「う~ん」
『そんなに唸っていたところでなにも変わらないだろうに』
「うるさいなぁ...これが悩まずにいられるかってことなの」
デパートでの赤い箱事件の後、
美樹さやかは友人たちと別れ、帰宅していた。
あの惨劇を直に目にしたショックはもちろんある。
しかも、その犯人が聖杯戦争におけるマスターなのだからなおさらだ。
町の治安を護るためにはあんなやつを相手にしなくてはいけないのか、と思えば嫌でも気が重くなる。
けれどそれ以上にさやかを悩ませていたのは、まどかのことだった。
悲鳴が響き渡ったあの時、まどかは誰よりも早く現場へと向かった。
魔法少女である自分や、ベテランであるマミと杏子よりも早くだ。
既に命を落としていたはずが生きていたり、家族が生きているなどの背景の違いから、あの二人が魔法少女とは限らないものの、それでも三人ともまずは悲鳴に困惑していた。
だが、まどかはものの数秒でそれらを振り切り、駆け出していった。
皆が呼び止める声も聞かず、まるで子供番組のヒーローかなんかのように、真っ直ぐに向かっていったのだ。
だが、自分の知る限りではまどかは魔法少女と契約すらしていない。
身体能力的にも、ごく普通...いや、言っちゃ悪いが、平均よりも下だ。
果たしてそんな彼女が、あの悲鳴にあそこまで早く反応できるだろうか。
いくら優しいとはいえ、なんの変哲のない少女が我先にと現場へ向かうことが出来るだろうか。
『答えは既に出ているではないか。お前の友達もマスター、あるいは魔法少女だと』
アヌビスの言うとおりである。
消去法で考えれば、まどかは魔法少女。あるいは、既に非常時への心構えが出来ている聖杯戦争に呼ばれたマスター。
そうでなければなんだというのか。
「まぁ、それしかないよね...はぁ」
『なにをため息をつく必要がある。お前の仲間である魔法少女ならば、この聖杯戦争を有利に運べるはずだ』
「聖杯戦争以前の問題なの」
もしもまどかが魔法少女であれば。
自分の魂を抜かれることを承知の上で叶えた願いとはなんなのかを聞かなければなるまい。
聖杯戦争のマスターとして呼ばれたのならば。
サーヴァントはどんなヤツなのか。まどかはどうするつもりなのか。
一度話し合い、あの子を護ってやらなければならない。
けれど。
さやかには、まどかと顔を合わせづらい事情があった。
影の魔女を倒した雨の日の帰り道。
まどかはさやかに寄り添い心の底から心配してくれた。
あんな、自分を傷つけるような戦い方はよくない。さやかには幸せになってほしい、と。
それに対して、さやかは怒気と怨叉の念をぶつけた。
あたしを哀れむならあんたが契約して戦え、戦おうとしないあんたの代わりにあたしが戦ってる、同情するくらいならまずは同じ立場になれと。
まどかを否定し、貶し、蔑み、妬み、あろうことか、彼女を地獄へと引きずり込むようなことを言ってしまった。
それがまどかとの最後の会話。魔女となったのはほどなくしてである。
そう。今更、どの面さげて友達のように振舞えというのか―――それが、現在のさやかにとっての一番の悩みの種だった。
まどかのことだ。
心配をかけて悪かった、あの時の言葉は本心ではないことを説明し謝罪すれば許してくれるかもしれない。
だが、そういう問題ではない。
彼女が許す許さない以前に、こんな自分があの子の友達であろうとすること自体が許せないのだ。
だからといって、まどかとの関係を一切絶つことが出来るかといわれれば、やはりできない。
まどかは、今までどおりに自分に接してくれた。そんな彼女を突き放せば彼女は間違いなく傷ついてしまう。
それに、如何な状況であれ、まどかがどう動くかは、あのデパートでの様子を見れば一目瞭然だ。
彼女は契約しようがしまいが、誰かの為に頑張り続ける。そんな彼女を放っておけるわけがない。
そして、彼女をほうっておけないということは、さやかも己の罪と向き合い続けるということになる。
頭では理解しているし納得もしているが、待ち受けるもの全てを受け入れ前向きに捉えられるほど、さやかはできた女ではなかった。
まどかだけではなく、マミと杏子、
暁美ほむらのこともある。
マミが生き返ってくれたのはうれしい。これで、仮に彼女もマスターだとしても、争いあうことがなければなおのことだ。
だが、
佐倉杏子。彼女とは殺しあった仲だ。ソウルジェムの真実を知り落ち込んでいたのを励ましてくれたり、魔女化寸前まで気にかけてくれたりと誤解していた部分の蟠りは解けている。
それでも、彼女は生きるためならどんな手段も用いると豪語していた。
もしも彼女のそのスタンスが、この聖杯戦争にも用いられたとしたら、再び剣を交えることになるかもしれない。
そして暁美ほむら。
いけ好かなく、謎めいた少女ではあるが、だからといって指名手配されるほどの罪を犯したのかといわれればそうでもないはずだ。
指名手配所を信じ、この手で討伐するという気にはとうていなれない。
しかし、もしも指名手配されているのをほむら自身が知っていれば、彼女にとってはこの聖杯戦争においては全ての主従が敵。
彼女がそう判断すれば、嫌が応でも戦うことになってしまうだろう。
そんな、これからの苦難を考えれば、どうしてもため息は出てしまうのだ。
『まったく、人間は過去だの昔からの因縁だのなんだのをいつまでも引きずる面倒な奴らだ』
「あんたは違うの?」
『当然。この
アヌビス神、干渉してきた人間など星の数だけいる。そんなやつらの顔なんてイチイチ覚えておらんわぁ!』
「いまはあんたのそのお気楽さが羨ましいわ...はぁ」
さやかは全てを投げ出すかのようにベッドに背を預け、仰向けに寝転がる。
その際に鞘に収まったセイバーを踏みつけ喚かれるが、いまのさやかにはまさに石に灸だ。
(でも、こいつの言ったとおりだ。こうやっていつまでも悩んでてもしょうがない)
突き詰めれば、さやかのしたいことは、町を護りまどかたちの力になることだ。
そのために必要なのはやはりコミュニケーション。
それも、事態が取り返しのつかなくなる前に、即急迅速な交流が必要だ。
さやかはスマートフォンの連絡用のアイコンを開く。
「えーっと、まずはまどかから...」
『な、なにをするつもりだこのトンチキ野郎ォォォ!!』
突如響き渡った罵声にさやかの身体がビクリと跳ね上がり、スマートフォンをつい落としてしまう。
「な、なんなのよ。びっくりするじゃん」
『それはこちらのセリフだド低脳がァァァァァ!!!』
心当たりのない言われように、さやかのこめかみに青筋が浮かび、セイバーを睨み付ける。
『なんなのさあんた!いきなり人を馬鹿呼ばわりして!』
『わからんのか!オレはいまお前を救ってやったというのに!』
『救う?人をトンチキだの腐れ脳みそだの言ってた口が誰を救うって!?』
『わからないなら教えてやろう。いま、お前は
鹿目まどかに連絡をとろうとした。そうだな?』
『そうだよ。まどかにマスターか魔法少女かどうかを聞いて、それで一緒に』
『だからアホだというのだ!いいか、デパートの件でその鹿目まどかはお前の方針に沿う女だとわかった。だが、ヤツがマスターであった場合、サーヴァントの方はどうだ』
『そんなの知らな...あっ』
言葉を詰まらせたさやかの様を見て、セイバーはフンと得意げに鼻を鳴らす。
『ようやくわかったか。サーヴァントはなにもマスターと似たような者が召還されるとは限らん。鹿目まどかからサーヴァントを推し量るのはまだ出来んのだ』
『まどかのサーヴァントが悪党だったとき、もしもここであたしが電話して、ソイツに聞かれて都合のいいようにまどかを操られてしまえば...ってことね』
『その通り。故に、いくら友好関係にあろうが、こちらの素性をホイホイと話してはならんのだ。わかったか!』
『くっ、正論なのにあんたに言われるとムカつく...まあでも、ありがとう』
わかればよいのだ、と笑みを深めるセイバー。
さやかはそんな彼の顔を見ることは叶わない。
しかしコイツは高慢ちきではあるが、悪いやつじゃないかもしれないと考えを改めた。
『さて。では改めて暁美ほむらに電話してもらおうか』
『は?さっき電話するなって言ったのはあんたじゃん』
『ドアホめ。それは相手の素性を知らない場合に限ってだ。幸いにも貴様と暁美ほむら、そしてオレとDIO様は既に互いを知っている。ならば接触こそ現状求められるものだろう』
『...あたし、転校生の電話番号知らないんだけど』
『は?』
『だから、別に仲がいいわけじゃないから知らないんだって』
『...本ッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッ当にィ!使えんマスターだなァァァァァァァァ!!!』
セイバーはさやかの脳内にあらん限りの絶叫と罵声を響かせる。
そしてさやかは思った。
前言撤回。悪いやつじゃないかもしれないがイラつくやつだ。とてつもなく腹が立つヤツだ。
そしてさやかの堪忍袋の緒は―――切れた。
『イチイチデカイ声でギャアギャア五月蝿いのよこの犬っころ!!』
『い、犬っころォ!?このアヌビス神様が犬っころだとぉ!?ブチ殺されたいのか貴様ァ!!』
『やれるもんならやってみなさいよ!その前に川底にでも沈めてやるんだから!』
『グ、ガ...人のトラウマに触れるな!人の嫌がることはするなとお袋に習わなかったかァ!?』
『いや、それブーメランだから!』
ギャーギャーと頭の中で喚き、罵り、口論が白熱する二人。
時間はあっという間に過ぎ、時計の鐘が鳴り響く。
午前0時。日付が変わった証拠。つまり、聖杯戦争の幕があがったのだ。
二人の口論はピタリと止み、互いに深いため息を吐き、熱くなっていた脳内が一気に冷めていく。
『...ごめん、ちょっと言い過ぎた』
『...ウム』
さやかは、今度はちゃんとセイバーを壁に立てかけ、再びベッドに寝そべり、ゴロリと天を仰ぐ。
ついに聖杯戦争が始まってしまったのだ。
セイバーとの口論で薄まっていた恐怖と不安が押し寄せてくる。
聖杯戦争だけではない。
(この町は...どこかおかしい)
確かにこの見滝原は、自身が暮らしていた見滝原と酷似している。
だが、ここは異様に"騒がしい"のだ。
取り留めなく蔓延るウワサもそうだが、ウワサに沿って実際に起きた事件もある。
今日の"赤い箱"なんてその最たる例だ。
それ以外にも、女性の行方不明者が続出しているだの、色々な建物が円形に削られているだの、権太郎だの吉川だのいう人たちが円形の鈍器のようなもので撲殺されただの。
とにかく事件が多い。
(...これから先、どうなるんだろう)
まどか。マミ。杏子。
彼女たちが聖杯を求め、他の主従を斃してまわるとは思えない。
なら、自分は?一度は魔女に堕ちてしまった自分は、どうだ?
「......」
一度浮かんだ不安はそう易々と消え去りはしない。
いまの彼女に出来るのは、ただぼんやりと天井を仰ぐことだけだった。
【D-3/月曜日 未明 午前0時】
【美樹さやか@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]健康
[令呪]残り三画
[ソウルジェム]有
[装備]
[道具]
[所持金]
[思考・状況]
基本行動方針:平和を乱す奴をやっつける
0.まどかたちと接触する...けど、どうやって?
[備考]
※まどか・マミ・杏子の電話番号は知っていますが、ほむらの電話番号は知らないみたいです。
【アヌビス神@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態] 無傷
[装備] 刀
[道具]
[所持金]
[思考・状況]
基本行動方針:さやかを自分の有利な方へと扇動する。
1.DIO様と合流したい。
最終更新:2018年06月23日 11:08