一人の中学生男子である岸辺颯太が魔法の力で変身する姿が『魔法少女ラ・ピュセル』であり、その姿のモチーフは『騎士』である。
そんな彼が意図せずして招き入れられた聖杯戦争の舞台において、彼の従者として召喚された『アーチャー』のサーヴァントは、奇しくもラ・ピュセルと同じく『騎士』であった。
「……やっぱり、弓には見えないよなあ。アーチャーのそれ」
「ええ。時折言われたものです。貴方は弓というものを根本的に勘違いしていると」
夜の公園のベンチに二人、腰掛ける。二人が口を閉じれば、しんと冷えた空気を柔和に震わせる音色が再びこの世界唯一の音となる。曲の名前を颯太は知らない。ただ、耳を傾けているだけで穏やかな心地に浸れることを理解できていれば、それで十分に思えた。
そういえば、颯太と同じ魔法少女達の中にも『音楽家』を名乗る者がいた。彼女とは今日に至るまで直接言葉を交わす機会も無かったために颯太はその人間性をよく知らず、実の所あまり意識的に観察したことも無い。願うならば、命の奪い合いに対し悲嘆の感情を抱くことを忘れない人間であってほしい、などと考えながら、颯太はアーチャーの姿を眺める。
ハープのような外観の楽器で音楽を奏でる、長髪の優男。その楽器の本質が弓であり、彼がその弓によって名立たる軍勢を屠った騎士であるなど、大抵の者は思いもよらないだろう。騎士について世間一般に浸透する程度の精度でしかイメージを持たない颯太にとっては、尚更だ。
しかし、事実だった。アーチャーは『騎士』であり、それも人々が持つ騎士のイメージの原型を齎したと言えるだろう欧州の伝承にも名を刻む勇士、『円卓の騎士』の一人であった。
「五枚……いえ、六枚でしょうか」
「え、何が?」
「ご覧ください」
ぽろろん。やや低めの音調で、旋律が短く響く。
ぱし。がさ。左斜め前方で生じた騒音は、木の葉が揺れる音だ。
はらり、という音すら立てず、夜闇を僅かに照らす淡い光の中、数枚の割かれた葉が着地するのを辛うじて目で捉えた。
「数えに行ってみますか? 正確な枚数であったか」
「……いや、いいよ。見なくてもわかるから」
アーチャーのしなやかに伸びる指が糸をつま弾く瞬間、放たれるのは真空の刃。その速度と精度を目の当たりにするのは数度目であり、しかし颯太はまたも背を震わせた。
目視できない凶器などというものを見せられるのは初めてであり、正々堂々の果し合いに到底向かないそれは、ともすれば悪辣な虐殺にも使えてしまうのではないかと颯太ですら想像してしまうような代物だ。
しかし、有り得ない話だろうと颯太は思う。それは、今日に至るまでに交わしたさほど多くない言葉からでさえ感じ取れるアーチャーの人柄の穏やかさ、そして颯太の掲げる方針を共感に値すると告げるほどに崇高な理念故であった。
颯太は既に確信しつつある。アーチャーと一緒なら、きっと正しい未来へと辿り着ける。
この街に根を下ろしてこの街を脅かす殺人鬼の悪意も、願いを叶える器などという物を餌にした戦争を仕組んだ黒幕の思惑も、必ず挫く。
その上で、岸辺颯太は姫川小雪の下へと帰るのだ。心優しい魔法少女スノーホワイトの涙を拭うため、彼女のための誓いを立てた魔法少女ラ・ピュセルとして。
立ち塞がる困難の強大さは、きっと颯太の想像を遥かに超えるのだろう。それでも、この心も剣も、折らせはするものか。
颯太は何度目かの決意をした。その決意を鈍らせないだけの自身を与えてくれる自らの境遇に、同じ『騎士』との縁が繋がれた運命的な境遇に、颯太は、高揚していた。
「ところでマスター。伺い損ねていたことが一つあります」
「何? アーチャー」
「貴方が守ると誓ったという少女のことです」
「それって、小雪のこと?」
「はい」
唐突な問いかけだった。
どうして、アーチャーがこの場にいない彼女のことをわざわざ知りたがるのだろうか。
「その少女は、他者を殺めることはおろか傷を負わすことすら厭う心優しい少女であると伺いました。それは、揺るぎない事実ですか?」
「……どういう意味?」
「彼女がそのような魔法少女でありたいと、確かにマスターが彼女の口から聞いたのか。それは、誰にとっての理想像であるのかと」
その問いは颯太への、若しくは颯太の慕う少女への不躾な疑念も同然の、アーチャーに憤慨したとしても文句を言われる筋合いの無いはずであった。
それなのに、颯太は言葉に詰まっていた。颯太に問い掛けるアーチャーの面立ちが決して下賤なものではなく、表情の変化に乏しい彼には珍しい程、真に迫るものであったためであった。
相変わらず意図は読めない。しかし、何かを強く憂えていることはわかる。
「大丈夫、いらない心配だよアーチャー。小雪の優しさとか夢は、僕が絶対に一番わかってるって信じているから」
「……そうですか。ならば、良いのです。申し訳ございません、突然の無礼な質問をしてしまって」
「いいよいいよ。わかってもらえれば。そんな小雪だから、僕は一刻も早く駆けつけて守ってあげなければって思ってるんだ」
アーチャーの持つ懸念を、颯太は一笑に付した。それはアーチャーを嘲るためでなく、純粋にアーチャーを安堵させるためであった。
今も鮮明に思い浮かべられる彼女の姿を、悪党共のそれと重ね合せようとする。無理だ。彼女には暴威も害意もまるで似合わない。
一点の穢れも無い清廉さ。それが姫川小雪の魅力であり、岸辺颯太の惹かれる人間性であるのだ。
「なんで急にそんなこと気にするんだ? アーチャー」
「……何故、でしょうね。今は私にも上手く言葉で纏められそうにありません。ただ、漠然と芽生えたとしか」
「それより、これからどう動くか考え直そうぜ。ほら、同じ『騎士』の縁で呼ばれた同士さ」
「縁、ですか」
努めて朗らかに呼びかけて、応じるアーチャーの表情には、やはり未だ陰があった。
その細められた両目は、まるで、颯太には見えないほど遥か先の地を見据えているようであった。
【クラス】
アーチャー
【真名】
トリスタン@Fate/Grand Order
【パラメーター】
筋力B 耐久B 敏捷A 魔力B 幸運E 宝具A
【属性】
秩序・善
【クラススキル】
対魔力:B
魔術に対する守り。魔術詠唱が三節以下のものを無効化する。
大魔術・儀礼呪法などを以ってしても、傷付けるのは難しい。
単独行動:B
マスターからの魔力供給を断ってもしばらくは自立できる能力。
ランクBならば、マスターを失っても二日間現界可能。
【保有スキル】
治癒の堅琴:C
宝具である弦を使っての演奏。
味方の精神的動揺を鎮め、敵の闘争心を失わせる。
祝福されぬ生誕:B
生まれついての悲運。哀しみの子トリスタンと呼ばれるほど、彼の生誕には嘆きがついてまわる。
哀しみに満ちた歌声により、楽器演奏に追加ボーナス。
騎士王への諌言:B
かの騎士王に刻んだ決定的なトラウマ。
本人としても、最後に残した一言としてはあまりに心無い発言であるため、いたく反省している模様。
弱体化(毒):D
伝説において幾度となく毒に弱らされ、瀕死に追い込まれたため、毒への耐性が若干低くなっている。
【宝具】
『痛哭の幻奏(フェイルノート)』
ランク:A 種別:対軍宝具 レンジ:5~100 最大補足:10人
「無駄なしの弓」「必中の弓」ともいわれるトリスタンの弓。
ではあるがその宝具としての形は単なる『糸』。愛用していた堅琴の弦である。
つま弾くことで敵を切断する真空の刃を飛ばせる。その特性から片腕、ひいては指さえ動けば発射でき、一歩も動かず、弓を構える動作を必要としないという利点を持つ。
また角度調整、弾速、装填速度が尋常ではないため全弾回避はほぼ不可能。
レンジ外まで転移するか次元を跳躍するなどでしか対抗できない。
【weapon】
宝具『痛哭の幻奏』
【人物背景】
アーサー王は立派な王だった。公平で、誠実で、人の感情が這い入る隙間すらないほどに。
しかし己を殺して戦い続ける王の姿は、あまりに痛ましかった。
正しいからこそ痛ましく、正しいからこそ悲しい。
トリスタンは、既にそれに耐え切れる精神を持ち合わせていなかった。
円卓の騎士を離れる際に思わず衝いて出た言葉。
それはあまりに多くの騎士たちに――そして、彼も与り知らぬところで王にも呪いを与えてしまった。
彼は悲しげに、こう呟いたのだ。
“王は、人の心が分からない”
【サーヴァントとしての願い】
マスターの意向に従うまで。
……もしも己個人のための奇跡が許されるならば、その時は「アーサー王への非礼を詫びる機会」を。
【マスター】
ラ・ピュセル(岸辺颯太)@魔法少女育成計画
【マスターとしての願い】
『魔法少女』として人々を助ける。
そして、『剣』としてスノーホワイトの下へと帰る。
【weapon】
剣
【能力・技能】
魔法少女
魔法少女(正確には魔法少女候補生)としての力。
変身することで常人を凌駕する身体能力と肉体強度を獲得し、更にそれぞれ固有の能力となる魔法を使える。
また魔力を扱う存在であるため魔術師と同等以上の魔力量を備える。
『剣の大きさを自由に変えられるよ』
魔法少女ラ・ピュセルの持つ魔法。
持っている剣と鞘をその時々で最適な幅、厚み、長さに変えることが出来る。
ただし、自在とは言っても自分で持つことが不可能なサイズにすることは出来ない。
【人物背景】
数少ない「変身前が男」の魔法少女で、姫川小雪(魔法少女スノーホワイト)の幼馴染の中学生。
魔法少女同士のマジカルキャンディー争奪戦の中、スノーホワイトの剣となることを誓う。
ルーラの脱落が通達された後の時期から参戦。
この時点でのラ・ピュセルは、まだ何も知らない。
争奪戦の首謀者の正体も、いずれ自身が辿ることとなる末路も。
密かに恋する心優しい少女が、『魔法少女狩り』へと変わり果てる未来も。
【方針】
帰るための手段を模索しつつ、人々を脅かす悪を成敗する。
最終更新:2018年05月30日 11:42