斜凛──────。闇へ響く。




 世   仰   下   紅   今   春    ♪♪~~
 は   ぎ   に   い   朝   の  
 泡   嗅   往   仇   も   都  
 沫   ぎ   く   花   今   に    ♪♪~~
 の   て   者   咲   朝   ゃ  
 詠   は       き   と
 を           乱   て
 よ           れ
 む    ♪♪~~

 街灯の僅かな灯。
 路傍のアスファルトにしゃがみこんで三味線を流す──────女がいた。
 よく通る声で撥を弾く女のその容顔《かんばせ》は白い肌。涼しげな目元にすっとした鼻梁。口角の上がった唇。
 チャイナドレスを連想させる艶美なその扮装《いでたち》。

                          べんっ……!

 床    流    見    浮    引    鼠
 屋    れ    ろ    世    く    小
 の    行    や    騒    手    僧
 彦    く    隅    が    あ    の
 一    の    田    す    ま
 で    は    を    相    ね
 ね              死    く
 ェ              に
 か              の

 若さに似合わぬ堅実かつ老練、その様を一体いかな麗句で云い遂せるだろう?

                                   べんっ……


 こ 蟹  連   小   さ   咲   花    人
 れ に  れ   指   れ   け   へ    目
 も つ  は   結   ば   よ   誓    憚
 愛 つ  長   べ   輪   桜   い    る
 で か  者   ど   廻   よ   ぞ    想
 も れ  の   逝   も   我   云    い
 │ 烏  二   く   影   等   い    人
 │ に  番   の   を   を   刻    ら
 │ 踏  妻   は   成   糧   む    は
 │ ま      一   す   に
   れ      人



『浮かばぁれぇぬぅ……』

                                  べべんっ……!



 風が通り抜けると、しんと静まり返った──────。
 風に吹き払われたような通りにはいつになく人影はなく、何の雑音にも汚れてはいない。
 あまりに静かな春の夜更けである。

 そして静寂は破られた。

 パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチ。

 一人の少女が拍手をした。聴き手は己が主ただ一人だけだった。
 ランサーは首を撫でながらぽつりと述べた。

『……有り難う。藤乃ちゃん……』

 少しだけ恥ずかしそうの微笑む。
 しかし、いつみても彼女は昏い眼だ。そこに光が宿ることは一度もないのだろうか。
 目尻を下げてニコリとして云うと、槍の英霊“己橘槇絵”は荒織利を深く引きかぶった。

「お上手です。とっても」

 石段に腰掛けていた一人の白杖をついた黒い制服の女の子。
 前髪を切り揃えた長く黒いのロングストレート。左右対象のシンメトリー。
 お人形のように大人しいく優しげな印象は一目で良家のお嬢様を連想させる身形だった。

『ははは、緊張しちゃった。こういうの本当に久しぶりで────』

 軽い咳払いとともに我藍ッと音が鳴った。槇絵の手から三味線が滑り落ちる音だった。
 痰が絡まったのか、咳がなかなか止まらなかった。

「槇絵さん……?」

 浅上藤乃は少し眉を寄せた。
 血のような臭いが鼻腔を掠めた気がした……が、一瞬だった。
 浅上藤乃は特に咎めようとは思わなかった。その代わりにこう言った。

「今夜はもう帰りましょう、槇絵さん。アテは外れました」

 浅上は虚空を見上げ、眼を眇める。

「一体何処に居るのでしょう──────“殺人鬼”は」




◇◇◇◇


 風に攫われて桜の花弁が地に落ちる。
 花は散ると、やがてジメジメした梅雨がやって来る。
 この分だと数日のうちに、桜木は新緑に変貌を遂げるだろう。
 花弁で隙間なく敷き詰められたら真白な住還。
 白い花弁は濡れた地面に触れるとそこから徐々に黒ずんでゆく……。

 ────可蘭ッ

 下駄がそれを踏み躙ると花弁は真黒な泥屑へと変わり儚く消えた。

                        ────可蘭ッ



 ──────私の胸の内は、寂しさで埋まっている。

                ────可蘭ッ
 ──────この現の空の高さ。春の風。踏みしめる地面。なんだか全てが淡い夢みたい。

                    ────可蘭ッ
 ──────“あの頃”に有ったものと比べながら、私は得心しかけたが、

             ──────可蘭ッ 
 ──────“私”の心にはまだ春も訪れてはいない。

                  ──────カッ……

『私は一体……影久様……』

 掠れた白い息を洩らし、泣くように呟いた。
 寂しさはどこかへ消えた。その代わりに迷いが増えた。
 これから一体どうやって道を進めばいいのか解らなかった。




 ──────苦界にしか棲めなかったこの獣《わたし》に一体何ができようと云うのだ?


◇◇◇◇◇


【出典】無限の住人
【SAESS】 ランサー
【性別】女性
【真名】乙橘槇絵(おとのたちばなまきえ)
【属性】中立・悪
【ステータス】
筋力C 耐久C 敏捷A++
魔力E 幸運E 宝具なし

【クラス別スキル】
対魔力:E-
三騎士最低ランク。

陣地作成:C+
乙橘槇絵の刃圏と周囲に畏怖を撒き散らす。

【保有スキル】
心眼(偽):A+
直感・第六感による危険回避。
天性の才能による危険予知。
一瞬たりとも止まらない敏捷性。

人斬り:A++
全てを尽く斬り斃してきた剣士。
対人ダメージの向上。
彼女の一太刀でサーヴァントの身体は真っ二つになる。

病弱:B
虚弱体質。槇絵の場合、生前の労咳を患っている。
戦闘中の急激なステータス低下・活動停止。
彼女の場合は肉体より精神面だ。

単独行動:A
マスターなしで一週間以上現界できる。
根暗な引きこもり体質。

【宝具】
『逸刀流』
ランク:なし 

 逸刀流とは──────

 一、謝礼を求めず

 二、乞われなければ剣を教えず

 三、形も奥義もない


 それは数多の斗いを誰の教えなく──────。

       嗅覚ひとつで勝ち続けた──────。

              その積み上げたものの名だ──────。


【 weapon 】
  • “春翁”
はるのおきな。
両端は槍となっている全長二,五メートルの三節槍。普段は三味線の中に収納している。
おそらく琉球や中国からの舶来品を改造したと思われる代物。

【人物背景】
原作・無限の住人『最強の剣客』。
十歳の時に無天一流の次期統主と目されていた兄を剣術で破ってしまい、その兄を切腹に追い込んだことで母親と共に家から絶縁された。
その後、遊女に身をやつしていたところを天津影久に身請けされ、彼と連れ添う。
人を斬り殺すことに迷いながらもその尽くを屠る。
六鬼団の追撃の折、銃撃を受けると彼に船へ担ぎこまれるも既にこときれていた。

【サーヴァントとしての願い】
無し。現在は殺人鬼探しを手伝っている。


【出展】空の境界
【マスター】浅上藤乃
【人物背景】
『死に接触して快楽する存在不適合者』だった。
出自は退魔四家の一つである長野の名家・浅神家。
温和で受け身な性格だが、一度たがが外れると自分では止まれない潜在的な加虐性質。
参戦時期は“痛覚残留”後。
人知れずに世直ししてます。

【能力・技能】 
  • 歪曲の魔眼
能力は視界内の任意の場所に回転軸を作り、歪め、捻じり切る“サイコキネシス”。
右目は右回転、左目は左回転の回転軸を発生する。 彼女の能力は超能力であるものの、人為的に手が加えられているために魔術と超能力の間にある。
複雑なことはできないが、物の硬度・構造・規模を無視して問答無用で曲げられる。
作中、ブロードブリッジ崩落事故に巻き込まれて二月ほど入院し、視力も事故の際にほとんど失ったとされている。
しかし魔眼は尚健在で行使する際には対象を識別することもできるようだ。
未来福音では手に握ったカッターをピンポイントで曲げられるくらい精度が高く、行使にまったく支障はない。
そのため単純な力比べであれば『空の境界』中最高の性能といえよう。

【マスターとしての願い】
この斗いをちょっと捻る。
最終更新:2018年05月12日 21:54