「偵察が終わったぞ、我が主よ。」
「忝ない。」
一軒の武家屋敷の、静かで開放的な庭。
雀の声がより良く鳴り響く、青空の下の和式の空間。
この平和な国には似つかわしくない様な目つきをした着物の男性がそこに二人、座っていた。
「サーヴァント、及びマスターは見つかったか。」
「幾ばくかは察知出来たが、今後は如何様に取り扱う?」
「暫くは様子見だ、方針次第では同盟相手にも成り得るが、逆に敵対する事が避けられなくなる者かもしれん。」
武家屋敷の庭を照らす空に目を向け、藤堂鏡志朗は平穏で眩しい青空を見上げた。
外では子供達が無邪気に走り回り、通行人達がすれ違いざまに挨拶を交わしている頃だろう。
その誰もが、皆日本人で、外国人の姿は殆ど見受けられない。
この世界の日本は武器を投げ捨て、欧州と和平を結び戦争とは縁のない生活を送っていた。
一年前まで徹底抗戦を続けてきた藤堂からすればプライドが傷つきそうな聞こえ方だが、それでも藤堂が元いた世界と比べれば大分マシだった。
寧ろ、日本人が大振りで歩き、貴族の差別行動も見受けられない、この平穏な国こそ、藤堂の理想にして願望とも言える。
勿論、こうした虚構の平和に満足していられる状況ではないのだが。
因みにこのロール上で藤堂が上官として迎えられているのは、最早日本軍ではなく自衛隊。
今の時期は訓練の様な物はどういう訳かなく、藤堂は事実上の休暇時期に置かれ今この武家屋敷で寛いでいるのだった。
軍人としてはやけにのんびりしている様に感じられるが、一方でこうして偵察や作戦会議の時間が開ける事は十分運が良いとは考えられる。
ロール上の役割に縛られて面倒事を起こすことを考えればずっとマシな状況であろう。
「変わり果てたな、拙者の祖国も。」
ふと、そんな懐かしむ様な独り言を呟いたのは、藤堂ではなくもう一方の男性だった。
声色が嘗て同じ組織に属していたテレビ屋に良く似ていた為か少し胡散臭い気もしたが、藤堂は顔色には出さず会話を続ける。
「聞いたところライダー、お前は私よりも昔の時代の人間の様だが、お前のいた時代は―」
「拙者の住んでいた頃の日本は未だ戊辰戦争の真っ只中だったが、もうその頃の事はほぼ忘却に追いやったと言っても良い。
その後の半生は米国で過ごしたからな。」
「戊辰戦争、それに米国……か。」
何れも、藤堂のいた世界では聞き覚えのない言葉だった。
聞けば、ライダーのいた世界やこの空間では二つとも小中学校の過程で習う程度の事柄だそうだが。
戊辰戦争……聞けば日本が開国する際に起こった、新政府とそれに反対する尊王攘夷派による戦争だと聞いている。
しかし自身のいる時代にてブリタニアが日本を開国させた際にも新政府による徹底抗戦が行われていたが、その様な名で記されてはいない。
またアメリカ……米国という国も藤堂の世界にはない為、あまり聞き慣れた国名ではなかった。
その名の通り北米大陸に根城を張り、世界でもトップクラスの軍事力を誇る大国だとは聞いているのだが……
(我々の言う所の、ブリタニアの様な国なのか……)
多くの民族が集まった複合国家だとは聞いている。
この空間に記されている歴史によれば、元となったのはワシントンの乱にて勝利を勝ち取った独立軍らしい。
藤堂のいた世界ではワシントン率いる反乱軍はブリタニア軍に滅ぼされ、北米大陸はブリタニア本国へと変わっていったのだが……
「私の世界とは、大分歴史がズレているようだな。」
「………。」
「話を逸らすがライダー、お前は聖杯に一体何を望む?」
「……拙者の望みは唯一つ、この場に集いし強者達との戦いのみよ。」
ライダー、と名乗った着物の男は淡々とその質問に応える。
その時、彼の唇が微かに弧を描いたのを、藤堂は見逃さなかった。
「随分と酔狂な願いだな、生前は人斬りか浪人か何かだったのか。」
「概ね間違ってはいない。因んで話すと、嘗て拙者の与していた組織には『己が欲すがままに行え』と言う標語があってだな。
それに従っている……と言う訳でもないが、拙者のそれとは大分合致した方針よ。」
「……。」
マスターには、自身に性質の似るサーヴァントが喚ばれるパターンが多いと聞く。
しかしそれにしては、価値観がやや逸れている様な気がしなくもない。
ある意味、自分達旧日本軍よりも血生臭い方針だなと藤堂は思う。
ブリタニアの弱肉強食主義にも、この男なら迷わず賛同するだろう、とすら考えられる。
最も、そんな些細な事で唯一戦う武器を手放す理由にはならないのだが。
「それで、お主は何を望む?」
「私の願いは……占領され旗と名を奪われた祖国の解放だ。」
一瞬笑った相方とは対象的に、藤堂は眉を引き締める。
祖国日本。
今ではエリア11と呼ばれ、神聖ブリタニア帝国の植民地となった、藤堂の祖国。
それを解放することが、彼の七年もの悲願である。
これまで、日本を取り戻すことを目的に藤堂は戦い続けてきた。
同胞達から背負わされた『奇跡の藤堂』の名を背負って。
その名がいっそズタボロになるまで戦い続けてやろうとまで意気込み、仮面の英雄ゼロの奇跡にも賭けた。
確かに、ゼロは優秀であった。
正体が不明とは言え、彼程の卓越した戦略眼を有した人間を、藤堂はこれまで見たことがなかった。
こうして藤堂は配下と共に彼と行動を共にし、勝とうにも勝てなかったはずのブリタニアに対し勝利を重ね続けた。
だが、ゼロはもういない。
あと一歩の所で奇跡は失われ、自分達は檻の中に閉じ込められてしまった。
そんな時に、奇跡の藤堂の元に漸くやってきたやってきた皮肉過ぎる奇跡が、これここ、聖杯戦争とその舞台だ。
万能の願望機『聖杯』。
欧米諸国の伝承にて語られた聖なる杯を取り合う殺し合い。
『マスター』と呼ばれる参加者が、『サーヴァント』と呼ばれる使い魔を操って戦う、オカルト極まりない催し。
それが藤堂鏡志朗にやってきた奇妙奇天烈な奇跡であった。
この誘いに、自分は勿論乗るつもりである。
己や同胞の悲願のためにも聖杯は必ず手に入れる。
どんな手段を使ってでも。
祖国を解放するためにも、これ以上、片瀬少将の様な犠牲を出さないためにも。
今藤堂の眼の前に広がる平和な日本を、聖杯なら再現できるはずだ。
或いはブリタニアの侵略戦争を押し留め、全てのナンバーズを解放することすらも。
片瀬達を蘇らせる事は―死んだ同胞達の魂を弄ることは、流石にしたくはないが。
そして今、藤堂は『騎乗兵(ライダー)』のクラスに置かれたこの侍と契約を交わしている。
能力としては魔術―何かしらの神秘の力―と、刀剣による接近戦だそうだ。
その剣技は最早常人の域を出ていると言っても過言ではないだろう。
一度藤堂も試しに道場で勝負してみたが、それはもうあっという間に、まるで赤子の手を捻る様に倒されてしまった。
速さもそうだが、力技も人間のそれではなく、まるで化性のようであった。
自分が嘗て武術を教えた枢木スザクと互角か、或いはそれ以上か。
姿形は一見人間のようなのに、あの時はまるでナイトメアフレームとでも戦っているような気がしてならなかった。
英霊との格の違いを、まず思い知らされた物だった。
この、眼の前の男を使って戦うと言うのだ。
だが油断はならない。
嘗てゼロの奇跡を目の当たりにした時の様な心強さは無いわけではないが、このライダーを上回る実力者は山程いるだろう。
なんせ聖杯戦争の参加者は三桁や四桁にも及ぶ、恐らく自分達以上の実力者などゴマンといるはずだ。
だから今は慎重に情報収集を行っている。
今はまだ予選の真っ最中だ、下手に動かず土台作りから進めていった方が良い。
そうすれば、このライダーの能力を最大限にまで引き出す戦術等も考案できる。
同胞達が望むような奇跡は出ないだろうが、それでもある程度長生きは出来るはずだ。
「成る程、愛国心によって国を護り奪い返す、それがお主の願望か。」
クックッと卑屈げにライダーは笑い、言葉を続ける。
「拙者とはまるで大違いだ、今も尚義や忠に歩み続けるとは。」
その言葉に藤堂は、跳ね除けるように言い返す。
「こうして今も尚、矜持によって前に進むことしか出来ない者は、少なくともお前の考える以上にいるということだ、『アンチクロスのティトゥス』。」
ティトゥス。
米国のとある都市に在る凶悪な犯罪組織にしてカルト集団『ブラックロッジ』の幹部が一人である魔術師、それが藤堂の招いたライダーの真名であった。
無慈悲に殺戮と略奪を繰り返し、『己の欲すがままに』動く邪な集団。
力なき全ての者達を統べ圧制者に反逆する事を是とする藤堂達『黒の騎士団』とは、共に黒の名を持つ反社会勢力でありながらまるで真逆の在り方を有する組織であった。
「……拙者の思うよりも、か。」
先程の藤堂の言葉を聞き、ライダー……ティトゥスはどこか惚けた様な顔になり、空を見つめる。
「どうした?」
「何……嘗て、拙者を悦ばせた者の事を、思い返したまでのことよ。」
「……そうか。」
呆れた顔で腕を組み直し、藤堂もまた空を見上げ、溜息を付き口を開く。
嘗てティトゥスを歓喜させた者が、修練を重ねた人間にして忠義の者であることを、藤堂は知らない。
「それで、先程のサーヴァントの情報についてだが、どの様な者だったか?」
黒に与した二人の武人は、再び作戦会議へと移る。
一人は己の歓喜が為に。
一人は己が矜持が為に。
【クラス名】ライダー
【真名】ティトゥス
【出典】機神咆吼デモンベイン
【性別】男
【属性】混沌・悪
【パラメータ】筋力C 耐久C 敏捷A 魔力A+ 幸運E 宝具A+
【クラス別スキル】
乗り物を乗りこなす才能。
竜種を除く全ての乗り物を乗りこなす。
第二節以下の詠唱による魔術を無効化する。
大魔術、儀礼呪法等大掛かりな物は防げない。
【保有スキル】
第六感、虫の知らせとも言われる危険予知。
視覚妨害に対する耐性ともなる。
鬼戒神に乗せれば走りながら追尾弾を叩き落とせる程の技量を発揮する。
魔術を扱う技能。
ライダーは高位の魔導書に選ばれる程の実力者である。
外道の領域に踏み込んだ者。
常人を越えた程の肉体を有し、人間が乗れば命に関わると言われている鬼戒神も乗りこなせる。
同ランクの『魔力放出』『自己改造』等を含めた複合スキル。
【宝具】
『屍食教典儀(カルツ・ディ・グール)』
ランク:A+ 種別:魔術宝具 レンジ:1 最大捕捉:1
ライダーを選んだ魔導書。
鬼戒神を召喚できる程極めて強力な魔導書であり、これを扱えるライダーの実力が伺える。
人体の治癒や改造に特化した魔術を扱うが、少なくとも他のアンチクロスとの魔導書と比べれば呪いじみた術は殆ど見受けられない。
それでもライダーの肉体から日本刀を取り出したり、腕を四本にしたりと使い方はやはり人外のそれ。
『鬼戒神・皇餓(オウガ)』
ランク:A++ 種別:対神宝具 レンジ:1~30 最大捕捉:1000人
『屍食教典儀』が召喚する神の模造品、鬼戒神(デウス・マキナ)。
魔術で生成した刀剣を利用した接近戦を得意とする。
その巨体を持ちながらも他の機体と比べて高い敏捷性を持ち、ライダーの剣術を最大限にまで発揮できる。
また、奥の手として腕と刀剣を四本にまで増やす能力も有しており、これで不意を突くことも出来る。
他の鬼戒神と比べると些か兵装に乏しいが、それを補うのがライダーの卓越した戦闘技術である。
ただし、召喚する魔力に限界があるのが欠点な他、聖杯からの制限により大きさが本来の50mから半分の25mにまで下げられている。
また、この宝具は屍食教典儀ありきの魔術であるため、屍食教典儀を失えばこの宝具も同時に召喚不能となる。
【Weapon】
『日本刀』
ライダーの基本装備。
『屍食教典儀』の力でライダーの体内から取り出して使うが、逆にこの刀で空間を裂いて魔導書を取り出す事も出来る。
取り出せる刀の本数に制限はない様で、ライダーは本気を出す時には二刀流を扱う。
【人物背景】
アーカム・シティに住まう犯罪組織『ブラックロッジ』の幹部アンチクロスの一人。
侍の様な格好をしており、魔術師でありながら刀剣による生身での戦闘を好む。
戦いに飢えており、常に強者との死線を交えた戦いを望んでいる。それ以外はどうでも良いらしく、主君を裏切ることにも躊躇は殆どない。
彼自身武士道は捨てていると言っているが、その一方で敵からの借りを返したり無関係な人間を巻き込むことを好まなかったり等ある程度武人としての矜持は併せ持っている。
その戦いへの渇望が無意味かつ空虚な物だと知らされた世界線もあったが、此度においてはそれを知らずに逝った剪定事象から現界している。
【聖杯にかける願い】
英雄、特に人間との戦いを愉しむ。
【マスター名】藤堂鏡志朗
【出典】コードギアス 反逆のルルーシュ
【性別】男
【能力・技能】
卓越した戦術家としての技能。
念入りな情報収集と裏工作、更には地の利を応用した作戦展開によって厳島の奇跡を引き起こした。
四聖剣による旋回活殺自在陣と呼ばれる陣形を組むことを得意とする。
人型機動兵器『ナイトメアフレーム』を操る技能。
軍人としての技能。
合気道や剣道等にも精通している他、ナイトメアに乗せれば戦艦や選りすぐりの精鋭を叩き落とせる程の実力も見せつけている。
余談だがコードギアス屈指の身体能力を誇る枢木スザクに武術を叩き込んだのは彼である。
【人物背景】
日本がエリア11と呼ばれる前から旧日本軍中佐として神聖ブリタニア帝国と戦った人物。
その優れた指揮能力で不敗を誇り、厳島の奇跡と呼ばれる初勝利を成し遂げた事から『奇跡の藤堂』と呼ばれ日本解放の象徴となっていた。
日本が神聖ブリタニア帝国の植民地になった後も尚、日本解放戦線の客人として旧日本軍を率いていたが大きな成果は出ず、リーダーの片瀬は死に自らも捕えられる。
その時に反ブリタニア勢力『黒の騎士団』に救出され、その象徴にして指導者である仮面の英雄ゼロに諭され配下の四聖剣と共に黒の騎士団に所属することになる。
嘗ての教え子であった枢木スザクとの邂逅と決別を重ねながらも騎士団の主戦力として活躍するが、第一次トウキョウ決戦の指揮系統の混乱を抑え切れずに敗北。
他の黒の騎士団のメンバーと同様捕縛され、檻の中で死刑執行を刻一刻と待ち続けていた。
今回はその間からの参戦。
今のエリア11もとい日本にはあまり似つかわしくない渋めの武人。
高い洞察力と戦闘力を兼ね備えており、片瀬達解放戦線からも
最後の希望としての名を背負わされ続けていたが、一方で奇跡の名に重みを感じている一面も。
意志は強いが、一方で自分を卑怯だ臆病者だと罵る面もある。
【聖杯にかける願い】
ブリタニアの支配から日本を解放する。
【方針】
念入りに情報収集を行いながらも、ライダーを扱い聖杯を手に入れる。
いざという時の為にも同盟も考えておく。
【把握資料】
性格はPC版『斬魔大聖』(R18)、PS2版『機神咆吼』、小説版、何れでも把握は可能です。
ティトゥスはどのルートにも結びつかない剪定事象からの参戦ですので、どのルートでの把握でも構いません。
お勧めするのは彼の過去がより深く掘り下げられている瑠璃ルートか一番手っ取り早い小説版です。
テレビ本編第一期全25話の把握を最低限でも推奨いたします。因みに藤堂はSTAGE11から登場します。
もっと把握したい方は『LOST COLORS』や『亡国のアキト(小説版)』、ドラマCDを把握してみましょう。
藤堂が捕縛されているのはR2序盤(TURN1~4頃)で描かれています。
現在第三章の公開が予定されている劇場版三部作もございますが、出番が少ないのであまり把握には向いていないかと思われます。
最終更新:2018年05月12日 06:18