――――あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛…
    あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛…
    あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛…
    あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛…

     ニャァァァァン
       フミャァ゛ァ゛ァ゛
 ンニャア゛ア゛ア゛ゴ

    あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛…
    あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛…
    あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛…
    あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛…――――



◆◆◆



見滝原の西端、まばらに家宅が立ち並ぶ物静かな住宅街の一角に『その家』はあった。
父親の無理心中によって母親が刺し殺され、息子が風呂で溺死させられたという廃屋だ。
その事件以来、家に移り住んできた人間は皆何らかの外的要因で死亡してしまっているため、いつからか立ち入った者は呪われて死ぬという噂が流れる心霊スポットとなっている。
「科学の発達したこのご時世に幽霊など」と一笑に付す者もいるが、そんなことを言っていてもやはり怖いものは怖いようで無謀な若者を除いては誰も入りたがらない。

そんな曰く付きの家へと通じる通りを1人歩く色黒の少年がいた。
辺りには既に夜の帳が下りており、街灯も少ないためにその姿は視認しづらい。
彼の名は宮本輝之輔。見滝原中学校に通う3年生の生徒――という偽りの身分を与えられた聖杯戦争の参加者である。

彼の意識は現在歩いている夜の世界ではなく、ここに転移される前の元いた世界とそこでの自分の境遇への逡巡に向けられていた。


思えば、あの時は自分の趣味を叶えるのにぴったりの能力を身に付けられてちょっぴりハイになってたのだろう。そのせいで油断が生じてしまった。
そう、噴上裕也を始末せずにおいたのは『賢い行い』ではなかったのだ。
ヤツさえいなければ、東方仗助に広瀬康一、それに空条承太郎やジョセフ・ジョースターだって皆纏めてシュレッダーで文字通りバラバラにしてやれていたのに。

仗助のクレイジー・ダイヤモンドで本にされてからどのくらい経っていたのだろうか。
死にたくても死ねず、恐怖の余り目をつぶってしまいたくたってつぶれず。
本となったぼくを開いてくれる人間も極々稀にしかいないので恐怖を観察することすらできない。
できることと言えば、薄暗い書庫の中で時折呻き声を上げて人間をほんの少しビビらせるくらい。
あれなら殺してくれていた方がよっぽどマシだった。

だが、そんな永遠にも思えるような地獄の時間も漸く終わった。

「フフ……」

宮本は上着のポケットの中のソウルジェムに目をやる。
本当に助かった。もしこの宝石を貴金属店から奪っていなければ。もしこの宝石がファイリングされた紙が、ぼくと共に本を構成する一部となっていなければ。
ぼくは余りにも永く寂しい一生を黴臭い書庫の中で暮らさねばならなかっただろう。
願ったり叶ったりじゃあないか。こうして人間の肉体を取り戻せた上に、戦争に参加すれば他人の恐怖も観察できる。おまけに何でも望みを実現される願望器ときた。
自分の幸運に自然と笑いが込み上げてきてしまう。

「恐怖を感じない人間はいない。いくら英霊であろうと人間である限りそれは同様だ。そう、エニグマが紙にできない者なんて誰もいないんだよ」

それにあのサーヴァントならば――恐怖のサインを引き出すのは、空気を吸うことのように容易いだろう。
建物ごと召喚されてきた上に、ぼくに襲いかかってきたのにはちょっぴりブルったが、すんでのところで令呪でぼくへの一切の攻撃を封じられてよかった。あんな化け物どもに襲われたら命がいくつあっても足りないからね。
唯一の難点といえば家に縛られていることだろう。
外に出られるのかは知らないが、まあいざとなったら紙にして家ごと持ち運べばいい。繁華街や学校にいきなり家を出してパンデミックを引き起こすのも中々面白いかもな、フフ。


と、そんなことを考えている内に宮本は目的の場所――件の『呪いの家』へと辿り着いた。

長らく放置されていたようで、自然のままに生い茂った草木や壁一面に巻き付いた蔦。枯れ果てた植木鉢の植物。
まるで、家のある一角だけが時の止まった世界に取り残されてしまったかのように重々しい雰囲気で沈黙を貫いている。


「ただいま」
「ブニ゛ャァ゛ァ゛ァ゛ァ゛」

躊躇なくその家の扉を開けて上がり込んだ宮本を、廃れきった玄関で出迎えたのはキュートな一匹の猫――などでは決してなく、体育座りをした異形の子どもだった。
黒目はあらぬ方を向いており、異常な程に青白いその身体は、彼が既にこの世の者ではないことを示している。
普通の者ならばここで縮み上がって逃げ出していただろう――子どもが逃走を許してくれるかは別としてだが。
しかし、宮本は子どもを一瞥したのみで顔色も変えずに「ン、俊雄か。アーチャーは上にいるな」と呟くと、つかつかと階段を昇り、ズボンのポケットに手を突っ込んで5枚の紙を取り出した。

「ひとまず5人。ちょいと驚かしてやったらすぐに恐怖のサインを出した。大した魔力は得られないだろうけど、無いよりはマシだろ?」

そう言うと、慣れた手つきで畳まれた紙を広げ始める。
すると驚くべきことに、紙の中から人間が出てきた。

これこそが宮本のスタンド能力『エニグマ』。
無生物や恐怖のサインを出した人間を紙にしてファイリングしてしまう恐るべき力だ。

紙から出された人間たちは、口々に「ここはどこなんだ」「一体何が起きているんだ」と怯えを含んだ表情でざわめいている。
当然だろう、見知らぬ少年に驚かされたと思えば次の瞬間には薄暗く古臭い建物の中にいたのだから。
しかしその直後、彼らは更なる恐怖を体験することとなる。


ズゥゥン……
ガキゴキガガ……
ドァン……
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛……」

屋根裏部屋から血塗れのおどろおどろしい女が髪を振り乱し手首を内側に向けて這いずり下りてきたのだ。

ガダッ……
ガシャーン……
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」

ドスゥン……
ズドッ……
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛……」
「ひえっはふぁあぁばばぁ」

カキコキガキゴキと関節を鳴らしてゆっくりと迫る『それ』は、恐怖に腰が抜けて悲鳴にならない声を発している5人を、掴んだかと思うと目にも止まらぬ早さで深い闇の奥へと引きずり込んでいってしまった。


「すごくいい……スゴく楽しいぞッ!
『腕で肩を抱く』のが3人、『歯をガタガタと鳴らす』のと『引き笑い』をするのが1人ずつ。根源的な恐怖である死を目前にすると恐怖のサインはより強く出るッ!
ぼくのアーチャーは最恐だ!」

何もなかったかのように静まり返った家屋。その中で宮本は1人邪悪な笑みを浮かべて興奮していた。
たった今観察した恐怖に――或いは、まだ見ぬ猛者たちの恐怖に。



【真名】 佐伯伽椰子@貞子vs伽椰子

【クラス】 アーチャー

【属性】 混沌・悪

【パラメーター】
筋力:A+ 耐久:D 敏捷:A+ 魔力:C 幸運:E 宝具:C


【クラススキル】
単独行動:A
 マスター不在でも一週間は行動・現界が可能。
 ただし、膨大な魔力を消費する場合はマスターのバックアップが必要となる。

【保有スキル】
精神汚染:A
 溜まりに溜まった人間への恩讐により精神が錯乱している為、他の精神干渉系魔術を高確率でシャットアウトする。
 ただし同ランクの精神汚染がない人物とは意思疎通が成立しない。

自己再生:B
 例え木っ端微塵にされようとも、宝具『死潜む家』が展開されている限りは魔力を消費して即座に傷を治して再び出てくることができる。

畏怖の叫び:B
 生物としての本能的な畏怖を抱かせる咆哮。
 この咆哮を聴いた者の耐久パラメーターにマイナス補正をかける。

伝播される恐怖:A
 NPCを含む周囲への『死潜む家』の噂の流布の程度によって自身の筋力、敏捷のパラメーターに補正をかける。


【宝具】
『佐伯俊雄』
ランク:E- 種別:対人宝具 レンジ:― 最大捕捉:―
 1人息子である俊雄を召喚することができる。
 俊雄のステータスは以下の通りである。
 筋力:C 耐久:E 敏捷:B 魔力:E 幸運:E 宝具:―
 なお、この宝具を使用することができるのは一度きりであり、俊雄が消滅してしまったら同じ聖杯戦争では使用不可能となる。
 本来伽椰子は『アヴェンジャー』のクラス適性が1番強いが、この宝具――つまり俊雄という飛び道具を持って召喚される場合には『アーチャー』のクラスとなる。

『死潜む家(呪怨)』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:― 最大捕捉:―
 常時展開型宝具。
 呪いの家の中での戦闘時に敵サーヴァントの筋力と耐久パラメーターを1ランクダウンさせる。
 また、足を踏み入れた者や家を壊そうとする者はアーチャーに付け狙われることとなる。
 令呪を一角消費してブーストをかけることでもう一件増築できる。

【Weapon】
  • 怪力
  • 異界への引きずり込み

【人物背景】
 夫に不貞の疑いをかけられ、無理心中させられた主婦が怨霊となったもの。
 伽椰子の怨念がこもった自宅は呪いの家と化しており、それに関わった相手やその周囲の人間は全て呪い殺されてしまう。
 今回は『呪怨』シリーズではなく、『貞子vs伽椰子』からの参戦のため、増殖、変身、憑依、生まれ変わり等の能力は持ち合わせていない。

【サーヴァントとしての願い】
 自身の怨念を晴らす


【マスター】  宮本輝之輔@ジョジョの奇妙な冒険 第4部 ダイヤモンドは砕けない


【weapon】
『エニグマ』
 【破壊力 - E / スピード - E / 射程距離 - C / 持続力 - A / 精密動作性 - C / 成長性 - C】
 人型のスタンド。
 対象を紙にして封印する能力を持っている。
 生物を封印する場合、特有の「恐怖のサイン」(恐怖した時に思わずしてしまう行動)を見抜く必要があるが、物質は無条件で紙にすることができる。
単純な殴り合いの戦闘力は低く、人を殺すことさえも不可能らしい。
が、一度能力が発動してしまえばもうどんな攻撃や妨害も通用しなくなり、封印から逃れることはできない。本人曰く、『絶対無敵』のスタンド。
 なお、紙に封印されたものは誰かが開くことで解放される。


【能力・技能】
スタンド使い:傍に現れ立つ精神エネルギー『スタンド』を使う者。 スタンド使いはひかれ合う。


【人物背景】
 吉良の親父の「矢」で貫かれスタンド能力を手にした少年。
 他人の恐怖を観察することが趣味の異常者。
 人質を取る等姑息な手段を用いて仗助や康一を紙にすることに成功する。
 仗助と康一をシュレッダーで引き裂こうとするものの、噴上が決死の覚悟で「敗北」して紙になったことで、シュレッダーの中に手を突っ込まれ2人が紙から解放されてしまう。
 その後は、仗助のクレイジー・ダイヤモンドで紙屑と融合させられ本になって再起不能になった。


【参戦時期】
 本にされ、杜王町図書館に寄付されたあと。


【マスターとしての願い】
 参加者やNPCの恐怖する顔を観察する。

【備考】
 令呪を一角使用しました。
最終更新:2018年06月10日 16:47