エンリコ・プッチ神父は今、攻撃されていた。
 右から迫る凶手。剛力と遠心力を乗せたその手は人間がまともに受ければ骨を砕き、肉を潰す一撃だ。
 しかし、プッチ神父はまともな───この場合は、無力と言う意味の───人間じゃない。彼の背後から伸びた手がその凶手を掴んだ。
 スタンド『ホワイト・スネイク』。端的に表現すれば彼の守護霊であり、彼自身である。

「ふむ」

 続く片腕の攻撃も掴み、その腕を観察する。
 それはゴム質の白い手だった。形状は人間の手をしているが、それが柔軟に変形し、槍にも刃にもなることを知っている。
 そしてこの手の持ち主はというと更に異形。手と同じ材質であるのは勿論、その顔は黒い点が点在するだけの怪物である。

「これがホムンクルスというものか。これが君の作れる最高の兵士か『キャスター』
 だとするととんだ期待外れだが」

 プッチ神父が目線を移した先には椅子に座った老人が居た。
 その黄金の目がプッチ神父を映している。自身の駒を見下されたにも関わらず、その表情には怒りや、申し訳なさといったものは一切浮かんでいない。全くの無感だった。
 部屋が暗いせいかその表情がより冷たく、より人外めいて見えた。

「もう少し強いものが必要か、ならば更に人間を調達して賢者の石を生成せねばなるまい」
「あまり目立ちたくはないが、仕方ない。この試練に打ち勝つのであれば、犠牲は当然必要となる」

 その発言にキャスター……『フラスコの中の小人』あるいは『お父様』と呼ばれた存在は鼻で笑う。
 かつて自分の力に縋ろうとした人間共と全く同じ言葉でありながら、全く意味が異なるからだ。
 他者を犠牲にして自分達だけが恩恵を授かるのではなく、他者に恩恵を授けるためにあらゆるものを犠牲にする。
 世が世ならば聖人と言われるだろうが、今の世では悪と言っていいだろう。
 そもそも人殺しを忌避せず自ら行う時点であの愚民達とは精神的にも能力的にも一線を画している。

「マスター。お前は神を信じているか?」

「主は存在し、我々に試練を授けてくれる」

「ならば、神の領域に手を伸ばすお前の行為は神への不敬とならないか?」

「主がそう思われるのであれば必ず私は滅ぼされるだろう。
 だが、主がそう思われないのであれば私は天国へと至るだろう」

 キャスターはそうかそうかとうなずいて───



「ならば神に滅ぼされた私は不敬を働いた愚か者と貴様はいうのだな?」

 瞬間、暗い室内に極寒の殺意が埋め尽くし、エンリコ・プッチの周囲から剣山の如く刃が生えた。
 その錬成速度は超高速かつ無詠唱、無拍子。スタンド使いとはいえ、生身の人間であるプッチ神父は反応すらできないだろう。
 キャスターが頬を突きながら目で「どうなのだ?」と問いかける。回答次第ではその剣山がプッチ神父の全身へと突き刺さることは想像に容易い。
 ホワイトスネイクはキャスターが作ったホムンクルスを抑えていて動けない。
 一度止まった刃は木が枝を伸ばすように刃はゆっくりとプッチへと伸びてくる。
 薄氷の上を歩くような状況でプッチ神父は。



「そうだ」



 迷いなき即答。そして同時に剣山の一本に自らの首を突き立てた。
 キャスターが目を見開く。
 まさかの自殺───かと思ったその時、口から血を吹きながらプッチ神父はキャスターを睨み付けた。

「あと1ミリ、少しずれていれば頸動脈を切って私は死んでいただろう。
 だが、私は生きている。
 これは『啓示』だ。私は此処で死すべきではないという主の導きであり、お前の問いに対する答えの証明だ」

 首を引き抜き、出血を抑えながらはっきりと言う。

「私は勝つのではない。ただ到達するのだッ! 『天国』へとなッ!!」

 その清廉なる異端宣言にキャスターは僅かに笑みを浮かべる。
 生前もこのような人類への愛のあまりに異端へと堕ちた錬金術師を知るが故に。
 なるほど、異端ならば人間風情に協力してやるのもやぶさかではない。よくよく考えればフラスコをサーヴァントの器に置き換えると懐かしい光景を思い出すではないか。

「────よかろう。ならば天国への門は私が開いてやる」

 そう言って安楽椅子から立ち上がると作り出したホムンクルスを手で貫いた。
 ホムンクルスは声を上げることもなく、まるで蝋燭が溶けるように液状化してキャスターの爪先から吸われていった。

「そのスタンド『ホワイトスネイク』の能力は血の紋を刻むのも、賢者の石の材料となる人間を調達するのにも向いている。
 協力してもらうぞマスター。我々は神の領域へと辿り着くのだ」

 厳かに言葉を告げるキャスターの姿は賢者か、王族、或いは神官か。
 ある種の王気と神性を帯びながら、しかしその実情はまるで反対の怪物。そしてそれはプッチ神父も同じ。

「ああ、協力してもらおうキャスター」

 このようにして二人の誓いは結ばれた。
 場所は廃ホテルの寂れた教会。魂を抜かれた死体が積み上げられた聖域の中のことである。
 この時、既にキャスターの賢者の石の生成に使われた生者(NPC)の数は十人を超えていた。
 そして聖杯戦争が続く限り増え続けるだろう。


【サーヴァント】
【クラス】
キャスター

【出典】
鋼の錬金術師

【真名】
"お父様" または フラスコの中の小人(ホムンクルス)

【属性】
秩序・悪

【パラメーター】
筋力:D 耐久:D 敏捷:E 魔力:A+ 幸運:A 宝具:A

【クラススキル】
陣地作成:A++
 魔術師として、自らに有利な陣地を作り上げる。
 お父様の場合は、『錬成陣』であり、最大で国家規模まで構築可能。
 ただし宝具に利用する場合は、陣の外周部の必要な箇所に『流血』が必要。

道具作成:EX
 魔力を帯びた道具を生成する。
 錬金術を伝えた伝説の賢者であり国家そのものを形成した逸話を持つ彼はEXランクで習得している。
 賢者の石と呼ばれる人間の魂を利用した特殊な結晶、高度な判断力と疑似的な不死、更には錬金術由来の特殊能力を兼ね揃えたホムンクルス等々の作成が可能。

【保有スキル】
賢者の石:A
 自ら生成した強力な魔力集積結晶───ないしフォトニック結晶を操る技術。
 ランクは精製の度合いによって大きく変動する。
 ランク次第でさまざまな効果を発揮するが、Aランクともなれば疑似的な不死を任意の対象へもたらすことも可能。
 オシリスの砂と同様にお父様は人の魂を利用する事で賢者の石を生成し、それを魔力源として多くの事象を発生させる。

錬金術:EX
 錬金術師として実力を表すスキル。ランクが高いほど高速錬成が可能
 物理現象を超越したものすら錬成するキャスターのランクは真っ当な錬金術ではないという意味でEXランク。本来ならばA++ランク。
 ホムンクルスの始祖であるキャスターは材料さえあれば詠唱や錬成陣すら不要となる。

千里眼:D
 千里眼としてのランクは低く、遠くを見通せるものではない。
 ただし、目の前の人間の欲望や真理を見抜き、自分本位の結末へと誘導する。

鋼の大地:A
 錬金術による意図的な自然への介入。
 大地に自身を構成する賢者の石のエネルギーを流して細工をする事で自然からのバックアップを遮断する。また、『鋼の大地』と化した箇所は自身の存在が及ぶこととなる。
(エネルギーを流し込んだ場所の音を聞いたり見たりすることが可能になると同時に、大地に細工していることが気配を通して察知される)
 ただし自然の化身である精霊や神霊、ガイアの化身であればごり押しでこのスキルを無効化する。
 また錬丹術のような精霊から直接力を貰う術式にも通じないため、エルキドゥのように自然から直接力を与えられる者くらいしか影響をうけない。


【宝具】
『獅子、太陽を喰らう』(ゲート・オブ・クセルクセス)
 ランク:C 種別:対国宝具 レンジ:作成した陣地全て 最大捕捉:約100万人
 陣地作成内の全ての生命を捧げて莫大な数の賢者の石を生成する。
 全ての人間は分解され、賢者の石となって人の中心にいる人物へと圧縮される。
 もしもサーヴァントのフレーム以上の賢者の石が生成された場合は余剰分の石が排出される。

『天の瞳、地の扉』(ゲート・オブ・アメストリス)
 ランク:A++ 種別:対国宝具 レンジ:作成した陣地全て 最大捕捉:約5000万人
 賢者の石の形成までは『獅子、太陽を喰らう』と同じであるが、生成した賢者の石の莫大な魔力を使用し『星』と接続する。
 これにより自身を疑似的な星の触覚へと昇格させ、生成した賢者の石が無くなるまでの間、あらゆる空想具現化を可能とする。

『七つの大罪』(シン・ホムンクルス)
 ランク:A 種別:- レンジ:- 最大捕捉:-
 七つの大罪を分離してサーヴァントクラスのホムンクルスを生み出す宝具。
 しかし『お父様』は全ての大罪ホムンクルスを分離した姿での現界なのでこの宝具は使えない。

【weapon】
なし:
 ノーモーションであらゆる武器を生成・射出できるため不要。

【人物背景】
鋼の錬金術師より登場。全ての黒幕。
かつてクセルクセスという国でホーエンハイム少年の血と錬金術で偶発的に誕生したホムンクルス。
フラスコの中でしか生きられない彼は次第に外界へ出たいと思うようになり、クセルクセス王の不老不死計画を歪めてクセルクセス国民全員を賢者の石へと変換した。
その際に肉体も人体錬成で構築し、成人のホーエンハイムと瓜二つの肉体を獲得して西のアメストリス国へと渡る。(ホーエンハイムは東へと渡った)
アメストリス国でも同じように国民全員を賢者の石に変換。今度は神の領域へと至ろうとしたところでホーエンハイムとその息子達に妨害される。
血を分けた家族に破れ、生まれた場所へと戻され、この世から排除された。
神曰く「盗賊」。彼は何かを為す方法ホーエンハイムとその息子達を見ていながら理解できなかった。

本聖杯戦争においては七つの大罪を抽出した姿であるため一部の宝具が封印されている。
また原作では賢者の石により半ば不死身であるが、キャスターとして現界した今は純粋なエーテルの肉体を保持している。

【サーヴァントとしての願い】
天国へと至り、神を知る。


【マスター】
エンリコ・プッチ

【マスターとしての願い】
天国へ至る

【weapon】
なし

【能力・技能】
スタンド:ホワイトスネイク
 【破壊力 - A / スピード - A / 射程距離 - ? / 持続力 - A / 精密動作性 - ? / 成長性 - ?】
 触れた対象の記憶・精神・或いは感覚などをDISCへと封じ込める能力。
 DISCを植え付けて、NPCに特定の命令を実行させたり、記憶を植え付ける。
 またDISCを読み取ることも可能で、直接触りながら相手に見ている者を語らせるなど尋問が可能。

【人物背景】
 ジョジョの奇妙な冒険 6部 ストーンオーシャンを参照。

【方針】
血の紋を刻み、賢者の石を生成し、そして『天国への扉』を開く。
最終更新:2018年05月10日 14:40