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小説「ランドールの日々」―3―

2005.09.04 01:18

野良(--)


 警備隊舎に程近い、庶民の宿屋『ランドテル』。こじんまりとした店内は年季を感じさせるものの清潔感に溢れている。夜ともなれば勤めを終えた人々が酔いに戯(たわむ)れる社交場も、昼の盛りを過ぎた今はのんびりとしたものだ。モップで床を磨きながら、射し込む陽気な日の色に、見習い給仕、レニス・ラクレバーは近づく季節を感じていた。
 そんな空気に似つかわしくない、軋(きし)みを響かせ扉が開く。レニスは即座に反応し、
「いらっしゃいま……なんだ、兄さんか」
 よろめきながら手近なテーブルにつっぷしたベインに、冷ややかな眼差しを投げかけていた。手際よく水を卓に置き、何事もなかったかのように掃除を続ける。
「兄さん、今日は夜番だったんだろ? 寝るなら宿舎で寝てくれないかな」
「……レニス。苦難に満ちた労働を終えた兄に対して、それはあんまりにも冷たい対応なんじゃないか?」
「先週のツケ、まだ払われてないよ。注文するなら清算してからにしてよね」
 兄弟の情を感じさせない言い回しが、レニスの過ごしてきた十二年という時の無常を思わせる。ベインは小さくも逞(たくま)しい弟の背を見守りながら、仄(ほの)かにしょっぱい水を飲み干した。
 その目の前に、どん、と深皿が現われる。
「うお?」
「なにシケたツラしてるんだい。若者はもっと元気でなくちゃいけないよ。ほら、たんとお食べ!」
 運んできた宿屋の女将(おかみ)、バプルはそう言って笑いながらベインの背を叩いた。飲んだばかりの水を口からこぼしそうになりながら、置かれた皿がいやでも目に入る。横たわる一抱えもありそうな焼かれた怪魚が、因縁をつけるように睨みをきかせていた。
「あの、おばちゃん。これはちょっと、その、量が……」
「気にするんじゃないよ、これはあたしのおごりさ。足りなきゃ言っとくれ。テトラが馬鹿みたいに釣り上げてきたからね」
 さらに二度、大きな掌で若者の背を鳴らし、豪快な笑い声とともにバプルは厨房へと戻っていった。後には押し潰されたベインと睨みあう魚。背後から聞こえる床の磨かれる小気味よい音が、妙に虚ろに耳に入る。
 長い時をかけ、ようやく気を取り直したベインは、怪魚の顔を向こうに向けてナイフとフォークを使い始めた。



しぐれもん
新キャラ(?)のオンパレードだぁ…。09/04 14:28
最終更新:2010年03月17日 04:08
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