「ヒィイイイイィッ!」

開発都市見滝原、その外れに位置する倉庫街を一人の男が命を懸けた逃走劇を演じていた。
男は非合法組織、所謂暴力団や違法滞在している外国人にこの国では所有が禁止されている火器や爆薬を売りさばき、成り上がってきた。
世渡りが上手く、幾人もの部下を従える彼は一端の悪党だったと言えるだろう。
だが、今はもう部下など一人として存在しない。
暴力団にも引けを取らない私兵たちは全員殺されたのだ、それもたった一人の学生に。
銃撃で一瞬のうち半数以上を血の海に沈め、首を折り、罠を仕掛け、ナイフで動脈を掻き切り…殺戮者は徹底的だった。
だが、自分だけは絶対に逃げ切って見せる。
永遠にも思える時間をかけて現在は血の海が広がっている取引場所から『商品』が積まれたトラックに辿り着き、キーを差し込む。
ホラー映画の様にエンジンが中々かからないということはなく、あっさりと車は発進体制へと移行した。


「よ、よし―――」


これで逃げ切れる――男に安堵が駆け巡り、つい表情が綻んだのを間抜けと罵るのは余りにも傲慢だろう。
一秒後、前方から放たれた9mmパラベラム弾により彼の脳漿が弾け飛んだとしても、だ。
男が事切れると、その後方に広がる闇の中から一人の少年が姿を現した。
否、一人ではない。
もう一人、少年の背後に巻き毛の男が立っていた。

少年はトラックの荷台へと回って積み荷を確認し、巻き毛の男は運転席へと向かう。
そして血を滴らせている今しがた事切れた男の死体に古ぼけた布をかけ…『処分』した。
文字通り髪の毛一本すら残すことなく。
それから程なくして、車は乗り手を変えて発進する、
男たちの生きてきた痕跡を全て抹消して。




「チドリカナメ…マスターにとっての『女神』の敵勢力からの奪還。
それが聖杯にかける願いであり、試練と言う訳か、マスター…いや、サージェント・サガラ」

一般的な広さのマンション。
その一室で肥満体形の様にも筋肉質の様にも見える巻き毛の男がくつろぎながら、問いを投げた。

「はっ、肯定であります。大統領閣下」

サガラと呼ばれた少年――
相良宗介は先程反社会勢力から奪った重火器や爆薬に囲まれながら、直利不動の姿勢で答える。
まだ二十も数えていない年齢に見えるが、その顔の精悍さや揺るぎもしない長い時間をかけて研磨された鉄の様な雰囲気は彼が高度に訓練された軍人である証拠だと、
従軍経験もある大統領(プレジデント)であるサーヴァント――ファニー・バレンタインは、静かに見抜く。
しかしそれも彼が語った遍歴を考えれば無理のない話だ。
幼少期から暗殺者・ゲリラとして育てられ、その後は傭兵として各地の戦場を転戦し、
ここへ来る直前は世界を牛耳る軍事組織との戦いに身を投じていたという。
最も現在は大敗を喫し、所属していた組織も壊滅したようだが。

「ふむ。そう畏まらなくても私は気にしない。
私はサーヴァント、君にとっての『兵器』であり、ひょっとしたら『戦友』になるやもしれん間柄だ。その様に振舞いたまえ」
「はっ…では」

サガラというファミリーネームから察すれば、少年は元々は日本人。
つまりは合衆国の未来の同盟国である。
バレンタインにとっての女神ルーシー・スティールである、少年にとっての女神チドリとかいう女性の国籍もまた同じのはずだ。

「マスターは実戦経験を積んだ優秀な『兵士』であり、私と同じく聖杯を目指している。
いいだろう、気に入った。あとは君が我が国にとって『有益』な人間であり続けるのなら…
聖杯を手に入れた暁には『同盟国』大統領として、必ず君と、君の女神の属する『祖国』にも報いよう」

確固たる意志を込めて、バレンタインは宣言する。
少年の出自や経歴、現在帰属している国家はどうでもよい。
そも合衆国(ステイツ)という国家は様々な民族が寄り集まって繁栄してきた多民族国家であるのだから。
ただ合衆国にとって必要な人物であるか、それが全てに優先され、彼はその条件を満たした。それだけの事なのだった。
しかし裏を返せばそれは、相良宗介が合衆国に有益でない人間と判断した場合、腐った果実の如く切り捨てられる事も意味している。

「……閣下が聖杯を目指すのも国益のため、という訳か」
「その通り、私は民のために聖杯を獲る。
仮に君が語ったアマルガムとかいう鉄錆にも劣るゲス共に奪取されれば…悲劇は免れない。
それだけは何としても阻止し、合衆国の手によって聖杯を管理せねばならないのだ」

その為に君の力が必要だと、大統領は語る。
宗介はそこでバレインタインの弁舌へ意識がひきつけられていたことに気付いた。
静寂が場を包み、視線が交わる。
バレンタインの瞳は宿敵であったガウルンと同じドス黒い意志の光を放っていたが
――同時に傭兵である奴や宗介が抱いたことのない『正義』に裏打ちされた愛国心を宿していた。

「…ミスリルは壊滅し、陣代高校を去った俺は、
もうSRTのウルズ7でも、出席番号42番のゴミ係兼カサ係の転校生でもない」

本来ならば聖杯などという得体の知れないオカルトはナンセンスだと切り捨てる所だったが、今回ばかりは訳が違う。
自分を何の抵抗も許さず見滝原という聞いたことのない土地に拉致し、
薬物も使わずに記憶を奪い、ただの学生として生活させるなど不可能だ。
そして記憶が戻った時に出会ったサーヴァントという、これ以上ない証拠。
ここまで来て疑うのなら、それはただの愚鈍でしかない。
であれば、答えは決まっていた。

「それでも俺は約束した。『必ず彼女と彼女の属する世界全てを護衛する』と
だから俺は、一人の男として…相良宗介として、戦う事に決めた」

この選択を、彼女はきっと許さないだろう。
だが破邪の銀(ミスリル)が壊滅した今、他の道を進むには、自分は余りにも永く戦場で生きすぎた。
例え目の前のこの男が悪魔であっても、悪魔と相乗りするまでだ。
その代わり、必ず取り戻す。
彼女が、彼女の周りにいる人々が平和な明日を迎えられるように。
『マイナス』から『ゼロ』へ歩みだせるように。
宗介は掌の白色に輝くソウルジェムという名の宝石を握りしめた。

「そうか、『感謝』するぞマスター、…では、ここで一つ見てもらいたいものがある」

バレンタインはそう言って腕から何かを『取り出した』。
取り出した、と言っても袖の下から何かを取り出したのではない。文字通り皮膚の下から何某かを取り出したのだ。
その異様な光景に宗介は一瞬瞑目する。
取り出されたのは乾燥し、ミイラの様になった一本の腕だった。

「これは…」
「生前私が手に入れた『聖人の遺体』だ。尤もこれは私の宝具であって、本物ではない。
謂わば限りなく精巧に再現された『贋作』というべきものだがね」

大元の『遺体』と違ってこれ単体では意味をなさない、とバレンタインは言い切る。

「だが…全てを集めきれば生前と同じく私は『最初にナプキンを取る権利』を得る。
そうすればこの『試練』にも限りなく有利に立ち回ることができるだろう」
「その残りの『遺体』とやらはどこに?」
「残り『三つ』の遺体は確実にこの街のどこかにある。
…私は召喚された日からずっとこの遺体を探すことに注力していた、君の『意思』を確認するまで隠しておいた事は謝罪しよう」

宗介には『最初にナプキンを取る権利』というものが何かを理解することはできなかったが、
目の前のサーヴァントの言葉と、遺体には何か『凄み』の様なものを感じるのは事実だった。

「これまでは危険を避け、『順調』に集めることができたが…ここから先は聖杯戦争が幕を開け、『遺体』を集めるのは難しくなるだろう、我々はより綿密に連携しなければならない」
「……了解した」
「無論、君の『安全は保障する』。それが私の絶対的『使命』だからな
さて、君はまだまだ『遺体』の事を知りたいだろうし、私も君の、特にAS(エーエス)とやらの話が聞きたいが――今日はもう遅い。話はここまでにするとして、最後に一つ」



「マスター。これより我々が行うのは―――紛れもなく『正義』だ」






新しい時代の幕開けの時には必ず立ち向かわなくてはならない『試練』がある。

試練には必ず『戦い』があり『流される血』がある。

試練は『強敵』であるほど良い。

試練は『供えもの』。立派であるほど良い。

試練は 極罪を犯した36名以上の血によって完遂される―――、


【真名】ファニー・バレンタイン@ジョジョの奇妙な冒険 スティール・ボール・ラン
【クラス】キャスター
【属性】秩序・悪

【ステータス】
筋力E 耐久D 敏捷D 魔力C 幸運B 宝具A

【クラススキル】
陣地作成:-
自身の拠点となる陣地――女神を捧げる『神殿』を建設できる。
なお、これはキャスターが勝手に言っているだけであり、実際は機能していない。

聖人作成:EX
道具作成の派生スキル。
キャスター道具作成の逸話を持たない。
しかし、このスキルがあれば後述の宝具を完成させることができる。

【保有スキル】
絶対正義:A 
自国こそが世界の正義そのものだという自負。
同ランク以下のあらゆる精神干渉をシャットアウトし、
判定次第では干渉を行った相手に攻撃を行う際、有利な補正を得られる。

護国の鬼将:A
あらかじめ地脈を確保しておくことにより、特定の範囲を“自らの領土”とする。
この領土内の戦闘において、総統たるバーサーカーは極めて高い戦闘ボーナスを獲得しあらゆる判定で有利となる。

話術:B
言論にて人を動かせる才。
国政から詐略・口論・交渉など幅広く有利な補正が与えられる。
巧みな話術により自己の正当性を示し、危機的状況下に置いてもチャンスを掴み取ることが可能。

カリスマ:B
軍団を指揮する天性の才能。団体戦闘において、自軍の能力を向上させる。
カリスマは稀有な才能であり、合衆国大統領としてはBランクで十分と言える。

【宝具】
宝具
『D4C(Dirty Deeds Done Dirt Cheap“いとも容易く行われるえげつない行為”)』
ランク:EX 種別:対人宝具 レンジ:1~3 最大捕捉:―
隣の世界(平行世界)へと干渉する能力を持つスタンド。
同じ場所に隣同士の世界を同時に存在させたり、平行世界へと身体を移動させることが出来る。
何らかの物体の隙間(「扉と壁の間」「国旗と地面の間」等)に挟まれることで発動する。
大統領は隣の世界へと移動することで、どんな重傷を負おうと「隣の世界の自分」と交代して無傷の状態で復活することが出来る。
(交代の際に隣の世界の大統領にこの宝具を引き継がせる為、実質的にD4Cが大統領の本体と言っても差し支えない)
ただし宝具である為、交代には魔力の消費が必要となる。
また大統領自身を除き、2人の「同じ人間」が「同じ世界」に同時に存在し続けると、次第に身体が崩壊して死亡する。
この特性を利用し、大統領が「同じ人物同士」を接触させることで相手の身体を一瞬で崩壊させ殺害する事が可能。
条件を満たせば、自分以外の者でも「基本の世界」に戻ることだけは可能。
その他大統領は人だけではなく武器なども平行世界から引き込むこと可能だが、大統領の手から離れれば数分後には前述のとおり崩壊を始める。
また、マスターだけは基本世界に一人しか存在しておらず、死亡しても彼の父親と同じく平行世界から連れてくることはできない。
人型近距離タイプのスタンドである程度の格闘能力はあるが、高い近接戦闘能力を持つ相手には劣る上、射程も短い。
(サーヴァントのステータス同様に表現するならば、筋力C 耐久D 敏捷C相当)
また、精神のヴィジョンであるスタンドが傷付けば、本体である大統領もまた傷付く。

『繁栄へと至る遺体(スティール・ボール・ラン)』
ランク:EX 種別:- レンジ:- 最大捕捉:-
大統領が生前手中に収めたと言われる九つのパーツからなる聖人の遺体。
決して朽ちることなく存在し続け、この遺体を集め、所有した国家は1000年間の繁栄と栄光が約束されると言われていた。
尤もこれは大統領の逸話から再現されたいわば贋作であり、真作の聖遺物の様に単体で手に入れた者にスタンドを発現させたり、下半身不全を治療するといった様な奇跡は発揮できない。
この宝具は大統領の現界と同時に自動発動し、前述の遺体を聖杯戦争の舞台に散らばる。
そして、それを全て集め、『女神』となる女性を用意すれば後述の宝具を発動することができる。

『D4C-ラブトレイン-』
ランク:EX 種別:対人宝具 レンジ:0 最大捕捉:1人
前述の条件を満たしたときにのみD4Cが発動できる超局地的固有結界。通称「D4C-ラブトレイン-」。
遺体が完成し、『女神』なる女性が揃った際にはこの世のあらゆる善が大統領の結界の隙間に濾過されて集まり、害悪は隙間に入れず遠くのどこかに飛ばされる。
この能力はつまり、大統領が隙間の中にいる間はここに放たれた攻撃は大統領に通用する事は無く、その攻撃は何らかの災厄の形となって、遠くの誰かが代わりに「おっかぶる」事になる(列車に轢かれる等)。
また、大統領の攻撃等でうけた傷は例えかすり傷であろうが体を駆け巡って心臓や体の器官に登って来る為、致命傷を与える事が出来る。
D4C時代の、挟み込むことで自分を別の次元へ送り込む能力も、そのまま使用する事ができる。

【Weapon】
拳銃:1890年代当時のリボルバー式拳銃。装填数は6発、予備の弾丸は無し。
サーヴァントにはダメージこそ与えられても大して脅威ではないが、弱いマスターなら急所に当たれば死ぬこともある。
D4Cで連れてこられたヴァレンタインは、全員この拳銃を所持している。

【人物背景】
第23代アメリカ合衆国大統領。

元々はただの下院議員だったが一枚の「地図」が指し示す場所の一つ、サンディエゴを捜索した清教徒達のグループに同行した際に「悪魔の手のひら」に遭遇。
この際に「聖人の遺体の心臓部」と、スタンド能力「D4C」を得て、グループで唯一生還。
その後頭角を表し事件の一年後には大統領にまで上り詰め、その地位を利用してスティール・ボール・ランレースを残りの遺体を集める為のレースに作り替えた。
愛国心を絶対の価値観としており、遺体を集めるのもアメリカ国民の安全を保障するため。彼は自身の行いを、「全てが正義だ」と語る。

夫人であるスカーレット曰く「どこを歩いても足音を立てない」



【マスター】
相良宗介@フルメタル・パニック!

【マスターとしての願い】
敵対軍事組織「アマルガム」の壊滅及び、千鳥かなめの奪還。

【能力・技能】
高度に訓練された軍人。格闘、狙撃、爆破、暗殺、AS操縦と、あらゆる破壊工作に通じる。

【人物背景】
都立陣代大高校2年4組に在籍する高校生兼、対テロ極秘傭兵組織「ミスリル」作戦部西太平洋戦隊に所属する傭兵。
全世界から優れた人材を登用するミスリルの中でも最精鋭とされる特別対応班(SRT)の一員。コールサインはウルズ7。
人型兵器アーム・スレイブの操縦にかけては世界屈指の実力を誇り、生身での戦闘力も高い。
オーバーテクノロジーを記憶する特殊な人種「ウィスパード」とされる少女・千鳥かなめを護衛する任務を受け、陣代高校へと転校・潜入する。
しかし本編中盤にて敵対組織の猛攻により所属していた組織「ミスリル」はほぼ壊滅状態に陥り、敵のアームスレイブとの一騎打ちでも大敗を喫する。
その後保護対象であった千鳥かなめは連れ去られ、正体が露呈した事により学園にもいられなくなった彼は全てを失いながら、それでも連れ去られた少女を救う旅に出た。

原作七巻「続くオンマイオウン」終了直後より参戦。
把握方法は原作七巻まで読む他には、総集編劇場版×3を視聴しその後漫画版で当該時点まで読むことを推奨。

【方針】
聖杯狙い。
一先ずは残り三つの『遺体』を探す。
その間敵対マスターの暗殺や『遺体』を探す同盟も考慮。
最終更新:2018年04月30日 12:45