最初は小さな違和感だった。
普通に小学校に通う自分、級友と普通に食事をとる自分、そして医者の父と専業主婦の母と裕福な家庭で普通に暮らす自分。
その全てが笛口雛実にとっては確かに幸福であり、同時に明確な異常で、
そして、それを自覚した瞬間、幼い喰種は全てを思い出した。
そう、喰種。自分は人間ではないし、普通の食事は摂れない。ましてや学校なんて通える筈もなく、両親だってーー
パパは鳩に殺された。殺されて切り刻まれた。優しかったママは自分を守るためにパパの赫子で殺された。
大好きだったあんていくの皆も、私に文字を教えてくれたあの人もここには居ない。
その瞬間、少女の幸福は崩壊した。
普通の食事が一切摂れなくなった。
先日まで味わえた筈の食べ物が腐った生ゴミのような異物になり、食欲を刺激する芳しい香りもおぞましくなった。
大好きだった母の手料理も、たべるどころか嗅ぐことすら厳しい。
対して、それまで普通に接してきたクラスメートや周囲の皆が、とても美味しそうに見え始めた。
それが正常なのだ。逆に今までの生活が異常で、あり得なかったもの。
それだけなら、まだ耐えられた。
雛実が真に絶望したのは、引きこもった雛実を心配する両親から抱き締められた時。
鼻孔を擽る香りとともに、ふたりを美味しそうと感じた。感じてしまった瞬間だった。
ーーーやぁ、マスター
絶望する雛実の耳に、ふと声が届いた。
眼前の両親には聞こえず、無垢な彼女だけに聞こえる囁きで。
続けて目に飛び込んできた血のように赤いバルーンが、ふわふわと浮かんでいる。
風船の紐を手に持つ怪人は、透き通る青い瞳で雛実を見つめる。
白い衣装に真っ白なメイク、微笑みを浮かべる何かはお茶目な仕草で手を降り、そして……
ーーー浮かぶ時間だよ。私とふたりで皆をふわふわ浮かばせるんだ。『マスター』
部屋に戻ると、既にアサシンからの贈り物が机に置かれていた。
ふわふわと揺れる風船の紐の下に、無造作に鎮座する肉片をかじる。
マスターが人肉しか受け付けない体質であることを知ってからは、アサシンはこうしてちょくちょくと食料を届けてくる。
真っ当な英霊ならば即座に雛実を見捨てるだろうが、アサシンもまた人を喰らう怪物であった事が幸いと言えるかもしれない。
「……聖杯を作れば、幸せになれるのかな」
ソウルジャム。この宝石にサーヴァントの魂を捧げれば、何でも願いが叶うらしい。
雛実の願いは『平穏』。鳩にも怯えず、両親と皆で何時までも普通に暮らしたい。普通に学校に通って、勉強して、普通に生きていたい。
喰種に生まれた宿命か、幼さが抜けない少女が抱くとは思えない願い。
当に諦めていた筈のそれは、見滝原での生活で再び彼女に思い起こさせた。
アサシン……あのピエロの姿をした怪人は、雛実に対して何も強制しない。戦いに躊躇する心情も否定せず、喰種として人を襲う覚悟も持ち得ない点も殆ど触れなかった。
NPCの両親と過ごしたいと言っても、好きにすればいいと言ってくれた。
それだけなら、あの人は良い人なのかもしれない。
しかし、雛実はどうしてもアサシンを心から信用することができなかった。
理由としてはただ一点、アサシンが雛実を見る目に、危うい何かが見え隠れするから。
それが何なのかは本能的に悟っている。しかし、あえて考えないようにしていた。
サーヴァントが自身のマスターに『食欲』を感じていることなど、絶望以外の何物でもないのだから。
アラもう聞いた? 誰から聞いた?
妖怪ピエロのそのウワサ
最近物騒な見滝原、子どもたちを拐って消える怖いピエロ!
赤い風船に白いメイク、愉快な踊る道化師さん!
でもでもそれはピエロじゃなくて、皆が見れば千差万別!
ゾンビにミイラにお母さん!自分の一番怖いものに大変身!
でも怖がったら駄目!何処かに浚われて影も形もない!
助けを呼んでもあら不思議!そこにいるのに居なくなって、あっという間に狼少年!
拐われたら二度と帰ってこなくて、皆で浮かぶのふわふわと!!
バルーン!
【CLASS】アサシン
【真名】ペニーワイズ@IT/“それが”見えたら、終わり。
【マスター】笛口雛実@東京喰種
【属性】混沌・悪
【ステータス】筋力B 耐久EX 敏捷E 魔力A 幸運E 宝具EX
【クラススキル】
気配遮断:EX
サーヴァントとしての気配を絶つ。完全に気配を絶てば特殊な才能を持たないNPCやマスターには一切視認されない。
このアサシンの場合、実体化しても殆どの大人には見ることができず、思春期の少年少女など、多感で夢のある子供にのみ姿が見える。
ただし、其処に要ると強く認識されると、誰の目にも明らかな程アサシンの姿は現実のものとなり、出現を余儀なくされる。
【保有スキル】
魂喰い:A+
ソウルイーター。
魂喰いによる魔力値が増大するスキル。
特に子どもの魂喰いには大幅な魔力ボーナスを得られる。
このランクだと数回の魂喰いにより、現界に必要な魔力はほぼ賄える。
反英霊、子喰らいの怪物ゆえのスキル。
シェイプシフター:EX
自由自在に変身し、神出鬼没に現れる魔性の存在。
変化、幻術スキルを内包し、肉体の破損を厭わず人々を襲う高い不死性を誇るが、
強く団結し恐怖を克服した相手には……
下水道の怪物:C
街の地下に張り巡らされた下水道に陣地を作成できる。この陣地内では物理防御と魔術防御時に有利な補正を得る。
また、下水道からパイプで繋がっている場所にならどこにでも移動できる。
【宝具】
『IT(イット)』
ランク:EX 種別:対人宝具 レンジ:ー 最大捕捉:1
各人にとっての恐怖の形。対峙した者を恐慌状態に陥れる。
恐慌状態となった相手からの物理攻撃、魔術攻撃及び奇襲攻撃に対して、アサシンは攻防ともに高い補正値を受ける。
対峙した相手の恐怖によってアサシンは強化されるが、その恐怖を克服したものに対しては害を及ぼせない。
この宝具はアサシンの力の源であるが、これを克服した相手に対しては無力である。
『再演(リターン・オブ・イット)』
ランク:EX 種別:対人宝具 レンジ:ー 最大捕捉:1
死亡あるいは消滅等原因は問わずペニーワイズが「いなくなった」場合、27時間以内(マスターの魔力が高いほど早くなる)にマスターの元に再登場する。
ただしマスターが不在の場合はそのまま消滅する。また、宝具『IT』を真に克服した相手には再発動できない。
【weapon】
武器は持たず、爪と牙で人を狩り、相手の恐怖そのものを武器とする。
『風船』
赤い風船。ふわふわ浮かぶ。視界を塞いだり目眩ましに使えるかもしれない。
【サーヴァントとしての願い】
現世への復活。聖杯獲得の暁には見滝原に永住したい。
【人物背景】
ピエロの姿を取り、子供達を町から消し去ってしまう悪夢的存在。対象を威嚇・捕食する際は鋭い牙を剥き出す。
人々の恐怖と魂を食べて生きており、古来よりデリーに27年周期で現れ、その都度事故や天災に見せかけては住人を襲っていた。
原作出典ならフォーリナー適性もありそうだが、今回は基本的な設定は2017年放映の『IT/“それが”見えたら、終わり。』を基準とする。
【マスター】
笛口雛実@東京喰種
【weapon】
『赫子』
喰種の補食器官。
ヒナミの場合、攻撃力のある父の赫子と、防御に長けた母の赫子を両方受け継いでおり、非常に強力。
【マスターとしての願い】
両親に合いたい
【能力・技能】
参戦時期の都合上、まだ幼く未熟な少女ではあるが、赫子以外でも喰種としての才能は高く、潜在能力は底知れない。
【ロール】
小学生。医師の父と専業主婦の母の核家族として生活している。
NPCの両親は喰種ではなく人間である。
【人物背景】
20区にいる十代前半の喰種の少女。通称「ヒナミ」。
心優しいが引っ込み思案な性格をしており、戦闘には不向き。
父を失ってからは母親の笛口リョーコと二人で生活していた。
母・リョーコが人間を上手く狩れないこともあり、母子であんていくに食の面で世話になり始めた事から、霧嶋董香や金木研達と縁ができた。
義務教育を受けられずに育っているため、読み書きを教えてくれるカネキになついていた。アニメ版では恋愛感情を抱いているような描写がある。
【方針】
聖杯で本当の両親を生き返らせて、皆で幸せになる。NPCの両親にも愛情を感じているため、自分が喰種であることは知られたくない。
最終更新:2018年06月01日 09:29