2006.01.02 09:11
野良(--)
奥で晩の食事を用意していたマッチが、料理を配した盆を腕に重ねて持ってきた。
「できたよー。ほい、ナツメ」
「や~、ありがたやありがたや~」
ナツメは肉球を弄(もてあそ)ぶ手を止めてその一つを受け取ると、とりだしたマヨを塗りかける。今だ見慣れぬその行為に、マッチは軽く眉をしかめながら、人の姿へと戻ったクレアにも盆を手渡した。
残る一つを掌に乗せ、軽く頭を一巡りさせる。
「さて、お嬢様はどちらかな」
「急に星が見たくなったって~、外の上に行っちゃったよ~」
正確には朽木の枝の上に。ラファルはあの後言葉もなく、黙って樹上へと登っていってしまっていた。
腰に手を当て、マッチは小さく息を吐く。
「しょうがないなあ」
「なあ、あたいが持ってってやろうか?」
外に向かいかけたその歩みを、背からの声がひきとめた。妙に楽しげなクレアの声が。
大きな森の切れ間から、星の光が降り注いでいる。街では見られないほど瞬(またた)きは、空を流れる大河のようだ。
だが、その美しい輝きも、枝上のラファルには意味のないものだった。蹲(うずくま)り、立てた両膝に顔を埋(うず)めていては。世界の全てから隠れようとでもするかのように、じっと身を縮めている。
それゆえに、近づくものには敏感になっていた。音も立てずに寄る者に、
「……なにか用」
「ゴハンだってさ。温かいほうがおいしいぞ」
あからさまな拒絶の念を向けるも、クレアは意に介さなかった。盆の一つをラファルの前に置き、自身も座って食べ始める。言った内容とは裏腹に、自分の分はすっかり冷ましてから。
「食べないのか?」
「……いらないわ。半獣の触れたものなんか」
「そんなにあたいが嫌いか?」
「嫌いよ。半獣も、獣人も、異端者も」
問いかけに即答する変わらぬ嫌悪の声。
しばし、重なる食器と梢の音だけが夜を揺らす。
クレアが食べ終えたときも、ラファルは膝を抱えた姿のままだった。注ぐ微(かす)かな星の光が、降り積もってしまいそうなほど。
見やるクレアの口元には、小さな綻(ほころ)びが生まれていた。
「素直だね。あたいは嫌いじゃないよ、あんたみたいな子は」
立ち上がり、小さいラファルへと歩み寄る。はっと顔を上げた彼女の制止より先に、その隣に腰を下ろし。
「ちょっとっ。なにを……」
「昔、あたいがまだチビだった頃にさ、アクティスの子供と遊んだことがあったんだ」
ゆったりとした声で語り始めた。遮ることが憚(はばか)られるような声で。
「それまで誰からも煙たがられててさ。獣人からも、アクティスからも。でも、その子だけは違ったんだ。あたいが半獣だって知っても、一緒に遊ぼ、って言ってくれた」
沸々と、感じられたからだろう。
「友だちだって、ね」
温めてきた、喜びの熱が、
「なにしろチビの頃のことだから、よくは覚えてないんだけど、なんか、妙に楽しかったんだ。獣人も、アクティスの連中も、あたいのこと嫌ってるけどさ」
少し寂しげな笑みの中に。
「あたいはそうでもないんだよね」
唐突にはじまったクレアの話を、ラファルは黙って聞いていた。胸中に、複雑な思いを浮かべながら。
今まで知らなかった、知ろうともしなかったことに。
半獣の彼女にも、生きてきた軌跡があるのだと。
知らず、言葉を紡(つむ)いでいた。
「……その子とは、どうなったの?」
彼女自身がそれに驚く。気にしただけの事柄を、素直に口にできるなんて。
語り手は気にしない。変わらぬ口調で応えていた。
「あれからいろいろあったからなあ、気がついたら行方知れずさ。まだ生きてるんじゃないかとは思ってるんだけど」
「……街にも来るのって、もしかして……」
「まあ、ね。それも少しはあるかな。ほんの少し、な」
浮かべたのは照れ笑い。寂しさを孕んだその表情をごまかすように、クレアは両手を伸ばして欠伸(あくび)を吐いた。
「さあて、あたいはもう寝るよ。連中と取引した場所には明日連れてってやるからさ」
「え、ええ。そうね、そうしてもらわないと……」
「じゃあな。おやすみー」
そのままごろりと横になる。服を着たまま姿を変じ、大きな猫の身となって。
滑らかな灰色の体毛に全身を覆われた獣は、星の光で仄(ほの)かに輝いているかのようだ。普段なら嫌悪しか感じないその姿が、今日だけはなぜか気高く見えて。
「……会えると、いいわね」
知らず、ラファルはその額を撫でつけていた。
しぐれもん
ラファルの気持ちに変化が生まれましたな~。
友情達成か?
by ジャンプ漫画三原則(友情・努力・勝利)より01/04 13:59
野良(--)
漫画は展開早いからなぁ。小説でもさほど変わらんか。
人間の心の変化って簡単だったり複雑だったり。
そのへんまで踏みこんだものが書けるようになりたいところだ。01/04 16:15
最終更新:2010年03月17日 03:28