例えば、森の中にある洋館。例えば、海を見渡せる崖の上に立つ寂れた屋敷。例えば、草を生やすがままにした廃道路。
其処には霊的存在も見つけられず、奇奇怪怪としたエピソードも見当たらず、不思議な特徴など何もないと立証されてもなお。
人は、そう言った場所に不気味さや恐怖を覚えるのである。恐れる物などなにもない。そうと解っていても、人は本能的に恐れてしまうのだ。
人気も雑踏もない森の静寂に身を置く事を人は拒否する。肌寒い隙間風が身を冷やすボロの屋敷に不気味を感じる。何処に通じてるかも解らない道路を歩く事を忌避する。
闇と虚無。そして、孤独。それは、人が恐れて已まない最も根源的な要素。それを祓うが為に、人は国を産み、世間と言う概念を産みだし、照明で町を照らすのだ。

 不思議なもので、人は都会の真ん中に廃れた洋館や病院があっても恐れないのである。
あったところで、真相などたかが知れてるからだ。都会の只中に廃病院があっても、経営に失敗したか不祥事があったかのどちらか。
廃れた洋館があっても、洋館の主が何か経済的なしくじりをしてしまい放棄したのか。いやそもそも、廃れた建物としての形を残したままですら難しいだろう。
建物に利用価値はないが、それが建っている土地には利用価値が大いにあるからだ。手早く解体工事が行われ、また新しい形で利用される。
こんなサイクルを繰り返すのが、まぁオチと言うものだ。それに例え、本当にそれらの廃れた建物に霊障があったとしても、人が沢山いるのだ。
誰も恐れない。肝試しのメッカになるか、ゴールデンのテレビ番組の夏のSP企画の目玉のコーナー扱いされてしまうのが、目に見えている。
人の群れは容易く、旧来の迷信やしきたりを超克する大いなるうねりと化す。良くも悪くも、あらゆるものを破壊する。闇と虚無、孤独でさえも。『群』の力の前では無力だった。

 ――其処は、見滝原の都市部に存在する廃ビルだった。
廃ビルになった理由は何て事はない、ビルの修繕費用や取り壊しの費用を出すよりも、そのまま建物として残しておいた方が安いと、
ビルの所有者自体が考えているからである。転売出来る程立地条件もよくはなく、今から人を呼ぼうにも、窓ガラスが割れ蔦が壁を伝い、
と言う状況のビルディングに誰が住もうと言うのか。かと言って迂闊に建物を取り壊してしまえば土地の固定資産税が暴騰するのでそれも出来ず、
建て直すのにも同等のカネが発生する。結局、放置が一番賢いやり方なのだ。纏まったカネが手に入れば、動けばよい。その程度の理由で、所有者は考えていた。

「神の視座に立つには、少しばかり、目立ち過ぎるか」

 黒いキャソックを纏い、その上に紫色のコートを羽織り、ロザリオの首飾りを掛けた男だった。
男が如何なる信仰を遵奉しているのか。一目で解らせる服装だ。そして、彼の衣服を見て、どんな宗教に属しているのか。余人が抱くファーストインプレッションは、正しい。
彼は灰色の髪をしているが、よく見ると白い物がかなり混じっている。結構な歳の男らしい。感情のない目で、足元のガラス片を爪先で弄びながら、男は語る。自分の眼前に立っている、奇妙な男に向かって。

「く、くく、ククククク……!!」

 その男は、精悍な顔つきをした青年だった。
顔付きはどちらかと言うと年の割には渋めであるが、決して老けていると言う印象を抱かせない。寧ろ力強さと若々しさが十全に伝わってくる。
体格の方もまた優れており、痩躯の印象の方が強い灰色の髪の男に比べれば、月とすっぽん。比較するのも失礼な程、青年の身体つきは恵まれていた。

 纏う服装が奇妙な青年だった。
男――『エイブラハム・グレイ』がその服装を見た時は、何処かの国の民族衣装かと思った程だった。
黒を基調とした服装で上下を統一している。裏地に赤いファーのような物を取り付けた黒コートは、まだ解る。
だが、その下に纏った衣装が奇妙だった。ヨーロッパ風の顔立ちをしていながら、日本の『着物』に類似点が見られる服に袖を通しているのだ。
墨に浸したような黒一色。袴のような物を穿いているし、長襦袢のような物を着ている。だが腰に巻いた大仰なベルトは洋風の意匠の方が強く見られる。
一方で履物は日本で言う所の草履のような特徴を強く感じ取る事が出来、頭に被っている被り物はどう見ても日本のそれには見られないベールである。
兎角チグハグな男だったが、そんな印象が吹っ飛ぶのが――男の手にしている、奇妙な『杖』だった。

「領域の桎梏を外れた世界に生きてなお、ヒトは阿呆の如く同じ夢を語りだす。なぁ、おい?」

 青年の姿や顔付きから、およそ想像出来得る声から一切かけ離れた声だった。
しわがれた老人の声に聞こえる時もあれば、艶然とした雰囲気の美女の声に聞こえる時もあり、中年の男性に聞こえる時もあり、童子の声にも聞こえる時がある。
色のグラデーションをリアルタイムで変えて行くように、男の声が変化して行く。姿形に囚われる我々を、小馬鹿にする意図すら、感じられるかのようだった。

「ヒトよ、我の問いに答える事を許そう」

「なんなりと」

 グレイは気付いていた。その声の主は、自分がサーヴァントとして召喚した人物。
即ち、『アルターエゴ』のクラスで召喚に応じた『青年』ではなく、男が所持している『杖』である事を。
ケルト十字に近い特徴を持った杖先が特徴的な、何処となく不安になるような歪みを微細な特徴として携えたその杖は、事あるごとにカチカチと震え、音を刻む。
きっとその機能は、人の声帯が震えて声を発するのと、同じ要領なのであろう。

「何故ヒトは、その本質(イデア)が平凡であればあるほど、尊大になれるのだ?」

 グレイを嘲笑するように、その杖は言った。
見ているだけで、精神に揺さぶりがかけられる。冷たい汗をかき、喉が渇くような焦燥感を憶える。
この杖と語らう事はまるで、目の細かい鑢で身体を削られて行くような、痛みにも似たモノを憶えるのだ。グレイは、今もその感覚と戦っていた。

「奴隷なるものを生み、労役を課させる。人の世でしか通用のしない権威を、恥ずかしげもなく振りかざす。神を気取り、法も人も思うがままにしようとする。我はそんな人間を、宇宙(アークガマル)が産まれてから今にかけて、飽きる程見て来たよ」

「私もまた、同じような人間を幾らでも」

「常に不思議なのだよ。そのように振る舞い、自分が他者と違うのだと驕り高ぶる人間であればある程、その本質は、哀れな程平凡なそれ。英雄と祀るのも論外で、魔王を嘯くにも中途半端。何処までも市井の人間であるのよ」

「私もまた、平凡な人間か」

「愚問。神を目指そうとする人間はその時点で、神になれぬ。ヒトは神になるのではない。されるものだ」

 その言葉は、不思議な含蓄がある。グレイとしても、学ぶところがあった。

「老いた皮相に身を包んだ男よ。我が問いに答えよ。ヒトがヒトを超え、神に限りなく近い領分に至ろうとした時、その座にまで達した人間はいつだって、『なろうとして時間と犠牲を払った者ではなかった』。気付けばなっていた、そんな者達だった。何故ヒトは、本質が小さきものであればある程、大きく振る舞おうとするのだ?」

「そうしないと、耐えられぬからかと」

 グレイは答えた。言葉を更に続ける。

「己が矮小である事に耐えられる人間は少ない。であるからこそ、仮初の大きさを求めるのだろう」

 ふぅ、と一息吐くグレイ。

「そちらの言う通り、私もまた矮小で愚かな人の子。だからこそ、神の座を求めるのも不思議な事はなかろう。愚かだから、神を気取ろうとする。道理じゃないか」

「なれば問う、貴様にとっての神とは?」

「『外に立つ者』」

 即座にグレイが答えた。これしか、答えがないと言う事を初めから認識しているかのように。

「あらゆる事象を外から眺め、観測出来る者。自分が招いた状況でありながら、その状況に一切関与する事無く、最も近くしかし誰も触れ得ぬ所から眺められる者。それが、私にとっての神だ」

「下らん、窃視する者を神とするなど。愚兄・サウロのような事を……」

 グレイの考えが、心底杖は気に入らなかったらしい。言葉からでも明らかだが、限りない程の不満が杖から発散されている。
杖、と言う器物の形を取っているにも拘らず、それが解るのだ。解らされてしまう、と言う方が正しいのかも知れないが。

「見るだけ。それは難しいと私は思うよ。見る者は往々にして、事態に巻き込まれるものだ。だが、自分の撒いた種の責任を取らず、その種の成長と、それが齎す結果を見続けられ、それに関する答えと考えを導ける。それは正しく、神の視座であり、その視座に立てる者は、神ではないのかね」

「笑止。神に近き者とは破滅させ、破壊する者。その手の一振りで海を煮え立たせ、その思考一つで本質を砕く者。それが神、領域存在の頂点」

「……杖よ」

 この場に声が響き渡る。杖のものとも、グレイのものとも違う。若く、渋みのある男の声。
他ならぬ杖の持ち主が発した声だった。やはり、青年の声はイメージ通りの声だった。
それなのに――心胆を寒からしめる程の恐怖感を憶えさせる、その声は何なのか? この青年の何処に、それだけのイメージを抱かせる何かが宿っているのか?

「俺は今しばらく、其処の男と同じ視座で戯れたい。それに貴様、奴を殺そうとしたな。それを行えば、俺も貴様も消滅すると解らぬのか?」

「……うぬもカリス以上に酔狂な男よ。我は見誤らぬぞ。其処の男は、神になれぬ事は当然として、『狂人としての振る舞いすら徹底出来ぬ』男だ。必ずや、ヒトの心とやらに目覚め、凡庸な結末を我々に約束させるだろう。貴様とて、それぐらい解ろうが? なぁ『破滅の寵児』よ」

「平凡な男には俺達は召喚出来ん。どこかに、俺達と似たような何かがあるのだろう」

 歪んだ杖を構え、男はグレイを見据えた。底冷えする、その目の輝き。 

「自分が招いた禍を、一切自分は関する事無く外から眺める者をこそ神。喜べ、マスター。貴様はその眺めると言う行為において、凡そ人が見れ得る最高の物が約束されている」

「……それは?」

「俺達の目的はただ一つ。人間界の破滅に於いて他ならない」

 アルターエゴなるクラスで召喚されたサーヴァントの答えもまた、初めからそうであると決まっているかのようなそれであった。

「敢えて問うが、そうする理由は何故だ?」

「我の場合は、そうさな……破壊と破滅、そして不和こそが、万物万象の支配に繋がる道だと識っているからよ。だが、この男の場合は……」

「俺の場合はな、マスター」

 クッ、と。唇の端を吊り上げて、言った。

「道楽だよ」

「……む」

「理由はない。そうしたいから滅ぼす。哀れで卑小な衆生の生きる世界を破滅させる。深い理由など、俺には無い。聖なる杯で滅ぶ世界……何とも、御誂え向きじゃないか」

 アルターエゴの目線と、グレイの目線があった。目線だけで魂を奪われてしまいそうな赴きすら、その男の瞳にはあった。

「俺達を呼び、俺達に近しい何かを持ち、避けられぬ世界の破滅を、自分が関する事無く眺める権利を持った男よ。精々、上手く立ち回れ。間もなくこの世界が、この建物と同じ末路を辿る。こんな建物の屋上に立つまでもなく――お前は地上から、世界の破滅を神の目で眺められる」

 杖が心底愉快そうに笑った。自分以上に邪悪な人間など見た事がない、哄笑の後杖はそう続けた。
杖の言っていた『破滅の寵児』。その言葉の意味を、心身から理解したエイブラハム・グレイだった。





【クラス】

アルターエゴ

【真名】

無銘(破滅の寵児、或いは、真理に通ずるもの)@ウィズメイズ

【ステータス】

筋力B 耐久C 敏捷D 魔力A++ 幸運A+ 宝具EX

【属性】

混沌・悪

【クラススキル】

根源接続者:-
この宝具は、アルターエゴとしての召喚の為失われている

【保有スキル】

魔術:A++
魔人王であるアルターエゴが有する、莫大な数の魔術。
核爆発すら発生させる炎の魔術、死者に簡易的な魂を与える程高度な死霊術、四肢の欠損すら容易に回復させる回復術、相手の本質を粉砕する魔術や語るもおぞましい闇の魔術の他、本来魔人には扱えぬ筈の光の魔術すら、アルターエゴは容易に操る事が出来る。

悪逆の性根:A+
生まれついての悪、殺人と滅亡、破滅を常態化している者であればあるほどランクは高まって行く。
ランクA+は、それが上記の行為の全てが常態ではなく、『生態』と化しているレベル。同ランク相当の精神耐性と、信仰の加護の複合スキル。

虚無神の加護:A-
虚無界(ヴォイド)の領域存在である、虚無の三兄弟であるジークサウロとマイノーグラによる加護。
悪しき行為をしている時限定で、アルターエゴの行為の成功率と判定を上方修正し、アルターエゴのファンブル率を低減させる。
但し虚無界の領域存在は気まぐれである為、確率で発動しない事がある。これもまた、神の戯れ。
また、このスキルが発動している場合に限り、【Weapon】欄にある武器を扱う事が出来る。

悪のカリスマ:A
生まれついての悪であるアルターエゴが有する、悪しき存在に対するカリスマ。
属性が悪の物に対しては同ランク相当のカリスマとして機能し、それ以外の属性の者には畏怖すべきオーラとして機能する。

【宝具】

『虚ろなる神の本質(ゆがみの杖)』
ランク:EX 種別:対人~対界宝具 レンジ:1~ 最大捕捉:1~
アルターエゴが保有する、独特な形状の杖。これ自体が人格を持つ、インテリジェンス・ロッドとも言うべき存在。その人格は極めて尊大な男のそれ。
この宝具の正体は、人間界とは別次元に存在する領域である虚無界の領域存在である邪神オグドル・ヤバドの直系の子である虚無の末弟・オプタトゥムが、
ある秘術によってその本質を杖に括られたもの。つまりこの宝具は言ってしまえば、『神が杖の姿に落魄させられた存在』に限りなく等しい。
極めて高ランクの神性スキルと魔術スキルをこの宝具自体が保有しており、アルターエゴとは別枠で、彼と同等の威力と精度の魔術で波状攻撃を仕掛ける事が可能。
また、この宝具自体が莫大な魔力を保有している上、この宝具を所有している限りアルターエゴの魔力消費量は戦闘時・平時問わず、半分以下に抑えられるため、魔力切れを引き起こさせての退場すら事実上不可能に近い。

『三元の真理剣(ウィズメイズ)』
ランク:A++ 種別:対『本質』宝具 レンジ:2 最大捕捉:1
『真理』に通じる者にしか振う事の出来ぬ触媒剣。
同ランク以下の神性スキルを除く全ての防御スキル・宝具を貫通、相手に極大のダメージを与える剣。
透き通った刀身を持った剣のように余人には見えるが、実際にはこの剣は幻影のような物であり、実体そのものが存在しない。
それ故に物理的な手段では防御をする事が出来ず、かといって霊的・魔術的手段で防ごうにも、この剣は斬ったものの『本質』を斬り裂く剣の為、
生半な手段ではそれこそ防御する事すら出来ない。本質を斬られた者は宝具ランクと同等の極大ダメージを与えられるばかりか、
この宝具は相手の肉体や魂を斬るのではなく『本質』を破壊する剣と言う性質上、その本質を癒す術でなければ一切の回復手段を無効化させてしまう。有体に言えば、この宝具で与えられたダメージは『回復不能』となる。

【weapon】

腐蝕の指先:
虚無の三兄弟の長姉、マイノーグラが所有するアーティファクト。赤黒く湾曲した剣身を持った短刀。
普通の人間が触れただけで即死に至らしめる程の毒素と疫病の力が内包されている、病を呼ぶ剣。
アルターエゴがこれを振えるのはマイノーグラに認められているからである。
但し、マイノーグラ当人がもつそれとは違い、あくまでも凄まじい疫病の力を持った短刀、いうなれば本物のレプリカ。本物は、剣先を向けるだけで一国を悪疫で死に至らしめる力を持った魔剣である。

デッドカンダンス:
虚無の三兄弟の長兄、ジークサウロが所有するアーティファクト。
漆黒の大羽根を繋いだマントが特徴的な、数多の返り血で黒く錆び付いた不浄の重鎧。
厳密に言えばこれは鎧の名ではなく、この鎧を纏ったジークサウロの親衛隊をデッドカンダンスと呼ぶのである。
Aランクまでの光と炎の属性を無効化し、それ以上のランクの物であってもその威力をツーランク下げる恐るべき魔鎧。無論、物理的な堅牢性も言うまでもない。普段は堅苦しい為アルターエゴはこれを装備していない。

メデュセーの茨冠:
虚無の三兄弟の長姉、マイノーグラが所有するアーティファクト。薔薇の茎を編んで作った冠。
打ち捨てられし者達の血涙から生まれた意志ある冠と言われ、事実、己の主たりえぬ者が被れば鋭い棘で串刺しにされる。
致命に至る程の大ダメージを逸らす不思議な力があり、凄まじいダメージを受ける攻撃であっても、不思議な力で普通のダメージに低減させる兜である。

【人物背景】

英雄、根源到達者、そして、魔王。男は、魔王を選んだ。

【サーヴァントとしての願い】

人間界の破滅。それは、宝具であるゆがみの杖も同じ。




【マスター】

エイブラハム・グレイ@殺戮の天使

【マスターとしての願い】

聖杯戦争を眺める事。聖杯自体には、期待はしていない

【能力・技能】

【人物背景】

神を気取る者。そして、その最期は気取れ切れなかった者。

原作開始前の時間軸から参戦。少なくとも、あの激ヤバ物件に住んでる殺人鬼クラ全員の事は知っている位の時間軸である。

【方針】

戦闘のプロではない為、アルターエゴに全てを一任する。

【把握方法】

破滅の寵児:原作フリーゲーム、ウィズメイズのとあるルート(Gルート的な奴)を全クリ必須。
だが、何と今作は戦闘だけどストーリーは知りたい人の為に、苦手なプレイヤーの為戦闘のスキップ機能や雑魚敵とのエンカウントを封殺する機能がありやがるんだ!! これはもうプレイするしかないなぁ!?

グレイ:原作フリーゲームの全話プレイ必須。
最終更新:2018年06月10日 14:33