転校生はアイドル級の美少女!

今日一日、見滝原高校はその話題で持ちきりだった。
男子はひと目見ようとひっきりなしに教室へ押しかけて、女子も大盛り上がりで噂を語り合う。
教師が制止しても全く意味がなく、授業が授業にならないときすらあるほどだった。

緩くウェーブの掛かったディープブラウンの髪を二つに括り、愛らしい顔立ちに華のような笑顔。
間違いなく美少女と呼ぶに相応しい容姿に加え、男子達は声を聞くだけで蕩けさせられる。
そして何よりも、自身の魅力を隠しもしない大胆な振る舞いが、生徒達の視線を引いて止まなかった。

「やっほー! 皆みてるぅー?」

まるで見られることが快感だと言わんばかりに笑みを振りまく転校生。
しかもただ注目を集めるだけではない。
転校初日だというのに、彼女は何一つ物怖じすることなくクラスメイトに話しかけていた。

「ねぇねぇ! 何か面白い噂とか聞かせてよ!」

転校生、久慈川りせ。
金色の瞳の転校生の噂は、クラスの垣根を超えて学校中に広まっていた。








高校では転校生の噂が流行していたが、世間ではもう一つ別の噂が広まっていた。

――美少年が経営する私立探偵事務所。

普通の人は探偵事務所などに頼ることなど滅多にないが、それでも頻繁に聞き込みをしているクールな少年の姿はよく印象に残るものだ。
彼が一体どんな仕事を請け負っているのかは誰も知らない。
聞き込みの内容も意図がよく分からないものが多く、それゆえにミステリアスな存在として噂の的になっていた。

その屋号は白鐘探偵事務所。唯一の所員にして所長の名は白鐘直斗。
そして今、学校を騒がす噂の転校生が、噂の探偵事務所の扉を開けた。

「ただいまぁー」
「おかえりなさい、アルターエゴ。学校では指示通りにやれましたか?」
「むり、きらい、しんどすぎ。ちょーっと愛想振りまいてやっただけでヘラヘラしちゃって馬鹿じゃないの? ていうかこんなコトして意味あるわけ?」
「シャドウの君に説明して意味があるとは思えませんね」

シャドウ――目を逸らしていた自分自身の一側面が暴走したもうひとりの自分。
秘めていた思いや悩みを悪質に曲解したものを行動原理とし、本人が決してしないような言動でそれを実現しようとする。
彼らは発生源の人間を精神的に追い詰め、お前は自分ではないと否定させることで怪物的な姿へ変貌し、その人間を殺す。
しかし、シャドウもまた自分の一部であると認めることができれば、シャドウは戦うための力『ペルソナ』へと姿を変える――そういう存在だ。

直斗も自らのシャドウと直面し、仲間達のおかげで窮地を乗り越えることができたという経験がある。
そして久慈川りせのシャドウとは直接相対することはなかったが、ある程度の概要は仲間達から聞き及んでいる。

りせのシャドウが発生した原因の感情……それは本当の自分を見てもらいたいという願望。
アイドルとして人気を集めていたりせは、作られたキャラクター性ばかりが注目されることに思い悩み、芸能活動を休業した。
現在は活動再開に向けて準備を進めていると聞いているが、ともかくりせのシャドウはりせ本人に受け入れられ、ペルソナ『ヒミコ』に変化してりせの力となったはずだった。

「サーヴァントはあくまでオリジナルの一側面を切り取ったもの……だとすると、久慈川りせに受け入れられる前の、アルターエゴというクラスに最も適合する時期が抽出されたと見るべきでしょうか」
「何ブツクサ言ってんのよ。令呪まで使われたから大人しく命令されてやったけど、意味ないことさせてるんならぶっ壊すからね?」
「……仕方ありませんね。流石に二画目を切るには時期尚早ですし、他のマスターに事情を説明するリハーサルのつもりで話すとしましょう」

直斗はデスクに座ったまま書類整理の手を止めた。

「知っての通り、僕はこの異世界において『転校生の少年探偵』という役割を与えられるはずでした。ですが、どうやら僕は記憶を取り戻すのが早すぎたらしく、転入手続きを始める前にマスターとしての自覚を得てしまったわけです」

原因は直斗自身にも分かっていない。
単にそういうこともあるだけなのか、何かしらの作為が関わっていたのか。
どちらにせよ、それは直斗にとって好都合だった。

「聖杯戦争とやらの開催目的と元の世界へ帰る方法を調査するにあたって、できることなら探偵としての活動に専念したいものです。しかし、学校は僕が配置されるはずだった舞台のひとつ。そこが何かしらの形で重要なポジションになる可能性は否定できません」
「だから『学校に溶け込んでケンゼンに噂を集めてこい』なんて命令したわけ? 三画しかない令呪で? 馬鹿なんじゃない?」
「どんな推理も地道な情報収集あってこそですよ。幸い、君は大人しくしていれば気配を悟られにくくなるスキルを持っていましたから。提出書類に手を加えて『転校生は白鐘直斗ではなく久慈川りせである』ということにする作戦さえ通れば、後は楽なものです」

アルターエゴはソファーに寝そべったまま、見下すような眼差しを直斗に向けている。
久慈川りせ本人がこの場にいないせいか、それともサーヴァントとして召喚されたからか、無秩序に自分の欲求を発散するようなことは今の所していない。

「帰る方法なんて七体ぶっ殺して聖杯ぶんどればオシマイなんじゃないの」
「いいえ、違いますよ」

直斗は一切の躊躇なく断言した。

「君がいない間に、いつの間にか覚えさせられていた最低限のルールを改めて精査しました。七騎分の魂をソウルジェムに満たすことで聖杯は完成するとされていますが、聖杯を得れば脱出が許されるという取り決めはありません。それどころか生還条件そのものが明示されていないのです」

先程から直斗が整理していた文書は、無意識下に刷り込まれていた聖杯戦争関連の知識を文章として書き出し、更に推理と考察を加えたものだ。

「聖杯が単なる勝者への報酬なら、最終的な勝者が決した後で授与するか、聖杯を得た時点で勝ち抜けとされているはず。裏を返せば『そうではない』可能性が充分にあるのだと考えるべきでしょう」

それらの文書の中でも特に確信が持てると感じた数枚をデスクの上に並べる。
直斗の語り口は、もはやアルターエゴに聞かせるためのものではなく、自分自身の考えを発展させるための考察と化していた。

「戦いが進行すればするほど聖杯の数は増えていく。つまり聖杯戦争の主催者が望んでいるのは、見滝原に聖杯を持つマスターが複数存在するシチュエーションか、もしくはマスターは無関係で複数の聖杯の存在が重要なのか……いや、そうだとしたら戦いを優位に進めるための消費が禁止されていないのは不自然だ」
「ねぇもう引っ込んでていい?」
「使えないようにすることが不可能だったから、戦闘での消費は致し方のないリスクとして許容した可能性もある。だけどもしかしたら、主催者が望んでいるのは『見滝原という限られた範囲内で、一定数の聖杯が消費されること』なのかもしれない……例えばそれが何か別の事象のトリガーになっているとか」

直斗は書類を再び一つの束に纏め、ソファーの方をみやった。
アルターエゴはいつの間にか霊体化して姿を消していた。長話に飽きてしまったのだろう。

「仮に聖杯を消費して帰還することが許されているとしたら、その可能性は飛躍的に高まりますね。元の世界に帰りたいという誰もが抱く欲求が、主催者の目的の成就に直結するわけですから。無論、まだ仮説としても弱い段階ではありますが」

最後に現時点での推測を言葉にしてから、直斗はデスクから立ち上がる。
気配からしてアルターエゴはまだ建物の中にいるので、言葉にすれば間違いなく耳に届くだろう。

もちろん未だ真相には程遠いと分かっている。
聖杯は殺し合いを促進する餌に過ぎず、主催者の目的には何の関わりもないという可能性も否定しきれない。
そもそも脱出手段があるということすら仮定に過ぎない。皆殺しが大前提というパターンも考慮しておくべきだろう。

だが、今はまだ何も分からないということは、真相究明に挑む価値が存在しないことの根拠にはなり得ない。
たとえ真実が深い霧の向こうに隠されていたとしても、諦めさえしなければたどり着くことができるのだから――


【CLASS】アルターエゴ
【真名】久慈川りせ(シャドウ)
【出典】ペルソナ4シリーズ
【性別】女
【身長・体重】155cm・41kg(共に事務所公称値)
【属性】混沌・中庸

【パラメータ】筋力E 耐久E 敏捷D 魔力B 幸運C 宝具B

【クラス別スキル】
対魔力:D
 一工程(シングルアクション)による魔術行使を無効化する。
 魔力避けのアミュレット程度の対魔力。

単独行動:C
 マスターからの魔力供給を断ってもしばらくは自立できる能力。
 ランクCならば、マスターを失ってから一日間現界可能。

【固有スキル】
魅惑の美声:C
 人気絶頂のアイドルとしての天性の才能。
 男性に対しては魅了の魔術効果として働くが、対魔力スキルで回避可能。
 対魔力を持っていなくても抵抗する意思を持っていれば、ある程度軽減することができる。
 女性に対しても1ランク下がるものの効果を発揮する。

ペルソナ(偽):C+
 困難に立ち向かうための人格の鎧。ペルソナ"ヒミコ"を使用する。
 敵の解析を得意とする情報支援形態と、攻撃端末を操る戦闘形態を切り替えられる。
 本来ペルソナはシャドウが変化したものであり、通常であれば併存しない。
 しかし特殊な状況下で併存した事例があることからスキルとして獲得している。

シャドウ:B
 誇張され暴走した「もう一人の自分(アルターエゴ)」
 発生源と同じ姿を取っている間はサーヴァントとして感知されにくくなり、
 ステータスが大幅に低下し宝具も使用できなくなる。
 人の姿を捨てることで十全の能力値を発揮し、宝具が解禁される。
 同時に固有スキル全てが使用不能になり、代わりにBランクの魔術スキルを獲得する。

【宝具】
『我は影、真なる我(マハアナライズ)』
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:1~10 最大捕捉:5人
 完全解析。対象の戦闘データを秘匿情報も含めて解析し尽くす。
 解析された相手は攻撃傾向すら事前に予測され、攻撃を当てることすらできなくなる。
 直接攻撃のみならずデバフ付与スキルすらも通じない。
 更に魔術スキルと組み合わせ、解析した弱点を確実に突く攻撃を繰り出すこともできる。
 情報アドバンテージを活用できるマスターであれば他を寄せ付けない性能を発揮する。

【weapon】
『マイクスタンド』
 打撃に使用するが、特別な効果があるわけではない。

『ペルソナ ヒミコ』
 オリジナルの久慈川りせのペルソナ能力。
 主にアナライズ等のスキルとナビゲーションによる情報支援を担当する。
 派生作品「P4U2」では前作ペルソナ3のナビゲーションも登場し、情報支援能力でそちらが上回っていたことから自身の価値に悩み、色々あって戦闘形態を獲得した。

 本編においては、りせ本人に受け入れられたりせのシャドウが変化したもの。
 つまりヒミコとりせのシャドウは完全に同一の存在であり、同時に存在することはなかった。
 シャドウがペルソナを使用した事例は「P4U2」でのこと。
 該当作品ではほぼ全ての操作キャラクターのシャドウがペルソナ付きで登場している。
(本編のシャドウとは違う経緯で生まれたもの)

【人物背景】
「誰も本当の自分を見てくれない」「本当の自分を見て欲しい」という願望から生じたシャドウ。
本人の性格とは完全に乖離した過激な発言を口にし、自分のすべてを見せつけると称してストリップショーを催そうとする。
目を逸らしてきた本質をりせにぶつけ、本人に否定されたことで歓喜しながら暴走状態に突入。
極彩色のサイケデリックな体表の巨大な女性の姿に変貌し、ポールダンスのような艶めかしい動きをしながら圧倒的な力で主人公達を追い詰めた。

原作では終始ビキニ姿だったが、「P4U2」ではもっと酷い有様だった巽完二のシャドウと同様、ちゃんと服を着ている。
サーヴァントとしての姿は制服を着た状態がデフォルト。任意で原作のボス形態になる。

ペルソナスキルのランクは、ヒミコをCとして進化順にカンゼオンがB、コウゼオンがAという想定。
P4U2のヒミコは戦闘形態を獲得したのでC+、りせのシャドウはヒミコしか使っていないのでこのランク。

【聖杯にかける願い】
本当の自分を見せつける。気に食わないものは全部ぶっ壊す。


【マスター名】 白鐘直斗
【出展】ペルソナ4
【性別】女(男装している)

【能力・技能】
  • ペルソナ能力「ヤマトタケル」
ゲーム中の性能は高速で即死呪文を使い雑魚を蹴散らす役割が中心。
それ以外は万能属性や物理属性スキルを使うが、弱点を突きにくくボス戦では扱いづらい。
アッパーバージョンのP4Gでは性能が調整され、各属性の呪文や支援呪文もそれなりに習得できるようになり、ボス戦のサポート役としても役立てるようになった。

  • 探偵としての能力
警察から調査協力を依頼されるほどの推理力を持つ。異名は探偵王子。
ちょっとした機械の改造などもでき、探偵グッズ的なものも作成できる。
十分な設備があれば通信機能付きの探偵バッジも作れたという。

【人物背景】
身長152cm(帽子と靴込みで165cm)、体重非公開。十六歳(高校一年生)
代々探偵家業を続けてきた一族の生まれで、学生ながら現役の探偵。直斗の代で五代目。
稲羽市連続殺人事件の調査のため特別調査協力員として警察に招かれ、主人公達と関わっていくことになる。
詳しくはペルソナ4本編を参照。参戦時期は本編終了後。
非公式考察Wikiのキャラクター個別ページにも詳細な記述がある。

学生ながら警察に協力するほどだが、年齢の若さから現場の警官からは軽んじられることも多く、用が済めば逆に厄介者扱いされることも少なくなかった。
子供のくせにと軽んじられ、必要とされないことへの苦悩が「大人の"男の"探偵になりたい」という形でシャドウを生み、人体改造を施されそうになった。

【聖杯にかける願い】
なし

【方針】
聖杯戦争とその主催者について調査と推理を進める。
最終更新:2018年05月25日 15:06