アラもう聞いた? 誰から聞いた?
メアリーさんのそのウワサ

綺麗な綺麗な女の子
ワンコと一緒の外人さん
午後十一時に現れて
遊びませんかって微笑むの!

悪い大人はにっこにこ
メアリーさんの手を引いて
アンナコトやコンナコト
ホテルに泊まってお楽しみ!

だけど朝になったらメアリーさん
どこを探しても見つからない
なにをしたかも覚えてない

メアリーさんがいた証拠
それはたった一つだけ
鏡にルージュの伝言が残ってるって
見滝原ではもっぱらのウワサ!

ワタクシザンコクデシテヨッ!






 今夜この場で誰よりも幸運だったのは床で転がっている男だ。

 そして誰よりも幸福だったのは『彼』と、彼女だ。






 ――深夜、見滝原市繁華街のホテルの一室。

 床の上に青ざめた顔で横倒しになっているのは、ショウという名前のホストだ。
 深夜の公園でぽつりと一人佇む少女を見つけ、声をかけ、ホテルに連れ込んだ顛末については特に語るまい。
 彼の目論見は明白であったし、それが果たされずに終わったこともまた明白だからだ。

 故に見るべきは、その少女。
 浅黒い肌の上にふわりとした白いドレスを纏った、儚げとも、蠱惑的とも呼べる少女。
 夜の世界に迷い込んだという風にも見れるし、彼女こそ夜の住人なのだとも思える彼女。

 その彼女は今、一頭の犬を背に庇うようにして脅威と対峙していた。

 たとえ建前にしろ何にしろ、愛の営みを行うためのホテルには似つかわしくない者だ。

 男は時代錯誤な長ぞろい外套を着こなした紳士然とした態度で、にんまりとその顔に厭らしい笑みを浮かべた。

「メアリーさん。ははは、この都市伝説を聞いた時にピーンと来たんだ。
 おおかた外国人の家出少女じゃないか? どこにでもある都市伝説だ? ふふふ、とんでもない!」

「……」

 少女は答えない。ただ背後で牙を剥き唸る犬を気遣い、ただそれを守ることにだけ意識を集中しているようだった。
 男はその見るも哀れな様を小馬鹿にしたように鼻で笑い、袖口から――とても中に収まるとは思えない!――杖を抜く。
 こつり、こつり。毛足の短い安物の絨毯を杖で叩きながら、男は転がされたホストを軽く小突いた。

「実は私はある者を探しているんだ。ここだけの話、合衆国に関係ある人々が、高い懸賞金をかけていてね。
 ちょっと特殊な能力を持った女の子なんだ。不思議な、そう魔法みたいなことのできる――いやいや、嘘じゃあない」

 こつり、こつり。

 そうして男が一歩ずつ近づいてくる度、娘の背後に控えていた犬の唸り声が低くなる。
 それは明確な敵意の表明――いや、そもそもからしてこの男の全身から匂い立つ、殺意への反応なのだろう。

 鬱陶しげに顔をしかめた男は、わざとらしく目を見開いて言った。

「ほう、シベリアンハスキーか。茶色の毛並みとは珍しい」

「……っ」

 わずかに娘の表情が強張ったのを、男は見逃さなかった。
 見ればむしゃぶりつきたくなるような、瑞々しい果実を思わせるような容貌である。
 ふわりと薫る甘い匂いは、緊張から滲んだ汗のそれだろう。
 男は自身の内側で、むくむくと欲望が隆起する感触に気がついた。

「名前はスミレ、と聞いていた……」

 そしてそれに抗おうかと一瞬考え――……すぐにそれを投げ捨てる。

「――そういえば、君の髪や瞳は綺麗なスミレ色だねぇ」
「ダメです、お待ちください……っ!」

 その時、男の言葉を理解したかのように、一声吠えて犬が床を蹴って跳び上がった。

 太い手足は男を簡単に組み伏せるだろう。
 鋭利な牙は男の手足を縫い止めるだろう。
 鋭い牙は容易く男の喉笛を引き裂くだろう。

 人と獣の力の差は明白だ。人は獣に勝てない。
 ――だが、それは男がただの人であればの話だ。

「あぁ……ッ!!」
「しつけのなっていないケダモノめ……! 主の質もこれではしれたものだ!」

 娘の悲鳴が寝室に響き、ギャンという動物の鳴き声が上がる。
 男の振るったステッキから不可視の力場が放たれ、哀れな犬を致命的なまでに打ちのめしたのだ。

 念動力! すなわちサイコキネシス!!

 意思だけで見えざる力を生み出し物体を操作するという超能力ッ!
 数十年の修行を積んだインドの修験者の中には、ヒマラヤを転がり落ちる巨石すら止められる者がいるという!

 犬は天上に叩きつけられて骨と内臓の砕かれる音を立てた後、ゴミを投げ捨てるように壁へ放られる。
 安っぽいホテルの壁に当たった犬はそのまま床へ落ち、ボロ布のような有様で身動き一つすらしていない。

 ――疑いようの余地なく死んだ。生命活動が停止したのだ!

「獣をしつけるにはこうするのが一番だ。なに、お前も素直に言うことを聞くのならば可愛がって――――……」


 ――――その時、男は気づくべきだったのだ。

 娘の瞳が、今まさに襲いかかろうとする自分ではなく、ただまっすぐに床へ落ちた犬を見つめていることに。

 そしてその犬に起こった現象に。
 わずかに聞こえた異様な唸り声に!

 明らかに死んだはずだった。内臓はぐちゃぐちゃに潰されたはずだ。
 だが生きている! 呼吸もしている!

 青く変色した体毛を逆立てながら、犬がゆっくりと立ち上がる。

 いや! 「それ」はもはや犬とは呼べまい!

 瞳孔散大!

 平滑筋弛緩!

 細胞組織が変化!

 皮膚は特殊なプロテクターに変わり、筋肉・骨格・腱に宿るのは強力なパワーッ!

 額には赤い瞳の如き触角が輝き、金色の目は射抜くように男を睨むッ!





         バ ル ッ



                     これがッ



            l| l|
     ll  ll    ll  ll
      ll   ll:    ll   ll    ll ll ll
      ″  "   ,〃  ゞ’    ,〃




                   こ れ が ッ



         _ _
        |: ||: |
   |:\  _|:_||:_|   |:\  _
   |:: | | ::|       |:: | | ::|     _ _
   /:  | | ::|    ./:  | | ::レ'i  |:_||:_| |\
  《:__| |_j   /:_/ 《__/     /: |
            ̄ ̄           /:/
                            ̄




           こ れ が 『 バ オ ー 』 だ ッ ! !


         ・ ・ ・ .・ ・ ・ .・ ・ ・ ・ ・ ・  ・ ・ ・ ・
       そ い つ に 触 れ る こ と は 死 を 意 味 す る ッ ! !

          rー--
         /  /
           / /
    __,、  / /             ャ――z
   /  廴丿  ̄ ̄ ̄>        /  /
  /    -≠ミ   ζ  lー ''''" ̄ ̄"    ̄ ̄`'、
 /  /   /  /  ∠,,、 -z    ,r――― ''"
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           '´    / /l/     .,/,_ |        ;‐i            /'''',,,," 彡   |     / ./  /
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                            l_,l゙       .〈/!_|     lニ ニl    .,/,_ |    |    ムイ  /
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「!? 第48の男ッ!!」
「御意ッ!!」

 この異常事態に対して、男はもちうる手段の中でもっとも的確なものを選択した。
 男は賢明だった。愚かではなかった。この奇妙な状況を冷静に判断したのだ。

  ・ ・ ・ ・ ・ ・     ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
 これはヤバイ――俺以外のヤツをぶつけるべきだ。

 男の声に応じて、その傍らに立つパワーあるヴィジョンが生み出される。
 影が滲むようにして現れたそれは、紛うことなき鎧武者であり、ゆらりと下げた刀を即座に振りかぶる。
 その姿を頼もしげに眺めながら、男は己の杖を振り回して声高に叫んだ。

「第48の男! 優れた鍛冶師が魂を込めて鍛え上げた武具には、念が宿り、力あるヴィジョンを作り出す!
 数ヶ月前に東北である組織の研究所が崩壊した! こいつはそこから私が拾い上げたものだ!
 人間のベテラン兵士ですら現役で戦える期間は二十年から三十年程度!
 しかし第48の男の戦歴は数百年! 殺した数も2500人はくだらん!
 命を持たぬが故にいかなる攻撃も無意味! 高度な知性に加え、殺すことをためらわない残忍な性格!
 ちょっとでも気を抜けば私だとて危ういが――――しかし頼もしいヤツよ!」

 男たちには、目前でバイクのエンジン音が如き唸りを上げる「それ」が何であるかなど理解できなかったろう。

 秘密結社ドレスに所属する天才科学者が作り出した生物兵器。
 動物は危険が迫ったりケガなどをすると、副腎髄質という内蔵器からアドレナリンという物質を分泌し、体を緊張させる。
 このアドレナリン量を感知し、脳に寄生する「バオー」は宿主を生命の危険から守るべく無敵の肉体に変身させたのだ。
 それこそが地球上で最も生命力のある究極の生物「バオー」であるなどとは、男にはわかるわけもない。

 そしてそれは「バオー」にとっても同じだった。
「バオー」には男たちが何者であるかなど関係なかった。
 ただ生きるために戦う「バオー」には、視覚も聴覚も嗅覚も意味がない。
 額の触角が「バオー」の全ての感覚を担うのだ。

 バオーは男たちの発する危険な「におい」を額の触角で感じ……その「におい」が大嫌いだった。

 恐怖の「におい」! 憎しみの「におい」! 殺意の「におい」! 敵の「におい」だ!

 バオーは思った!

 こいつらの「におい」を消してやるッ!!


「ウオオォオオォオムッ!!」

「怪物め……ッ!!」

 吐き捨てるようにおめいて刀を振りかぶる第48の男の目前で、バオーは跳躍した。
 第48の男はすばやくその動きに応じて刃の軌跡を宙に描く。
 鎌倉時代に鍛えられた無銘の業物。退魔の剣。第48の男が頼みとする、唯一無二の武具!
 これにて討ち果たせぬ怪物はいない。第48の男は心からそう確信していた。

 だが!

「な……ッ!?」

 バオーの四肢から伸びたきらめく光刃が、その刃をすぱりと切断し、ナンバー48の篭手を切り落とす!

 ――――バオー・リスキニハーデン・セイバー・フェノメノン!

 それはバオーの力によって皮膚を硬質化し、刃に再構成する武装現象(アームド・フェノメノン)!

 硬質化して刃と化した皮膚の表面では、サメの牙の如く生え揃った微小な棘が高速で動き回っている。
 光の乱反射を伴うその切れ味はダイアモンドカッター以上!

 自分の失われた腕を、刀を、第48の男は信じられない思いで見つめる。
 たとえどんな剣豪や英傑であろうとも無視できない、その一瞬の驚愕。
 それが致命的だった。
 次の瞬間、第48の男の視界一杯に、バオーの大きく開いた顎が迫っていた!

「バルバルバルバルバルバルバルバルゥッ!!!!」

「がッ!?」

 第48の男の頭は何百年も及ぶ戦いの中で幾度となく刀で、槍で、銃で! 攻撃されて尚健在!
 鍛え抜かれた鋼鉄のその体は、およそ獣の牙など文字通り歯が立たないものである。
 にも関わらず音もなく第48の男の兜は噛みちぎられ――いや! いや、これは違うっ!
 牙や唾液によって溶解され、そのままに断ち切られたのだ!

 ――――バオー・メルテッディン・パルム・フェノメノン!

 体液を強酸性のものに変化させて分泌、体外へと放射する武装現象!
 バオー・リスキニハーデン・セイバー・フェノメノンと組み合わせれば、この世のあらゆる物を切断する!

 頭部を失った第48の男の甲冑が、影が光へ溶けるように消えていく。

「ドッゲエーッ!? 第48の男ォッ!?」

 だが男は一声大声で喚いたかと思うと、それ以上感傷に浸ることなく脱出行動を開始していた。

 ホテルの一室。選択肢は二つ。窓かドアか。窓ははめ殺し。ドアだ。

 男は自らの念動力を身にまとって身体強化を施しながら、脱兎のごとくドアに向けて走り出した。
 あの怪物は戦闘直後で即座に反応はできまい。後はあの小娘以上の速度を出せれば生存は確定する。
 この場を切り抜けさえすれば、後はどうとでもなるのだ。戦力を整え体勢を立て直しての逆襲。あるいは見滝原からの逃走。

「申し訳ありません。……ここで果てていただかないと、困るのです」

 だが、男の喉にするりと腕が絡みついた。ぎくりと体が強張る。

 耳をくすぐる甘やかな声。振り返ってはいけない。鼻に薫る甘やかな香り。振り返ってはいけない。
 だが、男の意思に反して首が巡る、体が動く。わずかに眉を下げた、幼ささえ感じる少女の顔。スミレ色の瞳。
 そして僅かな隙間からちろりと舌が覗き、軽く唇を舐め、そして――口吻。

 その瞬間、男の全身を文字通りの意味で絶頂的な快楽が貫いた。

「お、ああ、、あ、あ、あ、あ、、あああ、あ、あ、、あ、あ!?」

 男は意味不明な言葉を喉から絞り出しながら、全身からありとあらゆる体液を吹き出し、病的な痙攣を繰り返し崩れ落ちる。
 病的な体の震えは男の四肢を捻じ曲げ、引きつったように動かし、男の体を床の上でのたうち回らせた。
 それはまさに死の舞踏(ダンス・マカブル)。
 やがて男の肉体はじゅうじゅうと煙を上げながら腐敗し、ドロドロに融け、やがて床の上の黒いシミへと成り果てた。



「ご無事ですか……! 良かった……」

 少女はそう言って、腐食性の黒いシミが広がる床を物ともせずに跪き、バオーへと頭を垂れた。
 いや、青い毛並みは元の茶色へと戻りはじめているから、それはもうバオーではない、『彼』だ。

 先ほど内臓を叩き潰されたはずなのにも関わらず、もうそのような痕跡は一つもない。
 精悍な顔つきこそ変わらぬものの、そこにいるのはもはやただのシベリアンハスキーだった。

「どうやらサーヴァントやマスター、ではなかったようですね。
 NPCというのでしょうか。……奇妙な存在が多いのは、今に始まった事ではありませんけれど」

 少女は自らの指にはめた銀の指輪をそっと撫でてそう呟き、次いで物憂げに眉を下げた。
 それは親に怒られて家の外に放り出される事を恐れる、今にも泣き出しそうな子供のような顔であった。

「マスター……。申し訳ありません。これではどちらがマスターでサーヴァントなのか、わかりませんね」

 ジール……いや、アサシンの英霊ハサン・サッバーハは、そう言いながら恐る恐る『彼』へ手を伸ばした。
『彼』はためらうことなく鼻面を押し付け、頬を擦りつけ、ばかりか躊躇うことなくその手を舌で舐めたではないか。
 毒の手。触れることは死を意味するその手。しかしバオーと『彼』は彼女の「におい」が好きだった。

 なんて悲しい「におい」だろう! なんて優しい「におい」だろう!

 それはバオーとその宿主である『彼』が、あの冷たい研究所で常に感じていたものだった。
 そして『彼』とバオーには終ぞ与えられることのなかった、心地のよい温もりだった。

「ああ……っ」

 アサシンの顔が陶然と緩み、その瞳が情愛の涙で潤む。

 他の者が見たら嘲るだろうか。犬畜生に媚を売っているなどと指差すだろうか。
 初代様がこんな浅ましい自分を見たらどう思われるだろう。きっと首を差し出さねばなるまい。

 ――――そう、この一頭のシベリアンハスキーこそが、サーヴァントとして召喚された彼女のマスターだった。

 出会ったのは霊地でも何でもない、薄暗い路地裏。
 恐らくは巻き込まれた者に召喚されたのだろう。聖杯から与えられた知識は彼女にそう囁きかける。
 だがそれでも構わなかった。
 アサシン、暗殺者たる彼女は神と主君に忠実にあり、そのためにこそ振るわれる刃であるべきだから。
 跪いて頭を垂れ、口上を述べることにいささかの躊躇もなかった。

 懸念はただ一つ。近くに人の気配が一切感じられないことだった。
 そしてだからこそ、その違和感こそが幸運だったと言っても良い。

「――――? あ……っ!?」

 不意うつように、彼女の頬を何かが舐めたのだ。
 それは薄汚れた一頭の犬で、不覚を取ったこと以上に彼女の心は千々に乱れた。
 彼女は自分がどれほどの「毒」であるのかを理解している。
 一瞬後にはこの犬が内臓から何から腐り果て、死んでしまう姿がありありと思い描けた。

 だが、そうはならなかった。
 そうはならず、『彼』は彼女と共に在る。
 契約によって繋がった魔力のラインも、そこを通じて流れ込む『彼』の気持ちも。
 全てが『彼』こそが自分のマスターであると示していた。

 これは奇跡のような出会いだ。
 恐らく何千、何万回、英霊として顕現しようとも、掴み取れる機会は数えるほどしか無いだろう。
 他の霊基でどのような巡り合わせがあるにせよ、今この場にいる彼女は、まさに運命に出会ったのだ。

 それに比べれば、たかだか異形に転じてサーヴァントとも互角に戦えることが何だというのだろう。

 静謐のハサンと呼ばれる彼女にとって、そんなことは些事に過ぎなかった。

「……では、マスター。今日はもう休みましょう。
 戦闘に感づいたものがいたとしても、我々はすぐに移動したと考えるはず。とどまっていた方が安全です。
 それで、その……」

 少女はその浅黒い肌をわずかに羞恥から紅潮させながら、手を自分の首筋へ伸ばし、服の紐をするりと解いた。
 白い衣装は音もなく彼女の足元へと落ちて蹲り、一糸まとわぬ彼女の――柔らかで美しい稜線が露わになる。

「よろしければ、今夜も褥を共にしては頂けませんか……?」

『彼』は一声吠えて、そこが自分の居場所であるとでも言うようにベッドへ上がって丸くなった。
 その姿を認めた彼女は、そっと頬を緩めて寝台に上がり、『彼』の傍らへと身を侍らせる。
 それは最愛の伴侶を見出した牝の顔でもあり、同時に大好きな犬を抱きしめて眠る少女の顔でもあった。




 今夜この場で誰よりも幸福だったのは『彼』と、彼女だった。

 ――――そして何にせよ、今夜この場で誰よりも幸運だったのは床で転がっているホストだ。

 夢と現の区別もつかず、財布の中身も抜き取られ、散々な一晩だったと考えるのだろう。
 きっと自分が生きていることがありえないような状況にあったなんて、思いもよらないだろう。
『彼』と彼女に触れることは死を意味するというのに、生きていることがどれほど幸運かなんてわからないだろう。

 ショウという名前のホストは朝起きて、鏡を見て、その時に気づくのだ。
 鏡に描かれたルージュの伝言に。



                   『 The Visitor for "Over the Heaven"!』





【クラス名】アサシン
【真名】静謐のハサン@Fate/Grand Order
【性別】女
【属性】秩序・悪
【パラメータ】筋力D 耐久D 敏捷A+ 魔力C 幸運A 宝具C

【クラス別スキル】
  • 気配遮断:A+
 サーヴァントとしての気配を断つ。隠密行動に適している。
 完全に気配を絶てば発見する事は不可能に近い。
 ただし、自らが攻撃行動に移ると気配遮断のランクは大きく落ちる。

  • 単独行動:A
 マスターからの魔力供給を絶ってもしばらくは自立できる能力。
 ランクAならば、マスターを失っても一週間は現界可能。


【保有スキル】
  • 変化(潜入):C
 文字通りに変身する能力。自在に姿を変え、暗殺すべき対象に接近する事が可能になる。
 ただし、変身できるのは自分と似た背格好の人物のみ。
 この条件さえ満たしていれば、特定の人物そっくりに変身する事も可能。
 多少の体型の違いであれば条件に影響はないため、異性への変身も可能である。

  • 投擲(毒の刃):C++
 短刀を弾丸として放つ能力。
 毒ステータスを対象に付与するという付帯効果を持つ。

  • 楽園への扉:B+
 魔性の美貌と毒により異性・同性を問わず惹きつける。
 ランクBではほぼ対象の意思を無視して精神を支配する。
 毒による効果が伴うため、対魔力スキルでは抵抗できない。


【宝具】
『妄想毒身(ザバーニーヤ)』
 ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:0 最大捕捉:1人
 猛毒の塊と言えるアサシンの肉体そのもの。触れるすべてを毒殺し続けた彼女の在り方が宝具化したもの。
 爪、肌、体液、吐息さえも“死”で構成されており、全身が宝具と化している。またあらゆる毒を無効化する。
 宝具ではない武装であれば、瞬時に腐蝕させることも可能。武装を腐食させるかどうかは任意に決定できる。
 しかし生物に対しては「加減」することができないため、触れた相手を必ず殺してしまう。

 この毒は幻創種すら殺害するほどの威力であり、特に粘膜の毒は強力。
 人間であればどれほどの者でも接吻だけで死亡し、英霊であっても二度も接吻を受ければ同じ末路になる。
 二度の接吻に耐えたとしても、合計三度の粘膜接触で大抵の存在は絶命する――例外も存在するが。
 これは自分の意志では完全に制御することは出来ず、触れた者に無差別に作用してしまう。
 さらに犠牲者の体にまで毒は残留し、遺体に触れた者にも被害が及ぶ。

『静寂の舞踏』
 宝具『妄想毒身』を用いた範囲攻撃。
 静謐のハサンの踊りは毒を振りまき、対象を弱らせ、宝具の効果を確実なものとする。
 汗を揮発させることで密室に毒を充満させたり、風に毒を乗せて万軍をを葬り去るなども可能。
 ただし範囲が拡大される反面、毒の強度という意味では粘膜接触には劣ってしまう。
 一度きりの奥の手として、至近距離で自身の肉体を四散させて大量の毒を浴びせるという隠し技も持っている。


【Weapon】
『ダーク』
 投擲用に調整された黒灰白三色の短剣。
 宝具ではなく補充ができないため、戦闘の度に回収が必要。


【人物背景】
 髑髏の仮面を被った、瑞々しくしなやかな容姿の少女。
 暗殺教団の教主「山の翁」を務めた歴代ハサン・サッバーハの一人。
 伝説上の存在「毒の娘」を暗殺教団が再現し、暗殺の道具、兵器として作り上げたもの。
 彼女の肉体は毒の塊であり、爪はおろか肌や体液さえをも猛毒へと変化させている。
 その美貌を活かして異性を誘惑、理性を失わせ、褥に誘っては毒で暗殺するという手法を最も得意とする。
 しかし誰とも触れ合うことができない孤独感は生前から彼女を苛み、その精神を軋ませていた。

 直接戦闘は得意ではなく、純粋な暗殺者として優れた力量を発揮する。
 そのため現在は「ジール」を名乗り、主の寝床を確保するためホテルを転々としている。
 幸いなことに主が殺戮を忌避することから粘膜接触は避け、誘惑された人々は昏倒で済んでいるようだ。

 バオー犬は触れても死なないため、彼こそが自身の望んでいた相手だと認識している。
 その感情は依存、服従、忠誠、恋慕の全てが入り混じったうえで、その全てを凌駕するもの。


【聖杯にかける願い】
 主に全てを捧げ、願わくば共に生きる。




【マスター名】バオー犬
【出典】バオー 来訪者
【性別】オス

【能力・技能】
  • シベリアンハスキー
 ツンドラ地帯を原産とする大型犬。
 多くは白黒の毛だが、この個体は茶白である。
 一般的に強靭な体力・持久力を持ち、知能も高い犬種とされている。
 自ら威嚇することのほとんどない穏やかな犬種だが、頑固で意思が強い。
 一度共同体とみなした仲間を守るためなら勇敢に立ち向かう。

  • 寄生虫バオー
 秘密結社ドレスが作り出した生物兵器B.A.O.H。
 極限の環境に晒し、適応した動物を交配させる「人工進化」によって誕生した「新生物」。

 血管を通じて脳に寄生し、宿主は寄生から数日ほどでバオーの分泌液で皮膚がただれ始める。
 バオーは宿主へ恐ろしいほどの再生能力を与え、脳を完全に破壊しない限り宿主は消して死なない。
 この再生力は分泌液に由来し、バオーと宿主の意思が一致したなら、飲んだ者の致命傷すら癒やす薬となる。
 レーザーや火炎放射などの高熱が弱点であるとされるが、それに対してすら異様な耐久性を発揮する。
 また水中などで肺呼吸が完全に遮断されると仮死状態となり、この間は老化も一切進むことがない。

 そしてバオーは生物として常に学習・成長・進化を続けており、その終着点は未だ誰も知らない。

  • 武装現象(アームド・フェノメノン)
 危険に晒されたバオーが、分泌液によって宿主を瞬時に戦闘形態へと変態(メタモルフォーゼ)させる現象。
 宿主は身体能力の大幅な増強をはじめ完全に変化して、地上で最も生命力のある生物へ変貌を遂げる。
 これがッ! これがッ! これが『バオー』だッ!!

 発現時には全身の体毛が青く変化して逆立ち、額には第三の目を思わせる赤い触角が発生する。
 武装現象発現中はこの触角で全感覚を賄うため、通常の五感はバオーにとって無意味なものとなる。
 バオーは触角で「におい」を察知して行動し、特に邪悪な「におい」すなわち自身への殺意の「におい」を最も嫌う。
 この「におい」を察知すると、バオーは即座にこれを排除すべく行動を開始する。

 主に宿主と自身を守るために発現し、発現中はバオーが肉体の制御権を得るが、宿主の意思を尊重することもある。
 そのため宿主の意思での発現も可能だが、基本的にバオーは生物としては穏やかであり、無意味な殺戮を行うことはない。
 バオーを完全に宿主の制御下へおくためには、宿主の理性とバオーの本能が一致しなければならない。

 また武装現象発現中、バオーは「バル!」「バルバルバルバル!!」「ウォォォ――ム!!」など異様な咆哮を轟かせる。

《バオー・アームド・フェノメノン》
 バオーが最初に発現させる第一の武装能力。
 痛覚を遮断、瞳孔散大、平滑筋弛緩、細胞組織が変化。
 皮膚は特殊なプロテクターに変わり、筋肉・骨格・腱には強力なパワーが宿る。
 加えて以下の武装現象を自在に発現させ、使いこなせるようになる。

《バオー・メルテッディン・パルム・フェノメノン》
 体外に排出されると強力な溶解液へと変わる分泌液を放射し、標的の肉体や金属などを融かす武装現象。
 噴射の際に自身の体組織も溶解させるが、同時に新たな皮膚を生成・再生するため、事実上のダメージはない。
 またこの溶解液と前述の再生能力を組み合わせ、「生きた生物の中に潜り込んで身を隠す」なども可能とする。

《バオー・リスキニハーデン・セイバー・フェノメノン》
 皮膚組織を再構築し、硬質化させて刃物状にする武装現象。
 刀身の表面でサメの歯のような極小のトゲが高速で動き回り、光の乱反射を起こしつつ標的を切断する。
 柱の男たちが振るう光の流法「輝彩滑刀」と同質のものであるとされる。
 切り離して発射することで、飛び道具としても使用可能。

《バオー・シューティングビースス・スティンガー・フェノメノン》
 体毛を硬質化して射出する武装現象。
 この体毛は体温の伝導などで一定温度に達すると発火し、突き刺さった標的を焼き尽くす。
 発火自体も脅威的だが、体毛の鋭さも凄まじいものがある。

《バオー・ブレイク・ダーク・サンダー・フェノメノン》
 体細胞から発生される生体電気を直列にして放出、放電する武装現象。
 デンキウナギと同様の原理だが、バオーの筋肉細胞は一つ一つが強力なために60,000ボルトの高圧電流となる。
 直接放電する以外にも機械などへ電力供給を行うことも可能。


【人物背景】
 研究機関ドレスの実験体としてバオーを寄生させられた茶毛のシベリアンハスキー。
 既に寄生から一ヶ月が経過しており、バオーとしての完成度は高い。体毛で隠された肉体はただれている。

 秘密結社ドレスでは出資者へのデモンストレーションに用いられ、改造を施された虎との戦闘を強制された。
 頭部を砕かれた直後に武装現象を発現、一瞬の内に虎を葬り去り、出資者へバオーの恐ろしさを見せつけた。
 しかしバオーの殺害方法を説明するためにレーザー照射で脳を破壊され、焼却処分されてしまった。

 施設から脱走することができたのか、処分寸前にソウルジェムを手にしたのか……。
 そしてマスターがこの犬なのか、それとも寄生しているバオーなのかすらさだかではない。


【聖杯にかける願い】
 生きる
 この少女を守る
 見滝原に満ちる「嫌なにおい」を消してやる


【ソウルジェム】
 透き通った青の中に赤が滲むもの。
 指輪型でバオー犬が所持できないため、普段はアサシンが管理している。
 首輪を手に入れることができらバオー犬に持たせられるかもしれない。


【方針】
 専守防衛
 無害な「大型犬を伴った少女」を装って見滝原を探索し、襲撃者を排除する
 主にC3公園からB3-4駅付近のホテル、あるいはC6繁華街のホテルを転々とする
 男を誘って昏倒させる都市伝説『メアリーさん』の噂は広がっているかもしれない


【把握資料】
  • アサシン(静謐のハサン)
 『Fate/Grand Order』および『Fate/prototype 蒼銀のフラグメンツ』
  本編中のマテリアルなどを参照のこと。

  • バオー犬
 『バオー 来訪者』文庫版およびOVA版
  バオー犬は序盤に登場、バオーの説明をするためのデモンストレーションで殺処分となった。
  バオーそれ自体の戦闘能力は、本編主人公「橋沢育朗」のものに準拠する。
  原作コミックスでは「バオーは寄生から一定期間で成体となり、宿主を食い破る」設定があるが、
  OVA版ではカットされているため、このバオー犬についても同様に時間制限は無いものとする。

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最終更新:2018年04月20日 01:04