聖杯戦争。
願いを叶える魔法のチケットを手に入れるための命懸けの競争。
どうやら私、三嶋瞳はそんな催しに巻き込まれてしまったらしい。
いきなり連れてきてコンプライアンスとかどうなってんだとか言いたいことは山ほどあるし、
普通に考えれば最悪だけど、この見滝原に来たことで得たものが一つ。
建前上こそ新事業を展開する見滝原の視察ということになっているが、
朝起きて、学校へ行って授業を受け、夕方友達と談笑しながら帰り、夜はテレビでも見てのんびり過ごして眠りにつく今の生活がそうだ。
普通の女子学生なら誰でも享受するであろう当たり前の生活だけれど、私にとってとても懐かしいものだった。
果たしていつ以来になるだろうかと友達と帰路につきながら考える。
シェイカーを振りながら働かない詩子さんを見る夜から。
終電まで働き、終電が出ても更に働いて玄関で意識を失い、起きたら涙が零れたあの夜から。
その日々を思えば、色々なしがらみから解き放たれた見滝原での生活は存外私にとって居心地がよかった。
働くのは嫌ではなかったけど、別にやりがいとか使命感があって働いていた訳では無く、頼まれたからにすぎないし。
親元離れて一人暮らしという押し付けられた設定も、毎日深夜に半額弁当を買って誰もいない家に帰っていた時より遥かにマシだし……
そこで気づく。
(あれ、地元での私の生活、もしかしてココといい勝負なんじゃあ…)
そこまで考えて、いやいや違うだろうとぶんぶんと首を振るう。
そう、この街での生活の方がもっと最悪だ。いきなり連れてこられて命を懸けて戦いあえと競争をさせられる事もだが、もっと前提として。
「やや、ヒトミ奴隷人形(せんせい)!お帰りの所悪いですが助けてください!」
「あぁん!!」
チンピラに絡まれながら満面の笑みでこちらに助けを求めるあの金髪にスーツの上背のあるサーヴァントだとか。
…………、
「……サヨちゃん、呼ばれてるよ」
「いや瞳先生って言ってただろ!?」
私はため息を一度吐いて、サヨちゃん達に先に帰る様に促す。
サヨちゃんは私が大丈夫だと言うと何の迷いもなく回れ右をして去っていった。
NPCとして再現されたとかどうとか言ってたけど無駄にリアルだ。
さて。
「あのー……その人が何か?」
「あぁ!?嬢ちゃんも言ってやってくれよ、この兄ちゃん仕事頼んどいて金払わねぇって言うんだよ!」
そう吐き捨ててヤクザは依頼料と銘打たれた請求書を突き出してくる。
見た目にたがわぬというか何というか…その額は明らかな暴利だった。
「ですから支払いはそこのゾウリムシ先生から干物になるまで搾り取って下さいと」
「この子どう見ても中学生なのに払える訳ねーだろーが!
アンタが金に糸目はつけないって言うから毎日ウチの手下共々不眠不休で働いたんだぞ!?」
「いえいえ、先生はこう見えて大変勤勉でして!
『労働だけが自由への道』を座右の銘に、毎日三十時間の就労を―――」
前言撤回。
ヤクザの人はすごくまともで、おかしいのは此方の方だった。強制収容所かよ。
逃げたい気持ちが一気に噴出するけれど、契約書を通した正当な契約である以上ここで逃げたら話がこじれるかもしれない。
なまじ身につけた知識のおかげで逃げることもできず、仕方なくカバンから名刺を取り出して二人へと歩み寄った。
「……取り敢えずここじゃ何ですし、何処か別の場所でお話しませんか?」
「アァン!?何だこの名刺…ってハァ!?
み、三嶋瞳っていったらウチ組の上役企業の社長でっ、それに平沢組…平成の怪物の……」
ゴキブリに対する殺虫剤みたいな効き目だ。新田さんの名前はこんな街まで売れてるらしい。
「す、すいませんでしたーァッッ」
ザザザッと後退してほとんど土下座の様な姿勢で謝るヤクザ。
勿論そんなことされても私は困るだけだ。というか周りの人々の視線が痛い。
この状況を作り出した下手人はニヤニアしてやがるし…、こんクソボケカスゥ……!
「いや、頭何て下げなくて全然大丈夫ですから、ね?
ホラ近くのお店にでも入って依頼料というか、迷惑料の相談を……」
「か、金とかとんでもないっしゅ!マジ勘弁してください!!!お、俺ッ……クツ、靴でもなんでも舐めますから!」
聞けよ、人の話を。
「いやそんなのいいですから…ホラ靴を舐めようとしないで、止めて下さい、止めなさい、やめろ」
数十分後、私の靴はテッラテラになっていました。
■
「……とりあえず、貴方が私のサーヴァントって事でいいんですよね。えっと、キャスターさん?」
「その通り、そして貴様は吾輩の二代目奴隷人形というわけだ。ヒトミよ」
現在の拠点である家賃三十万の高級マンションの自宅にて、私は契約したサーヴァントであるキャスターさんと向き合っていた。
金髪でスーツを着た上背のある大人―――出会った時に脳噛ネウロと名乗った、魔人という種族で、探偵をやっていたらしい人。
「…色々言いたいことはありますけど、まず一つ。
私の!家に!!死ぬような罠を仕掛けるのはやめてください!!!」
「何を言う、これは吾輩の趣味だ。やめるつもりなど毛頭ない」
結論を言ってしまうと、私の見滝原ライフでの癌は、聖杯戦争などではなくこのサーヴァントなのだった。
日夜問わず仕掛けてくる非道は数知れず、そのどれもがギリギリ死にそうで死なないラインを見極めて仕掛けてくるのだ。
そんな彼と共同生活を送っているからか、私は聖杯が憎かった。
ついでに言えば、他のまっとうなサーヴァントを引いたマスターたちのことも憎い。
何故私がキャスターで、他のマスターはまっとうなサーヴァントを引いてるんだ……!
ただ私は仕事から解放されたかっただけなのに……、
強く強くこれではいけない、と思う。
こんな所でこんな奴に弄り倒されに生まれてきたわけじゃない!!
「あのー、申し訳ないですけど聖杯戦争とか私どうでもいいので、帰る方法を教えてもらえませんか」
これは偽らざる本心だ。労働から解放されたいのは事実だけれど人を殺してまで叶えたかったわけじゃない。
だが、帰ってきた答えは冷たいものだった。
「ダメだ」
やっぱりか。まぁ素直に教えてもらえるとも思っていなかったけど。
「えっと、それじゃあキャスターさんには叶えたい願いとかあったりするんですか」
「ナメクジなりに頭を回したようだが不正解だ、吾輩は食欲を刺激される『謎』の気配を感じ、召喚に応じた」
「……は?」
事情を聴けば魔人とと言う種族、というかキャスターは犯罪が起きた時に発生するエネルギー、謎を食べて生きていたらしい。
そして、今回もその謎の匂いに釣られてよりにもよって私のもとへと表れた、という事だ。
食い意地はりすぎだろ。
とにかく、これで事情は理解した。
「で、どうやったら貴方とほかのサーヴァントをチェンジしてもらえぐおおおおおッ!」
「ほうほう、ナメクジの鳴き声とはこのようなものか」
く、首が折れるッ!
夢中で床をタップして私の首を360度回そうとしてくるキャスターにギブアップする。
げほげほとせき込む私を見下ろすキャスターの瞳は、心底楽しそうだった。
「貴様はもう吾輩を召喚した時点で、二代目魔界探偵事務所の主に決定したのだ。勿論拒否権はない」
「そ、そんなの無理に決まって」
今回ばかりは流されてはいけない。
こんなドSと一緒に戦うなんて命が幾つあっても足りない。
このままでは確実に戦う前にキャスターに弄り倒されて死ぬ。
これまでにないほど強い命の危機を感じた私は、粘りずよく反論しようとするが――、
「ところで、ここに貴様の仕事用ケータイがある」
「?」
「ここで吾輩が『見滝原の視察を終えたので休暇を切り上げて仕事に復帰する』と一斉送信すれば貴様は破滅する訳だが――――」
「謹んで務めさせていただきます」
冗談じゃない。
学校に、聖杯戦争に、キャスターの虐待。三足の草鞋を履く中で時間のゆとりがあることだけが救いだったのに、ここで労働を入れられたら間違いなく死ぬ。死んでしまう。
うぅ…でもっ!
と、ここで屈辱に浸り、俯く私にキャスターが意外過ぎる一言を放った。
「……イヤか?」
耳を疑ったが、このキャスターにも人の心はあったらしい!
私はせめて待遇改善を訴えようと顔を上げて…同時に、キャスターの顔をみて悟る。
こいつ、断ったら殺すつもりだ。それも最も悲惨な方法で。
私は遂に全てを諦め、観念した。
「……イヤじゃないですから。それで、私は何をすればいいんですか」
「ふむ、ではまず貴様が掌握しているヤクザや政界の者たちから情報を搾り取るとしよう、それから―――」
先程よりも心なしか熱を持った様子でこれからの事を語るキャスター。
まるでその顔は子供の様で、無駄に腹が立った。
だけどそれを表に出したらまた制裁が待っているので、必死にお腹で押しとどめて、それでも私は腹の内でただひたすらに願う。
どうか来世は、頼れる大人が周りにいる、普通の女の子にしてください――――と。
【クラス】
キャスター
【真名】
脳噛ネウロ@魔人探偵脳噛ネウロ
【属性】
混沌・善
【ステータス】
筋力:A(--) 耐久:A(--) 敏捷:A(--) 魔力:A++ 幸運:A 宝具:EX
【クラススキル】
陣地作成:C
魔術師として、自らに有利な陣地を作り上げる。
適当な場所を乗っ取り謎を集める『探偵事務所』の設立が可能。
道具作成:E
新たな魔術的道具を作成する能力は無いが、
自らの魔力で魔界777ッ能力を作成・行使できる。
【保有スキル】
魔人:A++
人間とは異なる世界『魔界』の住人。
初期状態では一億度の火炎に耐え、核弾頭の直撃を受けても死なない程の身体強度を持ち、精神干渉にも高い耐性を備える。
肉体の切断などを受けても切断面を合わせれば即時に修復が可能であるばかりか、重力すら無視して移動もできる。
また人間とは精神構造が大きく異なるため、Aランク相当の精神干渉をシャットアウトすることも可能。
しかし、自身の肉体の維持に膨大な魔力と瘴気を必要とする。
マスターからの魔力供給では不足するため、急速に身体能力は低下していきパラメーターにマイナス補正がかかる様になっている。
主食である謎を喰うか、瘴気に満ちた異界で休息を取ることで回復可能。
ただし『謎』は天然ものでなければならない。
高速思考:A+
物事の筋道を順序立てて追う思考の速度。
卓越した思考能力により、弁論や策略や戦術などにおいて大きな効果を発揮する。
攻め手においては同レベルの心眼(真)と同様の効果を発揮する。
無窮の叡知:A
この世のあらゆる知識から算出される正体看破能力。
使用者の知識次第で知りたい事柄を考察の末に叩きだせる。
戦闘続行:B
瀕死の傷でも戦闘を可能とし、決定的な致命傷を受けない限り生き延びる。
【宝具】
『魔界777ツ能力』
ランク:E~A++ 種別:- レンジ:- 最大捕捉:-
キャスターの保有する777の魔界道具。
それぞれに異なる能力を持ち、消費魔力量も道具それぞれに異なる。
余りにも膨大な数のため人間界ではキャスターも使ったことない能力も多く、
その能力はサーヴァントとして劣化した過程で削ぎ落とされ、使用不可となっている。
『魔帝7ツ兵器』
ランク:EX 種別:- レンジ:- 最大捕捉:-
キャスターの保有する7つの魔界の道具。
魔界でも数人しか使う事のできない魔界王の保有兵器。
『魔界777ツ能力』とは桁違いの威力を誇る兵器である。
それ故に莫大な魔力を使用し、発動の際にはマスターの令呪のバックアップが必要。
また上述の宝具と同じく、人間界で使用していない兵器は呼び出すことができない。
【Weapon】
上述の宝具と魔人としての身体能力
【人物背景】
かつて魔界の謎を食い尽くし地上に降り立った、人の心が分からぬ魔人。
【サーヴァントとしての願い】
聖杯戦争に纏わる謎を喰う。
【マスター】三嶋瞳
【出典】ヒナまつり
【性別】女
【マスターとしての願い】
労働からの解放。でも人を殺すのは…
【weapon】
カラッカラのスポンジ並みの呑み込みの早さ。教えればたいてい何でもこなす天才肌。
また特殊部隊の訓練を受けており射撃、特にスナイパーの素質は天性のもので初狙撃で1キロ先の的に当てられるほど。
拳銃の扱いも精通する。
【人物背景】
バーテンダーから会社の社長、傭兵まで器用に何でもこなすスーパー中学生。
巻き込まれ体質で断れない性格のため、物語が進むとあっという間に普通の中学生と社畜を兼任する謎の女の子へと変貌した。
その後彼女はマルチな分野でその才能をいかんなく発揮し、行く業界先々で成果を残すため知り合いからは
「瞳が経営に口を出せばその店は既に繁盛している」「仕事をし続ける概念上の存在」などと揶揄され、中学生の時点でその存在は既に政界や裏世界にも通じるほど。
しかしあくまで彼女は普通の中学生なのである。
【方針】
取り敢えず情報を集めて生存優先。あとキャスターから別のサーヴァントに乗り換えたい。
最終更新:2018年04月27日 13:36