音楽は世界語であり、翻訳の必要がない。
そこにおいては、魂が魂に話しかけている。
                   ――J.S.バッハ

◆ ◆ ◆

桜が丘高校、音楽室。
黒髪ツインテールが特徴的な軽音楽部の少女――、中野梓は一人黙々とギターの練習を続けていた。

「『フー 求められているのは どんなキャラですか』~♪」

既に他の部員は全員帰宅してしまっている。残っているのは梓ただ一人だ。

「なかなか上手く決まらないなあ……」

梓は愛用のムスタングを抱え込み、口を尖らせた。

「なーんか最近、上手くいかなんだよなぁ。歯車が上手く噛み合ってない感じっていうか――あっ!」

――などと独りごちていた梓だったが、ギターを抱え込んだ拍子に手からすり抜けたピックが、楽器を仕舞っている棚の下に入り込んでしまった。

「うーん、ここかな? 暗くてよく見えないや」

屈み込んで棚の下に手を伸ばしピックを探す梓。
――すると何か硬いものに手が触れた。

「ん? 何だろ、これ」

拾い上げたのは無色透明の丸っこい宝石のようなものだった。

――と、手にした宝石が白く光り輝き始めた。

「わ、わわわわ!」

慌てる梓をよそに、光は彼女の全身を包み込んだ。

◆ ◆ ◆

「えっ、あれ、えっ?」

気づくと梓は床にへたり込んでいた。
いるのはいつも通りの音楽室で、別段変わったところは無いようだった。

「さっきの何だったんだろ……夢?」

梓は日頃の疲れにより、白昼夢を見たのだと考えた。

「疲れてる時は甘い物に限るよね。帰りに鯛焼き買って帰ろっと――」

と言って立ち上がった梓だったが――。

「――え、なに……これ……?」

窓から見る景色が、何もかもいつもと変わってしまっていた。

まず、校旗。
桜が丘高校の校旗とは明らかに異なるデザインの校旗が、体育館の上に飾られていた。

次に、グラウンドで部活動をしているサッカー部。
桜が丘高校は女子校である。そのため、もちろん男子サッカー部は存在しない。
だが、今はきちんと整備されたグランドで、多くの男子がサッカーに勤しんでいる。

極めつけは、すぐ脇を流れる川だった。
桜が丘高校の近くには川は存在しない。

「これって――うっ……!」

突如頭を抱えてうずくまる梓。
梓の頭の中に大量の情報が流れ込んでくる。目眩を何倍も酷くしたような嫌な感覚だ。

――聖杯戦争。ソウルジェム。見滝原。そして、サーヴァント。

「うう……」

――数分後、梓は吐き気を堪えて立ち上がった。
大変なものに巻き込まれてしまったと思った。お父さんやお母さん、唯先輩や澪先輩たち、軽音楽部のメンバーにもう二度と会えないかもしれないと思うと涙が込み上げそうになった。

――すると。

――ジャンジャジャンジャン♪

どこからか軽妙洒脱なメロディが聞こえてくるではないか。

このメロディは――具体的な曲名は分からないが――メキシコ系のそれだと梓にも理解できた。

梓が音の鳴っている方を見やると、いつの間にかギターを持った男がこっちを見て笑っていた。
梓はこの男こそが自身のサーヴァントであると直感的に理解した。

「あ、あなたが私のサーヴァントさん、ですか……?」

梓は恐る恐る話しかけた。

「エレス・コレクート!!」

「え、あ、はい?」

「スペイン語で『君は正解だ!!』と言ったのだ」

「チャロ」と呼ばれるメキシコの伝統的な衣装に身を纏ったキャスターはそう言うと、再びジャラーンとギターをかき鳴らした。

「私の真名は『ペヨーテ・ディアス』。気軽にペヨーテ(またはキャスター)と呼んでくれたまえ」

――と言うと、やはりジャラランとギターをかき鳴らした。
どうやらこの男、ギターでリズムを刻みながら喋るのが好きらしい。

「えっと、キャスター……さん。私は『中野梓』って言います。まだ聖杯戦争がどういうものなのかよく分かっていないんですけど、精一杯頑張るのでよろしくお願いしますっ!」

梓はそう言って頭を下げた。

「フッフッフ。アズサ、突然だけど私には夢があります☆」

「夢……ですか?」

「エレス・コレクート!! 私はこの街に来る前にとある御方に仕えていまして、そして、その御方に聖杯を献上しようと思っているのです☆」

「な、なるほどです。私は元の世界に帰してもらう以外には特に願いは無いので、キャスターさんに聖杯はお譲りします」

梓はツインテールをぴょこぴょことさせながら答えた。
梓としては、願いを叶えるモノなど本当に存在するのか半信半疑だったし、叶えたい願いなど本当に特には無かったのだ。

「素晴らしい! では、二人の利害が一致したところで、一曲いきます☆」

「え、歌うんですか!?」

梓の驚きを尻目にキャスターは弾き語りを始めた。
暫し唖然としていた梓だったが、聴いている内に何故だか心の奥の方がウズウズとしてきた。

「きゃ、キャスターさん!」

「何だね、アズサ」

「わ、私も一緒に弾かせてもらっても構いませんか……?」

「モチのロン。ララ、アズサ(マスター)と私(サーヴァント)がデュエットしたら、向かうところ敵なしだと私は思います☆」

「そ、それじゃ……。よし……」

何故かこちらの世界に持ち込めていたフェンダー・ムスタングを構え、梓は半時ほど無人の音楽室でキャスターとのデュエットを楽しんだ。

◆ ◆ ◆

――帰り道。

《キャスターさん、どうしてさっき、私はあんなにワクワクしてしまったのでしょうか?》

飲み込みの早い梓は、もう念話を使いこなしていた。

《それは私がアズサの『魂』に呼びかけたから。アズサの『魂』は私の歌のリズムに乗った。そしてアズサは歌って踊った。本当の自分を使いこなした》

よく分かるような分からないようなキャスターの言葉に首を傾げ、梓はまだ温かい鯛焼きを頬張った。

《ところでキャスターさん》

《なんだね?》

《……念話って鯛焼き食べながらでもできるから便利ですね!》

《――おそまつ》

キャスターは最後に一度だけ、ギターを鳴らした。


【クラス名】キャスター
【真名】ペヨーテ・ディアス
【出典】シャーマンキング
【性別】男性
【属性】混沌・悪
【パラメータ】筋力:C 耐久:D 敏捷:C 魔力:A+ 幸運:A 宝具:B+

【クラス別スキル】
  • 陣地作成:-
魔術師として、自らに有利な陣地を作り上げる。
キャスターはこのスキルを有していない。

  • 道具作成:C
魔術的な道具を作成する技能。
時間は多少かかるが、宝具の展開に必要な媒介の修復等も行うことができる。

【保有スキル】
  • オーバーソウル:B
キャスターによって本来物体に憑くことの出来ない霊を無理矢理憑依させ、霊を具現化させる技術。
オーバーソウルした霊体は、霊体でありながら物理的な干渉力を持ち、霊の持つ特殊能力を具現化させることも可能。
具現化する形態は霊の性質・形状と術者のイメージで決まる。
オーバーソウルの際に霊を憑依させる物体を「媒介」と呼ぶ。

  • シャーマニズム:A
精霊と対話するスキル。
キャスターはギターをかき鳴らすことにより、彼らの力を借り受けることができる。

  • 戦闘続行:C
名称通り戦闘を続行する為の能力。
決定的な致命傷を受けない限り生き延び、瀕死の傷を負ってなお戦闘可能。
「往生際の悪さ」あるいは「生還能力」と表現される。
キャスターは自身が死亡しない限り戦うのを止めない。

【宝具】
『七人の無法者(カラベラドールズ)』
ランク:D 種別:対人宝具 レンジ:- 最大捕捉:7
キャスターの元マリアッチ仲間である、カルロス、ジョアン、アントニオ、ホセ、パンチョ、サパタ、ミゲルの七人が宝具になったもの。
小型のカラベラ人形(メキシコの伝統的な祭りに使用される人形)にオーバーソウルして戦わせる。
七人が七人とも好戦的な性格で、生前はケンカばかりしていて有名だったという。しかし、全員ケンカにより死亡。
オーバーソウルの媒介としては、主にカラベラ人形を使うが、他人の体(骨)にオーバーソウルさせることもできる。
また他人の体を乗っ取った際には、体を巨大なサボテン状に変形することができ、その場合は殴打の他、棘を発射して攻撃する。

『偉大なる骸骨人形(グランデファンタスマ)』
ランク:B+ 種別:対人宝具 レンジ:- 最大捕捉:1
キャスターの切り札。巨大なファージャ人形(こちらもメキシコの伝統的な祭りに使用される人形)に七人全員をオーバーソウルさせた宝具。
強力だが、魔力消費が莫大な上に七人全員をオーバーソウルさせないと動かせないので非常にコストパフォーマンスは悪い。

【Weapon】
  • ギター
詳細不明。キャスターはこれを奏でることによって霊を操ることができる。

  • カラベラ人形
オーバーソウルに使用する「媒介」。
骸骨のような形をしていて、七体存在する。

  • ファージャ人形
オーバーソウルに使用する「媒介」。
こちらも骸骨のような形をしていて、非常に巨大。

【人物背景】
1970年9月11日生まれの乙女座、血液型はA型。趣味は刺抜きと髭剃り、好物はタマーレス。メキシコ・オアハカ出身。
カラベラ人形という独特の人形を操り、シャーマン能力に目覚める前はマリアッチとして生きていた。
刹那主義者が多いメキシコ人の中でも徹底的に刹那主義者で快楽主義者、かつ破滅願望を持つ。

【聖杯にかける願い】
元の世界に帰還し、聖杯をハオ様に献上する。

【方針】
楽しく演る。
やられたらやり返す。


【マスター】中野梓
【出典】けいおん!
【性別】女性

【Weapon】
  • フェンダー・ムスタング
特に魔術的要素のない、普通のギター。

【能力・技能】
  • ギター演奏
小学四年生からやっているのでなかなか上手。歌を歌うのは下手。

【人物背景】
1992年11月11日生まれの蠍座、血液型はAB型。親がジャズバンドをやっており、その影響で本人は小学四年生からギターをやっている。愛称はあずにゃん。
黒髪ツインテールが特徴。鯛焼きなどの甘いものが大好き。

【聖杯にかける願い】
元の世界に帰還したい。
聖杯はいらない。

【方針】
早く平穏を取り戻したい。
もちろん戦えないので戦闘はキャスターに任せる。
最終更新:2018年04月15日 22:04