heartful
心温まる・心のこもった・ぬくもりを感じる
◆
己が聖杯戦争のマスターであると自覚した時、市原仁奈は恐怖と不安で涙を流した。
当然の反応である。
いつのまにか見知らぬ土地に連れて来られたばかりか、そこで開催される殺し合いに強制的に参加させられるという現実は、齢九歳の少女が受け止めるにはあまりに辛いものだ。
住んでる家が違い、周囲の人間関係が違う──世界が、違う。
そんな光ひとつ無い暗闇の中にいるかの如き孤独な状況において、仁奈が背負っているマスターとしての使命を相談できる相手はおろか、頼りに出来る相手など、存在し得ないのだ──たった一人を除いて。
「初めまして、マスター」
ベッドにうつ伏せになり、涙で枕を濡らしていた仁奈は、自分の耳に響いた挨拶の言葉に反応し、顔を上げた。
ベッドのそばには、いつのまにか一人の男が立っていた。
黒い外套に黒い手袋、頭全体を覆う黒い仮面。
黒、黒、黒、とまるで底が深い穴を覗けば眼に映る闇を人型に切り取ったかのような格好だ。唯一、そのファッションスタイルから外れているのは、胸元で白い輝きを放つ、人の手を模した笛だけである。
まるで妖怪やモンスターのような風体をしている不審極まりない男だ。
だが、その声は優しげであり、聞くものに安心感を与えるものであった。
男の姿を認めた瞬間、出かかった悲鳴を呑み込みながら、仁奈は悟る。
彼こそが、自分の元に召喚されたサーヴァントなのだと。
「まずは名乗らせていただきましょうか──私のクラスはアーチャー。真名はボンドルド」
黒い男──ボンドルドは、両腕を広げるポーズを取りながら、自己紹介を続けた。
「人からは『黎明卿』とも呼ばれています。好きな名で呼んでくださいね」
◆
数日後。
「おかえりなさいでごぜーます! アーチャー!」
偵察(フィールドワーク)に行っていたアーチャーが帰還したのを知った途端、トタトタというオノマトペを立てながら、仁奈は駆け出した。
アーチャーの仲間である『祈手』と呼ばれる集団の脚の隙間を器用に潜り抜けながら、仁奈はアーチャーの元に到着する。
「ただいま、ニナ。何か変な事はありませんでしたか?」
「なにもなかったですよ。普通にお留守番してたでやがります」
「そうですか、留守番お疲れさまです。ニナは偉いですね」
そんな労いの言葉をかけながら、ボンドルドは仁奈の頭をポンポンと撫でた。
頭を撫でて褒められる
普通の子供ならば、親から何度かやってもらっているはずの経験だが、家庭環境が少しばかり特殊な彼女にとっては、得難い貴重なものであった。
パパとママにだってされた事がない撫で撫でを味わいながら、仁奈は口を開く。
「そういうアーチャーは、街に出て何か見つけたですか?」
「貴重な情報が得られましたよ。『殺人鬼』に『キョウリュウ』、『時間泥棒』……これらは聖杯戦争の参加者によって起こされた事件と見ていいでしょう」
まだ戦争が始まって間もないというのにこれほどまでの騒ぎが起きるとは、みなさん元気ですね──と、ボンドルド。
彼の報告を耳にし、仁奈は少しばかり顔を曇らせた。
アーチャーとの出会いを経て聖杯戦争への不安が少しばかり軽減されたが、しかし完全になくなったわけではない。通常の魔術師に比べれば、まだ覚悟も決意も決まっていないのだ。
だが、目まぐるしく変化していく見滝原の状況は、仁奈を待ってはくれない。
彼方此方で暴力と、破壊と、死が発生しながら、街は魔戦の舞台へと着々と変化して行くのである──仁奈を置いてけぼりにして。
「──ですが」
見滝原で芽吹きつつある脅威について暫く語った後、ボンドルドは次のように言葉を続けた。
「ですが、安心してください。この工房(基地)がほとんど完成した今、私も十全の状態で戦争に挑めます。あなたを傷つけ、怖がらせるもの全てから、守ってみせますよ」
ボンドルドは弓兵(アーチャー)の召喚された身でありながら、魔術師(キャスター)並の陣地作成能力を有している。そういう理由があり、彼はここ数日間、フィールドワークと並行して、『祈手』達と共に陣地の作成に取り掛かっていた。
それこそが、今仁奈達がおり、アーチャーが便宜的に『前線基地(イドフロント)』と呼んでいる場所である。
魔術師でない仁奈には実際に居ても分からない事だが、彼ほどのサーヴァントが数日かけて作成したのだ。半端な陣地でない事は確かである。
頼りになるボンドルドのその姿に、仁奈は少しだけ安心した。
「アーチャー、初めて会った日に仁奈が言ったお願いを覚えているでやがりますか?」
「ええ、覚えてますよ。『元の世界に戻りたい』ですよね」
「もう一回……改めてお願いするでごぜーます。アーチャー、仁奈を元の世界に戻してくださいです」
「了解です、ニナ。大丈夫ですよ。あなたと私が一緒なら、そこに不可能などありません。必ずや聖杯に至れますよ」
そう告げるアーチャーの声音は、日の光のような暖かさに満ちていた。
彼の言葉を受け、仁奈は破顔する。
彼女の顔に、もう先程のような不安や恐怖の色は見られなかった。
◆
hurtful
苦痛を与える・痛ましい・痛手となる
◆
【クラス】
アーチャー
【真名】
ボンドルド@メイドインアビス
【属性】
混沌・善
【ステータス】
筋力- 敏捷- 耐久- 魔力B 幸運C 宝具EX(肉体ステータスはその時々の『ボンドルド』や『暁に至る天蓋』毎に異なる)
【クラススキル】
対魔力:D
呪いを肩代わりする肉がない限り、アーチャーのこのスキルのランクはこの程度である。
単独行動:E
アーチャーの探究は常に誰かの想いと共にある。
【保有スキル】
奈落の智慧:B+
奈落の奥深くに身を置くが故に得た数々の智慧と、アーチャー自身の類稀なる探究心によるもの。
ボンドルドのキャスター適性の高さも合わさる事で、Bランク相当の『道具作成』と『陣地作成』スキルが使用可能となる。
観察眼:C
研究者としての観察眼。
なお、人の心を観察する方面の技能は致命的に欠けている。
黎明の光:EX
高ランクの精神異常スキル。
イキモノの心に作用するありとあらゆる干渉を無効化する。
如何なる倫理も感情も道徳も、ボンドルドの憧れを止める障害となり得ない。
星の開拓者:EX
人類史においてターニングポイントになった英雄に与えられる特殊スキル。
あらゆる難航、難行が『不可能なまま』『実現可能な出来事』になる。
【宝具】
『暁に至る天蓋』
ランク:D~A+ 種別:対人・対軍宝具 レンジ:? 最大捕捉:?
探窟・戦闘向けの鎧。 パワードスーツ。
装備することでステータスと対魔力が上昇する。
遺物と生物由来の繊維を複雑に組んで作られ、様々な武装を内蔵する。その中でも、触れた物質を分解し消し飛ばす熱線を放つ『枢機に還す光(スパラグモス)』が特に代表的な武装であるため、彼はアーチャー適性を獲得した。
戦闘以外にも様々な機能のカスタマイズや調整が施されており、鎧によって性能や価値はバラバラ(それ故に宝具ランクは上記のようになっている)。
『精神隷属機(ゾアホリック)』
ランク:EX 種別:対人宝具 レンジ:- 最大捕捉:-
アーチャーの意識を他人へと植え付けることで『ボンドルド』を増やすことができる宝具。
意識を植え付けるのに成功した者は『祈手』と呼ばれ、『祈手』同士で互いに意識の共有が可能。 聖杯戦争の舞台にいる人間相手に使用した場合、その人物はボンドルドと同等の神秘(精神)と『単独行動:E』を獲得する。
つまり、奈落のアーチャー、ボンドルドを聖杯戦争の舞台から完全に退場させるには『祈手』を含めた全員を殺しつくす必要があり、この宝具があるため、ボンドルドは実質的な不死性を得ている。
なお、この宝具は魔力ではなく電力を消費して運用することが可能であり、そうした場合、マスターへの負担はほぼゼロである。
『黎明卿(ボンドルド)』
ランク:EX 種別:対界宝具 レンジ:- 最大捕捉:-
環境と伝統と生命を踏み躙ることで奈落の探究を飛躍的に進め、人類の発展に多大な貢献を成し、また研究の過程で様々な遺物を所有したボンドルドの偉業が昇華された宝具。
ボンドルドは人類の切り札である探窟家『白笛』である。
固有結界や異界など、この世の法則から外れた不可思議な現象と遭遇した際、有利な補正を得られ、幸運ランクにプラス値が2つ振られる。
また、探究の成功により得られたものであれば、たとえ他サーヴァントの宝具であろうとも、物体としての形を持っている限り、使いこなせるかどうかは別として、己の宝具として使用・改造することが可能。
条件さえ揃えば歴史的な大英雄の誇りである宝具すらも振るい、改造を施せるボンドルドは、まさに人理の冒涜者にして冒険者と言えるだろう。
『夜明けの花(プルシュカ)』
ランク:- 種別:- レンジ:- 最大捕捉:-
アーチャーの娘と名前を同じくするこの宝具は、実体どころか概念的効果すら持っていない。あってないような宝具である。
だが、彼女の意志は確かにアーチャーのそばにある。共に夜明けを見るために。
【人物背景】
人の世に夜明けを齎す者。故に二つ名は黎明卿、新しきボンドルド。
【備考】
見滝原の郊外に、工房を作成しています。
【サーヴァントとしての願い】
万能の願望器そのものの研究。それこそが、狂気の科学者ボンドルドの純粋な願いである。
【マスター】
市原仁奈@アイドルマスターシンデレラガールズ
【能力技能】
歌って踊れる着ぐるみアイドル
【人物背景】
9歳のアイドル少女。家庭環境に問題アリ。
【マスターとしての願い】
元の世界に帰りたい。
最終更新:2018年05月21日 13:21