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ラファル=ベゼリゼの受難・8

2005.12.19 18:13

野良(--)


 掲げた杖を中心に、緑の光が広がっている。主のラファルを包みこんで。黒く長い髪は風も無いのに揺れている。沈黙の場の中で目を閉ざし、ラグリーズ信者(リーズ)の娘は意識を集中させていた。
 闇の中にぼんやり浮かぶ、仄かな光を探すように。
 星のような瞬きを見極めようと凝らすほど、白い靄(もや)が感覚を遮る。それでもかろうじて目指す気配を捉(とら)えたとき、ラファルは思わず目を開けていた。忘れていた呼気と吸気が、慌てて喉を行き来する。苦しげな息をつきながらも、視(み)たものを言葉で紡(つむ)いで。
「捉(とら)え、たわ。あっちよ」
 光を失った杖で体を支えながら、示す方向へ視線を向けて。
 息を整えながらも満足気なラファルに対し、それを見るマッチの声は相も変わらずそっけない。
「どれぐらいアテになるのかしらね、それ」
「なによ。私の神術が信じられないっていうの」
「神術はともかく、あなた自身が信用できないのよ」
「なんですってっ!」
 杖とお盆、互いの武器を構えた両者の間を、昂ぶった声が行き来する。そろそろ見慣れ始めたやりとりを、
「またはじまったか」
「またはじまったね~」
 ライとナツメは気を止めることもなく夜営跡を片していた。

 アクティオを出立してから早三日。ラファルの<探査>で猫女(クレア)の気配を探り、一行は森の奥へと足を進めていた。街に近い辺りではいざ知らず、そろそろ獣人達の生息圏とも重なる領域へと入る。より慎重な行動を心掛けなければならないはずだ。
 はず、なのだが。

「あなたの<探査>でここまで来て、なんの手掛かりも見つかってないじゃないっ」
「あ、相手は動いてるんだからしかたないでしょっ。難しいのよ。半獣のことなんて考えるのも忌々しいし」
 二人の言い争いの声は出会ったときより滑らかに、より大きくなっていた。
「そんなこと言ってるようじゃねえ。今回のだって怪しいものだわ」
「失礼ね。私の神術に間違いはないわっ。確実にこの先に……」
 言いながら、ラファルは指を差し向けた。掻き分ける音を立てる、緑茂る草間の壁に。
 その先にひょっこりと、毛むくじゃらの顔が現れた。
「え?」
 思いがけず交わった視線を、一度の瞬きで束の間遮り、ラファルは慌てて飛び退いた。同時に顔を顰(しか)めて杖を構える。
 今やその全身を顕(あら)わにした、熊の容姿を持つ獣人に。
 立ち上がったその体躯(たいく)は、ラファルの三倍はあるだろう。纏(まと)う衣服はボロボロで、剥き出しの四肢は茶色じみた剛毛に覆われている。人の色を残した頭部も同様だ。熊そのものの唸り声に、目には憎悪の光を湛(たた)え。
「お前ら、アクティスか!」
 両の腕を高く上げた。黒光りする大きな爪で、敵を威嚇(いかく)するように。
 しかし、十分な間をあけたラファルは、それで動じることはなかった。負けぬほどの意思持つ瞳で、熊男の視線を受けて立つ。
「獣人風情が誇り高き我が民の名を口にするんじゃないわっ」
「小娘がっ……」
 獣の唸(うな)りが響く間で、しばし睨み合いが続く。張り詰めた一触即発の雰囲気であったが、いつの間にか熊男の放つ気配には戸惑いが含まれていた。止まっていた喉の音の代わりに、躊躇(ためら)いの言葉がこぼれる。
「一つ聞くが」
「なによ。獣の言葉なんて聞く気は……」
「後ろの連中は、お前の仲間ではないのか?」
「後ろ?」
 警戒を続けたまま、僅(わず)かに間を広げて言われた方向を確認し、ラファルは思わずその力を抜いてしまった。
 対峙する二人を気にもせず、後片付けを続けているライとマッチの姿に。
 近づき、思わず声を荒げていた。
「なにやってるのよっ」
「あ、終わった? いや、声かけても止めそうになかったから、とりあえず片付けを終わらせておこうと思って」
「止めないで加勢しなさいっ」
「なんで。戦う必要はないじゃない。わたしたちが探してるのは猫の人でしょう。あの熊の人は関係ないじゃない」
「獣人というだけで十分よ!」
 いつの間にか当たり前のように、日頃のやりとりがはじまっていた。
 一人おいてけぼりを食らった熊男は、所在なさげに立ち尽くしている。彼は不意に、近づいてくる白とピンクの毛むくじゃらに気がついた。のさのさと足元に来たそれは緊張の欠片も感じさせず、ひょいとなにかを差し出してきた。
 串焼きにされたマヨかけキノコを。
「くま~。肉球あるか~?」
 思わず串を受け取りながら、呆然とした様子を隠しもせず、熊の獣人から呟きがこぼれる。
「お前ら、旅芸人か?」
「違うわよっ」
 力いっぱい否定の声が返ってきたが、その間はどこか絶妙なものだった。



凩 時雨
うわーうわー続きが読みたいですー。
かなり前に読んでたのだけど、コメントうっかり(?)書き忘れました^^;12/26 00:15

野良(--)
なんで俺の書くものはシリアスにならないんだろう。
まぁいいか。12/26 13:53
最終更新:2010年03月17日 03:39
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