「すっかり遅くなっちゃったな」

 星の少ない夜空を眺めて炭治郎は呟いた。
 迷子の子供を見つけて一緒に親を探していたのだ。本当は今日は早く帰って母さんの内職を手伝う約束だった。

「母さん、怒ってるかな」

 事前に家に連絡できれば良かったのだが炭治郎は携帯電話を持っていなかった。機械の類がどうにも苦手なのだ。リモコンでテレビをつけたり、固定電話を掛けるくらいのことならなんとかできるが、ちょっと複雑な物になるとてんで駄目だった。
 なんというか違和感があるのだ。嫌いなわけではないのだが、どうにも変な感じがする。まるで自分は元々機械のない世界にいたのではないかと思えるほどに。

「急がないと」

 炭治郎の家は学校から遠く離れた町外れの場所にある。大抵の人間はバスを使う距離だが炭治郎は徒歩で通っていた。母がひとりに兄弟が自分を含めて六人もいるのだ。節約できるところは節約しなくてはならない。
 母さんも毎日いっぱい働きながら皆の面倒を見ている。長男の炭治郎もできることはしなければ。
 街灯に照らされた道を早足で進む。
 違和感を感じたのは我が家であるボロの日本家屋が見え始めた時。最近隙間風も入るようになったその家の方からわずかに血の匂いが漂ってきた。

「いや……まさか……」

 そんなはずはない。きっと皆無事でいる。そう思おうとしたが上手くいかない。家族が血の海に沈んでいる光景が頭を過る。まるで実際に一度見たことがあるみたいに真に迫った光景。
 気がつけば炭治郎は走り出していた。

「みんな! ただいま!」

 玄関の扉を開けて大声で叫ぶ。「おかえり」という返事が聞きたくて、みんなの声が聞きたくて。家中に響くような大声で叫んだ。
 待っていたのは無言の静寂と、真っ赤に染まった六つの箱。頭に浮かんだのは巷を騒がせる『赤い箱』の事件。
 そして、その瞬間炭治郎の脳内を閃光が迸った。
 惨殺された家族、鬼に変えられた禰豆子、終わらない鬼との戦い、戦い、戦い。
 過去の惨劇と目の前の惨劇。喉から声にならない叫びがせり上がった。全身を奔る痛みは幻痛なのか。汗が吹き出す。頭が割れないのが不思議なほどの記憶の本流、鼓動が速まり。呼吸さえままならない。そんな状態が続いて。
 終わりを迎えた時、炭治郎は床の間に向かって駈けた。飾られていた刀を手に取る。今まではただの飾り刀だと思っていた。でも違う。これは日輪刀だ。人が鬼を斬る為に作られた刀。炭治郎の武器。
 炭治郎は玄関から飛び出す。その前に、立ちふさがる影があった。

「無駄よ」

 その少女は月に照らされながら堂々と立っていた。胸の辺りに目玉の形をした奇妙な飾りを垂らした、色の薄い少女。

「退いてくれ」

 炭治郎は湧き上がる怒気を精一杯抑え込んで言った。少女はまるで動じずに答える。

「犯人はもう近くにはいないわ。今更追いかけようとしても無意味よ」
「いいから退いてくれ!」
「刀を剥き出しにして歩いても捕まるだけよ。貴方の気持ちはよく分かるけれど、今はまず落ち着きなさい」
「助けられなかったんだ! 俺はまた間に合わなかった! 今度は……禰豆子まで……」
「記憶の戻っていない貴方がいたところでなにもできなかった。間に合わなかったんじゃない。貴方はまた生き残ることができたのよ。それとも貴方の家族は貴方ひとり生き残ったことを責めるような人達なの?」
「そんなわけっ……!」

 そんなわけない。きっと良かったっていう。炭治郎だけでも生きてて良かったって。責めるなんてそんな真似、絶対にするわけがない。

「ううぅぅぅあああああああああああああああああああああ!!」

 炭治郎は叫んだ。内から湧き上がる抑えられない感情を全部吐き出すかのように。いくら叫んだところで到底吐ききれるはずなんてないけれど。
 そして――叫びを終えた炭治郎は呼吸をした。全集中の呼吸常中。鬼と戦う為に身に着けた力。禰豆子を守り抜く為に身に着けた力。
 炭治郎は真っ直ぐに少女を見つめる。

「ありがとう。きみのおかげで無茶をしでかさないで済んだ」

 少女は首を振り、言った。

「礼には及ばないわ。貴方が無茶したら困るのは私もだから」

 その言葉を聞いて炭治郎は確信した。

「それじゃあ、やっぱり君がそうなんだね」
「そう、私は貴方のサーヴァント、古明地さとり。第三の眼で心を読む能力を持っています」

 そう言うと彼女の胸の前の目玉が動いた。どうやらただの飾りではなかったようだ。
 心を読む力、近くに犯人がいないことや、炭治郎の過去や家族のことが分かったのもその力のおかげなのだろうか。

「貴方が無意識の内にそのことを考えていたからね。さすがの私でも意識の奥底に沈んでいる心までは読めないから」

 彼女はこともなげに言った。

「本当になにを考えているかわかるんだね」
「ええ、貴方が今なにを考えているのかもね……」

 もう俺のような思いを誰にも味わわせたくない。炭治郎の中にはその想いが強くあった。
 聖杯にかける願いとかはまだよく分からない。だけどあんな殺し方ができるのはサーヴァントかマスターだけだろう。身勝手に人々に害を成そうとするのはきっと一組だけじゃない。彼らを止められるのは同じくサーヴァントとマスターだけだ。

「だから俺やっぱり行くよ。警察に連絡とか先にしなくちゃいけないことはいっぱいあるけど。今度はちゃんと刀も隠して、行く」
「……でも泣くくらいしたっていいんじゃない?」

 さとりはそう囁いた。

「あの時とは違う。今は守るべき妹もいない。だったら今くらい思い切り泣いたっていいんじゃない?」
「守るべき人ならいる」

 この町に住む人々を守り切るまで、炭治郎は立ち止まるわけにはいかない。




 さとりが聖杯戦争に参加した理由はただの暇つぶしだった。聖杯に願いだとかサーヴァントとしてやり遂げたいこととか、そんなものはなにもない。ほどほどに相性の良いマスターと組んで退屈がしのげればそれでよかった。
 だけど炭治郎の心が見えた。
 全身を斬り裂くような激しい怒りと悲しみと、その奥にある暖かな想い。さとりはその暖かさに惹きつけられた。
 彼のサーヴァントとなって目の前に現れ、無茶をしようする彼を本気で止めた。
 さとりの心を読む能力を聞いても彼はまるで嫌がらなかった。それは彼の話す言葉に裏がないからだろう。大抵の人間は心を読まれるだけでも嫌がるが、彼は心を土足で踏み荒らすような真似でもしない限りきっと怒らないだろう。
 さとりは心を読まれて狼狽えた者の顔を見るのも好きではある。しかし本当に好感を持つのは素直で純粋な者に対してだ。さとりの周りにいた動物たちのような。

(本当に純粋で、そして優しい子)

 だからこそ心配になる。その純粋さと優しさがいずれ彼自身の破滅を招いてしまわないか。
 涙を内に秘められる強さが決定的に彼の心を折ってしまわないか。
 さとりは炭治郎の後ろ姿を眺め、呟いた。

「頑張るのは……ほどほどにするつもりだったんだけどね」




【真名】
古明地さとり@東方project


【クラス】
アーチャー


【パラメーター】
筋力:E 耐久:D 敏捷:C 魔力:A++ 幸運:C 宝具:EX


【属性】
秩序・中庸


【クラススキル】
対魔力:B
 魔術発動における詠唱が三節以下のものを無効化する。
 大魔術、儀礼呪法等を以ってしても、傷つけるのは難しい。

単独行動:C
 マスターからの魔力供給を断ってもしばらくは自立できる能力。
 ランクCならば、マスターを失ってから一日間現界可能。



【保有スキル】
読心:A+
 相手の心を読み取る能力。
 相手が現在考えていることなら完全に読み取れる。
 さとりは神など高位の者の心も読むことができ、彼女が心を読めない相手はほぼ存在しない。

魔力放射:B
 自身の魔力を撃ち出し攻撃するスキル。
 魔力放出とは違い肉体や武器を強化することはできない。

高速思考:B
 物事の筋道を順序立てて追う思考の速度。
 高い読心能力を持つさとりは、複数の心を同時に読み理解する能力と、なにを思われても堪えない図太さを持っている。

想起「テリブルスーヴニール」
種別:対人催眠 最大捕捉:5人
 魔力放射によって出した弾と光の組み合わせで相手に催眠を掛け、意識の底に沈むトラウマを浮上させる。
 基本的に視覚から作用する催眠術であるため、対魔力などでは防げない。


【宝具】
『想起「■■■■」』
ランク:E~EX 種別:対人宝具 レンジ:??? 最大捕捉:???
 以下の二つの効果のどちらかを使用できる。
 1:相手の心から読み取ったトラウマを再現した幻覚を見せる。テリブルスーヴニールの記憶の呼び覚ましを併用することで、精神力の弱い相手になら今この瞬間に起こっているかのように錯覚させられる。
 2:相手の心から読みったトラウマとなっている技などをさとりが再現する。さとり自身の能力を超えて再現することが可能で、独自のアレンジを加えることもできる。


【人物背景】
心を読む能力を持つ「さとり」という種類の妖怪。
その能力ゆえ人や他の妖怪には嫌われているが、言葉を持たない動物たちには好かれていて、屋敷にはペットがいっぱいいる。
本人は自分の持つ能力のことを高く評価しており、気に入っている。

【サーヴァントとしての願い】
退屈しのぎ。その予定だった。


【マスター】
竈門炭治郎@鬼滅の刃

【マスターとしての願い】
町の人々を守りたい。悪事を行うマスターやサーヴァントは放っておけない。

【weapon】
『日輪刀』
鬼殺隊に支給される鬼を斬る為の刀。特殊な金属で作られておりわずかに神秘を帯びている。

【能力・技能】
特殊な呼吸法を用いた剣術。
また嗅覚に優れており、単純に匂いを嗅ぎ分ける他にも、悲しい匂い、怒ってる匂いなど感情も匂いで読み解ける。

【人物背景】
人を喰らう鬼を狩る「鬼殺隊」の一員。鬼になった妹を元に戻すため鬼の大本である鬼舞辻無惨を追っている。

【参戦時期】
6巻終了後。
最終更新:2018年06月05日 21:59