燃えていた。
  少し寝心地が悪くなってきたベッドも。
  小さい頃からお気に入りのぬいぐるみも。
  来るべき明日のために済ませておいた宿題も。
  今までのとりとめもない日常を綴ってきた日記帳も。
  少女の集めてきたささやかな幸せのすべてが燃えていた。

  少女が目を覚ました時、周囲は既に火の海だった。
  少女が状況を理解するよりも早く、火は扉を食い尽くし、真っ赤に染め上げてしまった。
  出口を塞がれ、周りからは火の手が迫ってきている。
  泣いても、叫んでも、返事が届くことはない。
  そのうちに煙が視界を埋め尽くし、床は火が這い回る。
  頭がくらくらし、新鮮な空気を求めて開いた口が熱に炙られ更に乾く。
  それでも叫び、助けを求め、そして来ない助けに心が折れていく。
  遂に壁を火が駆け上がり家具を飲み込み始める。たくさんの想い出の詰め込まれた本棚が燃え上がり、ぎしぎしと嫌な音を立て始める。

(誰か、助けて)

  声にならない願いは、炎に埋め尽くされ消えていく。
  そのはずだった。



  ―――歌が、聞こえたんだ。



  熱を孕んだ風に乗り、旋律が聞こえた。火の爆ぜる音に混ざって、聞いたことのない歌が届いた。
  力強くて、暖かくて、優しい、誰かのための歌。
  少女が最後に見たいと願った、太陽みたいな歌。
  歌声に揺れ、本棚が崩れ落ちる。炎の燃え移った本を少女に向かって吐き散らしながら倒れかかってくる。
  少女が諦めかけたその瞬間。どこからか、少女と本棚の間に煌めく『何か』が飛び込んできた。
  少女を押しつぶそうとした本棚を殴り飛ばし、『何か』は腰に携えた袋から武器を抜き放つ。
  それは、少女の常識には存在しない恐ろしい武器―――後で調べたところ、偃月刀というらしい―――だった。
  『何か』が偃月刀を振るえば、炎はまるではためくように偃月刀の軌道を追い踊る。火事の火よりも強い炎が、全ての本を急速に燃やしあげる。
  あわや少女を飲み込もうとした燃える本の山は、その一刀の元に全て瞬時に燃え尽きた。

「マスター!! ここッ!!」

  『何か』が『誰か』に声をかける。
  近づいてきていた歌声が、更に力強く響き渡る。
  歌声はぴたりと少女の部屋の前で止まり、そして。

「つらぬけえええええええええええええええッッ!!」

  少女を閉じ込めていた炎の壁を、一撃の元にぶち破った。
  黒煙が少し晴れ、『何か』と『誰か』の姿がぼんやりと見える。
  それは、輝くような美貌の、二人の少女に見えた。

「あなた、たち、は……」

  水分を失ってがらがらの声。
  でも、そんな声に、歌っていた少女は振り向き、ニッコリ笑ってくれた。太陽みたいな暖かさの笑みだった。

「私たち? 私たちは―――」

  崩れ落ちてくる瓦礫を、二人の少女が蹴散らしていく。

「通りすがりの、おせっかいやきなッ!」

  太陽の少女とは真逆の、雪みたいに白い少女(最初に入ってきてくれた方だ)が、再び懐から何かを取り出す。
  それは、炎にも負けない真っ赤な塗装の消火器。
  宙を舞う消火器に、太陽の少女が動きを合わせる。そっと手のひらを当て、叫ぶ。

「女の、子ぉぉぉぉおおおおおおおおおお!!!!」

  掌底の叩き込まれた消火器が背面から爆裂する。それが中国拳法の『発勁』という技術だということを、少女が知るよしもない。
  爆裂に従い、消火剤があたり一面の火に降り注ぐ。
  本来ならばそんな使い方で効果的な消火は出来ないはずなのに、火はすぐに勢いを失くし、三人の少女に道を譲った。
  太陽の少女が駆け出し、壁に向かって拳を叩き込む。人のものとは思えぬ力が、壁に大穴を穿つ。

「だからもう、大丈夫!」

  穿たれた壁の先に広がっていたのは、泣きたくなるほどいつもどおりの夜空だった。
  少女を取り囲む災厄は、遂に膝を折ったのだ。


  その後、少女が目覚めると、そこは病院の一室だった。
  手を握り泣く父母が言うには、放火だったというらしい。
  寝心地が少しだけ良い、それがとてもつらい病院のベッドで一人横になり考える。
  少女を助けてくれた二人の少女のことを。
  父母に聞いても何も分からなかった少女にとっての命の恩人のことを。
  そして、いつか聞いたことのあるウワサのことを。

―――

  アラもう聞いた? 誰から聞いた?
  ■■■■のそのウワサ

―――

  アラもう聞いた? 誰から聞いた?
  ■■■■■のそのウワサ

―――

  アラもう聞いた? 誰から聞いた?
  ■■■■■■■■のそのウワサ

―――

  二人の少女は、駆けていく。
  ウワサの数だけ立ち上る、怪しい煙と争い目掛けて。
  そして二人は手を伸ばす。
  失せ物捕り物探し人、地震雷家事育児。
  ウワサで揺れる全ての人の、『困った声』に駆けつけて、彼らのために力を振るう。

  少女たちもまた、ウワサの一部に溶けていく。
  怪しいウワサほどじゃないけど、こっそりひそひそ、小さな声で。
  表沙汰にはならないけれど。
  少しずつ、少しずつ。


―――


「良かったんですか?」

  夜風に花が揺れている。電灯の光が、頼りなさげにちらついている。
  夜の見滝原は、昼とは違った怪しさに満ちていた。ウワサに流れる様々な『何か』が起こりそうな、そんなひんやりとした怪しさに。

「何が?」

  怪しい空気の只中に、白雪みたいな少女が一人。太陽みたいな少女が一人。
  二人揃って、ウワサの一部。怪しいウワサほどは取り沙汰されない、『歌うって踊る魔法少女』と謳われるウワサの少女たち。
  サーヴァントである白雪みたいな少女は、マスターである太陽のような少女に問いかける。

「聖杯戦争に巻き込まれた以上、マスターが目立てばその分マスターを狙う人物は増えていく。
 そうなれば、マスターの命にも危機が及ぶと思いますけど」
「うーん、確かにそれは困るなぁ。私が狙われて、戦闘が起こって、それで大事になったりしたら意味ないもんね」

  ずれた答えにも、サーヴァントの少女の表情は変わらない。
  彼女も理解しているからだ。マスターである少女の持っている、自身と同じ性質を。

「でも、困っている人がいるなら……それでも私は助けに行くよ」

  向き合う瞳と瞳。そこに込められた信念に曇りはない。

「これをやめちゃったら、私は私じゃなくなっちゃう。
 私は立花響で、今まで積み上げてきたすべてが立花響で、そんな立花響が私なんだ。
 だったら私は、立花響らしくいく」

  マスターの少女―――立花響の根底。誰かを助けたいという強い願い。
  響は装甲を解いたばかりの手を握りしめ、己の内の熱を吐く。

「それに、この手は、誰かと繋ぐために、伸ばしていきたい」

  その言葉は、二人が出会った時から揺るがない。
  そしてこの『誰か』は、困った人だけを指すものではない。『他のマスターやサーヴァント』だって、彼女の『手をつなぎたい人々』に当然含まれている。
  呆れるほどに聖杯戦争には向いていない少女・立花響の願い。聖杯では絶対に叶えられない願い。
  誰かが聞けば馬鹿らしいと笑うだろう。お節介だと嫌がるだろう。理由も知らずにと憤慨するだろう。
  それでも、響はそんな願いを貫くために戦い、歌に想いを乗せ、誓いを貫き通してきた。
  彼女は変わらず歌い、そして戦う。誰かとその手を繋ぎ、いつかわかりあうために。

「そんな感じなので! これからも、私はこんなマスターだけど、よろしくね、えっと……バーサーカー?」

  バーサーカーと呼ばれた少女は、そんな命知らずな誓いに対し怒るでも笑うでも呆れるでもなくただ見つめ返す。
  その表情は、いつもの無表情とはまた違う……あえて形容するならば、まるで遠い昔に置いてきた夢の残骸に向けるような寂しげな表情だった。

「だったら、私はマスターに危険が及ばないよう、出来る限りサポートをします。
 だからマスターも、極力、命を危険に晒すようなことはないようにしてください」
「あ、あはは、気をつけまーす!」

  少女が二人、月を見上げた。
  きっとこれから先、見滝原には彼女たちの手には収まりきれない災禍が振りまかれる。
  彼女たちの手では拾いきれない戦火が広がっていく。
  それでも、少女たちの願いは変わらない。二人は一途に、願いに向けて走り続ける。
  もう誰かの手を握れない、誰かを助けるために武器を携えた少女。サーヴァント・バーサーカー。『魔法少女狩り』スノーホワイト。
  それでも誰かの手を握りたい、誰かと分かり合うために武器を手放した少女。マスター・立花響。
  共に胸に誓ったのは、『誰かを救いたい』という願い。


【クラス】
バーサーカー

【真名】
『魔法少女狩り』スノーホワイト@魔法少女育成計画シリーズ

【パラメーター】
筋力:C(B→A) 耐久:D(B→A) 敏捷:D(C→B) 魔力:B(A) 幸運:D(C++) 宝具:EX

【属性】
秩序・善

【クラススキル】
狂化:EX
正義と強さに固執し、国家や法に縛られることなく己の信念に従い続けた少女。
通常狂化スキルの影響を受けることはなく、逸話に頼らぬ戦闘も可能。
自身の狂化に関する逸話を開放することで耐久力に二段階、それ以外のパラメータに一段階の補正を得る。
相手に真名を看破された場合、その相手をレンジ内に捉えた瞬間自動で狂化の逸話が開放されてしまうデメリットが存在する。

【保有スキル】
魔法少女狩り:EX
一人の極悪人から少女に渡された呪い。彼女の逸話がスキルになったもの。
基本の性能は【魔法少女:A】と同等。身体能力の向上や毒物耐性などを持っている。
魔法少女と違う点は彼女が『魔法やそれに近い技術を使う者』を敵に回した場合、Aランクの【仕切り直し】と【戦闘続行】【単独行動】、幸運値に大きな補正を得るという点。
更にその『魔法やそれに近い技術を使う者』が『少女』の場合、筋力耐久敏捷も上昇し、対魔法少女特攻状態になり更にステータスが向上する。

クラムベリーの子供:C
魔法少女として殺し合いを生き抜いた証。
クラムベリーの子供は全員『強さへの飽くなき飢餓感』を有しており、このスキルが彼女の狂化の根本と言えるだろう。

困った人の心の声が聞こえるよ:A
周囲にいる人物の思考を限定的に読むことができる。
『知られたら困る』ことをすばやく聞き、相手の攻撃を先読みすることも可能となる。
ただし、同ランク以上の『心を閉ざす能力』に対してはこのスキルは通用しない。

軍略:D
相手の弱点を先読みすることで組み上げられる先手打ちの妙手の山。
読心を利用した戦闘の数々によって得た後天的な才能。
自身の戦闘効率の向上の他、大局を動かす軍略を用いる場合味方の性能を底上げすることが出来る。

不殺:EX
決して誰かを失わぬように戦う者。
バーサーカーは、たとえ悪人であっても生きている者を殺すことは出来ない。

【宝具】
『夢と希望を守る正しい魔法少女(スノーホワイト)』
ランク:EX 種別:― レンジ:― 最大捕捉:―
彼女に押し付けられたいくつもの理想。その残骸。彼女を縛る呪いの半分。
この宝具がある限り、スノーホワイトは自身の生き方を曲げることは出来ない。
そしてこの宝具に対して強い矛盾を抱えた場合、バーサーカーは顕現し続けることが不可能になる。


『我は一人、闇の荒野へ挑む者。悪の野望を挫く者(スノーホワイト)』
ランク:C 種別:対軍 レンジ:1-30 最大捕捉:54
彼女に押し付けられたいくつもの理想。その残骸。彼女を縛る呪いの半分。
彼女がその生涯を賭して築き上げてきた『魔法少女』としての、『魔法少女狩り』としての姿。
この逸話を開放することでステータス向上の他にいくつもの恩恵を受ける。
  • レンジ内に存在している悪属性、あるいは敵性人物の攻撃すべてを察知し、必中の攻撃も回避が可能となる。
  • レンジ内における宝具・スキル・魔術・その他一切の特殊攻撃の発動に対して必ず先手を打つことが可能となる。
  • この宝具発動中にサーヴァントに対し勝利判定を得た場合、相手を殺すことなく英霊の座に返すことが可能となる。

ただしこの宝具を長時間発動し続けた場合、上記宝具『夢と希望を守る正しい魔法少女』の逸話との矛盾により正当な英霊としての存在を保てなくなり最後には消滅してしまう。


『月下に誓いし忠誠の剣(エクステンドカリバー・ラ・ピュセル)』
ランク:― 種別:― レンジ:― 最大捕捉:―
『魔法少女狩り』となった彼女の前には二度と現れてくれない過ぎし日の残骸。
スノーホワイトが歴史に残された英霊・スノーホワイトである以上絶対に効果を発揮することのないブランク。
それでも、スノーホワイトを護ると誓った彼の想いは、きっと失われることはない。

【weapon】
  • ルーラ
魔法の人切り包丁と表現される武器。薙刀のように長い柄に出刃包丁をそのまま大きくしたような刃が付いている。
魔法の国製の武器で切れ味鋭く、『どんな衝撃でも壊れない』ものである。

  • 四次元袋
様々なものを収納可能な不思議な袋。容量制限はない。
マスター・サーヴァントを別個で閉じ込めることに成功すれば魔力の供給をカットすることが可能。

  • 魔法の消火器
四次元袋にしまってある何の変哲もないはずの消火器だが、何故か魔法のアイテムとして神秘が付与されている。
炎に対して強い効果を発揮し、たとえ強い魔力の篭った炎であっても確実に鎮火出来る。

  • 魔法の偃月刀
プリンセス・インフェルノの遺した魔法の偃月刀。魔法の武器としての高い切れ味・炎に対して高い耐性を持つ。
更に、炎の魔法が込められているため魔力に応じて火炎を生み出し、操ることが出来る。

  • 兎の足
赤みがかった白兎の足。窮地に限り幸運値に補正がかかる。

【人物背景】
誰かの手を掴みつづけることは出来なかった少女。

『一人のかわいらしい少女が中東の政府を一つ潰した』。
国家規模の都市伝説として語られている救世主の正体は、自身の正義感を曲げぬ頭の固い魔法少女。
魔法の国に背き続けながら戦い続けるその姿は、かの国では狂人として多くの人に知られていた。

なお、彼女は逸話における『魔法少女狩り』として呼び出されているため、姫河小雪の姿を取ることは出来ない。
基礎ステータスについても『魔法少女狩り』という名に対する魔法の国が抱えた畏怖の念によって押し上げられている。
本来のスノーホワイトとしてのスペックは歴戦の英霊と比べれば大きく劣るだろう。


【マスター】
立花響@戦姫絶唱シンフォギアシリーズ

【マスターとしての願い】
誰かの手を取り、護りたい。

【能力・技能】
第三号聖遺物ガングニール。
誰かの手を掴むことの出来る力。神殺しの槍。立花響のシンフォギア。
通常はペンダントの形をしており、聖詠を口にすることでギアと呼ばれる装甲を身にまとうことが出来る。
さらに時系列の関係から魔剣ダインスレイヴの力を繰り、イグナイトモジュールを使用することができる。
ただし、見滝原にはS.O.N.Gがないのでバックアップは期待できない。

中国拳法。
ハンチモー。常人離れした身体能力の持ち主。師である風鳴弦十郎ほどの練度ではないが、素の身体能力で彼女を上回れる人間は少ないだろう。

浄罪。
人の背負う罪を雪がれた証。世界で最もカストディアンに近づいた人間。神の器へと近づく人。

【人物背景】
それでも、手を掴みたいと願った少女。
誰かを救うことに対して強い強迫観念を持っている少女。「へいき、へっちゃら」が口癖。
時系列は戦姫絶唱シンフォギアGX終了後。AXZ開始前。

【方針】
困っている人が居たら助ける。
少女たちにとって聖杯戦争でもそれは変わらない。
最終更新:2018年05月24日 14:53