がやってきます。
アラックさんは、何年ぶりかで、村のみんなと楽お祭りをしむ事になりそうです。
※※※※※※※※※※
参照
犬の設定
ちなみに元ネタありですが、わかんないだろうな~。
野良(--)
これは上手いな。雰囲気でてる。なんだか指輪物語の最初の方のようだ。
個々の対象についての描写ってのは、普通の話の中だと難しいんだよな。
こういう形式にすればじっくりと描けるのか。05/14 21:11
ミカヅキX
アラックの設定が先走りすぎて、家族がおざなりになってしまった感はありますが、反省はしません。
>個々の対象についての描写
こういう場所だと、なかなか長い作品は読みにくいので、断片的なものを連ねる方がいいかもしれませんね。
05/15 00:36
最終更新:2009年10月23日 03:30