大人のび太のポケモンストーリーその1

導かれし運命


カーテンも閉め切った薄暗い部屋の中で、小太りの青年が黙々と携帯ゲーム機で遊んでいた。
部屋の中は薄暗く唯一の光は携帯ゲーム機の明かりのみだった。
ゲームソフトやゲーム機がいくつも散乱している。
「ポケモンは楽しいな。はははっ!」
野比のび太は笑いながら独り言をぶつぶつ呟いた。のび太は25歳だが、
仕事もせず、家に引きこもって遊び呆けていた。いわゆるニートである。
のび太をまともにするためにやってきた猫型ロボットのドラえもんはとうに彼を見放し、
未来の世界に帰ってしまった。しかし、のび太はそれをまったく気にしていなかった。
(自分が悪いんじゃない……全てドラえもんが悪いのだ)
のび太はゲームをしている間に突如としてドラえもんが帰った日のことを思い出した。
全てドラえもんに非があるのだ。自分は何一つ悪くない。
再び集中してゲームをしようとしたが、いまいち集中できない。
(ドラえもんのことを思い出したせいだ)
のび太は勝手にそう思うことにした。そう思わなければならないような気がした。
すっかり集中力が途切れたのび太は一時ゲームを中断することにした。
のび太が今、熱中しているゲームは全世界で大ヒットしている『ポケットモンスター』だ。
このゲームはポケモンと呼ばれるモンスターを捕まえて育てたり、闘わせることができるゲームだ。
のび太は何年も前からこのゲームの虜となっていた。
のび太が住んでいる街でも幅広い年齢層に支持され続けている。
小さい頃からの友達であるジャイアンやスネ夫、それに静香や出木杉もやっている。
のび太は彼らに長らく会っていない。
聞いた話によるとジャイアンは店を継いでスーパーにまで発展させ、
スネ夫は親の会社を継いで社長となり、静香は大学を出て中小企業に勤めていると聞いた。
出木杉の噂は聞かない。彼等は既に自分とはかけ離れた遠い存在になっていた。
そんな彼らを恨めしく思いつつも再びゲームをしようとしたが、やはり気が乗らなかった。
その時だった。のび太の頭の中に稲妻のような衝撃が走った。
不機嫌なのび太の顔がみるみる内に笑顔になる。
途端にのび太は部屋のカーテンを開け、電気を付けて押し入れの戸を強引に開けた。
押し入れの中は古ぼけていて埃だらけだった。
かつてドラえもんが自分の部屋と称していた押し入れだ。
「何かあるはずだ。ドラえもんが残していった物が」
一心不乱にのび太は押し入れの中を探った。
しばらくして押し入れの隅にドラえもんがいつも身に付けていたポケットが見つかった。
それはのび太を狂喜させるに値するのには十分だった。
「やったぞ! まさか『スペアポケット』を残していくなんて!」
スペアポケットはドラえもんの『四次元ポケット』に繋がっているのでドラえもんの道具を出し放題だ。
のび太はスペアポケットを右手で掴んで歓喜した。
自分の不幸な人生を変えることが出来るかも知れない。
そう思うとのび太の心が弾んだ。早速のび太はポケットに手を突っ込んだ。
中を探っていく……そして大型の電話ボックスのような物が出てきた。
「何だ? これは『もしもボックス』に似ているが、どこか違う」
電話ボックスのような大型の道具を見つめて言った。
もしもボックスはどんな世界も作り出せる素晴らしい道具だ。
しかし、出てきたのはもしもボックスとは微妙に違う……
もしもボックスの新型のような物なのかもしれない。
のび太はそう思うことにした。新型なら、それはそれでラッキーだ。
(これさえあれば僕の望む世界を作れる)
のび太は思った。その新しいもしもボックスのドアを開けて、中に入ると
その内装のハイテクさにビックリした。
のび太が知っているもしもボックスとはまるで違う。
「間違いない、これは新型もしもボックスだ」
高まる高揚感を胸にのび太は期待に目を輝かせた。
すると突然どこからか音声が聞こえてきた。
「スーパーもしもボックスへようこそ! この新しいもしもボックスは従来のもしもボックスより、
大幅に機能が充実した、もしもボックスの集大成です。そのため、どんな世界も演出できます。
どのような世界にしましょうか?」
その音声はどことなく懐かしさを感じさせるものだったが、のび太はそんなことをあまり気にせず、
話すことが出来るハイテクなもしもボックスに心を奪われていた。
のび太はどんな世界にするか既に頭の中にあった。
「この世界をポケモンの世界にしてくれ! ポケモンのゲームに登場する強いトレーナーも登場してほしい。
さらに付け加えると、この世界のジャイアン、スネ夫、静香、出木杉、ドラえもんも
僕と一緒に連れていって欲しい!」
のび太は興奮を抑えきれずにリクエストした。
なぜ、のび太がこの世界のジャイアン達を自分と一緒に連れて行きたいかというと、
彼等を見返して、自分がいかに凄いかということを見せつけたいからだ。
「かしこまりました」
新型もしもボックスが丁寧に言うと急に目の前が真っ暗になった。何も見えない。
恐怖が募っていくのが分かったが、自分が望んだ世界に行けるのならと思うとそれを抑えられた。
(この暗闇が終われば、僕はポケモン世界の頂点だ)
のび太はポケモンを極めつくしていた。
働いていないため誰よりもポケモンに時間を費やせるからだ。
しかも、対戦では一度も負けたことがない。
これから行く世界が自分にとってどれほど有利か、のび太は知っていた。




外界から閉ざされ、真っ暗で光さえ届かぬシロガネ山の最深部に一か所だけ明かりが照らしている。
そこにいるのは赤い帽子がトレードマークの青年レッド。
カントー地方では知らぬ者はいない伝説のトレーナーだ。
身長180㎝はあろうかという長身の痩せ形で25歳という若さで
最強の名を欲しいままにし、100年に一人の逸材だと言われている
しかし、レッドは数年前にカントーポケモンリーグチャンピオンを突然辞めて、
ひたすらこのシロガネ山で修業をしていた。
自らを限界まで極めるために……。
長年チャンピオンをしてついに一度も負けることがなかった。
レッドがチャンピオンを引退する決意をしたのは他の地方のチャンピオンとの対戦だった。
ホウエン、シンオウの二人のチャンピオンと勝負したが、圧勝だった。
弱すぎてとてもレッドの相手にはならなかった。
ホウエン、シンオウのチャンピオンを名乗る二人のトレーナーとの勝負で、
レッドは自分と互角に闘えるトレーナーが永久に現れないことを悟った。
「どいつもこいつも雑魚すぎて話しにならねえ……
ダイゴもシロナも俺の足元にも及ばなかったな。
あれでチャンピオンとは笑わせてくれる……」
傍らでレッドのためにフラッシュで明かりを付けているポケモンのピカチュウを見つめながら、
過去を思い出すようにレッドは言った。
未来永劫自分に敵う相手のいないことが内心つまらないなと思いつつも
心の底では嬉しくもあった。それは例え様もない優越感だ。
「……俺は最強だ。俺に敵う奴はいない。もしもこの世界がポケモンの強いやつが偉い世界だったら良かったのにな」
レッドは家から持ってきたラジオを聞きながら愚痴をこぼした。
すると、摩訶不思議なニュースが耳に飛び込んできた。
「速報です。名のあるトレーナーが突然失踪するという事件が起きました。
この現象は世界各地に及んでいます」
レッドは驚いてラジオから流れ出る不可解な現象に聞き耳を立てた。
(名のあるトレーナーが突然いなくなる?)
それは理解しがたかった。なぜ名のあるトレーナーが同時に消えてしまうのか疑問だ。
その時だった、ピカチュウのフラッシュの明かりが突然消えた。
途端――視界が真っ暗になり、レッドは意識を失った。

最終更新:2010年03月04日 20:59
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