夕暮れ。
 人々の雑踏や喧騒の時間帯。
 あまりにも当たり前な日常は、しかし彼女にとっては今や異質な雑音として傍を通りすぎていった。

 父と母への帰宅の挨拶もそこそこに、逃げるように少女は足早に自室に向かう。
日課であるピアノの練習すらせず。備え付けのピアノの前を通りすぎ、人一人すっぽり入れるほどの大きな姿見の前に立つ。

 映るのは、真っ直ぐに立つ自分の姿。
手と足、傷ひとつない整った顔。人として当たり前の、五体満足な形だ。
そう。何一つ、異常なことなどなかった。

───だからこそ、『異常』であった。少なくとも、彼女にとっては

「マスター?大丈夫ですか?」

 突如として、自分以外誰もいないはずの室内で、背後から声がかかる。
ビクリと僅かに驚き、そろりと振り返った。

「え、ええ……大丈夫、ですわ。……ええっと、ライダー、さん?」

声に対し、少女────ノエル・チェルクエッティは、そう返す。
 ライダー。ノエルのサーヴァントであるその少年は、自身をそう名乗っていた筈だ。

「あ、すみません。突然声をかけてしまって……驚かせてしまってしまいましたか?」

黒く、細かい装飾が施された団服を身に纏ったライダーは、白髪を揺らし、申し訳なさそうに眉を下げる。




 ずっと、違和感ばかりだった。切っ掛けらしい切っ掛けはどれとは言えない。
けれど、一番の違和感は───

 今日も、いつも通りピアノ教室に通い、いつも通りにピアノを弾いていた。
美しく、淀みない旋律。聞く人が聞けば拍手が沸き上がるであろう音色は、しかしたった一人の親友の賞賛しかなく。教室内には嫉妬混じりの悪口にも近い悪評がささやかれるのみだった。
 そんな中、ノエルは手足に違和感を覚えていた。
怪我をしているわけでも、痺れているわけでもない。だが、ここ最近感じる居心地の悪い違和感。
「当たり前にピアノを弾いている」。そんな自分自身すらも、何故だか信じられないことのように思えていた。

 ピアノ教室が終わり、親友とも別れた帰り道。あるひとつの「事件」がノエルの耳に入った。

───聞いた?猟奇殺人のハナシ!
殺された被害者の死体は皆、真っ赤な箱の中に詰められてるんだって!

───箱の中?それって、手足をバラバラにされてっ……てこと?

───そんなもんじゃないって!なんでも、体の中身が隅から隅まで観察できるように箱に敷き詰められてるらしくて───


 女子学生が話すことではない、あまりにもグロテスクな内容。
しかし、ノエルにとって重要なのはそこではない。

   『手足をバラバラに』

何故だろうか。ひどく……ひどく、頭に引っ掛かるワードだった。
 聞き慣れている、というより。「身に覚えがある」感覚。
猟奇的であるのに、何故。

  異常ではない異常
  違和感のある手足
  『悪魔』の所業のような、猟奇事件  

 何かのキーワードが、偶然にも揃っていく気配がする。

ふと、ノエルは顔を横に反らした。そこにあったのはショーウィンドウ。
パーティーに着るような豪華なドレスを着たマネキンが、今にも踊り出しそうなポーズで並べられている。
目の前には、黒いドレス


───それを着ていたのは、右目に眼帯をした、左手以外の四肢を失っている───


 カチリと、最後のピースが嵌まる音が、した。


 そうして記憶を取り戻したノエルは、混乱しながら人気のない場所へ移動し、そこで召喚されたサーヴァントと初めて顔を合わせ。簡単な事実確認の情報整理をしながら帰路についた。
それが、これまでの経緯である。

自室にて、自分の手の中にある小さな物体を転がす。
ソウルジェム
『聖杯戦争』とやらの重要アイテム。サーヴァントの魂を注ぐもの。

「ライダーさん。本当に聖杯は、手にしたものの願いを叶えるのですわよね?」
「はい、聖杯戦争を勝ち進んだマスターとサーヴァントのみが手にいれることができる願望機……それが、聖杯です。」

 願望機、と聞いてノエルはぐっと息を詰まらせる。
この世界にくる前、記憶を失う直前まで、ノエルにはとある願いがあった。

  復讐
  自身を陥れた者たちへの、報復

 ノエルが本来住んでいた街。ラプラス市の市長であるラッセル・バロウズに騙され、「悪魔」と契約し、代償として四肢を失った。
紆余曲折をへて、契約した大悪魔「カロン」と協力して、ノエルは市長への復讐の決意を固めた。
そして、秘書官であるシビラを追い詰めたところで───記憶は途絶えてしまっている。

 改めて、鏡に映る自分を眺める。
どうゆう理屈かわからないが、そこにいるのは悪魔と契約する以前の……即ち、手足の揃った紛うことなき自分の姿である。
 失ったものが、そこにある。
沸き出る感情は喜び……ではない。
愕然。そう表現するにふさわしい、行き場のない空虚が、ただただ広がっていた。

台無しにされた。ぶち壊された。そんな感想しか出てこない。

(……今の私に、あの時のような復讐心は、あるの?)

復讐を決意したのは、奪われた屈辱。そして親友を巻き込んだことが許せなかったから。だが……
脳裏に浮かび上がる、親友の姿。
偽りの日々の中の、あどけない笑顔。

たったそれだけのことで、怒りと憎悪が薄れ、霧散していく感覚がした。

……わからない。これからどうしたらいいのか、すべてを敵に回してでも叶えたい願いが今の自分には……果たして、存在するのか。

「……マスター、貴女がどのような願いを叶えたいと思っているか、僕には分かりません
しかし、サーヴァントとして、マスターである貴女を守り抜く。その事だけは、必ず約束します。」

 行き場のない感情を胸に茫然としているノエルに、ライダーはそう声を掛ける。

「守る…本当、に?」

 隣で共に戦っていた悪魔は今はいない。世界にただ一人取り残されたような恐怖と寂しさに、その言葉はほんの少しの慰めと救いとして心に響いた。
 その反応に、ライダーは安心させるように笑顔を浮かべる。

「はい、……改めて、自己紹介しますね。

サーヴァント、ライダー。真名、アレン・ウォーカー
「AKUMA」を破壊する、エクソシストです。」




  悪魔と契約し、復讐を誓った少女
  AKUMAを破壊する、救済の悪魔祓い

属性の相反する二人の行き先は、果たして。



【クラス】
ライダー
【真名】
アレン・ウォーカー
【出典】
D.gray-man
【属性】
中立・善

【ステータス】

筋力:B 耐久:C+ 敏捷:C 魔力:C 幸運:D 宝具:A+


【クラス別スキル】

対魔力:C
 第二節以下の詠唱による魔術を無効化する。
 大魔術、儀礼呪法など大掛かりな魔術は防げない。

騎乗:─
 「奏者ノ資格」スキルにより失われている。

【固有スキル】

奏者ノ資格:A
 航海のスキルが変異したもの。船と認識されるものを操縦することができる。
 このスキルで奏でられる「子守唄」を聞いたものは、精神汚染系の効果を確率で解除。同時に一時的に精神対抗ロールにプラスの補正が掛かる。
 後述の宝具を使用するのに必要。

貧者の見識:B
 相手の性格・属性を見抜く眼力。言葉による弁明、欺瞞に騙され難い。
 幼い頃、拾われたサーカス団でこき扱われたり、師に押し付けられた借金の返済に死ぬほど苦労した経験から獲得したスキル。

戦闘続行:A+
 往生際が悪い。
 霊核が破壊された後でも、最大5ターンは戦闘行為を可能とする。
 ライダーは心臓に穴が空いてなお生き延びたことがある。

呪いの左目:A
 ライダーの呪われた左目。
 AKUMAとなった養父から受けた傷が変容したもの。本来はAKUMAに囚われた魂が視認できるが、スキルとして昇華され能力が若干変質している。
 自身を中心とした半径300m圏内の英霊及び英霊由来の存在(使い魔など)を探知。霊体化を強制解除させることができる。
気配遮断などの隠蔽系スキルは中程度の確率で無効化する。
 破壊されても極少量の魔力供給によって修復が可能。

エクソシスト:B
 悪性殺戮兵器「AKUMA」を刈る組織「黒の教団」に所属していた証。
 魔獣や魔性など、魔に属するものへの行動判定にプラスの補正。及び自身へのターゲット集中の効果が得られる。


【宝具】

『神ノ道化(クラウン・クラウン)』
ランク:A 種別:対軍/対魔宝具 レンジ:1~20 最大捕捉:50人
 ライダーの左腕である神秘の結晶「イノセンス」の真の姿。
道化を連想させるフード付きの白いマントを纏い、左腕は大きな鉤爪に変貌する。
 この宝具を解放中、魔に属するものへの特攻、及びDランクの神性を獲得する。

 セイバーで召喚されれば、この宝具を転換(コンバート)した剣の宝具が追加される。


『ノアの方舟(メモリー・オブ・ノア)』
ランク:B+ 種別:結界宝具 レンジ:1~30 最大捕捉:300
 全ての生物のつがいを乗せ、神の粛清を逃れたとされる船。見た目は巨大なキューブの形をしている。
宝具内への侵入はライダーが出現させる扉によってのみ可能。扉はライダーが行ったことのある場所であればどこでも出現させることができる。

 内部には白い街並みが広がっており、家々の扉は宝具内部の別の空間、あるいは外部へ通じている。
 この空間内はライダーの自陣扱いになる。敵対サーヴァントは全パラメータがダウン。及び宝具使用不能になる。
 外部からの干渉は、Bランク以上の神秘によってのみ可能。


『悪性絶無・種護運船(アーク・オブ・ノア)』
ランク:A++ 種別:結界宝具 レンジ:1~50 最大捕捉:500
 「ノアの方舟(メモリー・オブ・ノア)」発現中に真名解放が可能。「殻を被るようにして」発現するため、上記の宝具の能力を丸々引き継いでいる。

 堕落した人類を滅ぼす大洪水を乗り越えた船───神とともに歩んだ人間・ノアと、すべての動物のつがいを乗せた「方舟」。
 これは、「伝承としてのノアの方舟」を再現した宝具である。
 真名解放時、外見は白い巨大な船の姿へと変貌する。

 宝具の内部と外部を完全に遮断。因果干渉や時空跳躍による攻撃をも無効化する。
 内部にいる間は、「死を観測されない」
 生命であれば、木端微塵になろうが、霊核が破壊されようが、仮死にすぎず。
 宝具の外に出ることで初めて死ぬことができる。 


 ライダーが自軍───「仲間」と認識したサーヴァントには以下の補正が付与される。

  • 属性が秩序、もしくは善ならば幸運以外のパラメータがワンランク、両方備えているならツーランクアップ
  • 混沌及び悪属性サーヴァントからの攻撃を十分の一カット。(攻撃と見なされない行動判定に、この補正は働かない)

 「船」というカテゴリにおいて世界でも屈指の神秘と知名度を誇るからこそ可能な、まさしく「奇跡の再現」である。
 しかし、ライダーは「ノアの方舟を所持している」という事実のみでこの宝具を所持しているため、
真名解放には「令呪の二画消費」という厳しい条件がつく。

【Weapon】

 小さい妖精のようなゴーレムを使い魔として使役できる。
 余談だが、本来「奏者ノ資格」はこのゴーレムとセットで初めて機能するが、スキルとして昇華されているためライダー単体でも問題なく機能する。

【解説】
 悪性兵器「AKUMA」を破壊するヴァチカン直属の組織「黒の教団」に所属する少年エクソシスト。

【サーヴァントの願い】
特になし。マスターを守る


【マスター】
ノエル・チェルクエッティ
【出典】
被虐のノエル
【マスターとしての願い】
自分を陥れた市長とその秘書官への復讐……のはずだった。今は……?
【weapon】
特になし
【人物背景】
 ラプラス市に住む、ピアノの名門チェルクエッ ティ家に生まれた少女。
ラプラス市長であるラッセル・バロウズに騙され、大悪魔「カロン」と契約し、代償として四肢を失う。
 自身の不甲斐なさが招いた結果に、一時期は自分に復讐の資格はないと弱気であったが。
親友であるジリアンが巻き込まれたのを期に、ラプラス市すべてを敵に回してでも市長に復讐を果たすと、決意を固める。

 参戦時期は、海運会社アクエリアスで秘書官シビラ・ベッカーを屋上まで追い詰める直前から
最終更新:2018年06月05日 22:40