2005.11.27 02:03
野良(--)
アクティオに住まう民、アクティス。彼らは血と神への信仰により、自然を超える力を行使することが出来る。
神術と呼ばれる力を。
しかし、それにも才と修練を必要とした。神術を自在に操ることのできる『神術士』は、全人口の一割に満たない。それゆえに彼らは、全ての民から尊敬と羨望の対象として敬(うやま)われている。
その憧れの存在に近づこうと、若きアクティス達は日々修練を重ねている。神術の学舎(まなびや)にて。
「はい、今日はここまで」
壇上のミルドレッドが告げた終了の声に、生徒の並ぶ講堂から緊張が解けていく。
「宿題を忘れないようにね。忘れたりしたら……ふふふ、どうなってしまうのかしら……」
立ち去りかけたミルドレッドの不気味な微笑みに、微妙な雰囲気を醸(かも)しながらも。
僅かな沈黙が気にならないのか気にしていないのか、常通りだれている者もいるが。
「終わった終わった~。マヨの時間だ~」
「ランチと言いなさいよ、せめて」
ナツメとラファルの話声に、他の生徒たちも元の賑やかさを取り戻していった。午後の自習時間を前に、思い思いに散っていく。
二人も昼食をどこでとろうかなどと些細な事を話しながら、講堂を後にした。
「ミル先生の宿題~、忘れたらどうなるんだろうね~」
「さあ、知りたくもないけど。そんなに気になるなら忘れてみれば?」
「それは斬新なアイデアだね~。おや~?」
学舎の門を前にしたところで、そこを抜けていく後姿が目についた。それだけならば他にも数多くおり気にすることではないのだが、白尾の彼が妙にこそこそと出て行くとなれば話は別だ。常なら用もないのに絡んでくるライが。
「……怪しいわね」
「怪しいね~」
「尾けるわよ」
「がってんだ~」
阿吽(あうん)の呼吸で合意に達し、二人は少年の後を追いはじめた。杖を携えたラファルはともかく、ベインに重なっているナツメは目立つことこの上ないのだが、よほど急いでいるのだろう、ライは後ろを顧(かえり)みることもなく先を急いでいく。
一区画、二区画、三区画。都市の中心区に位置する神術学舎からどんどんと離れていく。高く居並ぶ三層建築、整備された石畳の道、通りを歩く上品な物腰の人々。目につくそんな光景が、段々と下がり汚れていく。二層の建物、割れた道、活気づく人波から、さらに低く、暗がりへと。随分歩いたその頃に、いつしか周りはすっかり貧民層の様相に変わっていた。乱雑な道に朽ちかけた家屋が並び、通りに動く者はほとんどない。そこを急いで行くランフリー信者(フリー)の少年を、路地から路地へと姿を隠しながら彼女たちは付いていく。
いいかげんラファルの忍耐も尽きかけたころ、ようやくライの動きが止まった。一軒の薄汚れた店に入ることで。酒場と宿屋が兼用された、下町では一般的な造りの店だ。
「あいつ、また塒(ねぐら)変えてたのか」
「ここは~、ランフリー信者(フリー)の溜まり場になってるはずだよ~」
友人の間延びした忠告を鼻で笑い飛ばしながら、ラファルは臆する様子の欠片も見せずその店に足を踏み入れた。
途端、昼なお薄暗い店中で、彼女に視線が集中する。それなりに広い店の中、卓の二割ほどが埋まっており、その全員が室内であるにもかかわらずフードを被ったまま。薄白い顔と視線だけが浮かぶように覗いている。
だが、それらを向けられてなお、ラファルは居丈高な態度を崩さなかった。視線の一つ一つを迎え撃ち、逆に威圧して落とす。右から左へと首を巡らせた後には、客達は皆一様に黙り伏せていた。
ただならぬ雰囲気だが、気にしない者はどこにでもいるらしい。
「いらっしゃい。お二人?」
柔らかな茶の髪をオレンジのバンダナで飾った活動的な給仕の娘が、大きな瞳に屈託のない笑顔で出迎えてきた。整った顔立ちは、どこか人形的な印象を与えてくる。
ラファルがそうと察した瞬間、開いた座席を示す手を払いのけていた。
「たっ、なにを……」
「混血が、馴れ馴れしく私に声を掛けないで」
緩みかけた場の空気が、先に倍する緊張に張り詰めた。
血脈と信仰により力を保っているアクティオでは、他国との交流が盛んではない。交易も港の一部が開放されているだけで、一般の民が異国の者と接するなど生涯ないのが普通のことだ。土地によっては悪鬼羅刹の如き者として、獣人同様に扱われることすらある。
アクティスがもつ選民意識。ラファルはその民の中でも貴族の血を引く誇りと強く抱いていた。
大きな目を吊り上げて、給仕の娘が声を荒げる。
「ここでは血だの種だのは関係ないのっ。出ていって、あなたみたいな人が来るところじゃないわ」
「確かに私には相応しくないわね、こんな下品な店は。早々に辞退させていただきますとも。用事が済んだらね」
「ケンカ売ってるの?」
手にした盆を右手に構え、給仕の娘は距離をとる。迷いのない足運びだ。ラファルは杖の下方を突き出すように支えながら、嘲笑を浮かべて応じてみせた。
「いきがらない方がいいんじゃない、混血風情が」
「その鼻っ柱が折れないように気をつけることね」
両者の間に横たわる緊張が膨れ上がる。
一触即発。動ける者はなにもなく、もはや誰にも止められない。
思われたその矢先、降ってきたのは緊張感の欠片も無い声だった。
「マッチ、頼んだ服と食べ物、まだか? 目を覚ます前に……」
階段を下りてきた声の主、ライに一同の視線が集中する。突然注目を集めたことに戸惑いを感じながら、少年はようやくその場の違和感に気づいたらしい。
「えっと、なにかあったのか? あ、ラフィ」
「ラフィ、じゃないわよ」
緊張を殺がれ不機嫌なまま、ラファルは彼に近づいていった。殺気に満ちた眼差しを、ライは受けることなく横へと逸(そ)らす。
十年来の幼馴染(おさななじみ)ともなれば、それだけで含む気配を見て取れる。階上へ向けた視線を追う様に、疑いを確信に深めて。
「……上に、なにか隠してるわね」
「そ、そんなわけないだろ。俺が、ラフィに隠し事なんて、お、おいっ、なにもないってば……」
聞く耳持たず、ラファルはライを押しのけて二階に上がっていった。左右に並んだ扉を見渡し、僅かに開いた一つに手を伸ばす。
勢いよく開け放ち、ラファルはそのまま動きを止めた。
「ラフィ、待てって、なんにも……」
「階段はベインにしがみつくのも楽じゃないね~」
「ちょっと、客でもないのに勝手なことしないで……」
彼女の後から部屋を覗きこんだ三人もほぼ同様に。
小さな卓と寝台だけの簡素な一室。硬そうなベッドの上に、灰髪の女が横たわっていた。入ってきた気配に気づいたのだろうか。ゆるゆると瞼をあげ、胡乱(うろん)気に上体を持ち上げた。他者の目も気にせずに大きなあくびを一つ。手の甲で顔を撫でつけてから、扉の一同へと視線を向けた。
ゆるゆると、被っていたシーツが落ちる。
「おっす」
胡坐をかき、一糸纏(まと)わぬ姿で首元に輝きを揺らしながら、彼女は屈託のない笑顔でそう言った。
幽水晶
自分が作ったキャラクターが動いてるって面白いですね~。11/29 16:06
野良(--)
そういえばマッチに関しては大分勝手に設定を変えさせてもらっているや。
性格も想定とは違ってそうだし。
まぁ今さら文句を言われてもどうしようもないんだが(笑)
書いてる内に、褐色系の肌で一目で異国の血がわかった方がよさそうだな、とか思った。
この辺が単独で作るのとの違いだな。11/29 22:57
しぐれもん
ラファルのキャラとかいいな~。
今までに見たことがない感じッス。ハイ。11/29 23:14
野良(--)
差別主義者を前面に出した主人公、というのは今まで俺は見たことがなかったのでな。
今回せっかくだからやってみた。
書いてるうちにこのパーティーメンバーはなかなか面白いなぁと自分で思っていたり。
それぞれが主役級の話を作れるからな。つっつきゃネタは簡単に広がっていきそうだ。11/30 20:08
凩 時雨
ネット落ちしている間に、かなり進んでいた;;
ライがイイ感じのキャラになっててとっても嬉しいですーv12/04 19:22
最終更新:2010年03月17日 03:49