聖杯戦争の舞台である見滝原市。
本来あるべき見滝原とは別の世界。もしくは、模したのみの偽の世界。
しかしある『魔法少女』を中心とした枠組みがない以外は、その大凡が元の構造に準じたものとなっている。この邸宅もそのひとつだ。
かつて財務省の大臣で党の党首も輩出した大家、自身もまた国会議員だった男が住んでいた。
世間知らずな男に良くしてくれた人々に自身もまた報いんと、国政でなく身近な街を良くしようと尽力した。

今は違う。
既に議員でもないし、この家に住んですらもいない。
男は汚職を犯した罪から自宅で首を吊った。妻も早くに亡くし、だだ広い屋敷に住むのはただひとり。
誰もが憧れるお姫様の肩書の上から、汚職議員の娘という烙印を焼き刻まれた、娘がいるのみである。



「虚しい屋敷だな」

邸宅の中。
清潔、というよりも色の落ちた、褪せてしまった部屋。
白い空間の居間から、男の声がする。

「地上を生きる民の活気に華やぐでもなく、さりとて死者が眠る墓地にするにも静謐さが足りぬ。娘一人が住まうには侘しかろうよ。
 ましてや、太陽でありファラオである余を招くには無色透明極まる場所といえよう」

力強く、そして自信に満ち溢れた声だった。
褐色の肌に黄金の装飾、輝かしき半身には白衣を纏っている。太陽の瞳を持つ男は、己が召喚者を見据えている。
サーヴァントでありながら主を差し置いて椅子に深く腰を掛け、頬杖をつく姿は、まるで男こそがこの家の主と宣言しているがばかり。
だが放たれる威風堂々たる風気―――王の気配を湛えさせる男にしてみれば、それが自然であり、見るものもまた、同様に思うだろう。
サーヴァント、ライダー。
太陽が天上に昇り地を照らすのと同様の理屈で、男は地上全てに君臨する王(ファラオ)であればこそ。

「召喚場所の指定はこちらでは操れないのだから、そう言われてもどうしようもないわね」
「ほう」

返す声が答えられる。
王の威圧を前にして萎縮も怯えも見せぬ声。かといって自身に阿るでもなくあくまで対等に接しようとする召喚者に、男は僅かに目を見開く。
対峙するのは、女であった。ライダーと違い立ったまま向かい合っている、銀の長髪に玲瓏なる瞳の少女。
まだ十五に満たぬかどうかの、春を謳歌する最中の年頃。
少女は、マスターだ。この屋敷の本来の主。汚職議員の血を引く恥知らずとして中傷誹謗を受け続ける哀れな娘。
名を、美国織莉子という。
この見滝原に招かれた聖杯を求めるマスターの一人。
そして、本来の見滝原に住まう、魔法少女の一人だった。


「確かにな。此度の聖杯戦争、召喚に際して英霊の触媒とする聖遺物は用いない、半ば自動的なものである。
 本来余が現世に引かれるとすれば余に纏わるものでなく、我が寵姫ネフェルタリの香りに惹かれるのが道理。
 そうであれば即刻神獣に生きたまま喰わせるか灼熱の光で焼き殺すかであったが、その点では貴様は運がいいと言うべきだろう」
「それはそうよ。そうなる未来を見て、そうなるよう選んだのだから。
 だからこそ私はここにいる。貴方と契約を交わすまでの生存の道を手繰り寄せられた」

魔法少女の固有魔法。それは願いの内容に左右される。
織莉子の願いが生んだ魔法は『未来の光景を見て、引き寄せる』神の瞳。
記憶を取り戻すきっかけも、またそれだ。唐突に脳裏に映った「自らが巨大な獣に食い殺される」イメージの強烈さで、たちどころに本来の自分に立ち戻った。
吐き気を抑え帰路につき、落ち着きを見せたところで、召喚の条件が満たされこのサーヴァントが目の前に顕れた。ここまでの経緯はそんなところだ。

「未来視か。世界の果てその場からを見渡す千里眼ほどではないようだが、ホルス神ならぬ人の身が持つとは、小癪なものだが。
 その力を用い、余に謁見する資格を自ら掴んだ器量は褒めてつかわそう」

ファラオに対して不敬と咎められても不思議でない物言い。
しかしライダーはこれを寛容と流した。気骨ある言葉は嫌いではない。そしてそれを言い放った者も、器の小ささに溺れる凡俗とは違うようだ。
恐らく目にしたこともないであろう、王威溢れるファラオと邂逅したばかりでこうも平静を保っていられる。
即ちは、たとえ小さくとも、彼女もまた王者の素養を持つということ。
並の者では竦み上がるほどのプレッシャー。この時代に望むべくもない種であると、ライダーは理解している。


「だが」


今宣言した通り、触媒を用いない召喚自体はファラオの怒りを買う行為ではない。
しかし、それと裁きを行わないのは別の理由だ。
それよりも遥かに重大なこと、聞き咎めるべき事柄が存在するからだ。


「それを貴様をマスターとして認めるかは別の話だ。
 東の果ての魔術師よ。貴様らは魔法少女と名乗っていたか。その魂を贄とし消える定めの虚しき者よ。
 美国織莉子。貴様の魂は何色を見せる。この神王を認めさせる願いと価値を、貴様は果たして有するか?」

力はある。それに見合う精神も持ち合わせている。
悪くはない。だが、まだ足りぬ。
誇り高きファラオは下賤下卑なる魔術師に付き従う気など毛頭ない。不敬者の手で踊るよりは、自ら召喚者を灼き即時に消えるほうがましとしている。

故に、問うは覚悟。信念。
己が伴い、戦場を馳せるに相応しいものを持つかどうか。そこに尽きる。

美国織莉子、魔法少女に秘められた神秘を、ファラオはたちどころに理解している。
元より古代エジプトは魂の造詣に深い。まして彼は王たるファラオ。織莉子の魂が肉体を離れ一個の器物に集約した絡繰りを見抜くのは造作もない。
聞けば、魂を収める宝珠はソウルジェムといい、この聖杯戦争における『聖杯』の原型と同型であるという。
空の宝石に英霊七騎の魂を込めることで聖なる杯は満ちる。確かに、似通っている。
そして見滝原という舞台も彼女の生地。そこに因果を見いだせぬほどの愚物ではない。
聖杯戦争は、魔法少女のシステムと深い関わりがある。そこに興味を引かないといえば嘘になるが、やはり問うべきは先にある。
その上で聞きたいのだ。織莉子の意志を。
かような地で、彼女が何を為すのかを。


「私は……」


織莉子が口を開く。答えようとして、途中で詰まる。
言葉に窮しているのではない。願望はとっくに決まっている。それだけのみに費やされるのが、魔法少女となってからの人生なのだと了解している。
迷いは目の前の黄金の男に対して。
これまで出会ってきた人間、魔女、魔法少女の中で、あらゆる意味で危険であり、規格外。
そのような人物に、みだりに目的を晒してもいいものなのか。

聖杯戦争という、予知に全く引っかからず突如として起きた儀式もそうだ。
ライダーの見立て通り、聖杯のシステムの根幹には魔法少女―――即ちその開発者であるインキュベーターの影が濃厚に感じられる。
奴らの目的は判然としているとはいえ、このような出鱈目な計画を実行する経緯については不明な点が多すぎる。
希望を叶える願望器に至っては、さんざ手垢の付いた詐術だ。まず鵜呑みのまま信用していいものではない。

当初の予定を大幅に切り崩されたこの状況で、どう動くか。何を求めるか。
手駒も、友人もいない。魔力を回復させるグリーフシードの当てがあるかもわからない。
引き寄せるべき未来は?信じられるものは?
多くの疑問が胸中を占め脳内をかき乱し――――――視界は、太陽の瞳をした男で埋め尽くされた。

現実にある光景?いいや違う、織莉子の資格は未来視の最中にある。
実際の姿と寸分違わず、指し示す未来が一致している。変わっているのは背景。殺風景な白壁ではない、王が背負うに値する、黄金の光輝のみ。

目に元の光が戻る。
思考と光景はほんの一瞬。それだけで、心は決まっていた。



「私は、世界を救います」


織莉子は命運を告げた。


「未来に起きる破滅の未来。世界の終わりを防ぐ。そのために、ある少女を殺す。
 たとえその過程で、他人の命を切り捨てることになっても。あらゆる敵を葬り去り、遍くすべてを救いましょう。
 それが、今の私の生きる意味。そのために」

そう。近すぎるがゆえ気づかなかった。答えはとうに手にしていたのだ。
真に叶うか疑わしい聖杯に頼る?そうではない。力ならあるではないか。
今ここに在る、確かに実在している。サーヴァントという、絶対のカタチが。


「貴方の力を借ります、ライダー。神王オジマンディアス。古代エジプトを統べし太陽の化身よ。貴方と共に私は聖杯戦争に勝利する。
 そして勝利の暁に、私の世界に貴方は君臨する。絶望を絶ち、破滅を滅ぼす王として」



人の感情の影から生まれ這いずるのが魔女であるならば。
この世の全てを照らす光ならば、影も闇も残さず消し去ることも可能なはず。



「余に世界を献上するときたか」

真名を以て言われたライダー――オジマンディアスは笑う。
サーヴァントにも聖杯を求めるだけの願いがある。
生前の最期に抱いた嘆き。地上における我が身の脆弱。
光り輝く太陽にして、最大最強のファラオたる己が定命の者であるという、永遠でなきこと。
聖杯に願うは我が命。だが統べるに値しない痩せた地に降り立ったとしても意味はない。
三千を超えた歳月の世界に、自分が再臨するだけの価値があるか、揺らいでいた思いもある。

だがここに。
まったくの道の可能性が拓ける。
ファラオの威光の届かぬ、異聞の世界。そこが救いを、己を求めるというのなら。
応えてやらねばなるまい。

「良かろう、認めよう!その信念、世界を救わんとする者であれば余の無聊も慰めになるというもの。
 そうとも。魔法少女が希望を生み、絶望を育む者というならば。
 余は絶望を殺し、未来永劫繁栄を謳うまで!」

全てに得心してはいない。
織莉子には未だ翳がつき、心には矛盾がある。神王の信頼を得るには不足しているものがある。
これは先物買いのようなものだ。世界を救わんとする意志の強さ、ファラオをも利用せんとする信念の固さ。
小さきなれど王者の気風を持つ娘を見守り、導くのもたまには良かろうという程度。
道半ばにて折れるつまらぬ結末であればそれまでのこと。王を弄んだ代償を、然るべき形で与えてやるまで。

「ありがとう。では、始めましょうライダー。そう、」

オジマンディアスの覇気を浴びながら、魔法少女は微笑む。
白い部屋にいる、白い少女と黄金の男。
部屋の雰囲気はとうに神王たるライダーの気質に呑まれて華やぐように変質してしまっている。
その中で、染まっていないのは少女だけだ。
他に染まることをよしとせず純粋を守るように。
あるいは、万象全てを塗り潰す、絶対のように。


「これは、世界を救う戦いです」






【クラス】
ライダー

【真名】
オジマンディアス@Fate/Prototype 蒼銀のフラグメンツ

【属性】
混沌・中庸

【パラメーター】
筋力:C 耐久:C 敏捷:B 魔力:A 幸運:A+ 宝具:EX

【クラススキル】
騎乗:A+
騎乗の才能。「乗り物」という概念に対して発揮されるスキルであるため、生物・非生物を問わない。
ほぼ全ての獣、幻獣・神獣の類まで自由に乗りこなせる。ただし、竜種は該当しない。

対魔力:B
魔術に対する耐性。三小節以下の魔術を無効化する。大魔術、儀礼呪文であってもダメージを与える事は難しい。

【保有スキル】
カリスマ:B
軍団の指揮能力、カリスマ性の高さを示す能力。団体戦闘に置いて自軍の能力を向上させる稀有な才能。

神性:B
神霊適性を持つかどうか。ランクが高いほど、より物質的な神霊との混血とされる。
太陽神ラーの子であり、化身とされる。

皇帝特権;A
本来持ち得ないスキルも本人が主張することで短期間だけ獲得できる。

太陽神の加護:A
オジマンディアスは太陽神ラーの加護を受けている。

【宝具】
『闇夜の太陽船(メセケテット)』
ランク:A 種別:対軍宝具 レンジ:1~99 最大補足:500人
太陽神ラーの駆る舟を、自身をラーそのものであると見做すオジマンディアスは我が物として使用する。
太陽の力を具現した「蛇を屠る蛇(ウラエウス)」と呼ばれる強力な魔力光を地上に放射して、敵対者だけでなく、地上さえ灼き尽くす。
空間から舳先のみを出現させ、砲台のように使用することも可能。

『熱砂の獅身獣(アブホル・スフィンクス)』
ランク:A+ 種別:対軍宝具 レンジ2~50 最大補足:300人
天空神ホルスの化身であり、荒ぶる炎と風の顕現として人々から恐れられる、古代エジプトに伝わる伝説の人面獅子獣。
幻創種でも最高位の神獣であり、一体のみでも上級サーヴァントに匹敵する力を持つ。
両足の爪、灼熱の咆哮、知能も高く、生命力も首を落とされても動くほど強靭。
これほど強大な獣を、オジマンディアスにとって変えの効く斥候か偵察、「我が威光の一欠片」といい無数に保有している。

『光輝の大複合神殿(ラムセウム・テンティリス)』
ランク:EX 種別:対城/対人宝具 レンジ1~99 最大補足:1人
固有結界に類する、最大の切り札。
ファラオ・オジマンディアスの威を宝具として具現化させた大複合神殿。
デンンデラ大神殿、カルナック大神殿等の「複数の神殿から成る複合神殿体」を更に複数混ぜ合わせ、
アブ・シンベル大神殿、ラムセウム等の巨大神殿や霊廟をも組み合わせることで、現実には存在し得ない異形の巨大複合神殿体と化している。
これは生前に「過去現在未来、全ての神殿は自分のためにある」と宣言したことに由来している。
オジマンディアスと配下のスフィンクスを擬似的に不死とし、サーヴァントの全能力を下げる重圧を与え、
神に連なる以外の英霊の宝具を封印し、毒耐性のあるサーヴァントすら吐血させる毒を散布させる等、
神殿ごとに祀る神にまつわる加護や呪いを任意に与えることが可能。
デンデラの大電球による太陽面爆発にも等しい超遠距離神罰の他、墓自身を切り離し敵にぶつけるという奥の手も存在する。

【weapon】
無銘・短刀 

【人物背景】
建築王。太陽王。神王。ラムセス二世。メリアメン。
広大な帝国を統治した古代エジプトのファラオ。オシリスの如く民を愛し、そして大いに民から愛された。
苛烈であれど民に最上の幸福を与えんとする名君であり、ごく自然に神王(ファラオ)として振る舞っている。
王たるもの、聖者たるものには興味を抱き、自ら進んで事を行う。
ただ前提として、彼にとっての「最愛」は常にネフェルタリ王妃であり、「無二の友」はモーセである。

【サーヴァントとしての願い】
織莉子の世界に降り立ち、邪悪を滅ぼし世界を治める






【美国織莉子@魔法少女おりこ☆マギカ】

【マスターとしての願い】
オジマンディアスを自分の世界に招き、救済の魔女(鹿目まどか)を殺す。

【能力・技能】
魔法少女として優れた身体能力を備える。またベテランの魔法少女も竦ませるほどのプレッシャーを放つ。
戦闘では肉弾は避け、宝石形の球体を射出しての遠距離攻撃を得意とする。球体から刃を生成して突き刺すことも可能。
契約による固有能力は未来視であり、戦闘から長期の計画にまで応用は幅広い。対象の特定の未来まで指定できるが魔力の消耗も比例して激しくなる。
魂はソウルジェムという宝石に収められてるため、魔力さえあればどんな損傷でも回復可能。
ジェム内の濁りが溜まり心が絶望に至った時、その魂は魔女と化す。

【人物背景】
キュゥべえと契約した白の魔法少女。
市の議員を父に持ち、お嬢様学校でも成績優秀品行方正と尊敬の的だったが、父が汚職により自殺したことにより評価が一点。
自分が議員の娘としてしか見られてなかったことに絶望し、【自分の生きる意味を知りたい】と願うことで魔法少女になる。
だがその際発動した未来視で【救済の魔女】が世界を破壊する光景を目撃。
魔女になる前の少女―――鹿目まどかを感知し、彼女を殺すことで世界を救うのが自分の意味と定義して【魔法少女殺し】の事件を起こす。

基本的に優雅かつ上品で物腰柔らか。だが目的の為にいかなる犠牲も許容する、できてしまう冷酷さも備えている。
しかしそこに罪悪感を抱いてるのもまた事実である。
最終更新:2018年06月04日 21:22