天国。
死後の世界に存在すると言われている理想郷。
争いはなく、争いから派生するあらゆる災厄もまた存在しない。
訪れた者全てに『安心』と『祝福』が授けられると伝えられる彼方の世界。
そんな世界へ至ることができる魂とは、いったいどんなものであろうか。


―――少なくとも、俺や若葉が居れる場所じゃないんだろうな


そう、天国は善良で敬虔なる者以外は立ち入り禁止だ。
だから今呟きを漏らした男―――六星竜一の様な人間は入れない。
彼の魂は既にどうしようもない程、『呪われて』いるのだから。



――竜一、お前はあの村の奴らを殺すんだよ…お前は、その為に生まれてきたんだから…!



竜一の人生を一言で表すならば、『運命の奴隷』だった。
幼い頃から母親の復讐代理人として育て上げられ、人としての人生など彼には用意されていなかった。
極貧の暮らしの中、血塗られた技術を身に着ける事だけが彼の生きる糧だったのだ。
そして自分に代わる復讐者としての教育の仕上げとなる課題を、竜一の母は出した。
自分(実の母)を殺せという、親殺しを。
竜一はそれを達成し、人から人のコロロを持たない『七人目のミイラ』という怪物になった。


復讐は粛々と進んだ。
母を焼き殺そうとした村の連中を、一人を除いて残らず血祭りにあげた。
愛した女も、復讐に利用して葬った。
だが竜一にとって一度きりの誤算―――共に村を訪れた少年探偵に『罪』を暴かれ。
最後は『除いた一人』、実の父親に銃で蜂の巣にされて死亡した。
そうして、彼は『命』を『運』び、奪っていく『運命』の奴隷としてその生涯を終えた。
殺し以外に為せた事など何もなく、ただ一度きりの人生を無駄にして。

「なぁ…あんたはどうなんだ。アヴェンジャー?」

附属中学校も有する見滝原で最も著名な進学校、不動高校。
その放課後の教室で、虚ろな瞳をして竜一は問いを投げる。
視線の先には、一人の男が立っていた。

ハァ ハァ ハァ ハァ…

古ぼけたコートを着て、片手が義手の男。
肉食獣の様な鋭い双眸に、顔に走る刻印じみた傷跡が印象的だった。


「…『天国』なんて俺にはどうでもいい。俺は、吸血鬼を根絶やしにする為にここへ来た」


燃える様な復讐心と果てのない使命感を胸に、アヴェンジャーは答えた。
アヴェンジャーは多くの物を取りこぼしながら、吸血種を殺して殺して殺しぬいただけで英霊へと至った身だ。
今回もそれは変わらない。彼から家族を、故郷を、仲間を、夢を奪った者達への復讐心だけを胸に聖杯を目指す。


障害は全て叩き斬る。人々を救うために人を手にかけることも覚悟しよう。
人殺しの誹りも甘んじて受け入れ、目を背けはしない。
ただし例え百億の憎悪を向けられても、足を止めるつもりは毛頭ない。
迷いなど、兄を、師を、友誼を交わした仲間を斬った時に既に置いてきている。
決して揺らぐことない一ゆらの炎で胸を焦がし、アヴェンジャーは地獄の地平を進むのだ。


「……ふふ……はははは…」

アヴェンジャーの尽きることのない意志力の一端に触れて、竜一はおかしくなった。
この男を呼び出してからずっと疑問だった事が、たった今納得がいったのだ。
生前化け物を散々殺してきたらしい男。人類を救うのだという男。
全く大した英霊だと思う。
そんな大したサーヴァントが卑しくも殺人鬼である自分が呼べたのか。


きっと、この男も『殺し』以外の選択肢が用意されていない人生だったのだろう。
『命』を奪い『運ぶ』運命の奴隷。ただ尽きぬ復讐を果たすだけの装置。
自分と同じ『呪われた魂』だ。


「いいぜアヴェンジャー。どうせ殺ししか能がない俺達だ。
お前の『戦争』に一口乗ってやる。一緒に願いを叶えるとするか」


そう言って竜一は懐から一つの宝石を取り出す。
淡く、紅く、光るソウルジェム。若葉から渡された、今となっては形見となった一品。
彼の願いの。聖杯に賭ける願いの象徴。
アヴェンジャーの様に人類を救うだとか一つの種を滅ぼすだとか。
そんな大層なものではないけれど。
成し遂げた復讐の、一つきりの心残りを晴らす。



―――先生



本当に、大したことではない。
ただ天国に行けない、救われぬ魂の席を一つにするだけだ。
自分に騙され『共犯者』として手を汚し、最期は抵抗もせず絞殺されたバカな女。
その女の死を、罪を、無かった事にするだけだ。
自分にさえ関わらなければ、バカな女――時田若葉という少女はそれなりに幸せになっただろう。
そのまま真っ当に暮らせば、『天国』へいけるかもしれない。

いつだって怪物は、地獄の炎に焼かれながら、それでも天国に憧れる。



「…あぁ、俺達は必ず、聖杯へ辿り着く」



言葉とともに、涙さえ忘れてしまった二人の『流血鬼』は動き出す。
友情も親愛も、全て彼方へ置きざりにして駆け抜ける。
待ち受ける苦難と戦いと殺しの果てに、たとえ地獄に落ちるのだとしても。
―――果たして、彼らが行きつく未来は二度目の『運命の奴隷』として終端か。
それとも、目醒めたことで何か意味のあることを切り開いていく、『眠れる奴隷』の栄光か。


【真名】宮本明@彼岸島
【クラス】アヴェンジャー
【属性】中立・中庸

【パラメーター】
筋力A 耐久A+ 敏捷B 魔力E 幸運E 宝具C

【クラススキル】
復讐者:A
復讐者として人の恨みと怨念を一身に集める在り方。
周囲からの敵意を向けられやすくなるが、向けられた負の感情はアヴェンジャーの力に変わる。

忘却補正:B
人は多くを忘れる生き物だが、復讐者は決して忘れない。
忘却の彼方より襲い来るアヴェンジャーの攻撃はクリティカル効果を強化させる。

自己回復(魔力):D
全ての化け物への復讐が果たされるまでその魔力は延々と湧き続ける。魔力を微量ながら毎ターン回復する。

【保有スキル】
虚偽の英雄(偽):A
人々に祀り上げられ、しかし救い導く事はできず屍を積み上げ続けた英雄譚。
人在らざる者と相対する時、スキルを含めた全てのステータスが1ランク上昇する。
しかし、真っ当なる『人間』と相対する時、スキルを含めた全てのステータスが1ランク下降する。
家族を失い、仲間を失い、故郷を失い、想い人も失い続けた青年に遺されたのは、ただ人類最後の希望として死徒を狩り続ける血塗られた使命のみ。

戦闘続行:B
瀕死の傷でも戦闘を可能とし、決定的な致命傷を受けない限り生き延びる。

無窮の武練:B
死徒である吸血鬼数十人を一瞬で瞬殺し、その上位種である邪鬼すら討ち果たす卓抜した武練。
いかなる戦況下にあっても十全の戦闘能力を発揮できる。

【宝具】
『義手刀』
ランク:D+ 種別:対人宝具 レンジ:1~2 最大捕捉:1
アヴェンジャーがかつて友誼を結び、葬った吸血鬼が鍛えた義手に仕込まれた刀。
多くの怪物を切り伏せたことで怪物特攻の霊刀となっており、対象の硬度や大きさを無視した両断が可能。
物理法則を超越しその斬撃は相手を討つ。

『吸血殲鬼』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:1 最大捕捉:1
かつて吸血種を狩り続け、人類最後の希望として人々に讃えられたアヴェンジャーの生きざまが宝具となったもの。
近辺に存在する怪物に属する者の気配を察知し、精神干渉を完全に跳ね除ける。
加えてフィールドに存在するあらゆるもの(丸太、ロープ、ガソリン、車両etc…)に『退魔』の特攻概念を付与、装備する。
化け物が強力なほど、その化け物の被害者が多いほど、そしてその助けや討伐者を願う声が多いほど、アヴェンジャーは人間の限界を無限に更新し続け化け物を滅ぼす。

【weapon】
前述の義手刀。

【人物背景】
彼岸島にて吸血鬼と戦い続け、そして仲間を喪い続けてきた数奇な運命の青年。
奮戦虚しく遂に勝利できることは無く、吸血鬼の首領は日本を占領した。
そんな絶望の中でも彼は諦めず、意志だけを抱き、生き残りの人間に救世主と崇められながら吸血鬼の根絶を目指し戦う。
例え、嘗ての仲間を手にかけても。

【サーヴァントとしての願い】
吸血鬼を根絶やしにする。


【マスター】
六星竜一@金田一少年の事件簿 

【マスターとしての願い】

時田若葉の蘇生

【weapon】
なし。

【能力・技能】

殺人術
銃殺や絞殺、それにナイフでの刺殺などの様々な殺人術。

格闘術
警官二人を圧倒できるほどの格闘術。

演技力
1年近い間本性を隠し、冴えない教師を演じ続ける演技力。

【人物背景】

両親を殺され、更に自身も焼き殺されそうになった母親の復讐の為に殺人マシーンとして育てられた男。

性格は残忍で狡猾。人殺しをハエやゴキブリを殺すのと同じと言い、目的の為なら関係のない人間ですら容赦なく殺す。
その一方で、復讐のために近づき恋人となった少女を後に本当に愛してしまったり、その恋人を殺す際には涙を流すなどまるで心のない人間という訳ではない一面も見せる。
実の父親に銃で滅多打ちにされ、最期を迎えた。
最終更新:2018年05月14日 18:14