ここは見滝原。異界の徒――、サーヴァントが跳梁跋扈する地である。
その見滝原の、繁華街から少し南下した所には、下層民たちの吹き溜まりである大小様々な安っぽい家々が立ち並んでいる。
それらの中で最も安普請と思われるボロアパートの一室では、鼻と顎が少々尖った青年がうつ伏せになってジタ、ジタと蠢いていた。

「くそっ……! 出られねえっ……! 本当に脱出不可能っ……!」

男の名は伊藤開司。先程聖杯戦争のマスターとして、記憶を取り戻したばかりだ。
カイジはもちろん非力な一般人であり、他サーヴァントとの戦闘となれば、あっという間に殺されてしまうだろう(他に脱出したい理由はもう一つあるのだが、今は説明を省く)。
そのため、見滝原からの脱出を試みたのだが、どうやっても不可能だった。
街の境は透明の結界のようなもので覆われており、蹴っても叩いてもびくともしなかったのである。
自身のサーヴァントに脱出を手伝って貰おうかとも一瞬考えたが――。

「いやっ……! 駄目だ……! そんなことを言い出したが最後、俺が殺られるっ……!」

カイジは完全に怯えていた。

――理由を語るには、二時間程、時を遡る必要がある。

◆ ◆ ◆

「只今参上いたしました。このアーチャー、マスターのためであれば身命を賭して聖杯戦争に臨む覚悟であります」

「本当かっ……!」

「はっ!」

現われたアーチャーは力強く頷く。

『ソウルジェム』を手にしたカイジは、アパートの自室でサーヴァントを召喚していた。
召喚したサーヴァントのクラスはアーチャー。狼の顔をし、昆虫のような四肢を持った獣型サーヴァントである。
アーチャーの頭の上にぼんやりと浮かび上がったステータスは、「筋力:C 耐久:C 敏捷:A 魔力:C 幸運:D 宝具:C」。中々俊敏なサーヴァントのようだ。
サーヴァントの事など何も分からないカイジであったが、Eを最低、Aを最高と考えると、このサーヴァントのステータスは中の上ぐらいだろう、と考えた。

カイジもその時は聖杯戦争を勝ち抜き、どんな願いを叶えて貰うのか、己が欲望で頭が一杯だった。

「アーチャー、お前が居ればこの聖杯戦争っ……! 勝てるのか……?」

「もちろんです、マスター。万事お任せ下さい」

アーチャーはやはり力強く頷いた。

「アーチャーっ……!」

「何でしょう」

「ステータスは何となく把握したんだが、サーヴァントの持ってるスキルっていうのも詳しく教えてもらっても構わないか……?」

「もちろんです、マスター。まずは……『対魔力』から説明致しましょう。これは魔力に対する抵抗を表すスキルです。私めのは『D』とランクが高くないのであまり期待なさらない方が宜しいかと」

「なるほど……」

「次に、『単独行動』です。マスターからの魔力供給を断ってもしばらくは自立できる能力ですね。私はマスターを失っても一週間現界可能です」

「あっ……!」

「どうかされましたか?」

「……いや、何でもない。続けてくれ……」

――しかし、その時カイジに電流が走っていた。

(何だよ、その『単独行動』ってスキルっ……! 「マスターを失っても一週間現界可能」っ……!? とどのつまり、そのスキルっ……! マスターを殺そうが、聖杯戦争に参加できるってことじゃねえかっ……!)

(……む、臭いが変わった。コイツ……何かに勘付いたな……?)

狼の獣人型サーヴァント――、ウェルフィンはその強すぎる猜疑心により、マスターさえ一切信頼していなかった。
寧ろ行動を縛る令呪を持っているので邪魔だと思っていた。

――一方のカイジは。

(考えろっ……! どうすればこの窮地を脱出できるっ……!? そうだっ……! 街から出ればいいっ……!)

一応、『この街から出ることはできない』という情報はソウルジェムを手にした時に得ていたはずだが、カイジはそんなことも忘れるほど焦っていた。
兎に角アーチャーのいる場所から一刻も早く立ち去りたかった。

「続いて『追い込みの美学』について説明しますが――」

「い、いや……いいっ!」

「おや、どうなさったのですか?」

アーチャーは首を傾げた。

「ぱ、パチンコだっ……! パチンコに行ってくるっ……!」

「では私めもお供しましょう」

そそくさと立ち上がろうとするアーチャーを尻目に――。

「臭いぞっ……!」

「は?」

「パチンコ屋はとてつもなく臭いっ……! 博打狂い共の脂や汗、タバコにビール、ニンニクの臭いが充満しているっ……!」

「……はあ」

「狼のお前に耐えられるかっ……! その臭いっ……! 悪魔的悪臭にっ……!」

「そう言われますと自信を無くしますが、はて……」

アーチャーは座り直して頭をポリポリと掻いた。

「行ってくるっ……! 一人でっ……!」

カイジ、無頼の強行脱出……!

(ククク、何に勘付いたか知らんが好都合だ……。オレも『魔力補給』をする必要があるからな……)

一方のアーチャーも心の中で舌を出していた。

◆ ◆ ◆

――そして脱出に失敗し、今に至る。

幸い、アーチャーは『戦闘前の仕込み』とやらでどこかに外出したまま帰ってきていなかった。

(今は慇懃な態度を見せているあのアーチャーも、裏では何を考えているのか分からないっ……! 危険過ぎるっ……! 使うかっ……?)

カイジは自身の左手に刻まれた三画の令呪を一瞥した。

「いや……! ダメだっ! 下手に使ったら後で困るに違いないっ……!」

「どうかなさいましたか、マスター?」

「うわっ! あ、アーチャーっ……!」

カイジ、独り言を聞かれる痛恨のミス……!

(無理だっ……! こいつ、恐らく俺の思惑に薄々気づいてやがるっ……! 令呪を使う前に噛み殺されて終わりっ……! ジ・エンドっ……!)

(クク、なーるほどね……。オレに令呪を使うつもりか、だがそうは行くかよ……。こんなヘタレマスターなんか一噛みで――、いや、待てよ。一応は大切な魔力の供給源だ。下手に怯えさせるよりは懐柔するほうがいいか……?)

アーチャーの悪魔的発想……! まさかの懐柔案……!
カイジにとっては噛み殺されるよりもある意味地獄……!

「マスター、もしや、私に令呪を使われるおつもりですか……?」

アーチャーは猫なで声でカイジに囁いた。

「い、いやっ……! 違うっ……! そんなことは――」

「いえいえ、皆まで言わなくても大丈夫です。マスターは初めての聖杯戦争、心配なのは分かります。ここは多少なりとも場数を踏んだ私が令呪を使うと良い時をお教えしましょう」

欺瞞……! アーチャーとて今回が初めての聖杯戦争……!
圧倒的欺瞞……!

「う、うーん……」

カイジは考えた。――正確には考えるふりをした。なにしろその時には既に、アーチャーの言葉に乗ってしまっていたのだから。

しかし……! 我々とてカイジを責めることはできない……!
アーチャー、虚実混交の策士……! 恐怖の鞭と飴戦法……!

「……分かった。じゃあ、その時が来たら教えてくれ……」

カイジ、屈する……!
狼の甘言に……! 屈する……!!


【クラス名】アーチャー
【真名】ウェルフィン
【出典】HUNTER×HUNTER
【性別】男性
【属性】秩序・悪
【パラメータ】筋力:C 耐久:C 敏捷:A 魔力:C 幸運:D 宝具:C

【クラス別スキル】
  • 対魔力:D
一工程(シングルアクション)による魔術行使を無効化する。
魔力避けのアミュレット程度の対魔力。

  • 単独行動:A
マスターからの魔力供給を断ってもしばらくは自立できる能力。
マスターを失っても一週間現界可能。

【保有スキル】
  • 追い込みの美学:B
敵に先手を取らせ、その行動を確認してから自分が先回りして行動できる。

  • 嗅覚:A+
鼻の良さ。臭いを正確に嗅ぎ分け、遠方の標的を捕捉してどこまでも追跡したり、果てはそこで何をしていたのかまで把握することができる。

  • 魔力放出(念):D
アーチャーは魔力を消費して、『念』と呼ばれる超能力を使用することができる。
これにより、武器・自身の肉体に『念』を帯びさせ、瞬間的に放出する事によって能力を向上させることができるが、燃費はあまり良くないため使いすぎは禁物。

【宝具】
『卵男(ミサイルマン)』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:1~100 最大捕捉:1
背中に人体を模した醜悪な砲台を具現化し、そこから一度に四発のミサイルを放ち、対象者の体内に『黒百足(クロムカデ)』を植え付ける宝具。

攻撃手順としては、
1:「対象者(ねらい)」を定める。
2:「質問・命令(たま)」を込め、それに偽った者、逆らった者がいる。
3:その対象目がけてミサイルが発射される。
と言った手順。

ミサイルには追尾機能があり、対象者に命中するまで追い続ける。このミサイル自体に殺傷力は無く、植え付ける『黒百足』は一発につき一匹である。
発動条件はアーチャーが相手に対して質問か命令をすること。これに対して相手が偽ったり逆らったりした場合に、攻撃が可能になる。誰かに対して呼びかけられていればいいので、アーチャーが相手を認識できてなくても攻撃は可能である。
ただ、能力の性質上、アーチャーはどうしても行動が後手に回ってしまう上、相手が痛みや死を覚悟したり、耳を傾けずに攻撃された場合には自身を危険に晒しかねない。

黒百足(クロムカデ)
アーチャーに対する反抗心を糧にして成長する生物。彼によって創られた。
アーチャーの命令を背いたり、危害を加えようとすれば、宿主の体に激痛を与え、最終的には体を突き破り死に至らしめる。
最大の反抗心は彼を殺そうとすること。アーチャーに殺意を抱いた場合、一気に最大まで成長する。
黒百足はアーチャーの心に呼応しており、本人が弱気になったり本音を語ると、虫は苦しみやがて死滅する。

【Weapon】

【人物背景】
甲虫の様な四肢と人間の肉体を合わせ持つ狼の獣人。
猜疑心が強く、悪知恵の働く小悪党タイプ。支配欲も強い。
その疑り深さは筋金入りで、一度彼に疑われたら最後その者をウェルフィンは死ぬまで信用することはないとされている。

【聖杯にかける願い】
見滝原を裏から支配する。

【方針】
とりあえずは潜伏する。
手を組めそうなやつとは手を組むが、最終的には(マスター含めて)確実に裏切る心づもり。


【マスター】伊藤開司
【出典】賭博黙示録カイジ
【性別】男性

【Weapon】

【能力・技能】
『博才』
博打の才能。極限状態に置かれた時のみ発揮する。
神がかり的な閃きにより、状況を打破して行く。

【人物背景】
高校卒業後、東京に上京してきたフリーターの青年。就職せず、安酒と博打に明け暮れ、さらに街で見かけた違反駐車の高級車への悪戯で憂さを晴らすという日々を過ごしていた。
バイト先の知人の借金の保証人となったため、その肩代わり返済のためにギャンブル船エスポワールへ招待されたことを機に、危険なギャンブルの世界に足を踏み入れていく。
社会に出てからのいわゆる「生きる目標」というものを全く考えていないため、平穏な環境下では「人間のクズ」と言われる、怠惰で自堕落なダメ人間。
しかし、命が懸かった極限の状況下に置かれると並外れた度胸と洞察力を発揮し、論理的思考と天才的発想による「勝つべくして勝つ策略」をもって博打地獄を必死に戦い抜いていく。
どんな状況であろうと信頼した人間を裏切ることは決してしないが、信頼を寄せた人間に裏切られる経験を何度も繰り返しており、たびたび苦い思いを味わわされている。
そのため他人を突き放す口ぶりが多いが、実際には追い詰められた人を見捨てられずに己の利を蹴ってでも救おうとする、良く言えば心優しい、悪く言えば甘い性格である。

【聖杯にかける願い】
勝ち抜いて元の世界に帰還したい。

【方針】
死にたくない。誰も信頼できない。
最終更新:2018年04月13日 23:03