見滝原の教会跡の外れに、人ひとり立ち入らない緑に溢れる雑木林があった。
開発され、街中の自然がほぼ人の手によるものとなった見滝原では異質で、鬱蒼と木々が生い茂る、まさに森と形容しても過言ではない場所だった。
そんなところに、根が浮き出ている土を踏みしめる音が立つ。
音源にあたる地点にいたのは、人間の男。 見た感じでは丸腰で、水色のTシャツにブルージーンズを履いているどこにでもいるような壮年に見える男性だった。
何故この地に足を踏み入れたのかは分からないが、男は殆どが幹と葉で埋め尽くされた周囲を見回すと、その場で黙々と作業にあたった。

手始めに、男は近くの木を素手で殴り始めた。
男は木を切るための斧すらも持っていないので、頼れるのは己の拳のみである。
特におかしいところはない。これは男が開拓する際に真っ先にやるべきことなのだ。
しばらく木の幹を殴っていると、やがてポン、という小気味いい音と共に、木の幹の一部が小さな立方体となって傍らに弾きだされる。
男はそれを拾ったのを皮切りに、周辺の木の幹を自らの拳で数本、立方体にして自身の懐に収める。
幹を取られた木の葉は何故か据え置かれていて宙を舞っていたが、時間が立つと次第にその姿を忽然と消していた。
おかしいところは何もない。

それなりの数の木を拾った男は、今度は立方体に変えた木の幹をさらに4つの木材へと変えた。
いや、厳密には原木を手作業で木材に加工した、と言った方がいいのかもしれない。
しかし、実際には魔法のように「変えた」としか形容のしようがないほどの手慣れた手つきだった。
男は次に、生まれた4つの木材を合成して作業台を製作した。
男がひょいと軽い手つきで腕を振ると、ポンという音と共に立方体の作業台が設置される。
上面には3×3マスの格子模様が、側面には作業用の道具などが取り付けられており、これでより複雑な道具を作成可能になるだろう。

そんな折、雑木林に二人目の来訪者が現れる。背後からは長い間隔で土を踏む音が男の耳に入ってきた。
しかし、土を踏む音はか細く何かを恐れているようで、男とは違ってこれといった目的を持って踏み入った者ではなかった。

「わぁぁぁっ!?」

男に寄ってきた誰かは、男を見て驚きのあまりその場に尻餅をついてしまう。
この場所に人がいることに驚いたかは定かではないが、悲鳴にこっちがびっくりしそうだと男は思った。
男が来訪者の方へ向くと、羽が二つ着いている穴の開いた帽子を被り、リュックサックを背負った中性的な外見をした子供がいた。
子供は、怯えた上目遣いで男を見上げる。

「た、食べないでください!」
「食べねえよ!ゾンビじゃあるまいし。いくら何でもビビり過ぎじゃないか?人をそんな目で見るんじゃない」

男はやれやれという形で肩をすくめながら言う。
誰しも過度に怖がられると不愉快な思いが多少は湧くものだ。
男は子供を相手に少しだけ陽気な成分を含んだ口調で話すも、子供は態度を変えない。
それどころか、子供の目は明らかに人間ではないモノを見る目を宿していた。

「ヒト…?ヒトって、そんな形をしているんですか!?」

子供は男の姿を見た上で言った。
子供がそう言うのも尤もで、男の身体構造はヒトというにはあまりにもかけ離れていた。
作業台や収集した木の幹と同じく立方体の頭部に、関節のない四角柱の形をした手足、そして幾何学的な直方体の胴体。
男の体は、全て角ばった四角でできていた。

「いや、俺は元々こんなだから人間が全員そうってわけじゃないさ。ここは見滝原でも辺境だから俺達以外誰もいないが、街の方へ行けばきっとアンタと似た外見のヒトもいるだろうよ」
「ヒトがいるって…じゃあ、ここはジャパリパークじゃないんですか!?」
「ジャパリパークってのはどこだか知らねえが、そういういことになるな」

子供は考え込むように俯き、混乱が抜けきっていないようだった。

「低い声…髭も生えてますけど、もしかしてオス…じゃなくて男のヒトですよね?」
「オスって、随分とませた言い方だな…見りゃわかるだろ?」

男は立方体の頭部にある無精髭を関節のない手で指しながら言う。
子供も考える力はあるようで、努めて冷静になろうとしている。

「…ということは、あなたはフレンズさん、じゃないんですよね?」
「ふれんず?いいや、俺は確かにヒトだが、サーヴァントだ。“クラフター”のサーヴァント。そのくらいは知っといてくれよ、マスター。
真名は…特に名はなかったが、民間伝承じゃあ『スティーブ』なんて呼ばれてたらしい。何はともあれ、よろしくな」

スティーブは子供――かばんに、しっかりしてほしいという意味合いも込めて答える。
マスターから離れた場所で、サンドスターによりフレンズが生まれるが如く自然発生的に召喚されたからか、少しばかり見つけるのに手間取ってしまったが、
あの様子からしてこの子供が記憶を取り戻した自身のマスターで間違いないだろう。
こんな辺境にNPCがのこのこと顔を出すとも思えない。

「僕は…かばんっていいます。でも、クラフターさんがサーヴァントってことは…聖杯戦争…やっぱり、ボクはあの後――」
「何かあったのか?サーヴァントなんだから、話はいくらでも聞いてやるぜ?」










――ありがとう、元気で。





かばんが最後に見たのは、巨大化した黒いセルリアンが自身に覆いかぶさってくる光景だった。
決死の思いでセルリアンに飲み込まれたサーバルを救出し、どこまでも付き添ってくれた親友を守らんがために囮になり、かばんはそのままセルリアンに捕食された…筈だった。

泥とも取れぬドス黒い流体に飲み込まれ、意識が無くなったかと思うと、気が付けば木々の生い茂る雑木林の中。
付近にはフレンズどころか、動物のいる気配すらなかった。
そしてしばらくして脳裏に浮き出たのは、セルリアンに飲み込まれた時の生々しい感覚と『聖杯戦争』『ソウルジェム』という単語。
「ヒト」のフレンズとして生まれてからというものの、ヒトの社会に溶け込んだことがないかばんには、そもそも聖杯戦争という単語はもちろん、魂のような形而上的な概念を理解するには少々レベルが高すぎた。
そしてわけもわからずに雑木林を彷徨っていると、離れたところでいつの間にか召喚されていたスティーブと出会った、というのが事の次第である。

「へえ、マスターにもいろいろあったってワケか」
「いきなり見滝原ってところに飛ばされたのはびっくりしましたけど、確かに僕以外のヒトに会えると思うと嬉しい気持ちはあります」
「マスターなりに、頑張ってきたんだな」
「い、いえ、そんな…」

自身の覚えていることをできる限りスティーブに伝えたかばんは、帽子を深く被る。
眼前にいる四角形でできている自身のサーヴァントは、話してみると悪い人柄でもなさそうだった。
ジャパリパークで出会ったたくさんのフレンズには見られない「男」ではあるが、それは同時にフレンズの枠に入らない生粋のヒトでもあるということだ。
外見こそ驚いたが、そこはヒトもフレンズも同じ、十人十色、博士の言っていたように多様であることを表しているのかもしれない。

「だが、ヒトに会ってそれからどうするんだ?マスターはもうここに来ちまった。もう後には引き返せない。
既に知ってるだろうが、聖杯戦争は有体に言えば殺し合いだ。もしかしたら、かばんちゃんが本当に食われるなんてこともあり得るかもしれない」

ここはジャパリパークではなく、聖杯戦争のために再現された見滝原という場所で、街にはかばんと同じヒトが住んでいる。
それはかばんの探し求めていたヒトの住むちほーがあることを意味していたのだが、それをかばんは素直に喜ぶことはできなかった。

「それはもう、わかっています。正直に言うと、セルリアンに襲われた時よりも怖いです。でも、あんな別れ方でよかったのかなって…」

かばんはジャパリパークでの旅の中で出会ってきたフレンズを思い返す。
思えば、サーバルにも、ラッキービーストにも、フレンズの皆にも別れの一言も言えずにここに来てしまった。
そして、気付けばまた独りぼっち。
傍にはスティーブがいるものの、かばんのジャパリパークでの思い出は切り離せないものになっていた。

「だから、もし叶うのなら、もう一度ジャパリパークに帰ってみんなに会いたいんです。あのままだときっと、サーバルちゃんも、パークの皆さんも悲しませてしまいます」
「けどな、マスター。もう一度言うが、一旦聖杯戦争に首を突っ込めばいつ抜け出せるか分からねえ。正直、俺の力だけじゃかなり厳しいものがある。それでもやるのか?」

スティーブは立方体に浮き出た顔を険しいものに変えてかばんに忠告する。
スティーブのクラフターとしての能力は、即ちモノづくりに特化した能力だ。
道具作成や拠点づくり、地形変動には長けるが、三騎士ほど直接的な戦闘に秀でているとは言い難く、パラメータも並のサーヴァントよりも劣る。
聖杯大戦のようなチーム戦ならまだしも、この聖杯戦争はあくまで個人戦だ。
そうなればスティーブのようなサーヴァントは同盟なりを駆使して泥臭く勝利を勝ち取っていくしかない。

「僕が願うとするなら、『フレンズの皆さんにまた会うこと』です。これから色んな人に出会うと思いますから」
「…そうか」

かばんに対して、スティーブは何も言わずに小さく頷きながら答える。

「これまでの旅の中で、フレンズの皆さんは力のない僕を何度も助けてくれました。
だから、ジャパリパークのフレンズさん達のように力になってくれるマスターさんやサーヴァントさんもきっといると思うんです。クラフターさんだって――」

かばんはスティーブをじっと見据える。
純真ながらも力強い視線に、スティーブは恥ずかしげに目を逸らし、作業台へと向かっていった。

「…よし!まずはしっかりとした拠点作りだな!『来客』のためにも広めに、武器も多めに作っておこうか。マスターも手伝ってくれるか?」

数拍子置いて、スティーブの意図を汲み取ったかばんは元気よく「はい!」と返事し、スティーブの方へ向かっていった。




【クラス】
クラフター

【真名】
スティーブ@Minecraft

【パラメーター】
筋力C 耐久C 敏捷E 魔力C 幸運B 宝具B+

【属性】
中立・善

【クラススキル】
道具作成:C(EX)
ツルハシに剣、鎧、果てには加工素材からポーションまで、スティーブのいた世界に存在したあらゆるモノを製作することができる。
作成には相応の素材が必要になるが、『匠の境地』を発動している間はその限りでなく、ランクも()内のものに修正される。
なお、スティーブの場合は作成とは逆に解体も可能。

【保有スキル】
専科百般:A
スティーブが元いた世界を開拓するにあたって、多方面に発揮されていた才能。
武術、馬術、農業、牧畜、鍛冶、狩猟術、交渉、破壊工作、その他様々な専業スキルについて、Cクラス以上の習熟度を発揮できる。

陣地建築:E~A+
自らに有利な陣地を作り上げる、というより建築する。
ほんの小さな家から神殿クラスの城まで、スティーブの腕次第で自由自在に展開することができる。
ただし、基本的に陣地のランクに比例して作成に時間がかかる。

【宝具】
『匠の境地(クリエイティブ・モード)』
ランク:C+ 種別:創造宝具 レンジ:自分 最大捕捉:-
あらゆるモノを投入して荘厳な建造物を創り上げたスティーブが至った高みであり、クラフターたる所以。
この宝具を発動すると、あらゆる攻撃に対して無敵かつ飛行が可能になり、無から有を創り出すことまでもが可能になる。
本来は素材を集める必要があるものもこの状態ではその場で自由に創造でき、基本的にスティーブのいた世界にあったモノは全て取り出すことができる。
なお、この状態のスティーブはマスターが死なない限り不死身だが、この宝具は文字通り創造するための宝具であるため、
敵を倒す目的には使えず、敵を攻撃した場合は自動的に宝具の効果が解けてしまう。
敵の一切の干渉を寄せ付けないため、陣地を作成したり、地形を変えたり、道具素材を用意するなどあらゆる方面で有用だが、同時に穴も多い。

『付呪の台座(エンチャント・テーブル)』
ランク:B+ 種別:付呪宝具 レンジ:- 最大捕捉:-
本、ダイヤモンド、黒曜石から作成できる、アイテムをエンチャントするための宝具。
スティーブはこれを多用していたため、あらかじめ宝具として所持している。
その名の通り、武器などのアイテムを強化することができる。
本を介して様々な概念が付与されるが、どんなものが付くかは運次第。
付与された概念にもよるが、エンチャントしたダイヤモンドの剣ともなれば、高ランクの宝具とも遜色ない出来になるだろう。
付近に本棚があれば、より高レベルのエンチャントが可能になる。
なお、『ドロップ増加』のついた武器でサーヴァントを倒すと2騎分の魂を複数落とすことがある。

『箱庭の天国(ザ・ワールド・イズ・マインクラフト)』
ランク:A+ 種別:対軍宝具 レンジ:1~99 最大捕捉:-
範囲内のモノを立方体のブロックで構成された世界のモノに置き換える宝具。
この宝具の範囲内にあるものは、すべてスティーブの見てきた立方体のブロックで構成された物に置き換わってしまう。
それは生物やサーヴァントも例外でなく、スティーブのような角ばった四角形で構成された身体に状態変化してしまう。
その状態の身体に慣れていない内は行動に著しい制限を食らうことになり、スティーブ以外の者は殆ど無力化されてしまう。
性質としては空想具現化に近いが、人工物や生物にも影響を与えるという点では固有結界の性質も併せ持っている。

【weapon】
  • 製作した剣や斧など。威力は使った素材によって変化する。

【サーヴァントとしての願い】
かばんちゃんを元の世界に還す

【人物背景】
Minecraftでのプレイヤーの使用する標準スキン。一般的にスティーブと呼ばれているため、それが真名として定着している。
原作でもこれといって台詞はなく、口調は書き手各々の想像に委ねられている。
把握の際には、Minecraftのシステムへの理解に重点を置くといい。




【マスター】
かばん@けものフレンズ

【マスターとしての願い】
ジャパリパークへ帰る。

【参戦方法】
黒いセルリアンの内部でソウルジェムを手に入れた。

【weapon】
特になし

【能力・技能】
身体能力は他に比べて劣るが、他のフレンズに比べて一線を画した知能と観察力、発想力を持つ。
一応、身体能力も木登りをできる程度までには成長している。

【人物背景】
けものフレンズの主人公。
名前や出自を含むこれまでの記憶が一切なく、気が付いた頃にはさばんなちほーを宛てもなくさまよい歩いていた。
「本名がわかるまでの間の名前」として、背中に背負っていた鞄(かばん)に因み「かばん」という仮称を与えられ、以降は彼女自身も周囲に対してこの名前で自己紹介している。
性格は温厚で心優しく控えめ、若干気弱なところもある。言葉遣いは丁寧で、打ち解けた関係になった後のサーバルを除き、ですます口調で話しさん付けで名前を呼ぶ。
身体能力は他のフレンズに比べ著しく劣り、「潜水」や「飛行」といった能力も持たない。
一方で、他のフレンズたちとは一線を画した知能と観察力、発想力を持ち、旅の間、行く先々で出会ったフレンズの抱える問題ごとを次々と解決している。

参戦時系列は11話のラストから。
此度の聖杯戦争では、さばんなちほーを宛てもなく彷徨い、そのフレンズにも属さなかった背景を反映してか役割が設定されていない。
要するに、浮浪児である。

【方針】
積極的に同盟を組み、フレンズもとい主従達と脱出を目指していく。
最終更新:2018年06月05日 22:42