見滝原の一角に、広大な竹林の中に建つ広壮な洋館と、洋館と棟続きになっている鍼灸院がある。
此処に住まうのは見滝原どころか、日本中に名の知られた鍼灸医。
如何なる病気も鍼の業のみで治療してのけると言われる技量に加え、もう一つ、鍼の業よりも知られているのは────。
「全く面倒な事に巻き込まれたものだ。殺し合いをさせたければ紅虫でも呼べば良いのだ」
溜息交じりに愚痴をこぼす男が一人。
聞いたもの全てがもう一度聴きたいと願う美声が空気を震わせる。
精緻な彫刻が施された重厚な黒檀の机に手をついて立つ姿は、黒ずくめの服装に腰まで届く黒い長髪と相まって、気障ったらしいと言われても仕方がない。人によっては見ただけで怒気を抱くだろう。
だが────。この男に限ってそれは無い。
個人の好み、その時代その土地の美的感覚。そういったものを超越して燦然と輝くその美貌。
その目に見つめられたものは永劫に視線を独占したいと願い。
その唇から溢れた吐息に触れたものは、生涯にわたって恍惚とその瞬間を思い出すだろう。
「面倒?」
男の声に応じるか細い少女の声。水晶の鈴の音の様な澄んだ美声。
ソファに腰を下ろす、男に負けず劣らずの漆黒の長髪の少女が放ったものだ。
如何なる優れた美幌の主でも、その存在が霞んで見える男と向かいあって、微塵も揺らぐ事なくその美を主張出来る麗姿。
紅薔薇の花弁のように赤く、桜の花弁の様に繊細な唇が、男に向かい言葉を紡ぐ。
「貴方は聖杯が欲しく無いの?」
「言われた課題をクリアすれば、望んだ報酬が手に入る…。それで本当に渡すつもりがあると思うかね?聖杯戦争とやらを催した事で黒幕が何の利益を得るか、それが判らない限りは何とも言えんよ。最悪、勝ち残った所で用済みとして始末されるかも知れん」
一旦うごく事を止めた男の唇が、再度動いて言葉を紡ぎ出すより早く、少女が口を開いた。
「言われてみればそうよね…。そういえばさっき紅虫って言っていたけれど、虫の妖怪か何か?」
少女の問いに、男は僅かに苦笑した。
「いいや、千年前に藤原氏の一人として生を受けながらも、''向こう側"の存在と融合して生まれてきた為に、凡ゆる記録から抹消された男だ。
尤も、''向こう側"の存在というのが、蜘蛛だったから、虫といえば虫だが」
「藤原氏………」
少女が感慨深げに呟く。
「かつて君を欺こうとした男の子孫が気になるかね?」
「いいえ、その男の娘と知り合いだもの。数多く居る子孫なんて今更気にもならないわ」
「ふむ………。その娘が復讐でも誓って追ってきたのかね」
「ご明察。逆恨みも良いところだと思うけれど。貴方はどうして千年前の貴族と知り合いなのかしら」
男は短く息を吐いた。
「その所業の故に私の先祖が倒して地の底に封したのだ。地の底から蘇ったら、私を仇呼ばわりして付け狙ってくる困った相手だよ。
尤も、自分以外の魔性を毛嫌いしていてね。世界中の魔性を殺し回ってくれたお陰で随分と楽をさせて貰った」
「今はどこで何をしているのかしら?」
男は少女を見つめて微笑した。
輝く様な美貌に微笑みかけられても、少女は全く揺らがずに平然と男を見ていた。
「色々あって今は月に居るはずだが………どうかしたのかね?君の出自に思うところが有るのかね?」
何やらしきりに頷いている少女に問いかける。
「思い出したのだけれど、さっき言った私の知り合いも、過去に妖怪を退治していたそうだけど、 藤原氏というのは存外武闘派なのかも知れない」
「単に妖怪を殺すのが趣味な一族なのだろう」
にべもない返しに少女が妙な表情で固まった。
「ふむ、話が逸れてしまったが、君はどうなのだ。聖杯に託す願いがあって此処に来たのだろう」
「え?無いけど」
即答。答えるまでの時間が秒にも満たぬその速度は、少女の回答が疑念の余地など全く存在しない真実の意思を告げていると明確に示していた。
「聖杯に願いたい事なんて無いけれど、好事家としては聖杯自体は欲しいわね」
男は肩を竦めて苦笑した。気障ったらしい仕草がやけに絵になる男だった。
「それはそれは………てっきり死でも願うのかと思っていたが。まあこの様な事態を引き起こす時点で、
聖杯は破壊するか封じるかしなければならんとは思っていたが、君が持ち去るのならばそれでも構わんだろう」
「どうして死を願うと思うのかしら?不老不死は貴方達人間が求めて止まないものでしょう?」
「経験さ。長く生きたものは大抵死を願うようになる」
「私も何時かは死を願う事になるのかしら」
「さて」
「それで…もしもよ、もしも私が死を願うと言ったらどうするつもりだったのかしら」
男は心底嫌そうな顔をした。そして言った。
「他のものならば兎も角、死ならば心当たりがある」
「言っておくけれど、私の不死は私と"月の賢者"との合作。貴方の技は見せてもらったけれど、そう簡単に破れると思わない事ね」
己の身体に鍼を打つ事で皮膚を鋼のように硬くしたり、死体となって心臓を貫かれても問題なく立ち上がったり、果ては空間に鍼を打つ事で虚空に穴を開けて少女の放った弾幕を吸い込んだりしたが、それでもどうにかなるとは思えない。
「私の技では不可能だ。万物が陰陽の気に支配されつつ流転する。その流れを我が流派では"'脈"という。
君の肉体はともかく、固定化された君の魂には"脈"が無い。これでは私の技の及ぶところではない」
「つまり代わりを用意すると」
「その通り、私の力が及ばぬならば力及ぶものを用意すれば良い。
其方が月ならば此方は星だ。妖剣我神、夜狩省三羽烏と謳われた紫紺の家に伝わる剣。
この国がまだ形を成さぬ時代に天より堕ちた星を鍛えて剣としたという。
正当な使い手の手になれば、如何なる妖物の装甲をも貫き、傷一つつけずにその魂のみを斬り滅ぼしたとされる妖剣。
その力全てを解放すれば、世界を支配することも可能となるという。この剣ならば君に死を齎す事が可能だろう。
継承者がいれば厄介極まりないだろうがね。あの妖剣を振るうとなれば、おそらくはサーヴァントと同等の強さだ」
「まあ私もその内に死を願うようになるかも知れないから聞いておくけれど、今は何処にあるのかしら?」
「さて。絶えていなければ紫紺の末裔が所持しているだろうが、あれは相当な力を持つ妖剣。
京の羅生門に夜な夜な鬼が出没していた頃、紫紺の家の者が'我神''を羅生門に安置した事があったそうだ。
その結果"我神''を手にした鬼により、他の鬼が皆殺しにされ、殺した鬼も自殺したと聞く。
紫紺の末裔が妖剣の気に耐えて現在まで続いているかどうか」
「………何処に在るかも分からない上に、危険極まりないものをよくも渡そうとするわね。しかも他人のものだし」
「世に在っても碌なことにならないからな。君が持ち去るというのならそれでも構わん」
「私の処で問題が起きても構わないと?」
「自己責任という言葉があってな」
ぬけぬけと言う美貌をジト目で見据える。
マスターである男の性格が大分掴めてきた。
「………………どうやって譲ってもらうつもりだったのかしら」
「人間誠意を以って話し合えば必ず通じるものさ」
「せーい」
長く生きてきた中でもこれ以上のものはそうは無いと断言できる棒読みの返答。
僅かな付き合いだが、この男が凡そ『誠意』等というものから程遠い人間性を有している事は理解できていた。
「疑うのかね。こうやって目と目を合わせて話せば皆分かってくれたさ」
ズイ、と夜天に白く輝く月のような美貌が眼前に迫り、少女は思わず仰け反った。
僅かに頰が紅くなっただけで済んでいるあたり、呑気そうに見えて随分精神力が強いらしい。
常の者ならば、恍惚と意識が蕩けて忘我の態となっていただろう。
互いに同等の美を持つ二人だが、男が少女の麗姿を至近で見ても平然たるものであるのに対し、少女の方に動揺が見られるのは、精神力でも容姿の差でもなく、経験の差。
男が男女問わず自身に並ぶ美の持ち主と対峙してきたのに対し、少女の方は美女の類はそれなりに見てきたが、そもそも男とは接した事すらロクに無かった。
この経験の差が両者の態度の差に現れているのだった。
────この男絶対性格悪い。
自分の顔が他人に対してどういう効果を発揮するのか、知り尽くした上でのこの振る舞い。これを性格悪いと言わずして何と言う。
「はああ………」
溜め息が溢れる。
そもそもこの身は元より不老不死、死んではいない。
腐れ縁の相手と殺し合った後、眠りに就いたら此処にいた。謂わばこの身は邯鄲の夢。覚めれば消える夢の中に居る身だ。
どうせ夢ならもう少しまともな相手と組みたかったが、なんでこんな性格の相手と組まなければならないのか。
「はああ………………………………」
急激にヤル気が無くなっていくのを感じる少女は、見知った顔が自分を指差して笑っている姿を幻視した。
【CLASS】
アーチャー
【真名】
蓬莱山輝夜@東方Project
【属性】
中立・中庸
【ステータス】
筋力:B 耐久:EX 敏捷:C 魔力:A 幸運:B 宝具:A +
【クラス別スキル】
対魔力:A
A以下の魔術は全てキャンセル。
事実上、現代の魔術師ではアーチャーに傷をつけられない
単独行動:C
マスターからの魔力供給を断ってもしばらくは自立できる能力。
ランクCならば、マスターを失ってから一日間現界可能。
【固有スキル】
蓬莱人:EX
老いず朽ちず、死なず死ねない。蓬莱の薬を服用する事で不死になった者の通称。
老いる事も病になる事も無く、死んでも肉体を再構築して復活する。如何なる毒も効かないが薬も効かない。
魂を打ち砕くような攻撃でもなければ即死攻撃も通じない。
戦闘続行スキルと対毒スキルの効果を待ち、あらゆる毒を受け付けないが、あらゆる薬も効果を発揮しない。
致命傷を負っても、例え肉体が消滅しても、任意の場所に肉体を再構成して復活する。この際マスター共々魔力を大量に消費する。
どちらかの魔力が足りなかった場合そのまらま消滅する。
命名決闘法:A
アーチャーの故郷、幻想郷で行われていた決闘方。
弾幕の美しさを競うもの。トラウマ級の高難易度弾幕なんで最高ランク。
同ランクの射撃と矢避けの加護の効果を発揮する。
魅了:D-
麗しい容姿と人を惹きつける仕草や立ち居振る舞い、話し方などを持って人を魅了する能力。
極まれば精神力以外での対抗が不可能な洗能能力となるがアーチャーはその域に到達していない。
性格が変わった上に長らく使っていなかった為に、ランクダウンを起こしまともに機能しない。
透化:C +
極めて呑気な性格から来るスキル。精神干渉を無効化する精神防御。
自身の容姿や環境も有ってか金品や魅了に対しては特に強い。
【宝具】
永遠と須臾を操る程度の能力
ランク:A+ 種別:対人・対界宝具 レンジ: 最大捕捉:
永遠とは歴史の無い世界の事で、未来永劫変化が訪れない世界である。
輝夜が永遠の魔法をかけた物体、空間では幾ら活動してようとも時間が止まっているのに等しく、一切は変わらず、腐らず、壊れない。
須臾とは、永遠とは反対にもの凄く短い時間の事である。
人間が感知出来ない程の一瞬で、彼女はその一瞬の集合体だけを使って行動する事が出来るという。
その時間は須臾の集合体だから普通に時間が進んでいるが、輝夜以外の人間には全く感知出来ない。そのため他人には輝夜が「いつのまにかそこにいる、いつのまにか全部の工程が終わっている」といった具合に見える。
これを応用すると「異なった歴史を1人で複数持つ」といった技能も可能であるらしい。
月都万象博
ランク:C ~A 種別:対人~対軍宝具 レンジ:1 ~99 最大捕捉:1 ~1000
アーチャーが幻想郷で開催した『月都万象博』に出展した品を取り出す。
地球よりも遥かに進んだ文明を持つ月の都産の兵器や、''月の賢者"謹製の薬物等がある。
神宝・難題
ランク:B ~A+ 種別:対軍宝具 レンジ:1 ~99 最大捕捉:1 ~300
アーチャーが過去に収集した物品。
神宝は現物で難題はレプリカ品であるらしい。
某魔法使いが狙っていたりする。
………天井板以外を。
【Weapon】
神宝・難題
【解説】
御伽噺に語られる『かぐや姫』その人。
不死となる蓬莱の薬を服用した罪で地上に流罪となり、幻想郷に流れ着いて数百年程を迷いの竹林に在る全く変化の無い永遠亭の中で過ごす。
永夜異変と呼ばれる異変の後、永遠亭の外に出る様になり、現在はやりたい事を探している。
里の子供達に昔話を聞かせたり、月都万象博を催したり、同じく不死の昔馴染みと殺し合ったりと今を生きる事を愉しんでいる様子。
天真爛漫で暢気かつ育ちの為か常人とは思考がやや異なっている所為か人間味が薄い様にも感じられるが、身内に対する優しさや、自分を育てた老夫婦への感謝の念を持ち合わせていて、情愛が存在しないわけでは無い、
過去よりも現在と未来を大切にする。
好事家を自称しており、珍しいものを収集し、他人に見せるのが趣味。
【聖杯への願い】
無い。好事家として聖杯は欲しいが。
【マスター】
大摩@退魔針シリーズ
【能力】
大摩流鍼灸術:
万物が陰陽の気に支配されつつ流転する。その流れを『脈』と呼び、経穴を打つ事で『脈』を操る技法。
元々は妖魔を滅ぼす為のものだが、鍼灸術としても用いる事が出来る。
美貌:
ランク付けるならC相当。交渉事を有利に進めたり、気迫を込めると相手の動きが一瞬止まる程度。
洗脳とか出来ないし月にビーム撃たせるなんて夢のまた夢。
【人物】
清和源氏の成立と共に設立された『夜狩省』の末裔。世間一般的には鍼師で通っている。
性格は阿漕でケチ。楽して結果を出せればそれで良いという思考の主。
超然としていてあまり感情が動かない為に人間味が薄い様にも見える。少なくとも何考えてるかは解り難い。
しかし、ヨグ=ソトースやザグナス=グドに対しては逃げずに率先して立ち向かい、鬼の王に対しては二度使うと死ぬ『崩御針』の二度目の使用を行おうとするなど、先祖代々継いで来た役割に対しては強い義務感と責任感を持っているようだ。
絵的には斎藤岬版とシン・ヨンカン版とが有るが、斎藤岬版で。
シン・ヨンカン版は大摩と十月をもう少しどうにかならなかったのだろうか。
【参戦時期】
紅虫魔殺行終了後
【聖杯に対する願い】
無い。聖杯は破壊するか封じる。
【把握媒体】
魔殺ノート 退魔針@全7巻
退魔針 魔針胎動篇@全3巻
紅虫魔殺行は読まなくても良い
原作小説は全2巻
最終更新:2018年06月04日 23:14