〝相撲〟

土俵上で廻しのみを身につけ戦う日本古来の武道であり

数少ない『無差別級』の格闘技

ゆえに「大きく」「重く」ある者が絶対優位――


高校相撲においても体重100kgを優に超える巨漢がひしめく中、横綱という頂を目指さんとする彼の体はあまりに―


『個人戦優勝は、○○くん』

「......」

少年は、その光景を眺めていた。
自分が敗北した相手が、皆から拍手で讃えられ、両手で表彰状を受け渡されるその光景を。
自分が立たねばならないあの場所へと思いを募らせ、両の腕を握る手には自然と力が篭っていた。

表彰式が終わり、皆が帰りの支度をするように、少年もまた会場を去る準備をする。

「あーあ、やっぱりあいつが優勝か」

少年の耳がピクリと動いた。

「圧倒的だったからな。そりゃそうだよ」
「ズルイよなぁ、あんだけ恵まれた体格ならなにやっても勝てるって。あんなん試合じゃなくて処刑よ処刑」

それは少年に向けてのものではない。どころか特定の相手に向けたものでもなく、顔見知りが互いに言葉を交し合っているだけ。
所謂世間話という奴だ。

「特に最初の試合。ありゃ酷かったね。なんだっけ、あのチビ...えっと」
「『鬼丸』だろ?ほんとみっともねえよな」

だが、少年の耳には否が応でも飛び込んできてしまう。

「チビならチビらしくそれっぽくやりゃいいのにさ、なんでバカ正直に正面から立ち会うかね」
「もう『鬼丸』なんて呼ぶのもあきれてくるよ。ただのチビだぜあんなの」
「そんな大層な名で呼ばれるんだから、昔は強かったのかどうか知らないけどさ、向いてないんだって」
「チビはチビらしく別の競技にいけばいいんだよって忠告してやりたいぜ」

そんな自分へと罵詈雑言を悔しがらずにいられるものか。
連中は自分が傍にいることに気がついていない。やかましいと怒鳴りつけて黙らせてやりたい。
だが、その悔しさも怨念も全てを堪え、少年は会場を後にする。

それでも。声は聞こえていないはずなのに。

もう会場は自分のことなんか気にもしていないというのに。

『お前にはその相撲は向いていない』

その罵倒だけは、いつまでも耳にこびりついて離れてくれなかった。


ゴッ

夜の神社に鈍い音が響く。少年が、大木の一つに頭をぶつけたのだ。

(...わかっとる。木に八つ当たりしたところでなにが変わるわけでもねぇ。じゃが...)

「くそっ...ちくしょう...!」

それは、今日初めて少年が口にした嗚咽だった。
悔しさも遺恨も。涙と共に全てを投げ出してしまえば、いっそ楽なのかもしれない。
だが、少年は泣かなかった。
悔しくない筈がない。
ただ、挫けているヒマがあるならば、少しでも"体"を埋めなければならない。
その不器用な"心"は、彼に涙を流させることすら許さないのだ。

だから、悔やむ時間は先の一撃でお終いだ。

(負けたのはワシの鍛錬が足りんからじゃ...もっと...もっと鍛えねえと...)

ザッ ザッ

すり足。相撲でも見られる、足を上げず、足全体で地面をするようにしてに移動する方法。
これを砂場の上で行えば、それだけでもトレーニングになるのだ。

「ふっ...ふっ...!」

少しでも、少しでも"体"の差を埋めなければ。
でなければ、天辺に昇ることなんぞ...

「...さっきの試合、お前は決して劣っちゃいなかった」

かけられる声に、少年の足はピタリと止まる。

「スピードも、技も、筋肉量も、相手には劣っちゃいなかった。だが、立会いではかち合い負け、そのまま立て直す前に敗北...原因はわかっているな」

スピードと技量が同等であれば、後はなにがモノを言うか。そんなことは言われるまでもなくわかっている。

「...見とったんか」
「言ったはずだ。俺は俺の事情でお前の傍から離れられないと」
「......」

少年は数秒の沈黙の後、再びすり足を始める。

「もう一度聞かせてもらうぜ。聖杯を使えば、お前の"体"の不足を補える。お前の境遇を知ってりゃ、けなす奴もそうはいねえだろう。それでも、お前の考えは変わらねえのか」
「......」

ズリ、ズリ。

少年のすり足は止まらない。

「...わかっとるんじゃ。ワシが横綱相撲に向いていないことは。誰よりもワシ自身がわかっとる」
「相撲には様々な型がある。真っ向勝負じゃなくとも、それを侮辱する気はさらさらねえし、それに命を吹き込むなら、むしろそれが正しいとも思っとる」
「じゃが、ワシはこの相撲に決めた。この身体で、この相撲で天辺を獲ると決めたんじゃ」

少年の言葉へと、男は黙って耳を傾ける。
やはり少年の足は止まらない。

「誰かを殺して願いを叶えたくなんかねえ。当然、その思いはある。...が、それ以上に気に入らねえんじゃ」
「相撲の神様がワシのことを嫌いなのは構わねえ。才能だとか運命だとかをワシから抜くのも構わねえ」
「それでもワシが折れねえから、今度はダチ高のみんなや爺ちゃんたち、他の国宝たちからも引き剥がし、あまつさえ相撲に関係なく相手を殺して才能を手に入れろ―――ふざけんのも大概にしやがれ」

ギリ、と歯軋りと共に少年の目に炎が宿る。
百戦錬磨の英霊である男の背筋に冷や汗をかかせるほどのドス黒い殺気と執念の炎が。

「そこまでしてワシから相撲を奪いてえか。ワシの心を折るためならなんでもするつもりか」
「上等じゃ。相撲の神様がなにを仕掛けてこようが関係ねえ。聖杯だろうがなんだろうが、ワシはソイツをぶん投げてやる」
「ワシは逃げんぞ。かーちゃんから貰ったこの身体で、ワシが好きなこの相撲で横綱になる。それがワシの生き方じゃ」

聞き遂げた男は、口元に小さな笑みを浮かべる。
彼は理解した。少年にとって、相撲とは己の生涯を費やす戦場なのだと。
ばかげている、などとは思わない。
かつて、命を賭けて戦い続けた自分達の旅と彼にとっての相撲。そこに優劣もなにもありはしないのだから。

「...随分と大きく出たじゃねえか」

だからこそ。
だからこそ、少年こそがこの戦いを共に勝ち抜くマスターとして相応しい。

「なら見せてもらおうか。この聖杯戦争をぶん投げる、お前の横綱相撲をな」

少年は、男の言葉を受けキョトンとした表情を浮かべる。
そこには、先ほどまでの憤怒の表情は見られず歳相応のあどけなさすら覗かせていた。

「あんた、英霊なのに聖杯戦争とやらを壊してえのか?」
「俺は一度も戦いに『乗る』とは口にしてねえぜ」
「いや、ワシを勧誘しとるように聞こえたからてっきり...なんであんたは聖杯を拒むんじゃ?」

少年からしてみれば当然の疑問だろう。
眼前の男は聖杯という常識外れなモノからの遣いでありながら、その聖杯に対して牙を剥くというのだから。

「簡単なことだ。こんな『気に入らねえ』モノを易々と肯定できるほど、俺は器が大きくねえ。ただそれだけだ」

男は、その身に着ける一昔前の学帽学ランが示すように、かつては不良のレッテルを貼られていた。
ケンカの相手を必要以上にブチのめし、イバるだけの能無し教師には気合を入れさせ、料金以下のマズイめしを食わせるレストランに代金を払わないこともしょっちゅうあった。
そんな彼でも吐き気がするほど許せない『悪』はあった。
『悪』とは自分自身のためだけに弱者を利用し踏みつける者のことだ。

それは聖杯戦争も同じこと。
『誰か』が自分の欲を満たすために、願いを餌に多くの人間を巻き込み惑わさせ、『悪』を蔓延らせる。
そして、その『誰か』は積み重なる屍を遥か高みから見下ろして悦に浸るのだろう。

男はそれが気に入らない。
気に入らないからぶちのめすという、なによりもシンプルで何物よりも固い白金のような信念だった。

「..うへへ、あんたも随分頑固者のようじゃな」

少年の頬は思わず緩み、稽古をする足を止め改めて向き合う。
共に戦う"同志"には礼儀を。少年は、男へと名乗りを上げた。

「ワシの名は潮火ノ丸。後に大相撲の最高位"横綱"になる男じゃ!以後お見知りおきを!」

右足と左足を開き、背筋を伸ばしたまま腰を下ろす。
そして両掌は己の膝に着け。
相撲の基本姿勢のひとつ、四股の構えである。

「ワリーが、俺は相撲は好きだが力士じゃあないんでな。その構えをするわけにはいかねえ」
「うへへ、構わんよ」
「礼儀の代わりと言っちゃあなんだが、俺の真名を教えておく。空条承太郎―――JOJOでも構わねえ。しばらくはよろしく頼むぜ、マスター」

承太郎から差し出された掌を潮が力強く握り返す。

人生の全てが戦いだった男と常に逆境に晒され続けた少年。

決して折れぬ二人が進む先は希望か絶望か、それとも―――



【クラス】バーサーカー

【真名】空条承太郎

【出典作品】ジョジョの奇妙な冒険

【ステータス】
本体
筋力:C 魔力:D 耐久:C 幸運:E 敏捷:B 宝具:B

スタープラチナ
筋力:A 魔力:C 耐久:A 幸運:C 敏捷:A 宝具:B


【属性】
中立・善

【クラススキル】

狂化(プッツン):A+
怒りにより全能力を向上させるが、マスターの制御が不可能になる。



【保有スキル】

観察力:A
戦闘時、つねに相手の癖や特徴などを見逃さない力。
子供の頃から刑事コロンボが好きだった為に、細かいことも見逃せない性質から培われたもの。


頑健:C
異様に丈夫で壊れにくい肉体を維持するスキル。耐久力を向上させる。

戦闘続行:A
往生際が悪い。
瀕死の傷でも戦闘を可能とし、決定的な致命傷を受けない限り生き延びる。

テメーは俺を怒らせた:A+
プッツンした時のみ、稀に発動する。
怒りにより己の限界以上の力を引き出すことが出来る。



【宝具】
『星の白金(スタープラチナ)』
ランク:B 種別:対人宝具(自分) レンジ:1 最大補足:己のみ。
圧倒的なパワーとスピード、そして精密動作を誇る近接戦最強格のスタンド。

『無限の拳(オラオラ)』
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ1~1000 最大補足:拳の届く範囲
星の白銀から放たれる強烈な拳でのラッシュ。その速さと力強さを捌ける者は、同じく近接戦に特化した者くらいだろう。


『星の白金・世界(スタープラチナ・ザ・ワールド)』
ランク:A 種別:対人宝具(自分) レンジ:1 最大補足:己のみ。

真名解放と共に最大5秒間時を止める。
光よりも早く動く事による時間の超越であり、停止した世界では同種の能力を持つ者以外は動く事はおろか、何が起きているかを視認する事も判断する事も不可能。
宝具であるため、使用する度にマスターから魔力と体力を吸収しなければならない。
そのため過度の連発は厳しいものがある。



【weapon】
スタンドによる拳は勿論、本人も喧嘩慣れしているためやる時はやる男。

【人物背景】
ジョジョの奇妙な冒険第三部『スターダストクルセイダース』の主人公。ジョースター家の末裔の一人である。
スタンドと呼ばれる能力を有しており、同じ力を有した仲間たちと共に、邪悪の化身DIOを倒し母を救うために旅に出る。
『ただ強い』というこの上なくシンプルな『スタープラチナ』を『スタンド』として持ち、本体の頭の回転の速さと分析能力も相まって最強のスタンド使いと形容される。

【方針】
聖杯をぶち壊す。



【マスター名】潮火ノ丸
【出典作品】火ノ丸相撲
【性別】男

【weapon】
  • 素手
相撲取りに凶器は必要ない。


【人物背景】
大太刀高校に入学した少年。小柄な体でありながら相撲を心から愛しており、土俵での礼節や流儀を乱すものは許さない。
基本的には優しく、笑顔もよく見せる人当たりのよい性格だが、勝負になるとまさに『鬼』のように一切容赦のない取り組みを見せる。
また、両親を既に亡くしている。

かつては小学生相撲で2冠を取り天下五剣『鬼丸国綱』に例えられる異名を持ち(後の大相撲編ではそのまま四股名として名乗っている)恐れられていたが、中学になっても全く身長が伸びず、小柄な体のせいで屈辱を味わう。
身長が160㎝にも満たない彼は、大相撲の新弟子検査を受検すらできない体格なのであった。
それ故に、体格基準を不問とされるアマチュア相撲のタイトルを総ナメにして、大相撲界が自分に頭を下げてくることを望んでいる。

部員への助言も理に適った物が多く、単なる脳筋ではないところを見せる。また、計算づくめの言動が多く、学業面での成績もかなり優秀な部類である。なお、言葉遣いと信念は時代に逆行していて実直で、かなり謙虚である。



【能力・技能】
  • 相撲
相撲を愛し、相撲を捧げてきた者として何年も積み重ねられたその鍛え上げられた身体と技は、まさに燃え盛る火の如し。
小兵の身でありながら巨漢を投げ飛ばす様は、見る者の心を掴んで離さない。

  • 不屈(こわれた)の心
相撲とは心・技・体の三つが試される戦場である。技は鍛錬を積めばモノにできるがそれにも限度がある。身体に恵まれない小兵である彼が体を補うには、心を鍛えるしかなかった。
その心を、時に対峙者に絶望すら与えるほどの執念を折ることは誰にもできないだろう。


【方針】
聖杯戦争をぶん投げる(誰も殺さず聖杯戦争を止める)。そして改めて自分から相撲を奪うことはできんと相撲の神様に思い知らせる
最終更新:2018年04月14日 11:24