2008.05.11 20:56
野良(--)
――17――
ラディの影から生まれた鋼の欠片は、その周囲で爆ぜるように膨
れ上がり、巨大な華を咲かせていた。
またた
それは瞬きの暇も与えず、さらに自らを広げていく。
津波のような勢いで、対じた女騎士に迫るように。
「クっ!」
ちゅうちょ
シェリルは一瞬の躊躇を悔やみながらも、即座にその場から跳び
退いていた。
だが、刃華の膨張は止まらない。
地を、獣を、人を斬り裂き砕きながら、変わらぬ威力で広がり続
けている。
触れる全てを飲みこんで。
「ひっ……」
「な、なんっ」
「うわああああ!」
押し寄せる鋼の津波を前に、場は戦い以上の狂乱に襲われていた。
地から噴き上がる刃の群れは異質の肉を喰らいながら、同質の獣を
も巻きこんでいく。その力に対象を定める意思はなく、故に防ぐ手
立てもない。
それこそ、世界を飲み干すまで。
「全員退けっ。この力は……っ」
周囲にそう指示を飛ばしながらも、シェリル自身はその余裕を得
しりぞ
られそうにもなかった。押し寄せる刃の波は退く動きより遥かに速
まばた
く、あと数度瞬く間に追いつかれるだろう。
最後の跳躍で覚悟を決めた。剣持つ拳に力をこめて。
足を止めたその場所には、斬り伏せた銀の少女が転がっていた。
ほほえ
膨れ広がる刃の華を、薄い微笑みで見る少女が。
「ようやく、目覚められた」
「なに?」
「あれこそが『刃の王』の真の力。無限の刃を生みだす父にして母。
そして、この世の全てを斬り刻む、王」
語る言葉には仄かな歓喜が宿っていた。世界の滅びを前にして、
それを望む確かな意思。
よこしま
シェリルの拳が力を増す。その邪な想いこそが、彼女の滅すべき
ものであったから。
「そうは、させん」
言葉と共に、光火の剣を振り上げた。
迫る刃の波を前に、一息で三つの封を解く。
「ディグレイン=ランカスターに連なりし、シェリル=オスカーの
は
名において制約を破する。第三の封より開放されし汝の力、今こそ
我が前に示せっ」
エクセリオン
シェリルの言葉に即座に応じ、『七封剣』が輝きを増した。
まと
纏う炎を膨らませ、その刀身を光に変えて。
巨大な刃の色は白。全てを飲み、喰らい、そして焼き尽くさんば
かりの威は、さながら空に燃える太陽のよう。
だが、迫る力を前にしては、それでも足りぬと知れてしまう。
「無駄なことを」
つぶや
聞こえたフランの呟きは、シェリルの想いを表すもので。
同時に、覚悟の一刀を振り下ろす機を告げる。
「ゥオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」
シェリルは咆哮と全霊の一撃を、眼前に迫った鋼の壁へと叩きつ
けた。
砕ける刃、爆ぜる光。
激突は瞬間で、しかしいつまでも終わらない。
刃の津波は砕かれながらも、その力を広げ続けている。
「っ、ヌウウウウウウウアアアアアア!!」
底を知らぬ剣の連なり、左右を流れていくその様を、眺めている
のうずい
余裕もシェリルにはない。脳髄を掻き回される様な嫌悪、肺をもが
れるほどの苦痛に耐えながら、ただただ剣を支えていた。今、この
せめ
鬩ぎあいに屈すれば、自身はおろか周囲の者たちの命もない。
ゾーン
いや、魔王の力を野に放てば、被害はコードネルの国そのものに
まで及ぶ。
罪なき、かけがえのない者たちにまで。
混濁していたシェリルの意識が、瞬間、理性を取り戻していた。
同時に束した更なる集中で、即座にそれを力と変える。
振り下ろした破壊の光に、さらなる輝きを与えるために。
「オオオオオオオアアアアアアア!!」
くさび
大刃と化した光の帯は、少しずつ津波にその楔を打ちこんでいく。
だが、それも長くは続かない。
かいしょう
押し寄せる刃の海嘯と、膨らんでいく破壊の光は、すぐに互いの
臨界を向かえ。
白い、白い衝撃と化し、場の全てを飲みこみ、消した。
最終更新:2010年03月17日 03:01