2006.04.14 01:46
水上 える
◆◇◆分岐しました◆◇◆
★ルール-------------------------------------------------------------------------------------
1、小説は、この記事のスレッドに書く。
2、一人一回の投稿は、五行まで。(多少の誤差は容認しますが、あまりこの枠を外れすぎないように注意してください)
3、連続投稿は禁止。(※例外:一週間経っても他の人の投稿がない場合は、もう一度だけ投稿してもよい)
4、三人称で書く。
5、質問事項は、全て質問用記事に書く。
★これまでのおはなし--------------------------------------------------------------------
天が抜けたような豪雨、空を裂き鳴り響く稲光。世界を破壊するような雑音も、この場所では鼓動の音ほども気にならない。塔の地下十三階、死の静寂にも似た闇を封じた霊廟では。数百年もの間、足を踏み入れるものもない場では、大気までもが動くことを忘れたまま澱んでいる。
もはや毒のようなその場所に、一人の男が立っていた。
体を覆う、黒く長いローブを揺らしもせず。彼が見つめる先の壁には、額縁に似た朽ちかけた木の枠がある。その中に絵画のように浮かぶのは、年端もゆかぬ少女の形をしたものだった。美しい銀の細工で飾られた、群青の杭で胸の中央を貫かれて、少女は無表情に目を閉じている。残酷だとは思わない。それはそういうものなのだから。
男は音も立てずに少女へと近づいていく。虚ろを思わせる細面に浮かべた表情は、我が子に向けるような笑み。伸ばされた長い指が群青の杭に絡みつくと、闇が怯えるように空気を震わせた。だが、男は気にする様子もない。その瞳に宿る感情は、恐怖が入りこむ余地もないほどの歓喜のみ。
杭をつかんだ腕に力が入る――そのとき少女の唇が、唇だけがゆっくりと動いた。
『 あ な た じゃ 』
男は興奮で充血した目をわずかに見開いた。
『 い や 』
男の身体が吊り上げられるように宙に浮いた。警戒する暇もなかった。次の瞬間には、彼は天井に叩きつけられていた。
少女はまた静かに唇を閉じた。
だが、少女の顔には先刻まではなかったものが表れていた。
笑みだ。
一方、男は呻きながらゆっくりと体を起こした。
「生意気な……」
この場所で、初めて言葉を口にする。澱んだ空気に、明らかな呼気を混ぜる。
額から血を流しながら、しかし彼の顔から歓喜は消えていなかった。
「それでこそ手に入れ甲斐があるってものだ」
眠ったような少女に再度、男が近づく。
男の笑みはどんどん彼の性格そのままを映し出したような笑みに変わっていった。
しかし、少女は相変わらず眼を閉じ、穏やか、あるいは妖艶ともいえるような笑みを浮かべていた。
二度目に男が少女へ向けて差し出した手には短剣が握られていた。刃に刻まれた、血のような赤い線は文字のようにも見える。
振り下ろした切っ先を、男は、つややかな銀色の髪の流れる少女の白い眉間で寸止めた。
このまま刃を進めれば、抵抗すらなく埋まっていくであろう予感。流れる血の一筋もなく、そのまま自らの腕までとりこまれていく確信。だが、男が手を止めたのは恐怖からではない。浮かべた笑みはそのままに、邪な意思のみが膨らんでいく。
「そう、手に入れてやるぞ。その虚ろなる骸も、終わりなき悪夢の渦も、お前の全てを」
偶像に捧げる誓いは、汚泥にも似た醜さで、極められたそれはある種の神聖さすら感じさせる。
★では----------------------------------------------------------------------------------------
みなさん楽しんで投稿しましょう♪
水上 える
そのとき男に向けて、暗い大気を突き破るような明るい声が掛けられた。
「おバカ、騙されてんじゃないわよ。それはダミーよ?」
巨乳が現れた。スタイルよりも顔よりも、まず胸に視線がいく、そういう格好の女だった。男が誰何の声を返すより早く、少女が突然目を開いた。男は驚愕で固まった。
「あれ?ばれちゃった。なんで?」04/14 02:00
幽水晶
女はバカにするな、とでも言うように指を振った。
「本物がこんなところにあるわけないでしょうが。まぁた騙されちゃったわね?」
男は悔しそうに、歯をギリギリ鳴らせた。
少女が楽しそうに笑い声をあげる。
「じゃあ、遊ばなきゃ、ね?」
04/14 18:23
水上 える
男の手から、突きつけられた短剣を小さな口で咥えてするりと奪い取り、少女は絵画の中から外界へと踊り出た。途端、銀色に見えていた髪がざらりとした針金のようなくすんだ灰色になる。それでも、抜けるように白い肌の色は変わらず、ひらひらとしたレースの衣装とあいまって現実味に欠ける。心臓部分を貫通した群青色の杭がトレードマークであるかのように、少女は胸を張り、来訪者たちにいたずらっぽい笑顔を向けた。04/15 01:28
幽水晶
少女はくわえていた短剣をゆっくりと構えた。あまりにも邪気のない笑顔がかえって不気味に感じる。少女はクスクスと笑って、彼らに語りかけた。
「ねえ、知ってる?王サマの寝所に入り込んだ泥棒は、殺されちゃうんだよ。王サマはね、邪魔をされるのが大嫌いだから、いつだって誰かが王サマを守ってるの。今、王サマを守ってるのは私。だから、あなたたちを殺さなきゃ。それが、泥棒の末路だから」04/17 19:12
水上 える
「泥棒だと?」
男の表情に怒りが混じる。
「よくもぬけぬけと、言えたものだな……」
一方、巨乳は悠然と肩をすくめた。少女の言動を面白がってさえいるようだ。
「あ、ちなみに私は泥棒じゃないわよ? 単に茶々入れにきただけだもの」04/19 03:05
幽水晶
「ふうん?そうなんだ」
少女はニコニコと、無邪気に笑った。その笑顔の真意が分からずに首をかしげる男と、その後ろで顔を厳しくする女。二人は対照的だった。
「・・・・・・それでも、何もできないように・・・・・・」
少女の声が突然途切れた。04/19 20:27
水上 える
かくん、と糸の切れたように動きが止まる。闇からぬっと音もなく、彼女の背後に現れたものがあった。まるで亡霊のようだった。頭からすっぽりかぶった布で全身を隠している。両脇からにょっきりと2本の腕と、天辺からうさぎのような耳だけが不自然に伸びていた。
それは、手に持っていたゼンマイを少女の脳天に突き刺し、そしてぐりぐりと巻いた。
「すぴーーーど ちゃーーーじ」04/22 01:44
幽水晶
「・・・・・・しなくちゃね」
少女は何事もなかったように言葉を続けた。ゼンマイを持っていた手は、少女の体にまわされている。それを当然のように受け止めている少女と、そこにあるのが当然のようにまわされている手。奇妙な沈黙があった。
「・・・・・・悪趣味ね」04/22 20:58
水上 える
何が?と言わんばかりに少女は一度首をかしげ、そして一歩踏み出した。
一瞬で、男との間合いが詰まる。確かに速かった。すれ違いざまに男の脇腹を切り裂き、手首をつかんで肩を極めると後ろから首筋へ短剣を突きつけた。
「よく切れる剣だね。血で研いた魔力剣ってとこかな? こんなのいたいけな女の子に向けちゃ駄目でしょ? さあ、首の動脈が切れればあなたは終わり」04/23 22:31
幽水晶
「……畜生が――」
男は人知れずつぶやいた。脇腹の傷から血が溢れ出し、男の足を伝って床に血溜まりをつくる。彼は顔を歪めた。
「お前は――ただの人形でしかない」
男の手が、少女の顔に伸ばされた。04/24 18:50
水上 える
「人形だなんて……あ、やだ」
手をよけようとするが、少女は血溜まりに足をとられかける。男の指がその細い顎に引っかかった。
ぱこん、と軽い音がして少女の顔面が外れた。中にぎっしり詰まった歯車と導線が露になる。
「いやー! えっちーーー!」
少女は思わず短剣を投げ捨てて男を殴りこかすと、落ちた面を抱えて暗闇の奥へと駆け出した。04/25 00:35
幽水晶
「へえ、やるじゃない。あんた」
女がにぃ、と笑って言った。男は何か汚いものを見るような眼で女を振り返る。
「……本当のことを言っただけだ。認めないのはあっちの勝手だろう」
女は肩をすくめた。
「認めるも認めないも、否定したのはあんたでしょ?あの子、怒ってるわよ、きっと」04/25 20:33
水上 える
「人形に、感情などない。怒るわけがない」
脇腹を押さえて男は吐き捨てた。出血はひどいようだが、致命傷と言うほど深くはない。
サービスよ、と女が布を投げつける。男は無言で受け取り、傷口を縛った。
「そんなふうに思っている限り、あんたは本物には近づけないわ」
鼻で笑うような声音で女が囁いた。04/27 03:03
幽水晶
「それでも、構わない」
男は独り言のようにつぶやいた。女が男をじっと見つめる。
「それも、悪くない。そう思うようになった」
なんでもないことを言うような男に、女が口を開きかけた。
「俺はあいつを追っていく。お前は、どうする?」05/09 21:32
水上 える
「なに、謝りに行く気になったの? だって、そんな傷じゃまともに戦えないでしょう」
女は茶化すように男の傷口を指差した。男は答えずに、少女の消えた闇を見つめ、そして落ちていた短剣を拾うと歩き出した。女はそれについていく気はないようだった。ただ興味深そうに男の背中を見つめている。
そのとき、闇の向こうから悲鳴が聞こえた。05/11 03:31
幽水晶
「何!?今の」
女が驚いたように奥を見た。男は女の声に耳も貸さず、奥をボンヤリと見た。
「……始まったか……」
「何がよ!?あれは、あの悲鳴は一体!?」
男は何も言わず奥へと歩み始めた。05/11 20:38
水上 える
「おかしいわ……ここにはあんな声を上げられるような生き物はいないはず。いえ、いてはいけないのに」
女は背負っていた鞄を乱暴に探り、無数に記号の刻まれた小さな盤と、鎖のついた雫型の水晶を取り出した。ある可能性に思い当たってぞっとする。
「まさか、誰かが……造り替えたというの?」05/11 22:56
幽水晶
一方、男は無言で奥へと進んでいった。塔の外観では、信じられないような広さである。時折、途切れ途切れの悲鳴と、湿った地下道に落ちる水音が、不気味さを漂わせていた。
「因果な商売だ。……だから、楽しいんだがな」
男の顔は無表情といっても良かった。声だけが楽しそうに響いて、どこかが虚ろだった。
悲鳴が少し、大きくなる。05/12 19:24
水上 える
進むほど闇はより深くなる。男は袖口から小さな金属の檻を出した。指先でこつこつと叩くと、妖精の欠片を閉じ込めた檻は淡い光を放った。ぼんやりと辺りを照らし出すそれを掲げて、男は歩を速めた。
ふと横の壁を見ると、暗がりの中に先ほどの少女が入っていたのと同じような木の枠が、大小さまざまな大きさで並んでいることに気付く。先ほどまでは闇に埋もれて見えなかったのだ。05/13 01:49
幽水晶
「檻……か。俺も気づくべきだったな」
男は諦めや無力感にも似た表情を浮かべつつ、足音を一定間のリズムで響かせながら先を歩いていった。先程までは気がつかなかったが、地下だというのにそこはずいぶんと暖かだった。男は眼を閉じた。
――アア――イ…タァ――オオ―カァア――05/14 17:40
水上 える
圧迫感を覚えて男は光源を前に差し出した。通路はカーブを描いていて、悲鳴はそのまだずっと先から響いている。正面は壁だった。そして大きな木の枠があった。見上げる。暖かさを感じたのはまさかこれのせいではあるまい、とどこか冷静に嘲笑う自分がいる。それを予期していたわけではない。けれど驚きを感じなかったのはなぜだろう。
両手を広げて目を閉じているのは、男のかつての恋人だった。05/23 00:38
幽水晶
「……そうだ。お前は好きだったんだよな。こんな場所が」
いつの間にか、景色が大きく変わっていた。すぐ上に湿っぽい天井があるはずだったそこには、美しい青い空が明るく輝いていた。冷たさを感じていた地面は既になく、緑っぽいにおいを振りまく草が風に揺れている。その中心にその女は立っていた。
不意に、女はゆっくりと眼を開き、男に微笑みかけた。あの時と同じように。05/23 18:51
水上 える
爽やかな風が男の無力感を洗い流すように吹き抜けた。夢から目覚めたような心持になる。
彼女の優しい形の唇は未だ閉じたまま何も言わない。あの時と同じように――男は手を伸ばしかけ、けれどわずかにためらった。あの時とは違う。この手は汚れてしまった。
女は裸足の爪先で軽く土を蹴った。そして、軽く息を吸うと、まるで天使のような声音で誘った。
「すっごく綺麗だよ! 一緒に行こう!? 私たちの行ける所まで!」05/26 02:05
幽水晶
男は自分の手を見つめた。薄汚れた手には何も残っていない。だが、男は手から眼を放さなかった。そんな男をじっと見つめ、女は不思議そうに男へと手を伸ばす。
「ねえ、どうしたの?約束、忘れたわけじゃないよね?ほら、早く……」
「触るな。……お前は、あいつじゃない。あいつはもう、死んだんだ。俺の、手の中で」
男の瞳に驚きを隠せない女の顔が映る。女の顔が泣きそうにクシャリ、と歪んだ。05/26 20:22
水上 える
「どうして?」
太陽を雲が隠し、世界は少し暗くなった。彼女の心情を映したように。
「どうして? あなたはいつもそう。頼りない記憶に固執して、目の前の現実を信じられなくて。この世の中と言うのは、何が起きても不思議じゃないと、神父様も言ってたでしょ? 自分を責めるのはやめて、私を受け入れて。そうすればあなたは楽になれる」05/28 05:08
水上 える
うつむいたままの男の頭を、女はそっと撫でた。
「認めていいんだよ? 私はここにいる。だから、あなたが私を殺したことは、悪い夢だったんだって」
「俺を惑わすのは、やめろ――!!!」
男はあらん限りの力で叫んだ。その途端、青い空にヒビが入り、まるで硝子のように砕けて落ちた。
暗い床に女は倒れていた。いつのまにか、先ほど奥へ走っていった少女がそこにいて、無表情に女を見下ろしていた。06/11 01:24
幽水晶
「やっぱり、逃げるんじゃない。貴方だって、逃げるんじゃない」
少女感情を込めずににそれを言うと、また奥へと走り去ってしまった。じめじめとした暗闇の中に、男は一人、取り残される。
「何だって言うんだ……。俺が、何をしたって言うんだ」
男は座り込んだ。さっきのものが幻と分かっていても、それを止めることは出来なかった。06/14 18:09
野良(--)
一方その頃、巨乳の女は探し物に夢中になっていた。鞄からは次から次へと物が湧き出てくる。明らかにその容量より大きな椅子や家具など引き出しながら、まだまだ動きを止める様子はない。
「あら、このオルゴール、こんなところにあったんだ。きゃー♪ 『不幸をもたらす幸運の女神像』じゃない。ようやく届けられるわ。……あれ、誰に届けるんだっけ? あ、この短剣、まだあったんだ。あのセクハラジジイを刺した後どうしたのかと思ってたら、こんなところに迷いこんでたのね」
きっと自室の掃除は苦手であろう巨乳の女は、声をかけられるまでそんな事を続けていた。06/16 17:21
水上 える
「あれ? ていうか私、何探してたんだっけ…」
「コレだろ、必要なのは。姉さん」
「あ、そうそう、それよ! ありがとー」
後ろから差し出されたものを受け取ってから、女は驚いた顔をして振り向いた。胸が揺れる。
「ちょっと、あんた、なんでこんなところにいるの?」06/17 03:56
野良(--)
「つれないなー。姉さんがいるなら例え火の中水の中、竜の胃袋にだって行きますよー、ぼかあ」
躁じみた声でそう答えたのは、毛むくじゃらの猫顔だった。身の丈は少年っぽい声に相応で女の腰ほどまで。横幅がそれと同じ位ある。輪郭だけ薄茶に見える白毛が全身を覆った中、両耳で支えるようなシルクハットだけが唯一の装飾だ。三秒の落書きでかけそうな単純な顔は、常と変わらぬ気の抜けた笑顔を見せていた。06/20 22:43
幽水晶
「何バカ言ってんのよ。戯言もいい加減になさいな。どうせ、ここが預かり所ってことを嗅ぎつけてここに来たんでしょ。全く。だから猫は嫌いなのよ」
ゴチャゴチャとまくし立てる女に猫顔の男……らしきものは眼を丸くした。
「へえ、ここが預かり所だったですかー。……にしてはめぼしいもん置いてませんねー」
「ちょっとあんた、ほんとに知らなかったの?ここのこと?ばっかじゃないの。全く」06/21 18:19
水上 える
「姉さんにバカ呼ばわりされると、むしょーに癒されます」
猫男はなぜか、てへてへと照れたような仕草でヒゲを撫でた。ズレ落ちそうになったシルクハットを、慌てて短い前肢で押し戻す。
「うざ……」
女は散らかした荷物をまた整理もせず鞄に突っ込んだ。06/22 22:31
幽水晶
「預かり所の概念は知ってるのね?」
「概念・・・・・・ですか。知らないといったらどうするですか?」
女は猫男を胡散臭げに睨みつけた。猫男はそれをテレテレとした行動で受け流す。
「……ほんっとうに知らないのね?……あんたそれでも盗賊?ついでだから教えてあげるけど、預かり所ってのはね、所有者のいない道具……特に魔法具ね……をすべてここに集めちゃうのよ。言うなれば、あたしたち盗賊にとってはお宝の山ってところね」06/23 18:02
野良(--)
「にゃるほど。いや、知ってましたよ。ちょっとド忘れしてただけですよー」
「そっか。そうよね。三歩歩いたら全部忘れるんだもんね、あんた」
「失敬ですね、姉さん。人を鶏と一緒にしないでください。ぼかあなにか忘れるのに三歩も必要としませんよー」
「……あっそ」
なぜか誇らしげな猫モドキに、木枯らしのような一瞥をくれて巨乳の女は歩き出した。
06/23 21:32
水上 える
「あの男、どこまで進んだかしら。見た感じ、あいつが欲してるのはアレのホンモノだけ。私の仕事とはかち合わないはずだから別にほっといてもいいんだけど……でも、うん、ホンモノがここにないのは確かよ。だってアレの所有者はまだ滅されていないんだから。それにしてもさっきから続いてるこの声、あの男と因果関係があるとしたら……所有者?でもまさか。ちょっと待って、だとしたら王様って誰?」
自分の考えをまとめるためだろう、女はぶつぶつとひとりごちながら、自然と早足になった。06/24 00:19
幽水晶
その頃の男は。
「畜生……味な真似をしてくれるじゃないか……。所詮、あいつは偽者だってのに、な。それとも、過去に捕らわれているのは俺だけじゃないってか……」
男は、まだ地下の湿っぽいそこにうずくまっていた。床に投げ出された檻が小さな光を放ってはまた暗くなる。電池の切れた機械のように。06/28 20:42
野良(--)
その光が目障りで、いつしか目を閉ざしていた。それでも真の闇は訪れない。瞼の裏に流れる血が、光の残滓を残しているためだ。いっそ全身の血液を吐き捨てたい衝動にかられるが、現実にそれができるわけはない。
なにより、自らの命を己で終わらせるなど、あいつが許してくれるはずはない。
煩わしかった血の流れが、瞼の裏に彼女の姿を映し出していた。
06/29 20:13
水上 える
変わらない笑顔。そう、彼女は息絶えるときでさえ微笑んでいた。なぜ死なせてしまったのだろう、逃げることだってできたのに。いままで考えないようにしてきた後悔の念を、男は無理やり振り払った。かといって、先程の幻の台詞を受け入れるわけにもいかず、ただ彼女の残像に消えろと念じた。
悲鳴に意識をかき乱され、男は我に返った。こんなことをするためにここまで来たのではない。07/03 02:23
野良(--)
なんだ、と視線と思考を闇に向ける。聞こえてきた悲鳴、絹を裂いたような声の残滓を辿るように。しばし待つ必要もなく、床石の砕ける音が響いてきた。地面を揺らす振動と共に。連続して聞こえてくるその音に加え、闇は時折朱を爆ぜさせる。炎の欠片は僅かながら、進む先を照らしだした。
「……どうせ手掛かりもないし、な」
自身に言い訳をするように呟き、男は騒ぎの元へと走り出した。07/04 18:16
水上 える
音源は近い。近いはずだ。数度壁を感じて曲がったような気がするが、よくはわからない。
響く声は次第にはっきりとしてきた。ときおりそれが呪詛のようにも聞こえ、男は寒気を覚えるのだが、それを他人事のように感じている自分もいて、やはりよくはわからない。
赤い炎の放射光が目に入り、男は、やっとたどり着いたかと足を止めた。しかし。
とたんに、辺りが静寂に満ちる。目の前の闇の中、扉が3つ、行く先に浮かび上がっていた。07/05 23:50
野良(--)
「なんだ、今度は」
男は愚痴るように呟きながら、三つの扉を順に見る。それぞれには特徴的な印が刻まれていた。
一つは竜。荒々しい姿は彫刻であるにも関わらず、今にも飛び出してきそうなほど。
一つは髑髏。大鎌を掲げたその姿は、見ているだけで指先から死んでいくようだ。
そしてもう一つは、女。娼婦の笑みを湛えた聖女が、濡れた瞳で見つめていた。
07/09 19:53
水上 える
耳をすますが、不思議なほど何も聞こえない。男は注意深く扉の印を見比べた。
描かれた女と目が合った。いや、ただの飾りなのだからそれは錯覚だ。しかし目が離せない。熱に浮かされたような足取りでその扉の前まで歩み出ると、男はその女の頬に触れていた。髪、腕、長い衣、夢中で指でなぞっていた。当然、指先が知覚するのは冷たく硬い金属の感触だけ。自分でもなぜそうするのかわからないまま、男はその像の唇に指を当てた。07/16 06:54
野良(--)
瞬間、硬質な金属が、そこだけ肉のすぼみと化した。
「なっ」
思わず意識が正常に戻る。像の唇に触れさせた指は、その半ばが口の内へと飲まれていた。引き抜こうと力をこめた刹那、
「!?」
男の身は女の像に、啜り飲み干されていた。パスタのように、ちゅるちゅると。
07/16 18:48
水上 える
同じ場所に巨乳と猫男がたどり着いたのは、それから数分後だった。
「え? なに、この場所。悲鳴はどこいったの? これ、選べってこと? なによこれ」
「にゃんでしょう、まったく、まかふしぎときたもんです」
3つの扉を胡散臭げに見やる。それぞれに刻まれた印は、猛る竜、不気味な髑髏、そして、無数に実をつけた木にとまった1羽の小鳥だった。07/21 23:34
野良(--)
「む、これは!」
三つの扉を前に思案していた猫男が、突如奇声をあげた。
「なに、なにかあった?」
「ふっふっふ、わかりましたよ姉さん。これは……密室殺人です!」
しばし、沈黙が流れる。巨乳はやおら猫男の後ろにたつと、おもむろに蹴りをくれた。08/04 14:56
水上 える
「そう、つまり、ここであんたが死ぬわけね」
つんのめった猫男の背中へと、さらに膝を落とす。ぎゃっ、と猫的な悲鳴があがった。
しかし毛と脂肪とに守られたのだろう、残念ながら致命的なダメージにはならなかったようで、猫男は痛い痛いと元気にのた打ち回った。その勢いで、髑髏の扉にぶつかり、中へと転がっていった。08/05 04:19
最終更新:2009年08月07日 01:47