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小説「ランドールの日々」―9―

2005.09.10 00:37

野良(--)

 ぼふ、とベインは施療室のベッドに倒れこんだ。全身見事なまでにボロボロで、息をするのもつらそうだ。
「も、死ぬかも……」
 そう呟(つぶや)く主の頭を、フルネスがてしてしと踏みつけている。どことなく微笑(ほほえ)ましいそんな光景に、マーシャは治療の準備を整えながら、困ったような笑みを浮かべていた。
「今日も大変でしたね」
「本当ですよ……。午後からは休みのはずだったのに、おやっさんには怒られるわ、エッフェたちにはどつかれるわ、イージャさんはお礼くれないわ……」
 マーシャとの約束をとりつけてくれるどころか、人形展の招待券も貰えなかった。誘おうと思っていた本人の前で言えるようなことではないが。
 深い溜息をつきながら、思わず言葉がこぼれでる。
「俺、この仕事向いてないのかな……」
「そんなことありませんよ」
 近づいてきた優しい声に、ベインはゆるゆると顔を向ける。偽りのない笑顔を浮かべたマーシャがそこにはいた。
「ベインさんたちががんばってくれるから、わたしたちは安心してこの街で暮らしていけるんです」
「そう、ですか?」
「そうですよ。今日みたいな騒ぎがあっても、必ず皆さんがなんとかしてくれる。そう信じているから、わたしたちは心配せずに観ていられたんですから」
「それはそれで問題じゃ……」
 マーシャの真摯(しんし)な言葉を聞くうち、ベインの声から少しずつ疑心が消えていく。そして、
「だから、そんなこと言っちゃダメですよ?」
「!? は、はい! まかせてください! ランドールの平和は、俺が守ります!」
 駄目押し気味に握られた手の温かさに、思わず体を跳ね上げようとしていた。
 もっとも、疲労がそれを可能にはしてくれなかったが。
 背筋を伸ばしたままのベインの体は、ベッドにボフンと着地する。
「あらあら」
「はは、無理は、できませんね」
 笑いあう男と女。今日一日の不幸も忘れ、ベインは些細(ささい)な幸せに酔いしれていた。
 最大の不幸が残っているとも知らず。
「それじゃ、明日のために体は治しておきましょうね」
 左右の手に薬と包帯を握り締め、笑いかけるマーシャの笑みは、先とは異なる種類のものだった。
 幸せな表情を浮かべていたベインの顔が、そのままひきつり硬直する。
「い、いや、あの、マーシャさん。俺、もう大丈夫ですから……」
「なにを言っているんです。警備兵は体が資本ですよ。怪我したままじゃ平和は守れません」
 マーシャは身を引こうとしても動けない患者の腕をとり、関節を極めるようにうつ伏せの背に回す。体の内側から聞こえるミシミシという音と感覚に、ベインの額から望まぬ汗が流れていた。
「ゆ、ゆっくりと守っていこうかな、なんて……」
「大丈夫。治る痛みは怪我したときの三倍程度で済みますからねー」
 にこやかな声のまま、マーシャが一息に力をこめた。
 めきょ、とありえない方向に腕が曲がり、
「っ!?」
 凄惨(せいさん)な悲鳴が夜のランドールに響き渡った。


 それが聞こえていたかどうかは定かではないが。
 壊れた桟橋に制服姿の警備兵が二人。一人は真面目に跡を片し、もう一人は夜釣りに興じている。
 流れる水面を眺めたまま、投げる言葉に返る言葉は、
「平和だねえ」
「本当に」
 日常のそのままに。

 かくて、今日もランドールは、平和なまま一日を終えるのであった。

                                 ~end~


野良(--)
副題:ベインくん受難の一日、終了です。
とりあえずランドールの基本イメージを書き連ねたつもり。
こっからさらに内部とか周辺とかに広がっていくといいが。
ネタは延々と募集中です。09/10 00:41

しぐれもん
俺もそろそろ終わらせよ…。09/10 12:09
最終更新:2010年03月17日 03:57
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