【1】

脳――及び、それに付随する頭部、それさえ残っていれば生存できる人間は存在する。
いやその生物を人間と呼ぶべきではないのだろうが、敢えてこの文中では彼を人間と呼ばせてもらおう。
では逆に、頭部を失った人間は存在できるのか。
すなわち、何らかの巨大な獣によって頭部は丸々喰いちぎられたが、中学生らしからぬ豊満な肢体は残った場合である。
結論から言えば、彼女は死んだ。
死んだが、その魂は天、あるいはそれに類するものに召されることなく、この街へと辿り着いた。
この話は、今後の物語に特別に重要であるというわけではない。
だが、面白い偶然ではないか。頭部を失った少女の主人が、頭部を残して死んだ従者を引き連れるなど。

もう一つ、面白い偶然がある。

彼女も彼も――


【2】

学校で、彼女は一人だ。
机に突っ伏して眠る振りをする必要があるわけでもない、完全なる趣味の世界に逃げこむ必要があるわけでもない、
自分の椅子に誰かが座っている時に声を掛けられないわけでもないし、トイレや図書室――教室以外の場所に逃げ込む必要もない。
会話をする相手はいるし、クラスメイトとの仲も良好で、広義な意味で取れば友達もいる。
それでも、彼女は己の孤独感を埋めることが出来ない。
その孤独感の象徴が、彼女のはめている指輪である。
彼女はその指輪を買った覚えも貰った覚えもない、当然盗んだ覚えもない。
その指輪に関するありとあらゆる記憶が存在しない。
だが、外そうとすれば謎の焦燥感に襲われるため、外せないでいる。
誰も、何も言わない。教師でさえも何も言わない。
指輪は、彼女――巴マミにしか見えない。

「すみません」
授業が始まって十数分後、彼女はどこか異人じみてすらりと伸びた手を挙げる。
「どうしました?巴さん」
数学の授業中であり、巴マミは数学の教師にとって優秀な生徒であった。
少なくとも、黒板の数式が呪言めいて理解できない、等ということは無いはずである。
「保健室に行っても、構わないでしょうか」
「あっ、あぁ……保健委員、付き添ってあげなさい」
「いえ、一人で大丈夫です」
生徒の体調不良でありながら、教師としては胸を撫で下ろす心持ちであった。
中学生女子に抱くべきでない感想なのだろうが、巴マミは、どことなく断罪者めいている。
普通の人間とは何かが違う、それは彼女の両親が不在であることでなく、何か他の要因に端を発するような――いや、教師が考えるべきことではないのだろう。
ただ、巴マミは自分たちとは何かが違う。そして、真実がどうであれ、巴マミであろうとも体調を崩すことはある。
理解できる要因だったから、安心した。それだけのことだ。


【3】

込み上げる嘔吐感を抑えながら、巴マミは保健室へと向かう。
ある朝から、幾度と無く彼女は自分が死ぬ夢に悩まされていた。
その夢の中で、彼女は幼児向けアニメに出てくるような魔法少女の姿をしており、二人の後輩と白い猫のような生物が見守る中、怪物と戦っていた。
武器は――銃だろう、巴マミに銃器に関する知識はない。だが、その銃が単発式であることは戦いの中で理解できた。
次々に、新しい銃を召喚するぐらいならば、一度に何発も撃てる銃を召喚すれば良いのに、と夢の中の自分に思う。
だが、何丁も銃を使い捨てていく様には、どこか不思議な爽快感があった。
怪物を倒しながら進んでいくと、とうとう親玉らしい怪物が見つかった。
その姿はぬいぐるみのようで、どこか愛らしい。だが、夢の中の自分は容赦しない。
知っているのだ、愛らしいのは外見だけであると。
夢の中の自分が持つ単発式の銃が、巨大な大砲へと変わる。
「ティロ・フィナ――――――レっ!」
叫びとともに、耳をつんざくような大きな音が響き渡り――怪物は大砲から放たれた無数のリボンに絡め取られ、強く締めあげられて首をかくりと、落とす。
それで終わりのはずだった。
きぐるみを脱ぎ捨てるかのように、ぬいぐるみの中から黒いぐにょりとした何かが現れる。
夢の中の私の拘束などものともせずに、それは夢の中の私に接近する。
口を大きく開く。私を食べる。そして、夢が覚める。

最初にその夢を見た時、巴マミは家中に響き渡る声で悲鳴をあげた。
彼女の人生において、家族がいなくて幸運だったことはその時ぐらいだっただろう。
その声はきっと、どんな深い眠りからでも覚醒に導いていたはずだ。
その悪夢を、彼女は何度も繰り返し見た。
何度も見れば慣れる。悲鳴もあげなくなった。
だが、自分が怪物に噛み殺される感触などは何度味わっても気持ち良いものではない。
何より問題なのは、起きている時にもその夢の映像がぼんやりと頭のなかで再生されるようになったことだ。
誰かが己に呪いをかけているのではないか、そんな冗談のような発想も真剣味を帯びる。
巴マミは真剣にお祓いに行くことを考えていた。

悪夢も見ずに、うつらうつらとしていられるのならば、毎日でも保健室に行きたくなる。
最初は冷たかった布団が自分を受け入れるかのようにあたたかみを帯びていく内に、巴マミはそう思う。
ぼんやりと天井を眺めながら、指輪を何となくかざしてみる。
養護教諭は今、外出中だ。
巴マミにそういう趣味があった、というわけでは断じて無い。
ただ、何となく――本当に何となく、夢の中の自分を思い出して、彼女はこう呟いただけだ

「変身【メタモルフォージ】」

醜い蛹から蝶が飛び立つように、偽りの巴マミという存在が――魔法少女へと、変わっていく。
記憶が戻る。夢のすべてが現実だと、知る。
濁る。濁る。濁る。濁る。
彼女の魂の象徴、右側の髪飾り――ソウルジェムが濁る。
自分の死が、自分の死によって絶望的となってしまった後輩二人に対する罪悪感が、
そして自分が巻き込もうとした魔法少女という運命の苛烈さが、彼女のソウルジェムを濁らせる。

絶望が、彼女を染め上げる。

ソウルジェムとは、卵である。
雛が眠る卵が親の温もりを求めるように、ソウルジェムは魔法少女の絶望を求める。
そして、魔女としてこの世に生まれ落ちる。
それでも、未だに人間として踏みとどまっているのは――彼女の精神力の強さのためだろう。
幼少の頃から、魔法少女として命懸けで戦ってきた。
救えなかった人間もいたし、弟子と別れることもあった。
そして何よりも、彼女の願いは――生きることだった。
交通事故で両親を失い、自らも死に向かう中。
あるいは、両親と共に死んだほうが幸せかもしれない、それでも彼女は生きることを願い、魔法少女になった。
始まりから、絶望だった。だから、彼女は耐えられる。

そして、この願いこそが二度目の死に際して――彼女をこの聖杯戦争へと導いたのかもしれない。


【4】

半狂乱になり、涙さえ浮かべながら――それでも、彼女は立ち直った。
聖杯戦争、その情報が彼女にインストールされていく。
だが、願いなどは無かった。
いや、正確にいえば人を殺してまで叶えたい願いが無かった。
だから、このまま家に帰りたかった。
殺されてなおも、魔法少女であることが彼女の存在理由だった。
だから、戦わなければならない。
この偽物の街ではなく、本当の見滝原で。

9(キュウべえ)

己の命を助けた白い獣の名を心で呼ぶ、俗にいうテレパシーである。しかし、返事はない。
キュウべえとは特殊な生物であり、通常の人間に見ることは適わない。
魔法少女であることを思い出した今ならば、彼を見ることが出来るのではないかと思ったが、どうやらそもそもこの街にキュウべえはいないらしい。
魔法少女になったあの日から、いつも一緒にいてくれた家族のような存在である彼がいないのは少々不安だが、そもそもこういう場所であるのでしょうがないだろう。
ならば、次に呼ぶべきなのは――きっと、この場所で彼女の唯一の味方、己の従者【サーヴァント】。
もうすでに召喚されていたのか、あるいはこれから呼び出されるのか、彼女にはわからない。
だが、確信がある。キュウべえに語りかけるように、魔法少女見習いの愛おしき後輩に語りかけるように、心で語りかければ良い。

(来て、私のサーヴァント)

心の中の声と共に、空気が不自然に粘ついた。
動けなくなるような強い圧【プレッシャー】、魔法少女という外面を剥ぎ取られ、巴マミという少女になればガタガタと震えたくなるような、悍ましい悪【オーラ】。
思わず、目を閉じる。それは一瞬のことで、そして一瞬で十分だった。
彼女が目を閉じている間に、召喚は完了していた。

「問おう――」
発せられる強烈なオーラに反し、その男は穏やかな顔をしていた。
その顔は、世界中のほとんどの人間が知る、彼を思い起こさせる。

「君が、私のマスターか」

その男は救世主【キリスト】のような顔をしていた。


【5】

自分が魔法少女であること、自分が死んだこと、自分のこと、自分のこと、自分のこと。
己のサーヴァントに話す時、口は驚くほどによく回った。
魔法少女の才能を持った二人の後輩と会った時と同じだ、
魔法少女という特異な才能は誰にも理解されない。
だからこそ、それを理解してくれる人間に己の孤独を埋めて欲しくて話す、話す、話す。

「聖杯で叶えたい願いはありません」
「ふむ……」
そして、伝えた。
聖杯に望む願いはない、その言葉にもサーヴァントは意に介すでもなく、微笑んでいる。
巴マミは紅茶を口に運ぶ、先ほどのプレッシャーが嘘であるかのように、男は穏やかである。
「ただ、見滝原に帰りたい。それだけです」
「本当に?」
「え?」
「本当に、君に叶えたい願いは無いのだろうか?」
なんということもない、ただの確認のはずだった。
本当に、ただのそれだけのはずだった。
だというのに、魔法少女になる過程で捨ててしまったあらゆることに関して、考えてしまう。
「聖杯があれば、君の両親は生き返る。聖杯があれば、君の後輩は生き返る……もしかしたら生きているかもしれないがね。
何でも話せる友人――それを願うのもいいだろう、マミ……本当に願いはないのかな?君は……一人で寂しくはないか?」
人間社会の中で、あまりにも特異すぎる人間は孤独だ、サーヴァントはその孤独に付け入る方法を知っている。
ただ、理解者であればいい。そして――導いてやれば良い。
己の悪意で心の空白を満たしてやれば良い。
だが、今回は趣向を変えよう。そうだ、ゲームをしよう。
この真っ白な少女を悪の色に染め上げるゲーム。
あの魔人に与えた餌の様ではなく、動機を与え、己の意思で人を殺させる、楽しいゲーム。
人を守るはずだった魔法少女が、罪悪感にがたがたと震えながら、目に涙すら浮かべ、
許しを請いながら何度も何度も何度も、何の罪のない人間に己の魔法を当てさせるように育成するゲーム。

己を殺した魔人への憎悪は未だに尽きない、だが――それは聖杯を手に入れ、再び受肉してからだ。
今は己の悪意を満たさずにはいられない。


「私はアサシンのサーヴァント、シックス。マミ、どうか考えておいて欲しい。
君が願いを叶えるということを、きっと君の会いたい人は……キミの孤独を埋めてくれるはずだからね」


【6】

【クラス】
アサシン

【真名】
シックス@魔人探偵脳噛ネウロ

【パラメーター】
筋力B+ 耐久C+ 敏捷C 魔力E 幸運D 宝具A+++

【属性】
混沌・絶対悪

【クラススキル】
気配遮断:E
サーヴァントとしての気配を断つ。隠密行動に適している。
自らが攻撃体勢に入ると気配遮断のランクは大きく落ちる。
生前のアサシンの犯罪が明るみに出なかったのは権力者との癒着によるものであるため、ランクそのものは低い。

【保有スキル】
戦闘続行:A+
往生際が悪い。
全ての四肢を欠損しても戦闘を可能とし、
頭部さえ残っていれば決定的な致命傷を受けない限り生き延びる。

カリスマ:B-
プライド、トラウマ、恐怖――心の隙間に巧みに入り込む悪魔の魅力。
人外の才能を持った孤独な人間は彼に魅せられ、とある天才は彼の悪のパワーの前に全てを捧げた。
しかし、絶対悪であるが故にそのカリスマが適応される相手は限られる。

絶対の悪意:EX
他者が最も嫌がる行為を選択し、行い続ける、自分が常に絶対優位に立つことに関する天才的な才能。
悪意に関して、彼以上の人間はいない。
そして、その悪意の強さ故に――彼は悪意を発散せずにはいられない。

【宝具】
『新しい血族』
ランク:A 種別:対人宝具 レンジ:- 最大補足:1人
7000年の定向進化の末に誕生した、強大な悪意と強い脳を持つに至った新種の人類たち。
彼に絶対に忠誠を誓う彼らを召喚する宝具であるが、その"謎"は暴かれた、彼は世界でただ一人の存在である。
故にこの宝具は存在出来ない。

『ただ1人の新種(シックス)』
ランク:EX 種別:対6【世界でただ一人の新種】宝具 レンジ:- 最大補足:1人
7000年の定向進化の末に誕生した、
強大な悪意と強い脳を持つに至った世界でただ一人の新種の人類、それがアサシンである。
自然を操り、人を操り、文明を操る、あらゆる悪意を遂行する彼の存在そのものが一種の宝具である。
世界で唯一人の彼と比較できるものは存在しないため、この宝具のランクもまた測定することは出来ない。



【weapon】
『細胞と金属の結合技術』
細胞を金属に変えることができる。

『剣』
アサシンの一族の鍛え上げた血脈の象徴ともいえる剣。
特殊な能力はないが、硬度と切れ味は抜群である。

【人物背景】
「絶対悪」と呼ばれている男で、「新しい血族」の最先端に位置する者。
人類種の敵という意味で疑いようもなく絶対的な悪であり、
その悪意によって間接的に怪物強盗と電人という最悪の犯罪者達を生み出した。
表向きの顔は世界最大の兵器メーカー「ヘキサクス」の会長兼死の商人ゾディア・キューブリック。

【サーヴァントの願い】
再び受肉し、己の悪意を満たす。
その過程として、主に己のマスターである巴マミで遊ぶ。


【7】


【マスター】
巴マミ@魔法少女まどか☆マギカ

【マスターとしての願い】
見滝原に帰る……?

【アイテム】
魔法によって召喚したマスケット銃
単発銃であるが、魔力の許す限りは無数に召喚出来る。

ソウルジェム
魔法使いに変身する為のアイテム。普段は指輪として装着している。
その正体は物質化した魔法少女の魂そのもの。
ソウルジェムを破壊された魔法少女は魂を失い、死亡する。
また、ソウルジェムが肉体から100m以上離れることで仮死状態に陥る。
魔法を使うごとに穢れが溜まり、穢れがたまると、段々魔法が使えなくなっていき、穢れが頂点に達することで魔法少女は魔女に転じる。

【能力・技能】
魔法少女に変身することで様々な魔法を扱うことが出来る。

【人物背景】
中学3年生。魔女の結界に巻き込まれたまどかと美樹さやかの窮地を救い、2人の相談役となり魔法少女の存在と契約することの覚悟を説く。
魔法少女の中では珍しく、他者を魔女とその使い魔の脅威から守るという信念で戦い続けたため、まどかとさやかに大きな影響を与えた。
しかし2人の前では頼れる先輩を演じていたものの、一方で心の内に強い不安や孤独を抱き続けていた。
まどかとの会話により不安を払拭するが、直後の「お菓子の魔女」との戦闘でまどかとさやかの眼前で頭部を食い千切られるという呆気なくも凄惨な最期を遂げた


【8】

おめかしの魔女。その性質はご招待。
理想を夢見る心優しき魔女。
寂しがり屋のこの魔女は結界へ来たお客様を決して逃さない。



9【キュウべえは考える】

魔法少女とは別に、人間社会で暗躍する一族がいる。
その一族の祖はトバルカインと名乗り、その一族の強烈な悪意のために、アベルとカインの神話が用意された、と僕は考える。
カインの子孫だから、悪意に満ちているのではない――その悪意のために、その祖先は人間で初めての殺人を起こしたものとされたんだ。
だから、ある種の神話とは――その一族のためのものだったんだよ。

その一族はあくまでもただの武器を作る一族だったのにね。

その一族がもたらした武器で、ある地域での戦争は百年続き、
その一族がもたらした武器に触れたとある武将は、第"六"天魔王を名乗り、
文字通り、その一族が第一次世界大戦の引き金を引き、
十数年前のある戦争の原因も、その国とその一族との繋がりを大国が知ったせいだと言われてる。

感情のない身だけれど、その一族の悪意を僕達が持てないことが残念でならないよ。
僕達に悪意は無いからね。
最終更新:2018年04月23日 01:04