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ラファル=ベゼリゼの受難・10

2005.12.27 18:16

野良(--)


 分け進んだ森の先で、一行は拓けた水場を見つけだした。見える限りで人気はないが、グオズロの言っていた溜まり場に違いないだろう。種類の異なる獣や獣人の足跡が、周囲に幾つも残っている。野生同様、争いごとは御法度ということらしい。
 そこにいるのがアクティスでも、不文律が守られるという保証はないが。
 ラファルたちは慎重を期し、不用意に近づくことを抑えていた。
「ようやくの進展だけど、どうするの? ここでずっと見張ってるわけ?」
「それはつまらないね~。マヨも少なくなってきたし~」
「ナツメならベインに乗っとけば獣だと思ってもらえるんじゃないか?」
「そうかな~。よし、試してみよ~」
「少し黙ってなさい、貴方達は」
 諦めを含んだ声で諌(いさ)めながら、ラファルは杖を前に掲(かか)げた。淡(あわ)い緑の円光が、ゆっくり広がり彼女を包みこむ。
「まだそれやるの? こりないわね」
「集中しなきゃいけないの、役立たずは黙ってて」
「大丈夫か? 周りからバレないようにしろよ」
「そう思うならもう少し警戒したらっ」
「ラフィ~、マヨはどっかにないかな~?」
「あるわけないでしょ! ナツメっ、貴女はもう少し緊張感もちなさい!」
「で、あんたたち、なにしてんの? こんなところで」
「だから! 貴女を探すためにやってるんじゃ、な……」
 外野の言葉に耐えかねたラファルは、最後の声に背後を振り返り、絶句した。
 頭の後ろで手を組み、不思議そうな顔で立っている猫女(クレア)を見て。
 途端に破顔した彼女へと、ラファルはずかずかと近づいて、
「あ、なんだ。あたいに会いに来たっての? いやあ、嬉しい……」
「喜んでるんじゃないのっ。貴女のせいで、私が、どういう目に合わされたか……!」
 首元を掴んで揺さぶりかけた。頭を前後に回されながら、それでもクレアは楽しげな口調を変えずに話し続ける。
「みんなも、元気そうだねえ」
「まあ、元気といえば元気かな」
「そのお嬢様ほどじゃないけど」
「暢気(のんき)に話してる場合じゃないでしょっ。さあ、白状なさいっ。盗んだ宝玉はどこ!」
 迫るラファルの剣幕に、クレアは数度瞼(まぶた)を瞬(しばた)かせ、首を傾(かし)げながら記憶を探る。
「宝玉? ああ、あれなら……」
「お~い、ラフィ~」
「なにっ、今忙しいのっ」
「でもさ~、なんか囲まれちゃってるよ~」
 捨て置こうとしたナツメの声が、告げたその内容に、ラファルはようやく我を取り戻した。
 そして気づく。確かに周囲を取り囲む、幾つもの殺意の気配に。
「しまっ……、あ、貴方達、なにしてたのよっ」
「自分であれだけ騒いでおいてそういうことを言う?」
「これはちょっと、笑って語り合おう、って雰囲気じゃないよなあ」
 知らず円陣をとる一行の声には、さすがに緊張の色が混ざる。群れから向けられる敵意の集合は、グオズロからのものともまた違って感じたためか。
「クレアちゃ~ん、帰って~って説得できない~?」
「あたいは連中にも嫌われてるからねえ。あんたらまで一緒じゃ、聞く耳ももたないだろうさ」
「え~、肉球ぷにぷになのに~」
 やりとりの間にも包囲の輪は徐々に狭められていた。今だ姿こそ見せないが、襲い掛かってくるのは時間の問題だ。
 構えた杖に力をこめ、ラファルは覚悟を決めた。
「ええいっ、やるわよ、こうなったらっ」
「囲いを抜けたらあたいに着いてきなっ」
「半獣の指図は受けないわ。信用できたもんじゃ……」

 パカカッ!

 僅(わず)かに意識を逸らしたラファルの眼前を、幾つかの影が通り過ぎる。軌跡を追って隣を見れば、マッチが振り下ろした鋼鉄の盆を構えなおしていた。盤上に数本の羽が突き刺さっている。それを引き抜きながら、酒場の娘はいつもと同じ憎まれ口を叩く。
「戦闘用盆(バトル・タスク)に穴を開けるなんて……ぼさっとしてないでよね」
「よ、余計なお世話だわ」
 それが、攻撃の始まりだった。
「来るぞっ!」
 囲んでいた獣人たちが、一斉にその姿を現し飛び掛る。前後左右と上空から、覆い潰さんばかりの強襲に対し、ラファルの術が一瞬速い。
「<排絶の壁>(リジェクトール)!」
 具現した緑光が、瞬間一行を包みこみ、それへと触れた獣人が、等しい速度で弾かれていった。
 しかし所詮は束の間のことだ。新たな波がすぐに押し寄せる。
 それでも、ライが力を発動させるにはそれで十分だった。
「クレア、道案内はまかせるぜっ。いくぞっ、<嗅視の絶>(ブランディカ)!」
 一声から彼を中心に広がっていく夜の如き暗闇。そして、
「「「うごぉぉぉ!?」」」
「「「がぁぁぁ!」」」
 のたうつ獣の咆哮と悲鳴。
 原因は、
「な、なによ、この匂いはっ!?」
「びぉ~~~~~!!」
「臭いよ~。ああ、ベイン、しっかり~」
 濃縮した生ゴミのような悪臭だった。
 それでも阿鼻叫喚(あびきょうかん)の闇の中、手を繋げて走る彼らに鼻を塞ぐ手立てはない。
「いや、だって、獣人相手じゃ視覚封じても匂いとかで追われそうじゃん」
「もう少し、マシな方法考えなさいよっ」
「だけどよ、見ろ、すげえ効果的だぞっ。見えないけど」
「わたしたちにもね」
「ベイン~、がんば~」
 確かに、今や一行に注意を向けている獣人は一人もいない。彼らとて、今なにかされても対応はできないだろうが。
 ともあれ、かなり広域に及ぶ闇はようやく抜け出した。嗅覚への影響はまだまだ尾を引きそうではあったが。
 クレアに引かれるがままに一同は進む。ライの大威張りを聞きながら。
「獣人は俺たちより五感が鋭いからな。それを逆手にとったんだ。いやー、俺って冴えてる」
「……あたいのことは考えてなかったのかい。あ、だめ、ふらふらする~」
「ちょ、貴女、どこ行くのよっ。そっちは崖……」
 酔ったような足取りの半獣女は、切り立った大地に気づかなかった。誘われるように、吸いこまれるように、その先へと足を向ける。
 制止の声も、止める力も道連れに。
「で」
「あ」
「や?」
「「「うあーーー……!」」」
 底へと落ちていく悲鳴は、長く長く木霊(こだま)していた。



凩 時雨
おっ落ちたー!!12/28 20:31

野良(--)
いや、たいしたことはないんだがね。12/30 17:40
最終更新:2010年03月17日 03:34
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