彼女の言葉は絶対だった。
彼女は誰よりも強く、賢く、可愛く、そして正しい。
だから彼女に従った。彼女の教えを一言一句間違いなく覚え、その全てを忠実に守った。
時には大変なこともあったが嫌だと思ったことは一度もなかった。彼女が大好きだったから。憧れだったから。
彼女に仕えているだけで幸福だった。これからもずっと仕えていようと思った。
だがある日気づいてしまった。彼女の言葉に忠実であるためには彼女を殺さなければいけないという事実に。
『透明な宝石』を拾ったのはそんな時だった。
◆
ライダーが激しく前後する。スイムスイムはそれを黙って受け入れた。一般的に慣れないうちは痛いらしいが魔法少女の頑丈さゆえか、スイムスイムはさほど痛みを感じたことはなかった。ただこの男に身体を使われていることに対する気持ち悪さだけがいつもある。
顔の下半分をマスクで覆い、拘束具のような服を着た男。スイムスイムのサーヴァント。
ライダーは衝動のままに放出し、それはスイムスイムの身体を通り抜けて辺りに飛んだ。スイムスイムの身体に触れられるのはスイムスイムが許可したものだけだ。今許可しているのはライダーの身体だけ。そこから出るものまでは許していない。そして身体を許すのもここまでだ。
ライダーが抜くのを待たずスイムスイムは立ち上がる、ライダーの身体をすり抜けながら。ライダーは振り返り、不服そうに言った。
「オイオイもう終わりかよ。このまま二回戦と洒落込もうぜ」
「一回出したら終わり。そういう話だった」
言いながらスイムスイムは用意しておいたトイレットペーパーを手に取った。ライダーが出した物をさっさと掃除しなければならない。自分でしてくれればいいのだが、残念ながらこの男が後始末を自分でしてくれたことはこれまで一度もなかった。
ライダーと行為をするようになったのは会ってからまだ日が浅い時だった。能力を隠しもせずNPCの殺害と強姦を繰り返すライダーを諌めると、大人しくするかわりとして要求してきたのが始まりだ。
最初はどういう意味の行為かもわからなかったが、今はインターネットで調べて知っている。
ああいった意味合いのことをこの男とするのは不快ではあった。自分が気持ちよくなることしか考えていない男だ。そのうえ短絡的で目先の快楽ばかり求める。最初の頃なんてやっている最中にスイムスイムに暴力を振るってきたのだ。その方が気持ちいいとかいう理由で。ライダーの攻撃は全て通り抜けられるので無駄ではあったが。
普通ならその時点で一緒になんていられない。それでも自分のサーヴァントである以上組まざる得ないし、組んでいるなら言うことを聞かせるために相応の努力をしなければならない。身体を使わせるのはやむを得ないことだった。
掃除を終えたスイムスイムにライダーが近寄ってくる。胸に手を這わせてきた。触れないので正確には胸のあたりで腕を動かしているだけだが。
「お前の身体――魔法少女っつったっけ? 変身したら美人なるらしいが、具合のほうも良くなるんじゃねえか? 生きたまま俺をあそこまで気持ちよくした女は他にいねえぜ。まあそもそもヤルときゃいつも殺すんだけどよ。やっぱもう一回ヤんね? ストレス溜まると俺自身なにしでかすかわかんねえし」
要するに『ヤラせてくれなきゃまた殺す』ということだろう。だが、
「やらない」
にべもなく告げた。ライダーは舌打ちする。
「チッ、わあったよ、気晴らしに散歩でもしてくるぜ」
そう言って霊体化した。気配が遠ざかっていく。散歩と言ったが間違いなくNPCを殺しに行ったのだろう。
止めはしない。ここで止めて身体を差し出せばアイツはどんどんつけ上がってくるだろう。主導権はあくまでこちらが握らなければならない。
こちらの不興を買わない程度には隠匿に気をつけるだろうし、NPCを殺すメリットだってないわけではないのだ。
(本当に面倒なサーヴァント……)
それでも上手くやっていかければならない。スイムスイムにはどうしても聖杯が必要なのだ。
「ルーラ……」
呟いた。憧れの人の名前
ルーラの言葉は絶対だった。
ルーラは誰よりも強く、賢く、可愛く、そして正しい。
だからルーラに従った。ルーラの教えを一言一句間違いなく覚え、その全てを忠実に守った。時には従うのが大変なこともあったが嫌だと思ったことは一度もなかった。ルーラが大好きだったから、憧れだったから。。
ルーラに仕えているだけで幸福だった。これからもずっと仕えていようと思った。
だがある日気づいてしまった。ルーラの言葉に忠実であるためにはルーラを殺さなければいけないという事実に。
スイムスイムが『透明な宝石』を拾ったのはそんな時だった。
どんな願いでも叶える聖杯。その力があれば不可能さえも可能にできる。ルーラを殺さずにルーラに忠実でいることができる。
絶対に聖杯を手に入れる。そのためなら気に入らないサーヴァントとだって行動を共にする。身体だって許す。聖杯が取れるならその程度なんてことはない。
大好きな人を殺すよりも辛いことなんて、この世には存在しない。
◆
まず最初に父親。ライダーは身体から湧き出す汚泥を向かわせた。父親は逃げる間もなく全身を汚泥に包まれ、直後に肉の潰れる音が響いた。そのまま悲鳴をあげる暇を与えず母親と息子も包み込む。ふたりは父と全く同じ音を鳴らした。
主たちの居なくなった一軒家、その居間でライダーは退屈そうにぼやいた。
「アー、やっぱ物足んねェー」
本来こういうあっさりとした殺し方は趣味ではない。もっとひとりひとりをじっくりと虐めながら殺すのが好きだった。もしくは派手に何十人も同時に殺すのが。
だがそれで誰かに目撃されるようなことがあればマスターの不興を買う。あの肉体が貪れなくなる。
死姦趣味の自分が殺すのが勿体ないと思ってしまうほどの快感、あれが遠のくのは嫌だった。
(つったっていつまでも我慢してらンねえよ)
ライダーは自分が堪え性のない性格であることを自覚している。代価がストレス解消に適した性交だからまだしも耐えられているが、いずれ限界が来ることは明白だった。
できればそうなる前に仲良くなっておきたい。仲良くなれば今より気軽にヤラせてくれるだろうし、殺しに関してもいくらか寛容になるだろう。
強引に言うことを聞かせられればそれでもよかったのだが、あいにくライダーの攻撃はマスターには通じない。脅す材料も特にないし、令呪まで持たれていては無理な話だった。
それに元来ライダーは寂しがり屋だ。最低のクズであるためろくに仲間ができないが、欲しいとはいつも思っている。
ライダーの仲間になるのは同じようなクズだけだ。マスターはクズではない。だが素質はあると思う。頭のネジが一本抜けている感じがある。
あれはまだ肉体関係を結ぶ前、ライダーが虐殺をする現場にマスターも居合わせたことがあった。あのときマスターは自重しないライダーに苛立ってこそいたもののNPCの死には全く心が動いていない様子だった。犠牲者は所詮作り物のNPCとはいえ眉くらいひそめるのが普通の反応だ。真っ当な倫理観が欠如している。
それに本来の姿は見たことがないが、おそらくあのマスターはまだ子どもだ。殺しや破壊の快楽を覚えるか正常でいられないほど精神が疲弊すれば、ブレーキが効かずに一瞬でクズになるだろう。
(ま、切っ掛けがあるまで待つしかねえか)
聖杯戦争が本格的に始まればまあなんか色々と起こるだろう。それくらいならたぶん我慢できるはずだ。身体のことを抜きにしてもライダーは頭のイカれたあのマスターのことをそこそこ気に入ってもいた。
と、玄関の方からドアの開く音がした。
「ただいまー、お腹すいたー」
十代後半くらいか、若い女の声。どうやらまだ家族がいたようだ。
「我慢するため……もう少し発散しねえとなァ。へへへへ」
ライダーは玄関に向かった。今度はさっきよりもう少し時間をかけた。
【クラス】
ライダー
【真名】
デスドレイン(ゴトー・ボリス)@ニンジャスレイヤー
【ステータス】
筋力E 耐久C 敏捷C 魔力A 幸運A+ 宝具A
【属性】
混沌・悪
【クラス別スキル】
騎乗:B
騎乗の才能。大抵の乗り物なら人並み以上に乗りこなせるが、
魔獣・聖獣ランクの獣は乗りこなせない。
対魔力:C
第二節以下の詠唱による魔術を無効化する。
大魔術、儀礼呪法など大掛かりな魔術は防げない。
【保有スキル】
運命の加護:A+
インガオホーの宿命を退ける運命力。
逆境に陥れば陥るほど、幸運を用いる判定の成功率が上昇する。
戦闘続行:B+
往生際の悪さとすら言える生存能力。
瀕死の傷であっても生き延びることが可能。
人間観察(偽):C
人々を観察し、理解する技術、ただしデスドレインの場合は観察ではなく勘によって理解する。
顔を合わせただけの相手や、新聞記事など伝聞情報からだけでも相手の人間性を推測できる。
また特別な力を隠し持った人間を見抜くことにも長けている。ただし力を持っているということがわかる程度で、どんな力か、どの程度の力かといったことまではわからない。
直感:C
戦闘時、つねに自身にとって最適な展開を”感じ取る”能力。
敵の攻撃を初見でもある程度は予見することができる。
【宝具】
「ダイコク・ニンジャ」
ランク:A 種別:対己宝具 レンジ:1 最大捕捉:1
ニンジャとは平安時代の日本をカラテによって支配した半神的存在である。
この宝具はデスドレインに憑依したダイコク・ニンジャのニンジャソウル、つまり魂そのもの。
ニンジャソウルに憑依されたものは個人差こそあれど、超人的な身体能力や生命力を獲得する。
その戦闘力は常人を遥かに凌駕するものの、急所への攻撃はニンジャといえど致命傷となる。
「死の濁流(アンコクトン)」
ランク:B 種別:対軍宝具 レンジ:1~99 最大捕捉:1000
暗黒物質とも称されるユニーク・ジツ、つまりデスドレイン固有の特殊能力。
コールタールめいた可燃性の流動状エネルギー「アンコクトン」を自在に操る。
主に触手状になって他者を捕獲・吸収する他、他者の体内に侵入させ窒息・破裂させることも可能。
更に物理攻撃に対する防御、本体の負傷部分の治癒や再生など、非常に応用が利く。
ただしアンコクトンの守りを上回る威力や魔力さえあれば防御を貫通することが可能。
他者の生命を力の源とし、生命を補食することで際限なく増殖を繰り返す。
アンコクトンから直接NPCを魂喰いすることも可能。
【Weapon】
宝具「死の濁流(アンコクトン)」
【人物背景】
強姦殺人、連続放火、銀行強盗など数々の凶悪犯罪を起こした囚人「ゴトー・ボリス」。
死刑判決が下された直後、法廷内で神話級アーチニンジャ「ダイコク・ニンジャ」のソウルが憑依。
邪悪なるニンジャ「デスドレイン」として覚醒し、法廷に出席した人間を皆殺しにして逃走した。
極めて凶悪な殺人鬼であり、自らの欲望のままに刹那的な犯罪を繰り返す。
また凄まじい強運の持ち主で、窮地において幾度と無く生還している。
一方で幼稚な寂しがり屋の一面も持ち、イマジナリー・フレンドと会話をする癖がある。
そういった性格故か法廷からの逃走後は仲間を集めようとした。
ニンジャとしての能力はジツ特化型であり、身体能力こそ高いもののカラテの実力は皆無。
強大なニンジャ組織からの刺客を幾度と無く始末し、幹部クラスのニンジャとも互角に渡り合う等その実力は高い。
ノーカラテ・ノーニンジャの理念が基本とされるニンジャの中でも異色の存在。
【サーヴァントとしての願い】
欲望の赴くまま。いまはスイムスイムと身体を好きなだけ抱ける関係になるたい。
【マスター】
スイムスイム@魔法少女育成計画
【人物背景】
本名、坂凪綾名。N市で魔法少女スイムスイムとして活動する七歳の女の子。
魔法少女としての指導役だったルーラに心酔しており、彼女の言葉を教えを全て覚え従っている。
【能力・技能】
魔法少女スイムスイムに変身できる。
魔法少女は皆容姿が可愛らしく常人を超えた身体能力や五感を持ち、精神力も強化される。
通常の毒物なども効かず、食事や排泄なども必要なくなる。また魔法少女それぞれに固有の魔法も持っている。
「どんなものにも水みたいに潜れるよ」
スイムスイム固有の魔法。
物体を透過し、その中を泳ぐことができる。敵の攻撃などをすり抜けることも可能。
触りたい物があれば任意でその物体にだけ触ることもできる。
音や光などは透過できない。
最終更新:2018年05月09日 22:10