ようやく家に到着するとのび太はただいまも言わずに階段をかけ上がって行く。ドタドタと響く足音が、彼の慌ただしさを表現していた。
「ドラえもーーん!!」
二階にある部屋のドアを持てる力の限りスライドさせ、のび太は目の前に居る青き身体に飛び付く。その奇妙な物体は好物のどら焼を食べていたようだ。食事の邪魔をされたのが不快だったのか、はてはのび太に触れられるのが嫌だったのか、あるいは両方か、青いヤツは温かくない目を彼に向けた。名をドラえもんという。狸のような外見だが、実は猫をモチーフにしているロボットだというのはあまりにも有名な話である。
野比のび太といえば重度を超えたトラブルメーカーだ。今度は何を持ち込んだのやら、ドラえもんは心底うんざりしていた。
「ドラえもん!ジャイアンに!」
「ジャイアンにポケモンバトルを仕掛けて負けた。今度戦う約束をしたから絶対に勝てる道具を出して…かい?」
「よくわかったね…」
「長い付き合いだからね。伊達に一年も同居してないよ。」
ドラえもんは22世紀の未来で生み出され、そしてのび太の居るこの時代にやってきた。目的はのび太を優秀な人物にする事、しかし彼はずっと変わらない…自分が来たのは逆効果だったのかもしれない…最近ドラえもんはそう思うようになっていた。
(のび太君の為にも、あれを使うしかないか…)
ドラえもんは何も声に出さず、胸のポケットに手を入れた。思いの外あっさりと道具を出してくれる事が、のび太は純粋に嬉しかったようだ。足をバタつかせて道具の登場を待つ…
「異次元世界移動マシーン!!」
「わあ…」
ドラえもんがその名を言うと、ポケットから大きな板のような乗り物を取り出した。その形はあのタイムマシンに擬似していた。
「これを使うと、僕たちが居る世界とは違う世界に行けるんだ。もちろん、ゲームの世界にもね!」
「えっ!?じゃあ…その…ポケモンの世界にも行けるの?」
「うん!その為に出したんだ。」
この時、のび太はかつてない程興奮していた。ポケモンの世界…彼は何度かそれに憧れていた。本物のポケモンと会いたいと何度も思った。当然それは不可能な事だ…現実とは残酷なものである。しかし、ドラえもんにはその不可能を可能にする力がある。夢にまで見たポケモン世界へ行く時が来たのだ。
「ドラえもん!みんなも誘って良い!?」
「あっ、うん。」
「やったぁ!!」
子供とは無邪気なものだ。のび太はすっかり本来の目的を忘れていた。ゲームではなく、リアルでジャイアンを倒す!次にスネ夫だ!その後は憎き出木杉をじっくりと料理してやる!最後は静香と二人勝ちだ!のび太の強く意気込む。先ほどまでとは別人のように活気に満ち溢れていた。
数十分後、のび太の部屋には五人の少年少女と一匹の狸が集まった。のび太、ドラえもん、ジャイアン、スネ夫、静香、そして出木杉…本物のポケモン世界で冒険が出来る…彼らものび太と同じように興奮を隠せなかった。
一同はドラえもんが出した異次元世界移動マシーンに乗り込む。すると、まず出木杉が口を開いた。
「ポケモンの世界って、どこに行くんだい?」
「金銀!」
「やっぱり金銀だね。」
「二人がそういうなら私もそれで良いわ。」
「ええ~…僕はプラチナが良かったのに…」
「なんか言ったかのび太?」
「ん?僕なんか言ったけ?さあ行こう金銀の世界へ!」
ジャイアンに睨まれ、のび太はしぶしぶ了承した。意外にも行く先のポケモン世界はポケットモンスター金銀の世界、すなわちジョウト地方に決まった。何故金銀か?答えは簡単だ。彼らはそのゲームを噂でしか知らず、プレイした事が無いのだ。ルビー、サファイア、ダイアモンド、パール、プラチナと知っている世界に行くよりも、未知なる世界へ行きたい気持ちの方が大きかった。
「ルールはどうする?」
「先に殿堂入りした奴が勝ちで良いんじゃね?」
「それでいこう!」
ドラえもんはマシンのタッチパネルのような物を動かし、向かう世界を設定する。そして手元のレバーを引いた。
「行くよ!ポケモンの世界へGO!」
ドラえもんのテンションの高いかけ声と共に、マシンは発進する。まるで瞬間移動のように部屋から全員の姿が一瞬にして消えた…
最終更新:2009年08月30日 21:56