文明の水準が高くなれば、貨幣経済が生まれる。
そうすれば、金銭の取引そのものを商売とするものが現れる。
もっともわかりやすいのが、「金貸し」だ。


◆ ◆ ◆


「社長、お疲れ様でした!」
「ああ、お疲れ」

社員と軽く挨拶を交わし、その男は迎えの車に乗り込む。
男の名は、ヒカゼ・アーディカイド。
若くして金融会社「MF」を起ち上げ、飛ぶ鳥を落とす勢いで業績を上げている傑物。
それが、この世界ので彼のロールであった。


◆ ◆ ◆

「今日も一日金貸し稼業か。呑気なものだな」

帰宅後、すぐさまヒカゼにそう語りかけたのは彼のサーヴァントだった。
クラスはセイバー。見た目はヒカゼとそう変わらぬ年頃の青年であり、身に纏った装備も簡素なものだ。
だがその身には、英霊と呼ぶにふさわしい風格が宿っていた。

「別に呑気にはしてないさ。ちゃんと自分が聖杯戦争なんていう最低の催しに巻き込まれたことは理解してる。
 けど、変な行動を取ったら他のマスターに怪しまれるだろう。
 まだ戦いは本格化してない。今の時点では、あくまで一般人を装っておくのがベターだ。
 その間に、ちゃんと策は練るさ」

非難めいたセイバーの言葉にも、動揺することなくヒカゼは返す。
セイバーの方も本気でヒカゼを責めていたわけではないようで、それ以上の追求はなかった。

「それにまあ、あんたみたいな英雄がいつも霊体化してそばにいてくれるわけだしな。
 こんなに頼れるボディーガードは、そうそういないぜ」
「あまり過信するな。あくまで私は、剣で斬ることしかできないサーヴァントだ。
 剣に魔法が込められてるわけでもないし、特殊な武器を持っているわけでもない」
「いや、魔法の力もないのにあれだけの戦果挙げられるって逆にすごいからな?」

ヒカゼはセイバーを召喚した直後に、彼の記憶を夢で見ていた。
彼が見たのは、何百何千という軍勢を剣術のみで蹴散らしていくセイバーの姿だった。

「すごいのは私じゃない。部下だ」
「いや、たしかに部下の人たちもすごかったけどさ! あんたも充分すごかったよ!」
「そうだろうか……」

賞賛の言葉に対し、セイバーは釈然としないような態度を取る。

「すごいというのなら、マスターの世界の魔法の方がすごいだろう。
 話として聞いただけだが、私よりよほど効率よく大群を蹴散らせる」
「まあ、たしかにものによってはそうかかもしれないが……。
 だからといって、セイバーのすごさがかすむわけじゃないと思うぜ。
 それに俺は、魔法使えないしな」

ヒカゼは一流の魔術師と言われるラインの、実に数万倍の魔力を有している。
しかし、同時にいかなる魔術も使えない体質である。
そのままでは、莫大な魔力も宝の持ち腐れ。
だが彼はそれを活かすために、魔力を他人に貸し与えることのできる独自の術を開発した。
「錬魔術」と名付けたその術を利用した、魔力の融資屋。
それが、本来のヒカゼの職業なのである。

「まあそんなわけだから、戦力として頼りになるのはあんただけだ。
 頼むぜ、セイバー。この聖杯戦争ってやつをぶっつぶすために、力を貸してくれ」

ヒカゼは狡猾で冷徹だが、根っこの部分は善人である。
おのれの利益のために、他者を意図的に不幸に追い込むことはしない。
そんな彼にとって、その意志のない人間を殺し合いに巻き込む聖杯戦争は唾棄すべき催しであった。

「改めて言われずとも、そのつもりだ。私とて、この戦いを肯定するつもりは欠片もない」

セイバーもまた、同じような思いを抱いていた。
彼に、聖杯にかける願いはない。
召喚に応じたのは、理不尽な戦いを叩き潰すためだ。

「自分を善人と主張するつもりはない。ただ、気に入らないものを斬る。
 それだけのことだ」
「さすが、3000人の軍勢に勝った王子様は言葉の重みが違うね」
「私一人で戦ったわけじゃないぞ。それに、さすがに全員斬り殺したわけじゃない」
「わかってるわ! それでも充分すごいんだよ! 何回言えばわかるんだ!」

聖杯戦争が本格化する前に、もう少し意識のすりあわせをしておきたい。
そう思うヒカゼであった。




【クラス】セイバー
【真名】イェルケル
【出典】無双系女騎士、なのでくっころはない
【性別】男
【属性】秩序・中庸

【パラメーター】筋力:B 耐久:A 敏捷:C 魔力:E 幸運:A 宝具:D

【クラススキル】
対魔力:E
魔術に対する抵抗力。一定ランクまでの魔術は無効化し、それ以上のランクのものは効果を削減する。
Eランクでは、魔術の無効化は出来ない。ダメージ数値を多少削減する。

騎乗:D
乗り物を乗りこなす能力。「乗り物」という概念に対して発揮されるスキルであるため、生物・非生物を問わない。
乗馬の心得はあるがあくまで常人の範疇であるため、ランクは高くない。

【保有スキル】
戦闘続行:A
名称通り戦闘を続行する為の能力。決定的な致命傷を受けない限り生き延び、瀕死の傷を負ってなお戦闘可能。
「往生際の悪さ」あるいは「生還能力」と表現される。
絶望的な戦力差を覆して勝利、生還した逸話から高ランクとなっている。

勇猛:B
威圧、混乱、幻惑といった精神干渉を無効化する。また、格闘ダメージを向上させる。

精神汚染:E
精神が錯乱しているため、他の精神干渉系魔術をシャットアウトできる。
ただし、同ランクの精神汚染がされていない人物とは意思疎通ができない。
彼の場合異常な経験の数々と倫理観のぶっ飛んだ部下の影響で、感性が若干歪んでしまっている。

対集団:A
絶望的な数の差を幾度も覆してきた逸話から生まれたスキル。
敵の数が味方より多ければ多いほど、筋力と耐久が上昇する。


【宝具】
『第十五騎士団』
ランク:D 種別:対軍宝具 レンジ:― 最大捕捉:―
セイバーが生前率いていた、第十五騎士団に所属した3人の女騎士を召喚する。
一人ずつでも、全員まとめてでも召喚可能。
彼女達は本来セイバー自身を上回る戦闘力を持つが、サーヴァントではなく宝具として扱われるために力が大きく低下している。
それでもなお、騎士たちが一騎当千の強者であることは変わらない。

【weapon】
「無銘の剣」
セイバークラスでありながら、彼の武器は欠片ほどの神秘も宿さない平凡な剣である。
彼の強さは、あくまで本人の身体能力と技巧によるもの。

【人物背景】
カレリア王国の第十五王子。
騎士学校時代は、並ぶ者のない剣術の達人として名を馳せる。
しかし元帥の孫の顔に泥を塗ったことで恨みを買い、死地に送り込まれてしまう。
生還は絶望的な状況でありながら、同じく厄介者として処分を考えられていた女騎士たちによって助けられる。
その後3対3000というさらに絶望的な戦いを強いられるも、大将首を討ち取り生還。
その功績により、自らの騎士団を結成することを認められる。
部下たちの血の気の多さに悩まされているが、本人も奴隷市場の惨状に逆上して後先考えず奴隷商人を皆殺しにするなど、かなりの激情家である。

【サーヴァントとしての願い】
聖杯戦争の破綻

【基本戦術、方針、運用法】
シンプルなステータス特化型サーヴァントであるため、真っ向勝負には強いが搦め手には切る手札がない。
支援型のサーヴァントと同盟を組むことができれば、弱点をカバーして盤石の状態で戦えるだろう。
宝具で召喚できる部下たちは、戦闘面では頼りになるが暴走して余計なことをしでかす危険性があるので取り扱いに注意。


【マスター】ヒカゼ・アーディカイド
【出典】魔力融資が返済できない魔導師はぜったい絶対服従ですよ?
【性別】男

【マスターとしての願い】
聖杯戦争の破綻

【weapon】
なし

【能力・技能】
「錬魔術」
錬金術と呪術を組み合わせてヒカゼが生み出した、彼オリジナルの術。
ヒカゼの魔力を他人に貸与するために使用する。
契約の内容を相手に確認させ、魔力で作られたカードを相手が割ることで契約が成立する。
相手が了承さえすればかなり無茶な制約を課すことも可能であり、極端な例で言えば
「魔力の返済が不可能になった場合、肉体を魔力に変換する(=死ぬ)」という契約も可能である。

【人物背景】
莫大な魔力を持ち、それを他人に貸し与えることを商売とする魔力の融資屋。
一流魔導師の最低ラインが魔力量100万とされる世界で、彼の魔力量は9999億にも及ぶ。
(しかもその数値は自分で認識できる分であり、実際の上限はそれ以上とされる)
しかし、魔法はいかに簡単なものであっても一切使用できないという特異体質でもある。
基本的に善意で行動する人物ではあるが、魔力の取り立てのためなら非道な手段も辞さない。
とはいえ(相手が極悪人でない限り)命を危機にさらすような取り立てはしないため、開き直られると弱いという一面もある。
人生の目標を「理想の家庭を築き上げる」こととしているが、その真意は滅亡した祖国を再興することにある。

【ロール】
金融会社の社長

【方針】
対聖杯
最終更新:2018年04月17日 23:29