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ラファル=ベゼリゼの受難・19

2006.01.10 22:28

野良(--)


 蹴るように開けたライの部屋のドア。小さな卓を囲んだ三人に、ラファルはずかずかと近づいていく。手に、赤い宝玉を揺らしながら。
「なんだ、渡さなかったのか?」
「……あいつの話、聞いてなかったの?」
 部屋の主の言葉に小さな怒りを灯しながら、ラファルはそれをテーブルに叩きつけた。宝玉が硬い音を立て、卓の上を転がっていく。止った横の皿から、ナツメがサラダを一本摘み上げた。たっぷりのマヨかけを、傍(かたわ)らのベインに与えてやる。
「森を殺すような神儀の鍵だもんね~。怖いよね~」
「本当よ。そうと知っていながら「はい、これです」なんて軽々しくは渡せないわ」
 言いながらベッドに腰掛けるラファルに、マッチが問いかけの言葉を向ける。少しだけにやついた声で。
「獣人なんか、どうなろうが構わないんじゃなかったの?」
「か、構わないわよ。けど……」
 ラファルの勢いは途中で消えた。ぷい、と僅(わず)かに目線を外し、
「いくらなんでも、やりすぎだわ」
 呟(つぶや)くようにそう応える。
 マッチはマヨのサラダを齧(かじ)りながら、気づかない振りをしてやった。
 ラファルの気配を敏感に察し、ライが視線と言葉を元凶に向けた。
「まあどうでもいいけどさ。それじゃどうするよ、これ」
 あの刹那の戦いの最中、彼自身がフォルドの懐からくすねていた宝玉に。ランフリー信者(フリー)の面目躍如(めんもくやくじょ)といったところだが、余分な厄介ごとを背負いこんだだけともいえる。
 それも含めて神の思し召し(おぼしめし)なのだろう。
「壊す、ってのはまずいよな、さすがに」
「ベインの首輪にするには大きいしね~」
「これだけあっても意味ないんでしょ? <超えるもの>の連中に売っちゃってもいいんじゃない?」
 三者三様に、ライたちは好き勝手なことを言い始める。ただ、ラファルだけは黙ったまま、無責任に交わされる議論を聞き流していた。
 過ぎた日に思いを馳(は)せて。


 黒い球洞を眼下に見下ろし、混乱の声が聞こえてくる砦の天頂で、逸早く立ち直ったのはクレアだった。頭上で両手を伸ばしながら、なんの気なしに口を開く。
「じゃ、あたいは今のうちに消えさせてもらうよ」
「え?」
「な、なによ、急に」
 唐突な宣言に全員が振り返った。考えてみれば当然の事に、反射的に返じたラファルの声は、なぜか微(かす)かに揺れていた。
 おどけた様にクレアは続ける。
「あいつらにあたいの事知られてもいいことないからね」
「それは、そうだけど……」
 彼女達が置かれている、変えようのない立場の違いを。
「半獣は嫌われモンだからさ」
「そんなことっ……」
 その表情に含まれる、僅(わず)かばかりの憂(うれ)いの色に、ラファルは思わず声を張り上げかけ、
「……ないわよ」
 己が神と現実に、言葉の勢いを失った。
 信じるものが揺れるのは、真っ直ぐな心ゆえ。
 項垂(うなだ)れるその頭を、クレアはわしゃわしゃと掻き乱した。
「な、なにするのよっ」
「餞別(せんべつ)だよ。それじゃあな」
 小さな抗議を気にせずに、半獣の猫女は身を翻(ひるがえ)して走り去る。
 垣間見えた横顔には、ラファルが最初に向かい合った、あの楽しそうな笑みが浮いていた。


「……フィ、ラフィってばよ」
 ラファルを想いから引き戻したのは、呼びかけるライの声だった。いつの間にか自分に集められていた三人の視線が、なぜか微妙に気恥ずかしい。
「え……な、なに?」
「なに、じゃないだろ。どうすんだよ、結局」
「どうするって、あ、ああ、それね」
 言葉に応じて注意を逸(そ)らさせるように、卓上の宝玉に目を向ける。サラダの横に置かれたそれは、なにか場違いな雰囲気が拭えない。
「どこかに保管しておくしかないでしょうね。……ナツメ、少しは真面目に考えなさい。食べてばかりいないで」
「しかたないよ~、マヨがおいしいんだも~ん」
 注意も意に介さずに、ナツメは乳白色のソースをサラダに掛け足そうとする。
 すでにたっぷりと乗せられていた柔らかなマヨは、自重を保てず皿から落ち、置かれた宝玉に垂れかかった。
 間髪いれず動いたのは、ナツメの隣の白いもさもさ。
 待ての命令の埒外と判断したのか、さっと赤い輝きに喰らいつき、
「「「あっ」」」
 という間に飲みこんでいた。
「うわっ、なにやってんだ、お前っ」
「ベイン~、そんなの食べたらお腹壊すよ~」
「大丈夫なんじゃない? なんでも食べそうだもの、こいつ」
 わたわたと騒ぐ三人を、呆然と眺めていたラファルであったが、やがて笑みを浮かべていた。
 小さな、しかし心からの。
 様子も形も異なってはいたが、それは半獣の娘が見せたものと、とてもよく似た笑みだった。

                      It ends for the time being...



野良(--)
本編終了~。
感想の項もごらんくださいませ。01/10 22:28

凩 時雨
いいなーなんか。この三人のコンビ(笑)01/11 00:53

しぐれもん
ラファルの性格…いい方に変わったなぁ~…。(18章で書いた俺の予想…見事に外れたなー。まぁ、ラファルの性格が変わったからな←言い訳)
ラファル初笑いかなぁ?01/12 16:55

野良(--)
終わったから言っちゃうが、ラファル以外の連中がわだかまりなく宝玉奪還に手を貸すのは
微妙に心情的に抵抗がありそうなんだよな。
やっぱりもう少し展開を考えるべきだった。01/12 22:54
最終更新:2010年03月17日 03:13
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