◆
「ハルミ……! サトシ……!」
忘れはせぬ。あの絶望を、怒りを、苦悩を。殺され、復讐を誓い、地獄から甦った時を。
当の仇に謀られ、必要なき殺しを行い、さらなる悲劇を生んだとしても。地獄で死んで、神々の奴僕となっても。
俺の生前の記憶が薄れ、死後の記憶が薄れても、なお。妻と子を、その死を、忘れた時はない。
復讐。復讐こそが、今の俺の存在理由だ。地獄の力で奴を殺す。そのためだけに……!
『……では、ひとつ機会を与えよう。とある戦場が用意されている』
これは、俺か。あるいは、俺の意識の残滓か。
地獄で永遠に悶え苦しむ時間を過ごしていた時、そいつは呼びかけてきた。
目の前が急に明るくなり―――――
◆
雨の夜。自宅の寝室で記憶を取り戻した途端―――目の前に恐ろしい、悪魔か死神のような男が立っていた。
黄色と黒の装束を纏い、2本の剣を背負っている。むき出しの腕は筋肉隆々。
顔の下半分は金属質のマスクで覆われ、頭には黒頭巾。手甲と脛当て。目は白く輝き、纏う空気は地獄の炎。
彼は腕を組んで見下ろし、マスクから炎を噴きながら、地獄めかした声で問いかけてきた。
「……お前が、俺のマスターか」
つい、顎に指先をあて、小首を傾げる。彼が私のサーヴァント、ということか。
「そうみたいね。私の名は『蛙吹梅雨(あすい・つゆ)』。あ、タメ口でいいかしら。ケロ」
「かまわん」
男は眉根を寄せ、名乗る。
「俺は『アヴェンジャー(復讐者)』のサーヴァント。真名は『スコーピオン』だ」
アヴェンジャー。スコーピオン。なんと禍々しく、恐ろしい。
見かけで判断するのもなんだが、見るからに「ヴィラン」だ。
「よろしくね。……あ、ちょっと待って。気持ちと情報を整理する時間を頂戴」
「もっともだ。よかろう」
目を閉じ、記憶をたぐる。今までの記憶、与えられた記憶、聖杯戦争の情報。
真名を知ったことで閲覧可能となった、アヴェンジャーのステータスと簡易プロフィール。
聖杯戦争とかいう、よくわからないイベントに突然放り込まれてしまったが……やることはまあ、今までと同じだ。
ヒーローとして弱者を救助し、生還すること。可能ならば主催者の思惑を探り、可能ならば打倒すること。
魔術や幻術の心得はないものの、超自然的なパワーを振るう連中は、自分を含め見慣れている。
また英霊、サーヴァントを倒すには、別の英霊によるか、マスターを倒すかせねばならないらしい。
彼はぼちぼち強いが、無敵ではない。やるべきことは、彼のサポート。
幸い令呪というものがある。これを活用すべきだろう。
◆
俺を地獄から……今回は英霊の座から喚び出したのは、蛙のような、とぼけた面と声をした妙な小娘。
それなりに鍛えられており、さほど動揺してもいないが―――少しは震え、汗を滲ませてはいるが―――
よりにもよって俺を喚んだ割には、妖術師にも復讐者にも見えん。
しかもこいつを殺されれば、俺は消えねばならんらしい。護衛しろというのか。
「…………お待たせ。まずはブリーフィングね。なにか聞きたいことあるかしら」
「……マスター。次に問う。貴様が聖杯にかける望みはなんだ」
「ないわ。私は巻き込まれただけ。自分の望みは自分で叶えるわ」
即答された。妙に肝の座った女だ。
「あなたの望みは……復讐よね。アヴェンジャーだもの」
「そうだ。俺は妻子と一族と主君を殺され、俺自身も殺された。その復讐のために地獄から甦った亡者だ」
怒りが募り、体から炎が噴き上がる。そうだ、甦った。妖術師によって甦らされた。復讐のために。
「しかし、復讐によって彼らが生き返るわけではない。生き返らせるには聖杯が必要だ。
俺はそのために喚ばれたのだろう」
俺を甦らせた妖術師クァン・チーは、俺を騙し、利用していた。
俺と妻子と一族と主君を殺したのは、クァン・チーだったのだ。
真の仇であるクァン・チーは、俺を地獄へ送り返そうとした。
俺は奴を道連れに地獄へ戻り……しかし……それからの記憶は定かでない。
分かっているのは、俺が神々の代理戦士『サーヴァント(従僕、聖戦士)』となったこと……
そしてクァン・チーが滅んでいないことだ。
俺は何を望むべきか。俺が復活し、妻子と一族と主君が復活し、平和な日常を取り戻すことか。
あるいは復讐か。サブ・ゼロは殺したが、奴は仇ではなかった。妖術師クァン・チーを今度こそ滅ぼさねばならない。
どちらを選ぶにせよ、聖杯が複数必要。神々の力をもってすれば願いは叶うかも知れないが、奴らもあまり信用ならない。
まずは、復讐。己の手で禍根を絶つ。それから復活だ。地獄暮らしも長くなったが、いよいよチャンスが巡って来たか。
聖杯戦争。試合場での一対一の闘いではない、なんでもありの殺し合い。
幾度も殺し、幾度も死んだが、忍者として戦うにはこちらの方がよい。姿を隠し、闇に紛れて標的を暗殺するのだ。
恨みはないが、俺のためだ。死んでもらおう。死闘(Mortal Kombat)の幕開けだ。
「なるほどね。……あなたの能力はざっと見たわ。私は……」
小娘は舌を出し、鞭のように伸ばして振り回すと、電気のスイッチを押した。
「『蛙っぽいこと』ならだいたいなんでも出来るわ。舌を伸ばしたり、高く跳躍したり、水中を泳いだり。
あんまり破壊力とかはないけど、人助けには充分。あとは頭と心の使いようね。サポートするわ」
「……人助け? 俺に人助けをさせる気か」
「そうね。私はヒーロー『フロッピー』。仮免だけど。……今、この街には殺人鬼とかのウワサもある。
私の性格上、受けた教育上、困ってる人は見捨てられないの。人殺しはしたくないし、放置したくもないわ。
帰還だけを望む人々は、帰還させなきゃ。場合によっては、この聖杯戦争の主催者に挑まなくてはならないかも」
荒事には慣れており奇妙な能力はあるが、性格は善良な小娘のようだ。やりにくい。
「……聖杯を手に入れるには、他の英霊を狩らねばならん。時にはマスターの方を殺さねば、手に負えんものもいよう。
お前に出来なくとも、俺には出来る。地獄でも現世でも数え切れぬほど殺した。
お前がやりたくないなら、俺が勝手にやる」
小娘は、ふるふると首を振る。
「英霊だけを倒し、悪人は無力化出来ればいいの。
私が殺したら、あなたに殺しを許したら、生きて還っても心の汚点になる。
それはヒーローじゃなくて、ただの敵(ヴィラン)、悪役への道なのよ。そこは譲れない」
言葉を切り、じっと俺の目を見る。私ごときが、とは言わず。
「あなたに起きた悲劇を、繰り返してはいけないわ」
◆
「……よかろう」
地獄の亡者、復讐鬼は、禍々しい声で宣告する。
「なぜお前が俺を喚んだのかは知らん。興味もない。俺は自らのために、聖杯を獲得するために動く。
だが―――お前に免じて、生きた人間は殺さん。敵対する英霊だけを殺す。お前の命を守ってもやろう」
「わかってくれて嬉しいわ。ありがとう」
「聖杯は俺に必要だし、帰還のためにはお前にも必要だろう。聖杯が一つ余れば、お前を現世に返してやる。
お前がそれまで生き残っていればだがな。見返りは、俺をサポートすることだ」
「もちろんよ」
彼にも人間性は残っているようだ。ほっ、と息をつく。しかし……安心は出来ない。
不吉なことだが、海外の寓話に『蛙とサソリ』というのがある。亀とサソリ、とも。
対岸へ渡ろうと蛙の背を借りたサソリが、つい蛙を刺してしまい、共に沈んで死ぬというものだ。
なぜサソリは、自分の破滅を招くと知っていて蛙を刺したか。それがサソリの本性だから、というのだが……。
◆
心正しき者の歩む道は、心悪しき者のよこしまな利己と暴虐によって行く手を阻まれる。
愛と善意の名において、暗黒の谷で弱き者を導く者は幸いだ。
彼こそは真に兄弟を守り、迷い子達を救う羊飼いであるから。
よって我は、怒りに満ちた懲罰と大いなる復讐をもって、我が兄弟を毒し、滅ぼそうとする汝に制裁を下す。
そして、我が汝に復讐する時、汝は我こそが主である事を知るだろう。
―――――『エゼキエル書』25:17、映画『ボディガード牙』序文
【クラス】
アヴェンジャー
【真名】
スコーピオン@モータルコンバットシリーズ
【パラメーター】
筋力C+ 耐久B 敏捷B+ 魔力C 幸運D 宝具C
【属性】
混沌・悪
【クラス別スキル】
復讐者:A
復讐者として、人の恨みと怨念を一身に集める在り方がスキルとなったもの。
周囲からの敵意を向けられやすくなるが、向けられた負の感情は直ちにアヴェンジャーの力へと変化する。
被攻撃時に魔力を回復させる。
忘却補正:A
復讐者は英雄にあらず、忌まわしきものとして埋もれていく存在である。
人は多くを忘れる生き物だが、復讐者は決して忘れない。
忘却の彼方より襲い来るアヴェンジャーの攻撃は、正規の英雄に対するクリティカル効果を強化させる。
自己回復(魔力):B
復讐が果たされるまでその魔力は延々と湧き続ける。
微量ながらも魔力が毎ターン回復し、魔力に乏しいマスターでも現界を維持できる。
【保有スキル】
忍術:A++
忍者たちが使用する諜報技術、戦闘術、窃盗術、拷問術などの総称。各流派によって系統が異なる。
将軍に仕える白井流の師範級忍者であった。
Aランクの「気配遮断」に相当し、忍法により相手の背後に瞬間移動して攻撃する(テレポート・パンチ)。
魔力放出(炎):A
武器・自身の肉体に魔力を帯びさせ、瞬間的に放出する事によって能力を向上させるスキル。
燃え盛る地獄の炎が常時武器と肉体に宿る。拳や蹴りに纏わせ、口や眼窩からも噴いて敵を火達磨にする。
霊体をも燃やす超常の炎であり、敵は肉体を焼き尽くされて骨だけになる。トースティ!
旧き神々の加護:EX
宇宙最高の全能の神々「エルダーゴッズ」の加護。危機に際してなんらかの形で様々な加護が与えられる。
神々にとって都合の悪い敵を排除するため「サーヴァント(従僕)」として使役された逸話によるもの。
しかし神々は人間を虫けら程度にしかみなしておらず、彼が要求した「妻子の復活」も
アンデッドとしての不完全な復活であったという。
【宝具】
『忍者の戦に耐える剛健な銛(バトルハープーン・オブ・スコーピオン)』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:1-10 最大捕捉:10
スピアー(槍)とも。縄(MK9からは鎖)の先に苦無をつけた投擲武器。
標的に投げつけて突き刺し、引っ張って引き寄せる。
頭や胴体を貫き、首や手足をもぎ取るほどの威力がある。カメェ!ゲロオバヒア! 実は2本ある。
映画版やTVドラマ版では掌を突き破って飛び出す蛇めいた生体武器で、かなりの距離まで伸びる。
『奈落より来たれ亡者(インフェルノ・ミニオン・ヘルファイア)』
ランク:C 種別:対人/結界宝具 レンジ:1-10 最大捕捉:10
地獄(Netherrealm)から燃え盛る亡者を召喚し、一瞬だけ戦わせる。
標的の足元に喚んで拘束させたり(ミニオン・グラブ)、空中で喚んで飛び蹴りを食らわせたり、
敵の背後に喚んで体当たりさせたり(ミニオン・チャージ)使い勝手がよい。
固有結界として展開すると、掴んだ相手を燃え盛る熔岩が流れる地獄へ引きずり込み、自分に有利な舞台で戦える。
【Weapon】
宝具、2本の忍者刀、己の肉体。
カニバサミで相手をダウンさせる「蠍双脚」、空中で巴投げをかます「幻空脚」などの技を使う。
【人物背景】
アメリカの残虐対戦格闘ゲーム『モータルコンバット(Mortal Kombat)』シリーズに登場するダークヒーロー。
地獄から甦った復讐の忍者。CV:エド・ブーン他。身長188cm、体重95kg、髪は黒く、目は白い。
黄色い忍者装束と黒頭巾、面頬を身に着け、地獄の炎とハープーン(銛)で戦う。
実は顔はマスクで、その下は髑髏である。生前は髭面。
もとは日本人で、本名を「ハンゾウ・ハサシ(Hanzo Hasashi,波佐志半蔵)」といい、
忍者組織・白井流の師範(グランドマスター)であった。だがある時、彼の妻子(ハルミ、サトシ)と一族は、
凍気を操る忍者サブ・ゼロが属する中国の忍者組織「リンクェイ(燐塊/林鬼)」によって皆殺しにされてしまう。
彼もサブ・ゼロの手にかかり死んだ(享年32歳)が、地獄へ落ちた彼の魂は妖術師クァン・チーによって甦り、
スコーピオン(全蠍人)と名付けられた。
そしてサブ・ゼロへの復讐のために、彼が出場する暗黒少林武道会「モータル・コンバット」に参加したのだった。
首尾よく仇を討ったスコーピオンであったが、不死の肉体となってしまった為救われず、永遠に地獄を彷徨うことになる。
MK4ではクァン・チーに唆され「旧き神々」に反逆するが、実は彼の仇はサブ・ゼロではなくクァン・チーであったことが
明らかになる。これを知った彼はクァン・チーを巻き添えに地獄へ戻る。DAでは地獄での戦いで敗れ肉体を失うが、
旧き神々によって救われ「サーヴァント」となった。その他にも彼にはいろいろな逸話・異説があり、
このスコーピオンはそういういろんななんかが座に登録されたスコーピオンである。
彼の人気は高く、本来の主人公リュウ・カンを差し置いて『モータルコンバット』シリーズの主役的存在となっている
ほどである。またライバルのサブ・ゼロを含め多数のコンパチ・カラバリがいる。
『ニンジャスレイヤー』に登場する様々なニンジャたちの原型のひとつ。
クロスオーバー作品ではスーパーマンやバットマンとも戦った。
アサシン、ランサー、バーサーカーなどの適性もあるが、今回はアヴェンジャーとして現界。
【サーヴァントとしての願い】
クァン・チーへの復讐、妻子と一族と自らの復活。
【方針】
邪魔する者は殺し、聖杯を獲得する。敵対すれば女子供でも無慈悲にフェイタリティする。
ただしマスターに誓った手前、殺すのは英霊に限る。マスターは殺さないまでも再起不能ぐらいにはするかも。
【把握手段】
『モータルコンバット』シリーズのどれか。
YouTubeとかWikiとかを参照したり、ご近所のモータリアン(MKのファン)に聞いたりしよう。
勝利後に自分の人形を宣伝したり、ペンギンや巨大サソリや赤ん坊に変化したりは(多分)しない。
【マスター】
蛙吹梅雨@僕のヒーローアカデミア
【Weapon・能力・技能】
『“個性”:蛙』
「蛙っぽいこと」ならだいたい出来る特異体質。蛙を人間大にスケールアップしたような様々な身体能力を持つ。
水中(海水含む)での自在な活動が可能。強靭な脚力を持ち、50mを5秒58で駆け抜け(現実世界なら男子世界記録級)、
人間二人を抱えて高く跳躍でき、キックも強烈。走るときは四つん這い。壁に両手足の裏を吸着させて移動する。
舌は最大20mまで伸びて標的を鞭打ち絡め取り、胃袋は物を飲み込んで収納でき、胃袋自体も出し入れ自由。
多少ビリっとする程度の毒性粘液を分泌したり、体色を変化させて周囲の背景に溶け込んだり(保護色)も可能。
火力は低いが汎用性に富む。突出した長所も短所もないが、寒さには弱い。
家族一同蛙めいた容姿であり、“個性”は遺伝によるもの。
『ヒーローコスチューム・フロッピー』
緑を基調とした水中戦想定のボディスーツ。大き目のグローブ、ゴーグルを着用。そのシルエットはまさに蛙。
【人物背景】
堀越耕平の漫画『僕のヒーローアカデミア』に登場する少女。CV:悠木碧。国立雄英高校ヒーロー科1年A組所属の15歳。
身長150cm。腰でリボン状に結んだ長い黒髪、どんぐり眼にひの字口、下睫毛の蛙顔ケロイン。
手足が大きく小柄で猫背だが割とナイスバディ。個性は『蛙』。
自分で考案したヒーロー名は「梅雨入りヒーロー『FROPPY(フロッピー)』」。
友達になりたい人には「梅雨ちゃんと呼んで」と言う。
思ったことを何でも言っちゃう性格だが、常に冷静で洞察力・判断力・先見性も高い。
善良で正義心は強く、勇敢かつ仲間思い。「課題らしい課題のない優等生」「人々の精神的支柱となり得る器」
と評される。表情は乏しいものの笑顔はカワイイ。コミュ力は意外に高いが割合繊細。
何かしら思うところがあると、口元へ人差し指を当てる癖がある。
【ロール】
高校生。超人社会ではないため、普段は“個性”を人前で出さないよう注意する。
家族もNPCとして存在しているが、蛙っぽいだけで“個性”は持たない。
【マスターとしての願い】
なし。自分の願いは自分で叶える。
【方針】
弱者を保護・救助し、帰還希望者を率いて脱出する。
また主催者の思惑を探り、可能ならば打倒する。殺人はしないし、させない。
【把握手段・参戦時期】
原作。仮免取得後。
最終更新:2018年05月25日 21:41