一粒の麦は、地に落ちて死ななければ、一粒のままにとどまる。だが、もし死ねば、多くの実を結ぶ。
ヨハネ福音書。
いつものうどん屋でうどんを啜りながら考える。
一、挨拶はきちんと
一、なるべく諦めない
一、よく寝て、よく食べる
一、悩んだら相談!
一、なせば大抵なんとかなる
自分が大切にしている心掛けだがどうにも引っ掛かる。
これを決めた時、私は一人で決めたのだろうか?
周囲に誰か居た気がする。
しかめっ面して考える。女子力が急激に減少して行く気がするが、女子力よりも大切な事だという確信が何処かに有った。
うーんうーんと唸りながら思考するも、皆目見当がつかない。
結局思い出せずお代を払って店を出た。
夕暮れの道をテクテク歩いてお家へ帰る。静けさに寂寥を覚えるがどうしてだか分からない。
私の登下校はもっと賑やかで………。
いやそれよりも私はこんなに穏やかな日々を送ってて良かったっけ?
何かやらないといけないことが有る筈………。
真剣に考える。茜色の空を見上げて思考する。
結局分からずじまいのまま家に着いた。
そんな日々が続き、“その時”は唐突にやってきた。
通っている学舎での一日が終わり、変わらず釈然としないものを抱えて帰る最中、通りかかった公園で小学生がジャングルジムの上に仁王立ちして居た。
注意しようと思って近づく耳に聞こえる、下から見上げる小学生達の「凄ェ!!」だの「そこにシビれる!憧れるぅ!」だのに混じって聞こえた一言。
「勇者だ!!」
この一言が頭蓋の内側に大鐘音と響き渡り、取り戻す己の過ちと抱いた激情。
叫び出したくなる衝動を抱えて、私はその場を立ち去った。
円蔵山の中に駆け入り、周囲に誰も居ない場所まで走り抜けて、私は感情を解き放つ。
「うわあああああああ!!!!」
手近な樹の幹を殴りつける。皆を巻き込んで!樹の夢を潰して!!何であんなのうのうとしていられたのか!!!
何でこんな大切な事を忘れていたのか!!何で自分で思い出せなかったのか!!!
幹を殴りつける。何度も何度も。本当なら骨が折れるまで続けたかったが、頭の中で囁く酷く冷静な声が止めさせた。
─────これは好機(チャンス)だ。
巻き込んだ勇者部の皆の運命を、私が奪った樹の夢を、取り戻す好機(チャンス)。
この好機は絶対に逃さない。“何でも願いが叶う”というならこれ位は叶えられる筈。
“大赦”と違って、最初から代償は説明している。信じても良いだろう……一応は。
失敗すれば死ぬが、だからどうした。こうでもしなければ、樹に…皆に合わせる顔が無い。
「皆……ゴメン」
勇者なんてものに巻き込んでしまった事を改めて、そしてこれから私がやる事を予め謝っておく。
これから私がやる事は、人の願いを踏み躙って、誰かを泣かせて、皆の未来を掴むという事。
きっと皆は哀しんで…怒るだろうなあ…………けれど…こうでもしなければ私は皆に顔向け出来ない。
「私は聖杯を手に入れる。そして皆を必ず救う……だから…私を許してね………」
呟いた私の耳に、声が後ろから聞こえた。
「気は済んだかい」
白い毛並みに赤い目の愛らしい小動物は、記憶と共に得た知識に照らし合わせれば、私のサーヴァントなのだろう……けれど…。
「ウォッチャー……?」
現れたサーヴァントのクラスはウォッチャー。明らかに戦闘向きとは思えない。しかも見た目小動物だし。
「どうして、あんなことをしていたんだい」
淫じ………もとい小動物は愛らしく首を傾けて尋ねてくる。身体が震えた。
「………私は」
正直言って迷う…が、これは話さなければならないだろう。
「私は……私達は……………神樹への供物だった」
途切れ途切れに語る。神樹の事、勇者部の事、満開とその代償の事、そして全てを知りながら伝えずに自分達を供物とした大赦の事。
「だから…私は……許せなくて………」
涙が溢れる。それでも目を逸らさずウォッチャーを正面から見る。
「私だけならまだ良かった!樹の為!皆の為に!私だけが犠牲になるのなら受け入れた!!
けれど!大赦は!私は!皆を樹を巻き込んで!!!」
「それで、君は大赦を─────」
「その前に…此処に……」
ウォッチャーが感情を全く感じさせない目線を向けてくる。
「其れで、君はどうしたいんだい?『僕は』戦うことは出来ないけれど、君の目的に力を貸すことは出来るよ」
「私は……皆を……救いたい!!」
心の底からの叫び。絞り出すような声を聞いてウォッチャーは。
「それが君の得る報酬かい?それなら……此処に契約は結ばれた。君の願いを叶える為に僕も力を尽くそう」
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~深夜~
「マスターもキッチリ殺すのがセオリーだ。彼らの死は無駄にはならない。宇宙の為に死ねるんだ。喜んで良いことだと思うよ」
複数の影に囲まれたウォッチャーの感情の全く籠らぬ平坦な声は、決して解けぬ疑問を偶々居合わせた野良猫に向かい、唯々語る。
「それにしても解らないなあ?決して死ぬことが無い。生命体にとって絶対に避けたい存在である、生命活動の終わり……『死』から保護されているのに、何が不満なんだろうね」
長い爪を振りかざした燕尾服の少女の影法師と、ショールの付いた帽子を被った少女の影法師が、マスターやサーヴァントの姿を求め、連れ立って夜の街へと消えていく。
「僕達は願いを叶える。神樹は『死』から護る。その代わりに世界の為に戦って、代償を払う。公平な等価交換だろう?死なない分、魔法少女よりマシだろう」
長剣を持った少女の影法師が、マントを翻して駆け出して行く。
長槍を持った少女の影法師が、後を追って跳躍する。
マスケットを銃を持った少女と、盾を持った少女の影法師が、高層ビルの上から見滝原を監視する。
「やっぱりわからないね。人間が家畜にやっている様に話しかけてみたけれど、一体なんの意味が有るんだい?」
長い耳を振って野良猫を追い払うと、ウォッチャーは首を傾げた。
「まあ勇者システムは非常に興味深い観察対象ではあるけどね。円環の理やほむらの様に、僕が宇宙の理となった時に活かせるかもしれない。
沢山の魔法少女を見てきた僕の知識に照らし合わせれば…聖杯を手に入れれば風は死んで贖罪をするだろうね。
実験やデータ採取に風を使えないのは残念だけど、彼女の居た世界にサンプルはまだ居るしね」
風の慟哭と嘆きを聞きながら、ウオッチャーが考えていたのは、自分達が構築したシステムに、“勇者システムというものを、どう組み込むか”というものだった。
「“満開”は実に効率的なシステムだ。厄介な魔女や魔獣の処理を行うにも、効率良く魔法少女を絶望させるのにも」
犬吠埼風の語った真実は、ウオッチャーの関心を引いた。それは魅了と言っていいかもしれない。
しかし、それは犬吠埼風にとってはさらに過酷な現実を招いただけ。
祈りと希望を種子とし、呪いと絶望を実らせる苗床の候補として見込まれたというだけ。
『座』という時間も空間も超えた場所に登録されたウォッチャーは、二度に渡る宇宙法則の改変の影響を受けなかった。
座のウォッチャーは只、女神と悪魔の宇宙の改変を観測し、“人間の感情は危険”だと結論したに過ぎない。
そしてウォッチャーは、人間の感情に依らない新たなシステムの構築を考え、此の地で聖杯戦争と勇者システムを知ったのだった。
「まあ、全ては観測を終えてからの事だけれどもね。目的達成の為に最も効率の良い方法は、宇宙法則となることだと教えてくれて、有難う。まどか、ほむら。
尤も、君たちとはもう対立することもないだろう。僕は人間の感情に依らない、新しいシステムを構築するからね」
ああ、真実ほど人を魅了するものはないけど。
ああ、真実ほど人に残酷なものもないのだろう。
【クラス】
ウォッチャー
【真名】
キュウべぇ(インキュベーター)@魔法少女まどか☆マギカ
【ステータス】
筋力:E 耐久:E 敏捷:E 幸運:B 魔力:C 宝具:EX
【属性】
秩序・中庸
【クラススキル】
戦場把握:C+
戦場となる土地の状況を監視、把握することが出来る。Cランクでは大雑把なマスターとサーヴァントの位置しか掴め無いが。宝具と併用することで精度を高めることが可能。
【保有スキル】
話術:D+
素質がある人間を魔法少女に勧誘する営業トーク。
技術としては並以下だが、断れないタイミングを狙ってセールスを行うので成功率は高い。
蔵知の司書:EX
インキュベーターの性質によるによる記憶の分散処理。
過去現在未来に知覚した知識、情報を、 たとえ認識していなかった場合でも明確に記憶に再現できる。
戦闘続行:EX
死なない。
総身が消し飛んでも何処からとも無く沸いてくる。
マスターが居る限り不滅と呼んで良い。
諜報:C
このスキルは気配を遮断するのではなく、
気配そのものを敵対者だと感じさせない。
単独行動:A+
マスター不在でも行動できる能力。
【宝具】
希望の土壌に、祈りの種子よ芽吹いて育て(魔法少女)
ランク:EX 種別:対人宝具 レンジ:ー 最大補足:ー
ウォッチャーが過去現在未来において観測した魔法少女を影法師として使役する。
魔法少女達はウオッチャーの指令を遂行する意識は有るが、自分で何かをする意思は無い。
ウォッチャーは必ず魔法少女の誕生に立ち会っている為、観測出来ていない魔法少女は存在しない。
『予知』の魔法を使う魔法少女の影法師を用いる事でスキル『戦場把握』の精度を高められる。
絶望を糧に、満開と咲き誇れ呪いの花(魔女)
ランク:EX 種別:対人宝具 レンジ:ー 最大補足:ー
ウォッチャーが過去現在未来に於いて観測した魔女を影法師として使役する。
魔女達はウオッチャーの指令を遂行する意識は有るが、自分で何かをする意思は無い。
大抵の魔女は観測しているが、ホムリリィの様に観測出来ていない魔女も居る。
僕らは種を蒔き実を収穫するもの(インキュベーター)
ランク:EX 種別:対人宝具 レンジ:ー 最大補足:ー
インキュベーターという存在そのもの。宇宙にどれだけ居るかもわからぬ群体で、意識と情報を共有しているインキュベーターの性質が反映されている。
英霊の座に登録された後も、現世のインキュベーターの観測した情報は座のインキュベーターに供給され続ける。
英霊の座に登録されたインキュベーターは、二度に渡る宇宙法則の改変の影響を受けず、宇宙の変化を観測した。
その為にインキュベーターの知識には“円環の理”が誕生する前の宇宙の知識や、悪魔となった
暁美ほむらによる改変前の宇宙の知識が存在する。
魔法少女としての“
鹿目まどか”や、その魔女としての姿も知識の内に存在し、宝具【希望の土壌に、祈りの種子よ芽吹いて育て(魔法少女)】で影法師として使役できる。
しかし、女神となった
鹿目まどかや悪魔となった
暁美ほむらは、聖杯の上限を遥かに超える為に再現不可能。
“インキュベーター”という英霊の正体は個では無く群れで有る。斃されても湧いてくるのは復活しているわけでは無く、群体で召喚されたインキュベーターから、新たな個体が湧いて来ている為で有る。これはマスターが健在な限り発動する。
インキュベーターを始末するには、マスターを排除して、新しい個体が湧いてこない様にする必要がある。
マスターの側に侍っている個体以外は、マスターやルーラーにすら観測出来ない。そして侍っている個体以外は何らの影響も現世に及ぼせない。
本来ならば、魔力の回収能力や、人間を魔法少女に変え、その代償に願いを叶える願望機としての能力も持つが、サーヴァントとしての分を超えている為に使用不可能。
【weapon】
見た目の愛らしさ
【人物背景】
宇宙のエントロピーを減少させる為に日夜営業に励む淫獣
二度に渡る宇宙の改変を越えて、自らを宇宙法則にすることを思いついた。
数多の魔法少女に信仰された事で『座』へと至った。
【方針】
優勝狙い。後腐れ無い様にマスターもきっちり殺す。
聖杯の仕組みや勇者システムを研究したい。
【聖杯にかける願い】
宇宙の理になって効率良いエネルギー採取を行う。
【マスター】
犬吠埼風@結城友奈は勇者である
【能力・技能】
「勇者システム」
神樹から力を授かって変身する。「勇者スマホ」のボタンが変身キー
「満開」しても精霊が増えたりはしない。
【weapon】
大きさを自在に変えられる大剣。
【ロール】
女子中学生
眼帯はものもらいという事になっている。
【人物背景】
『大赦』から派遣された勇者候補であり、勇者の資質がある生徒を集めて『勇者部』を作る。
バーテックスや勇者についてある程度の知識は有ったが、『満開』の代償については知らされておらず、妹の夢を結果として潰してしまった。
【令呪の形・位置】
オキザリスを象ったものが喉の部分に。
【聖杯にかける願い】
勇者を満開の後遺症から救う。
【方針】
優勝狙い。マスターは殺さない。
【参戦時期】
9話で大赦潰しに行く直前。泣いてる時に偶然転がっていたソウルジェムを握ってしまった
最終更新:2018年06月05日 21:51