十九世紀英国のブルジョワジーを思わせる薄暗い食堂で、二人の男が優雅なディナーを囲んでいる。
長い食卓の上座には、白いスーツに身を包み、金髪で眼鏡を掛けた小太りのゲルマン系の男。
その名はモンティナ・マックス。人は彼を少佐と呼ぶ。
彼こそが聖杯戦争におけるマスターであり、今宵のディナーの賓客(ゲスト)である。
反対側の席には、同じく白いスーツに身を包み、長い黒髪で異様に長い帽子を被った長身の男。
その名はトート=シャッテン。人は彼を死体卿と呼ぶ。
彼こそが聖杯戦争におけるサーヴァントであり、今宵のディナーの主催(ホスト)である。
傍に侍るはメイド型の人造人間(フランケンシュタイン)が四体。
おおよその見た目は人間と変わりないが、その実態は動く死体。
両方の側頭部に埋め込まれた一対の電極には『死』の一文字の意匠が大きく施され、彼女達が死体卿の被造物であることを表していた。
「キャスター。私が預けた社員達はしっかり仕上がっているかな?」
ひとしきりの食事を終えた少佐が、メイド型人造人間に注がせたワインを傾けながら口を開いた。
見滝原において、彼は記憶を取り戻すまでの間、外資系警備会社の幹部という立場に収まっていた。
その会社は今も隠れ蓑として利用しており、社員というのは文字通りの意味である。
「もちろんだとも、我がマスター。みな素晴らしい人造人間に仕上がっている。平時は人間に紛れて潜伏し、合図一つで本性を現す。貴殿の要望通りのゲリラ戦仕様だ」
「流石だ。その様子だと、他の戦力も順調に拡充できていそうだな」
「当然。人間への偽装を考慮しない戦闘タイプも増産している。単体ではサーヴァントに敵うものではないが、数を揃えれば話は別。キャスターとしての強みを存分に活かさせてもらう」
この聖杯戦争には一定の予選期間が設けられている。
予選と言っても戦闘が繰り広げられることはなく、全てのマスターとサーヴァントが出揃うまでの待機時間と表現した方が正確だ。
彼らはこの期間を、キャスターのクラスのための準備期間と認識していた。
通常、キャスターのクラスは聖杯戦争において不利な立場にあるとされている。
直接的な魔術は対魔力に阻まれやすく、召喚術やゴーレムの類は純粋な性能差でサーヴァントに蹴散らされる。
これを補うためにはクラススキルの陣地作成と道具作成を活用することが肝要である。
裏を返せば、準備を妨害されない期間が長ければ長いほど、キャスターは不利を埋めて優位に立っていくことになる。
「君を召喚したときは、呪文ではなく死体を紡ぐキャスターというものに少々驚かされたが、蓋を開けてみれば随分とキャスターらしい立ち回りになったものじゃないか」
「聞いた話では、いわゆるフランケンシュタインの怪物をフレッシュゴーレムの一種とみなす説もあるそうだ。ならば人造人間の創造主たる私は、紛れもなくゴーレムマスターということ。キャスターらしいのは当然だね」
口振りこそ冗談めかしていたが、死体卿の発言は真実を射抜いていた。
彼がキャスターとして召喚されたのは、人造人間(フランケンシュタイン)の創造主がゴーレムマスターの一種として定義されうるからに他ならない。
「それにしてもだ、我がマスターよ。この舞台はなかなかに恵まれた環境だとは思わないか」
「ふむ?」
「早くも魂食いに走る愚鈍なサーヴァントの『食べ残し』がそこら中で手に入るうえ、街中にくまなく張り巡らされた送電網から電力を失敬すれば、人造人間の起動に必要な1.21ジゴワットの電力も貯めやすい。我が工房の自家発電装置と組み合わせれば尚更だ」
死体卿の『生前』と呼べる時代は十九世紀末。
エジソンの石炭火力発電所の完成から十年程しか経過しておらず、ニコラ・テスラの理論に基づいた水力発電所の完成はごく最近。
1.21ジゴワットの電力の供給源としては、発電機が生んだ電力よりも自然の雷を引き込んで利用する方が一般的であった。
「電力か。確かに君の工房は、魔術師の穴蔵というよりは近代的な工場、あるいは手術室に近い。しかし火葬が一般的な国柄というのはマイナスだな」
「その通りだ。実に惜しい。私は焼死体も愛好しているが、さすがに燃え尽きた骨からは人造人間の創造(つく)りようがない」
そう言って、死体卿は心底残念そうに肩をすくめた。
「しかし不幸中の幸いだったのは、火葬までに最低一晩の安置期間を挟む風習があることだ。死体をフェイクとすり替える猶予がゼロでないのはありがたい」
「なに、戦闘が激化すれば否応なしに死体は増える。戦えば戦うほど、死ねば死ぬほど我々の戦力は拡充していくわけだ。想像するだけで面白いじゃないか」
そう言って、少佐は口の端を釣り上げて笑みを浮かべた。
彼らの発言は全てが本気だ。大袈裟なことなど何一つ口にしていない。
少佐は戦争狂である。戦争という手段のためには目的を選ばないとまで言い切るほどの。
そして聖杯戦争においても当然それを期待している。
マスターとしての彼の目的は再びの戦争を引き起こすこと。
かつては吸血鬼の真祖を打倒することも目指していたが、今の彼はそれを果たし終えた後であり、聖杯に託す願いではない。
死体卿は死体愛好家である。人間が実現しうるあらゆる死体を素晴らしいと言い切るほどの。
そして聖杯戦争においても当然それを期待している。
サーヴァントとしての彼の目的は死体の楽園を作ること。
十分な量の死体さえ手に入れば自力で成し遂げうる理想であり、故に彼は聖杯の入手をさほど重要視していない。
「マスターよ。我らの利害は一致している。いや、職人が削り上げた歯車のように噛み合っていると言うべきかな」
「ああ、その通り。私が殺し、君が創る。戦闘と死体は未来永劫不可分の運命共同体だ。聖杯戦争を勝ち残るため、大いに殺し大いに創ろう」
「事が済めば、聖杯は約束通り貴殿に差し上げる。そして貴殿の戦争で生じた幾多の死体は、我が楽園の礎として……」
――そう、噛み合っていた。あまりにもおぞましい異形の歯車同士が、奇跡的な確率で。
「そうだ、キャスター。一つ頼みがあるのだが、私が直接指揮する人造人間の部隊を編成してはくれないか」
「構わないとも。何なら創造済みの人造人間から希望に沿うモノを持っていってくれてもいい。部隊編成の経験では貴殿に一日の長があるだろう」
「ありがたい。知っての通り、私個人の戦闘能力は高が知れていてね」
誰もその存在を知らない地下工房の一室で、悪魔の如き企みが刻一刻と進められていた。
戦争狂と死体愛好家。死体を作る者と死体から創る者。史上最悪の需要と供給。
戦争において不可逆の消費であったはずの『死』が新たな兵力を生み出す資源となるのなら、それはまさしく地獄の具現。
少佐はワインを飲み干し、万感の思いを込めて次の一言を口にした。
「ところで、デザートはまだかな」
【CLASS】キャスター
【真名】死体卿 トート=シャッテン
【出典】エンバーミング
【性別】男
【属性】混沌・悪
【パラメータ】筋力C~A+ 耐久C~A+ 敏捷C~A+ 魔力B 幸運D 宝具EX
【クラス別スキル】
陣地作成:B
魔術師として、自らに有利な陣地を作り上げる。
人造人間(フランケンシュタイン)を創造するための工房の作成が可能。
道具作成:C
魔力を帯びた器具を作成できる。
キャスターの場合、人造人間の創造に関わる物品とその応用に限られる。
【固有スキル】
創造(人造人間):A
人造人間を創造する知識と技量を持つことを表す。
同ランクの外科手術と人体理解の効果も兼ね備える複合スキル。
ただしキャスターは基本的に生者を治療しようとはしない。
観察眼:C+
素材として有用な死体を選り抜く。また、死体に施された高度な偽装を看破する。
キャスターは死体の目利きに極めて優れ、該当分野ではランクAを上回る。
その他、敵の能力とその欠点を素早く理解することで戦闘を有利に進められる。
人造人間:A++
死体を材料に創造された存在。調整と改造を続ける限り何百年でも活動できる。
生前の人間性がそのまま残ることはなく、人格か記憶のどちらかあるいは両方が必ず変質する。
起動用の一対の電極が弱点であり、これを破壊されると修復不可能となる。
サーヴァントとして召喚された場合、霊核の位置は頭部と心臓ではなく脳と電極に変更される。
カリスマ:D-
大集団を率いるには申し分ないカリスマ性。
ただしキャスターのそれは人造人間または各種の"動く死体(リビングデッド)"にのみ効果を発揮する。
【宝具】
『究極を超えた究極(フランケンシュタイン・アハト)』
ランク:EX 種別:対人(自身)宝具 レンジ:0 最大捕捉:1人
再生機能特化型人造人間としての特化機能。万能細胞で構成された肉体そのもの。
細切れの肉片からも即座に再生可能で、脳と電極を頭部以外に移動させることすら容易。
更に万能細胞を変化させることで、構造を把握しているあらゆる生体組織を再現可能。
これにより、キャスターは他の機能特化型の能力を自由に行使することができる。
『人造細菌(バクテリア・フランケン)』
ランク:A 種別:対人宝具 レンジ:1 最大捕捉:1000人
キャスターの体内にセットされた、世界最小の対人大量殺戮兵器。
接触した人間に対して「感染」「致死」「防腐」の三段処置を一瞬で行う。
発動は文字通り一瞬。電気信号による起動命令が下った瞬間、触れていた人間は即死する。
触れてさえいなければ付近にいても影響を受けないが、『死溜まり』を介して広域に拡散するため回避は困難。
【weapon】
『死溜まり』
キャスターの肉体からあふれた万能細胞の塊。泥のような外観をしている。
本体同様にあらゆる生体組織を再現する能力があり、更に他の細胞を養分として吸収できる。
再現の対象はキャスター自身も含み、全く同じ能力と人格を持つダミーすら生成可能。
肉体に収まりきらなくなった万能細胞の塊なので、れっきとした宝具の一部。
原作においては、細切れからの全身再生の余りとして、明らかに人体の体積を越える量が出現。
更に濁流のように増殖し、密集した五、六百人の人間の足元を浸して『人造細菌』によって殺害。
その死体を養分として、一瞬のうちに数十メートルかそれ以上の規模の醜悪な怪物に変貌した。
『骨格機能特化』
究極の八体の一体目(アイン)、エクゾスケルトンの特化機能。
骨の形状を変えたり鋼鉄以上の硬度にすることができ、キャスターは拳に纏わせたり、拳から剣のように突き出させたりして戦闘に活用した。
『肺機能特化』
究極の八体の二体目(ツヴァイ)、リッパー=ホッパーの特化機能。
肺で生み出した圧縮空気を全身に送り、手足からの噴射による飛行や、手から刃物のように噴出しての切断、破壊的な竜巻の生成、水平に竜巻を放つことによる攻撃などを可能とする。
キャスターは戦闘において上記の能力をフル活用した。
『消化機能特化』
究極の八体の三体目(ドライ)、スカベンジャー=ベービの特化機能。
消化器官に寄生蟲型人造人間の擬似卵を大量に内包し、必要に応じた種類の巨大な寄生蟲を吐き出す。また、胃酸は石材を瞬く間に溶かすほどの強酸性。
キャスターは口から吐くのではなく、死溜まりを寄生蟲に変化させる形で使用した。
『筋力機能特化』
究極の八体の四体目(フィーア)、ムスケル=ウンゲホイヤーの特化機能。
筋繊維の自由な変形と無尽蔵の生成が可能で、人間的な形状にすら囚われない。
キャスターは超強化した筋繊維を作り出し、骨格機能特化と併用して打撃力を飛躍的に向上させた。
変形と無尽蔵の生成は、自身の特化機能で実現できるためか使用しなかった。
『感覚機能特化』
究極の八体の五体目(フュンフ)、タイガーリリィ=コフィンの特化機能。
五感全てが大幅に強化されているが、とりわけ眼球に絡む機能が多彩。
熱感視覚への切り替えや、カメラ・マイク・スピーカー・プロジェクター機能を持つ眼球型端末の生成、「光彩点滅催眠(フラッシュポイントヒュプノス)」による精神干渉などの搦め手に加え、攻撃手段として眼球に集中させた高圧電流を高エネルギーの光線として放つ「光速視線(レイ・アイ)」も備える。
キャスターは動体視力の強化と肺機能特化の高速機動を組み合わせることで超高速戦闘を実現し、更に自身の眼球や胸部に生成した巨大な眼球から放つ「光速視線」を使用した。
【人物背景】
人造人間研究の聖地「ポーラールート」から離反した人造人間の集団「稲妻の兄弟(ブリッツ=ブルーダー)」の統率。
世界一の死体愛好家(ネクロフィリア)を自称し、死体の楽園を生み出すために暗躍する。
自身も人造人間であると同時に人造人間を創造する技術を持ち、創造の拠点を放棄した直後でありながら「五百体程度なら一年もあれば作れる」と豪語するほど。
人間や人間社会と関わりたくないと語っているが、死体の安定供給のため大英帝国と交渉による取引を試み、その過程では人間相手でも紳士的な態度で接するなど、何かと知的な立ち振舞いが印象に残るタイプ。
敵対する人造人間であってもスカウトしようとするシーンが多く、優れた能力を持つ人間であれば生きたまま味方に引き入れることも許容する。
ただし、全面拒否された場合は一旦破壊したうえでの再創造にシフトするほか、全ての人造人間の破壊を目的とする主人公ヒューリー=フラットライナーだけは全面的に敵視している。
本編においても、列強諸国に兵器として人造人間を提供し、その戦争で生じた大量の死体を獲得するプランを考案していた。
生前は自己嫌悪と人間不信の塊のような人間だった。
自己嫌悪は人間嫌いに転じ、自分を引き取った家族を皆殺しにして逮捕されるも、創造の才能を買われて大創造主Dr.リヒターの助手となる。
その後、リヒターが隠していた秘密を目利きの技術で暴き、口止めの対価として自身の人造人間化を要求。八体目の機能特化型人造人間となる。
なお、自分の容貌も酷く嫌悪していたことから、本来の肉体は脳髄のみを使用し、肉体は別人のものを利用している。
【聖杯にかける願い】
聖杯はマスターに譲る。
マスターが引き起こす大戦争で生まれた死体を確保し、人造人間の楽園を生み出す。
【マスター名】 少佐
【出展】HELLSING
【性別】男
【能力・技能】
基本的に指揮能力や組織運営能力全振り。
戦闘能力は皆無で拳銃すらろくに当てられない。
全身が機械に置き換えられているため、生体に作用する類の能力は効かない可能性がある。
【人物背景】
ナチス残党組織「ミレニアム」のリーダー。総統代行、大隊指揮官などの肩書でも呼ばれる。
戦時中から研究していた吸血鬼化の技術を完成させ、吸血鬼化させた兵士1000人から成る「最後の大隊(ラスト・バタリオン)」を率いて英国に宣戦布告をした。
根っからの戦争狂であり、兵士達を前に行った「私は戦争が好きだ」から始まる演説はあまりにも有名。
「人間とは意思の生き物である」という信念を持ち、たとえどんな姿になっても確固たる意思を持っていれば人間であると考える。
吸血を介して他者の意思を取り込み融合する吸血鬼という存在を嫌い、真祖たるアーカードの打倒を目的として英国に侵攻した。
そのため部下達は吸血鬼化させてiいるものの、自分は吸血鬼化を拒み全身を機械化することで生きながらえている。
【聖杯にかける願い】
大戦争を引き起こす。
アーカード打倒以降の時間軸のため、それを願うことはない。
(アーカードは後に復活するが、現時点では知る由もない)
【方針】
人造人間の軍勢を率いて戦略的に『戦争』を勝ち抜く。
最終更新:2018年05月05日 14:13