2008.05.11 20:58
野良(--)
――18――
「それで、けっきょく逃がしちゃったんだ。いや、逃げてこれたの
かな?」
「ぅ……」
さび
朽ちた都市での衝突から三日の後。寂れた宿の一室で、シェリル
は向けられた言葉に小さく息を詰まらせていた。
マント
三角帽に大きな外套、全ての装いを赤で染めた、小さな少年を前
にして。
見た目こそ妖精のような愛らしさではあるのだが、その顔は出会っ
た十年前からまるで変わっていない。無邪気でありながらどこか老
成した響きを含むその声に、シェリルは相変わらずの苛立ちを掻き
立てられていた。
「やれやれ。元々調査だけってことだったじゃない。なんで一人で
先走るかな」
「それは……」
おとうと
「そんなに弟弟子に負けたのが悔しかったの? しょうがないじゃ
ない、ロンくんは才能豊かな上に努力家で……」
「そんな個人的な欲得ではないっ。調査を始めた途端、たまたま見
よりしろ
つけた『刃の王』の依代に、復活の兆候が見られたため、やむなく
だな……」
一度は高めた語気も、言葉を連ねるうちに弱くなる。失態に対す
る言い訳など、自身の恥を上塗りするだけだと気づいたから。
シェリルの内なる猛反を知っているのかいないのか、少年は変わ
らぬ呆れを向けるばかりであった。どこか、笑みを含んだ声を。
ゾーン ガード
「それで魔王を相手に大暴れしたってわけ? 包囲に一般の衛兵士
を使って。無駄な犠牲がでるだけだってわかってたでしょ?」
ユージス
「それは、だから、奴が人の身である内ならば、と……」
エクセリオン
「せめて僕を待ってくれてれば『七封剣』だって本気で使えたのに。
シェリルだけじゃ絶対どこかでポカするんだから」
「そんなことは……」
ないと、言いきることはできなかった。今この場に立っている経
緯を考えれば。自身の心の奥底にある想いが、ますます意気を消沈
させる。
うなだ
そして、項垂れるシェリルの様を目にしても、少年はただ楽しげ
に笑っているだけで。
「まぁいいや。まずは師匠に怒られてきなよ」
「……わかっている。わざわざ言うな」
「どうするかはその後だね。相手が待っててくれればいいけど。
……『刃の王』か。今度のお仕事は時間が掛かりそうだね」
つぶや
最後の呟きの中ですら、それは変わりはしなかった。
最終更新:2010年03月17日 03:03