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――14――

2008.05.11 20:47

野良(--)


――14――


 宿場の町からほど近く、しかし道からは遥かに離れた、吹きさら

しの荒野の上。

 呼び出されたその場には、古い都市の跡地があった。

 市門は崩れ、防壁は砕け、往来には割れた石板が散っている。連

なっていたはずの街並みは、その基礎しか残っていない。壁に残さ
                  がれき
れた魚の絵、建材に混ざった小さな貝、瓦礫に埋まった堀の跡が、
      ユージス  しの
今と変わらぬ人の営みを偲ばせた。



 その全ては過去の傷。『刃の王』の力の跡だ。


 わず
 僅かな感傷を飲みこんで、ラディは進む足を早めた。生の気配の

欠片もない、砕け乱れた死の道を。

 街の中心へと近づくにつれ、破壊の程度は小さくなっていく。だ
                        すさ
がそれは気を落ち着かせるものではなく、むしろ心を荒ませるもの
                 ことごと
だった。原型を残す家屋の群れは、その悉くが巨大な刃で斬り断た

れ、力の跡をよりはっきりと浮き立たせていた。

 それは足を向ける先、巨石を積み上げ建てられた、円形の競技場

にもはっきりと。

 元は屋根を備えていたのであろう巨大な建造物は、綺麗に斜に断

たれていた。風化が進み環の形も不確かであるにも関わらず、その
       なお
威力だけは今も尚明確に伝わってくる。

 更にざわつく心の内、震える左手を自覚しながら、それでもラディ

は歩みを止めない。大きく崩れたその入口に、揺れる足を進めてい

く。

 踏み入った通路に遮られた日の光は、束の間の闇を抜けた後、再

び頭上から照りつけた。
            たたず モノ        まと  ひ
 ラディと、その場の中央に佇む存在。異国の騎士衣を纏った緋の
    クルセイド
色を宿す聖騎士と、黒い檻に囚われた男を。
 うなだ
 項垂れ動かぬその様を目にして、ラディは装っていた冷静をかな

ぐり捨てていた。

「ギルっ!」

「動くなっ」

 シェリルが放った制止の声は、周囲に広がる動きと共に。ラディ
                        ボウガン
が踏み出した一歩を止めたとき、競技の場は重たげな石弓を構えた
   ガード           やじり
無数の衛兵士に囲まれていた。太い鏃の輝きは、全てがラディへと

向けられている。

 湧き上がる怒りの思いを横におき、ラディはただただギルを見て
                        わず
いた。ゆっくりと開いた青い目に、浮かんでいるのは僅かな非難。

 ようやく息をつくことができた。彼がまだ生きていることへの安

堵に。

 それも、視線を隣へ動かすことで消えていたが。

「来たわよ。アンタの望みどおりに」

 吠えるラディを、シェリルはじっと見据えていた。腰の剣に手を
              まと
掛けたまま、絶えぬ緊張を身に纏って。

「ちゃんと一人で来たようだな。外部からの助勢は期待するなよ。
   ウィザード
すでに魔術師数人が警戒している」

「望みどおりって言ったでしょ。さっさとギルを開放しなっ」

「約束は守る。だが、こちらの目的を果たすのが先だ」

 言いながら、シェリルはゆっくりとラディに近づいていた。握る

剣を鞘から抜き、その刃を現しながら。光を思わせる意匠の剣は、

それに相応しい神聖さで、討つべき敵を捉えている。
                         まなざ
 脳を焼くような不快な焦りに、知らずラディは向ける眼差しを細

めていた。左眼の痛みと熱を自覚しながら、それでも止められぬ想

いのままに。
      わず
 刃の輝きが僅かに揺れる。だが、シェリルが目の前にまで達する

間に、生じた変化はそれだけだった。

「っ……」
               ゾーン   エクセリオン
「無駄なことは止めろ。この剣は魔王を砕く『七封剣』だ。『刃の

王』の力とて及びはしない」

 誇るでもなくそう言うと、シェリルは剣を振り上げた。ラディを
  ひ     わず
見る緋色の目に、僅かばかりの憂いを浮かべて。

「……経緯は聞かせてもらった。同情の余地はあるが、お前の存在

は生きる者全ての脅威となる」

 だがそれも、剣線を定めるまでの一瞬のこと。
            エクセリオン
 語りが終わるより速く、『七封剣』は振り下ろされ。

「世界のために、死んでくれ」

「冗談じゃ、ない!」

 持ち上げられたラディの左腕、巨大に膨れた刃の腕に止められて

いた。

「なっ」

「アンタの言うことなんか、信じられるかっ」

「貴様……!」

「まったくです」

「なに!?」

 瞬間で離れた距離も、即座にその間を潰される。


                 グレート・ソード
 その刃腕より撃ち放たれた、銀の少女の大剣に。



 二人の手にした刃が重なり、鋼の音が鳴り響く。大気に散った歪
             まなざ
み越しに、シェリルは怒りの眼差しをフランへと向けていた。

「クっ。貴様、女の中に……!」

「随分と間抜け」

「な、に?」

「私の存在を知り、王の力を知っていながら、この可能性に気づか

ないなんて」

「っ、うるさ……!?」

 交わす瞬間の会話の間に、フランは次の手を放つ。

 持ち上げた鋼の左腕を、連なる剣のふさ房と変えて。

 振り薙ぐその動きに合わせ、刃の一つ一つが撃ち放たれていた。

 囲む周囲の兵たちと、剣を交えるシェリルへと。

「グっ!」「うお!」

「づぁっ」「クの……」
             わず
 だが、上がる悲鳴と混乱は僅か。十数の刀剣のその半ばは、標的

を得ずに地に落ちる。

 場に生まれた乱れは小さくも、それだけで十分だった。

 疾駆の一歩を踏みだすには。

 シェリルの威から逃れたラディは、まっすぐギルへと駆けだして

いた。

「っ、行かせるな! その女を仕留めろ!」

 だが、短い混乱は収まるのもまた早い。指揮官の叫びに応え、
ガード       クォレル
衛兵士たちは備えた太矢をラディに向けて撃ち放つ。

 生まれた刃の原の中、それは滅多に当たるものではないが、数と

邪魔が苛立たしく。

「ええい、うっとおしい!」

 振り薙いだ左腕の動きに合わせ、ラディは力を解放していた。

 地に突き刺さる刃の群れを、獣の群れへと変じる力を。



最終更新:2010年03月17日 02:57
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