2005.11.22 22:37
野良(--)
神殿を離れ商屋居並ぶ大通りへ。嬉々として道行くナツメと三匹の後を、微妙な距離をおいてラファルがついていく。周囲から一行の一員だと思われない絶妙な距離で。
前後で会話を交わしていては、まったく無駄な努力ではあるのだが。
「ようやくのお休みだね~。なにして遊ぼうか~」
「遊ぼうか、じゃないわよ。もうすぐ階位試験なのよ。貴女だって準備や修術する事があるでしょう」
「も~、ラフィは気が早いな~。まだ一月も先の話なのに~」
「一月しかないの。まったく、なんでこれで……」
「おや~、あれに見えるはライではないか~?」
差しかかった十字路の先、ナツメが手を翳(かざ)して見やる方から、彼女らと同年代の男が走り近づいてきた。その頭にくっついた揺れる白い髪の尾は、確かにラファルもよく知る人物に間違いない。彼女にとっては不本意極まりないことだが、幼馴染(おさななじみ)のライである。
速度を緩め、二人の前で足を止めたランフリー信者(フリー)の少年は、息を荒げたまま言葉を発した。
「よう、いいところに。ちょっと手伝え」
「開口一番に言うことがそれ? なんで私が貴方の言うことなんて聞かなきゃいけないのよ」
「手伝うって~、なにをかな~?」
「来たぞっ」
ラファルたちの声を聞きもせず、ライは辻の右手を向いて身構えた。三層建築が軒を連ねる通りの向こうから、騒ぎの音が聞こえてきた。
徐々に、その量を増して。
「一体なに?」
「中央に獣が入りこんだんだってさ。根性あるよな」
「獣?」
不快感を顕わにし、ラファルも警戒の姿勢をとる。ラグリーズ信者(リーズ)の象徴たる杖を構え、ひたと騒ぎの中心を見据えて。
視線の先に映る、幾人もの衛兵の垣根。そこから右の上方へと、飛び出す一つの影があった。
それは、美しく跳躍する大きな猫。
追跡者達の視線を気にもせず、建物の壁を蹴って囲いの外側へ降り立つと、そのまま矢のように地を駆けだした。
ラファル達の待つ十字路へと向かって。
「上等じゃない」
ラファルは一度杖を引き、意識の集中と共にイメージを思い浮かべた。
力を奪う、光の格子。
のたうちもがく、獣の姿。
駆け近づいた大猫が、大きな跳躍を見せた。
その瞬間、
「<麻痺の網>(パラ・ネット)!」
ラファルの力が広がった。
神術。アクティスの血と神への信仰を具現したらしめる力が。
大猫の進路を光の網が遮る。ラファルがイメージした通りに。
両者が交差した一瞬、輝きとともに動きが止まる。
しかし、
パシィン!
「えっ?」
中に具現した光の格子は、あえなく打ち砕かれた。
大猫は着地を損ね地に転がりはしたものの、すぐにその身を立て直す。
対峙したラファルと視線を交わすように。
獣に表情などあるのか彼女にはわからなかったが、その時、確かに笑っていたように見えた。
そう思えたのも一瞬のことだ。
大猫は即座に身を翻(ひるがえ)すと、辻の向こうへと遠ざかっていった。
「うひゃ~、やるね~」
「な、なんなのよ、あいつ、獣の分際で……」
「いやいや、けっこう効いてるぜ。行くぞっ」
妙に楽しそうに言い放ち、大猫の後を追っていくライを、しかしラファルは憮然とした表情のまま見送っていた。左右を駆け抜けていく衛兵たちを見ても、じっとそのまま動かない。
「あれ~、行かないの~」
「なんで私がライの言うことなんて聞いてやらなきゃいけないのよ」
言い放ち、鼻息とともに背を向けて、ラファルは騒ぎの余韻残る通りを歩きだした。後に残されたナツメは新たなサラダにマヨをつけ、寄り添う毛むくじゃらに与えてやる。
「手伝ってあげてもいいのにね~、ベイン~」
「ワフッ」
「ナツメっ、行くわよ」
「あい~」
声に応じてナツメが毛むくじゃらに跨(またが)ると、ベインと呼ばれたそれはもさもさと歩きだした。白い毛玉をピンクの鬣(たてがみ)が彩(いろど)り、蛇を巻きつけ蠍を乗せたその姿は、通り抜けていった大猫など比べ物にならない珍獣ぶりを見せている。
それを従えている者にも、当然周囲は同じような目を向けるわけで。
「……離れて歩いてって言ってるでしょ」
「も~、照れなくてもいいのに~」
長年のやりとりを今日もまた繰り返し、ラファルの安息日は過ぎていくのであった。
しぐれもん
キャラも増えてく~。呪文も放たれ~。ダブル珍獣~。11/23 03:06
最終更新:2010年03月17日 03:51