『――次のニュースです。本日未明、××県見滝原市の繁華街で原因不明の集団昏倒事件が発生しました。
 発症者数は重軽症者あわせて百名以上と見られ、現地は混乱に陥っています』

『警察と消防の発表によりますと、有毒ガス等の有害物質は検出されていないとのことです』

『多数の昏倒者を収容した見滝原病院は、本日十二時頃に記者会見を開き、中毒症状やウィルス、細菌の影響を否定し、昏倒者は一様に過剰な疲労状態に近い症状を呈していたと発表しました』

『これを受け、見滝原市役所は声明を――』




    ◇  ◇  ◇




集団昏倒事件発生のまさに直前、繁華街の一画のとあるビルの屋上で、一騎のサーヴァントが召喚されていた。

身長は実に二メートル半。筋骨隆々の巨体は赤褐色に染め上げられ、腰にまで達する頭髪は蛍火色に輝いている。
その肉体が現実世界に形を成した瞬間、周囲一帯に存在するありとあらゆる生物から生命エネルギーが吸い上げられていった。

人々は倒れ膝を突き、鳥は地に落ち、路地裏の鼠までもがもがき苦しみ泡を吹く。
完全なる無差別。サーヴァントが行いうる魂食いが比較にならないほどに無慈悲な命の収奪。
被害がこの程度で済んでいるのは、夜の繁華街という生命あふれる環境だからこそ。
仮に一個人に収奪の作用が集中したとすれば、ほんの刹那のうちに命を奪われることになるだろう。

しかしながら――サーヴァントを召喚したマスターだけは、眉一つ動かすことなく、その怪物と対峙していた。

「キミがオレを喚んだマスターか」
「ええ、そうですよ。ガリィ・トゥーマーンと申します。以後お見知りおきを」

少女の形をした存在が優雅に一礼する。
関節が動くと同時に機械的機構が駆動する音が鳴り、血の通わぬ白い肌が月光に照らされる。
フリルで飾られたスカートの下から伸びた脚は、人形のそれと同じ球体関節で構成されていた。

「ところで、そちらのお名前と目的もお教え願えません? 召喚に応じたんならあるんでしょう? 戦うり・ゆ・う」
「……アヴェンジャーのサーヴァント、ヴィクター=パワード。オレの存在理由は錬金術に関わる全てを消し去ることだ。聖杯も、それを求める者も例外ではない。一つとして、一人として残さず破壊する」
「あらあらあら。要するに錬金術への復讐ってワケですか。ガリィ、聖杯欲しがってるヒト達が泣き出すジョーカー引き当てちゃったみたいです」

ガリィは無差別のエネルギードレインが吹き荒れる中、バレェの振り付けのような大仰な身振りでくるりと回った。
彼女がエネルギードレインの影響を受けていない理由は、決してマスターだからというわけではない。
このスキルはたとえマスターであろうと例外なく収奪の対象とし、死に至らしめうるのだから。

「なるほど、自動人形(オートマトン)か。生命エネルギーとは異なるエネルギーを動力源としていると見える」
「正確にはオートスコアラーですよ。ちなみにエネルギー源は精神エネルギーみたいなものなので、そのおかげで効いてないんでしょうねぇ。ところでコレ、流石にちょっと尋常じゃないんですけど、止められません?」
「エネルギードレインは能力ではなく生態。呼吸と同じようなものだ。霊体化すれば話は別だがな」
「……実体化してる限りは、止められても息止め程度ってことですか。はいはい分かりましたよ」

一瞬ガリィは顔を歪めたが、すぐに取り繕ったすまし顔に戻った。
アヴェンジャーはそんな表情の変化を気にする様子もなく、冷徹な態度のまま続けて口を開いた。

「マスターよ、一つ問う。キミの製造手段はどのようなものだ」
「あー、分かっちゃいました。錬金術の産物だって言ったらソッコーで壊すつもりなんですねぇ。仮にそうだとして、正直に答えると思います? 仮に違ったとして、正直に答えたら信じてもらえます? どっちも無理ですよねー?」

揶揄するような態度でガリィはそう言った。
しかしアヴェンジャーは眉一つ動かしはしなかった。

「どうやら先に目的を開示したことは誤りだったらしいな。確かにこれでは無意味な質問だ。問いかけは撤回する」
「あらま、意外と素直。ちなみに一途なガリィちゃんは、ご主人様のところに帰りたいだけなのであしからずぅ」
「真偽は戦いの中で見極める。必要があれば呼ぶといい。オレはしばし身を潜めることにしよう」

そう告げるが早いか、アヴェンジャーは実体化を解いて霊体になった。
肉体が物理的に消失したことを受け、無差別に続けられていたエネルギードレインも中断を迎える。
呼吸と同じ生態である以上、物理的実体がなくなれば影響を及ぼさなくなるのは明白だ。

「それじゃ、まったね~」

遠ざかっていくアヴェンジャーの気配に向けて、ガリィはひらひらと手を振り続けた。




    ◇  ◇  ◇




「チッ、大当たりかと思ったらド地雷じゃん。はー、最悪」

アヴェンジャーの気配が感じ取れなくなった途端、ガリィは吐き捨てるようにそう言った。
パラメータ、スキル、宝具。全てにおいて高水準。
ステータスをひと目見ただけで『当たり』と確信できるほどのスペックだった。

「復讐に狂った復讐鬼。これじゃ狂戦士の方がマシね。錬金術に親でも殺されたんでしょーか」

アヴェンジャーというクラス。錬金術に対する無差別な憎悪。
誰がどう見ても、そういう方向性の復讐者である。
そしてガリィもまた錬金術の産物。
先程はうまく誤魔化すことができたが、下手をすれば召喚直後に脳天を叩き割られていた可能性すらあった。

更に都合の悪いことに、アヴェンジャーは自力で魔力を回復できる二種のスキルと、ランクA+もの単独行動スキルを併せ持っていた。

通常のサーヴァントなら、マスターの殺害は消滅に直結する愚行である。
アーチャーの単独行動スキルにも限界があり、高ランクでもマスター不在なら魔力不足で宝具を十全に扱えない可能性がある。
だが、あのアヴェンジャーは違う。単独行動によって現界を維持し、自己回復とエネルギードレインによって十分な魔力を確保し続けることができるのだ。
即ち彼にとってマスターとは不要な存在であり――

「――おやぁ?」

そこまで考えたところで、ガリィはふとあることに思い至り、性根の腐った笑みを浮かべた。

「どうして私を壊さなかったんでしょうねぇ。錬金術の産物かもしれないモノに令呪を持たせておくくらいなら、疑わしきは罰するの精神でぶっ潰しちゃうのが一番いいハズなのに」 

こういう場合、理由はおおよそ決まっているものだ。

「よほどのお花畑ちゃんだったのか、それとも正義の味方気取りだったのか。まぁどっちでもいいんですけど、要するに余計な被害を出したくないってことですよねぇ。おやおや、何だかつけ込めそうな気配?」

無人の屋上で人ならぬ少女がプリマドンナのごとく軽やかに舞う。
バックグラウンドミュージックは緊急車両のサイレンのオーケストラ――


【CLASS】アヴェンジャー
【真名】ヴィクター=パワード
【出典】武装錬金
【性別】男
【身長・体重】250cm・200kg
【属性】混沌・善

【パラメータ】筋力A 耐久A 敏捷A 魔力C 幸運C 宝具A

【クラス別スキル】
復讐者:A
 復讐者として、人の恨みと怨念を一身に集める在り方がスキルとなったもの。
 周囲からの敵意を向けられやすくなるが、向けられた負の感情はただちにアヴェンジャーの力へと変わる。

忘却補正:A
 時がどれほど流れようとも、彼の憎悪は決して晴れない。
 過去の過ちを忘却する人間の在り方が憎悪を更に燃え上がらせる。

自己回復(魔力):A
 復讐が果たされるまでその魔力は延々と湧き続ける。
 エネルギードレインとの相乗効果により、運用可能なエネルギー総量は文字通り無尽蔵。

【固有スキル】
心眼(真):A
 窮地において自身の状況と敵の能力を冷静に把握し、その場で残された活路を導き出す戦闘論理。
 逆転の可能性が1%でもあるのなら、その作戦を実行に移せるチャンスを手繰り寄せられる。

錬金術:D
 魔術師ではないが、ホムンクルスの創造方法を伝授できる程度の知識を備えている。
 ただしこのホムンクルスとは、人体を乗っ取る形で創造される人喰いの怪物である。

エネルギードレイン:A
 周囲の生物から生命エネルギー(サーヴァントの場合は魔力)を無差別に吸収する。
 厳密には能力ではなく生態。自分の意志で完全に止めることはできない。
 マスターすらも被害から逃れることは叶わない――それが生物である限りは。

単独行動:A+
 マスター不在でも行動できる能力。
 一ヶ月もの間、月面で完全無補給活動を続けた強靭さが昇華されたスキル。
 エネルギードレインによる補給が万全であれば宝具の発動にも支障を来さない。

【宝具】
『大戦斧の武装錬金(フェイタルアトラクション)』
ランク:A 種別:対人宝具 レンジ:2~4 最大捕捉:1人
 "黒い核鉄"がアヴェンジャーの闘争本能に呼応して変形した大戦斧。
 重力操作の特性を持ち、重力の方向と強弱を自在に操作できる。
 瞬間的に小型ブラックホールを生成して攻撃の破壊力を高めるほか、
 天体の重力を局所的に反転させて対象を遥か上空へ打ち上げることも可能。
 ただし、これらの特性はアヴェンジャー本人には作用しない。

『第三の存在(ヴィクター=パワード)』
ランク:A 種別:対人(自身)宝具 レンジ:- 最大捕捉:1人
 常時強制発動宝具。"黒い核鉄"によって変異したアヴェンジャーの肉体そのもの。
 生態としてのエネルギードレインと飛行能力、瞬間的な再生能力を持ち、
 幸運を除く全パラメータがステータス表示から更に1ランクアップしているものとして扱われる。
 更にある程度の時間経過で変異が進行し、エネルギードレインがワンランク上昇、擬体生成能力を獲得する。
 次段階に変異して以降に、何らかの外的要因によって宝具が封印される場合、完全封印はできず前段階に逆行するに留まる。

【weapon】
『核鉄』『黒い核鉄』
 錬金術による戦術兵器研究の成果。手のひらサイズの六角形の金属。
 所有者の闘争本能の昂ぶりに応じて、それぞれの個性を反映した武器『武装錬金』に変形する。
 アヴェンジャーのそれは賢者の石精製実験の成果として生み出された『黒い核鉄』であり、かつて致命傷を負った際に心臓の代替として左胸に埋め込まれた。
 しかし、当時知られていなかった作用によって、アヴェンジャーは人間でもホムンクルスでもない第三の存在に変貌してしまうこととなる。

『擬体』
 生物の死骸を操って作り出される、全高五十~六十メートルの擬似的な肉体。
 擬体はアヴェンジャーが内部に収まることで自在に操作でき、本体同様の瞬間再生も可能。
 ただし武装錬金までは模倣されていないため、戦闘は徒手空拳。
 それに加えて口からエネルギーを放射して攻撃できる。

【人物背景】
漫画およびアニメ「武装錬金」のラスボス。
人喰いの怪物ホムンクルスの組織「超常選民同盟」が王として戴くべく復元を試みていた存在。
作中の他登場人物と比べてあまりにも次元が違う強さを持ち、負傷したのはまだ本調子ではない復元直後に主人公と初めて戦ったときのみ。

その正体は、百年前に錬金戦団(錬金術の管理とホムンクルスの討伐を目的とした組織)に所属していた最強の戦士。
決戦で致命傷を負い、治療のために開発中の"黒い核鉄"を移植されて第三の存在へと変貌した。
覚醒時に図らずも妻を含む多数の仲間を犠牲にしてしまい、裏切り者として追撃を受ける。
しかもまだ子供だった一人娘が全ての責任を負わされてホムンクルスに作り変えられ、父を殺すための討伐隊に組み込まれた。
これらの経緯から錬金戦団と錬金術を深く憎み、錬金術に関わる全てを地上から消し去ることを目的とするようになった。

最終的に、自らと同じ境遇であるはずの主人公の意志に感化される形で復讐を捨て、錬金戦団とも事実上の和解を果たす。
しかしアヴェンジャーのクラスで召喚されたことで「復讐者」としての側面が強調されており、それ以降の記憶はおぼろげにしか残っていない。

【聖杯にかける願い】
必要としない。錬金術に関わるものは全て葬り去る。
聖杯も、それを求める者も例外ではない。







【マスター名】 ガリィ・トゥーマーン
【出展】戦姫絶唱シンフォギアGX
【性別】外見的には女

【能力・技能】
水を操り、水流や氷を駆使した戦闘を行う。
汎用性が極めて高く、直接攻撃のみならず水に幻を映してダミーにしたり、足元を凍らせてスケートのように高速移動したりも可能。

オートスコアラーとしての標準能力として、バリアの生成や粘膜経由の「思い出」の吸収が可能。
更に吸収した「思い出」を他のオートスコアラーに分け与えることもできる。
「思い出」を吸われた人間は枯れ果てたようになり、髪も真っ白に変わり果ててしまう。

【人物背景】
錬金術師キャロル・マールス・ディーンハイムが作成した、四体の自動人形(オートスコアラー)の一体。
青を基調とした可憐な衣装を身にまとうが、その下のボディは人形そのもの。
本作における錬金術は「思い出」を共通のエネルギーリソースとしており、オートスコアラーも他者から搾取した「思い出」によって駆動する。

主であるキャロルからも「性根の腐ったガリィらしい」と称され、まさしくそのとおりの性格。
常に人を食ったような態度で振る舞い、上品な口調も慇懃無礼にしか聞こえない。
何気ない動作にバレエの振付のような動きを加える傾向にあり、本拠地での待機時もバレリーナを思わせるポーズで止まっている。
(他のオートスコアラーも、一体を除いて特定ジャンルのダンスの決めポーズを取っている。残り一体のポーズの元ネタはきゃりーぱみゅぱみゅ)

ちなみに、四体のオートスコアラーはそれぞれタロットの小アルカナをモチーフにしている。
ガリィが司るのは「聖杯」である。

【聖杯にかける願い】
願いはないが、持ち帰れそうなら持ち帰ってマスター(キャロル)に譲る。

【方針】
アヴェンジャーをうまく誘導して聖杯戦争を勝ち残り、元の世界に戻る。
最終更新:2018年05月21日 15:50