ビートルズ、レッド・ツェッペリン、レディオヘッド――CD売り上げは減り続けており、オンライン販売の波に乗らない大物アーティストが降参するのも時間の問題かもしれない。

 ボブ・シーガーは方針を変えた。メタリカはとうとうオンラインファンにとって正しい道を見つけた(7月26日の記事参照)。今や、Apple ComputerのiTunes Music Store(iTMS)での楽曲販売を拒んでいる大物アーティストは残りわずかだ。

 アナリストは、反オンライン派――ビートルズ、レッド・ツェッペリン、ガース・ブルックス、レディオヘッド、キッド・ロックなど――もおそらく、ファンが音楽を買おうとインターネットに殺到する中で、iTMSを永遠に避け続けることはできないだろうと指摘する。

 だがこれらのアーティストは、オンライン配信では自分たちの手元に残る利益が少なすぎると主張している。また、iTMSは楽曲を個別に99セントで買えるようにしているため、アルバムの芸術的な完全性を壊しているとも彼らは主張する。AC/DCなど一部のバンドは、iTMSではなくもっと柔軟なほかのサイトでアルバムをリリースしている。

 「われわれは常に、アーティストはほかの50組のアーティストとの寄せ集めにするためにアルバムを出しているのではないと考えてきた」とシーガーとキッド・ロックのマネジャー、エド・“パンチ”・アンドリュース氏は語る。「いつか再び、30年前のようにアルバムが重要になる時が来ると期待している」

 バンドがサイバースペースを避ける理由はほかにもある。場合によっては、古い音楽を保有あるいは管理するさまざまな関係者の間で、配信契約に関する合意が取れないこともある。違法コピーへの懸念からインターネットを避けているアーティストもいる(しかしほとんどのオンラインストアは無許可の配信を防ぐために権利管理(DRM)技術を使っている)。

 レコード会社はiTMSやその他のサイトの人気の高さに気付いて以来、アーティストがダウンロードごとに受け取る金額を少なくするよう契約を書き直してきた。アンドリュース氏は、レコード会社はかつてアーティストに1曲売れるごとに約30セント渡していたが、今はそれが10セント未満だと話す。

 契約の問題、アルバムをそのままの形に保つための抵抗、違法コピーへの懸念。ボブ・シーガーとキッド・ロックはこれらの理由からオンライン配信を避けていたと同氏は言う。だがシーガーは、9月リリースの新作――11年ぶりのアルバム――からシングル曲「Wait For Me」をオンラインストアで販売することを認めた。

 ミシガン出身で2004年にロックの殿堂入りを果たした伝説的なロッカーであるシーガーは、1976年のアルバム「Night Moves」のオンラインリリースも検討しているが、アルバムとして丸ごとダウンロード販売することのみを望んでいるとアンドリュース氏は語る。

 同氏はiTMSについて「たくさんの人がアクセスしているのは驚異的だ。あそこでアルバムを売れたらいいと思う」と話す。同氏は、Appleがアルバムをそのまま売ることを認めるのかどうかは分からないと言う。

 Appleの広報担当者はコメントを控えた。

 だが、アーティストはもはやデジタル形式、特にiTMSから生じる売り上げや宣伝効果を見逃すリスクを負うわけにはいかないと調査会社Inside Digital Mediaのアナリスト、フィル・レイ氏は指摘する。CD販売は減少の一途をたどっており、最後のオンライン抵抗派が降参するのも時間の問題だと同氏は語る。

 「オンラインに向かわないアーティストは皆、取り残されるだろう。CD市場の成長がカスター将軍のごとく悲惨なことは明らかだ」(同氏)

 iPod人気のおかげで、既にiTMSは音楽を合法的にダウンロードする手段として優位に立っている。同サービスは3年前にスタートし、既に10億曲以上を売り上げている。

 MicrosoftのMSN Music、Napsterなどほかのサイトでダウンロードした楽曲は5800万台のiPodで再生できないため、iTMSは合法ダウンロード市場の約70%を握っている。

 メタリカは2000年に初代Napsterを閉鎖に追い込むのに一役買ったが、結局は降参し、未発表のライブ音源も含む楽曲を先月末にiTMSでリリースした(7月26日の記事参照)。

 「この1年かそこらで、iTMSなどのオンラインサイトを使って楽曲を入手するメタリカファンがどんどん増えていった。われわれがやっているように、iTMSを、iPodを、手に入れたものを何でも使って、iMetallicaを楽しんでくれ」とメタリカのWebサイトには記されている。

 レッド・ホット・チリ・ペッパーズは4月に、3年ぶりのアルバム「Stadium Arcadium」でiTMSに参加した。このアルバムを予約したファンには、ツアーのチケットを先行販売し、ボーナスコンテンツを提供した。今月にはボブ・ディランがiTMSでコンサートチケットを先行販売した。

 レコード会社は、オンライン音楽ストアも含め、すべての考えられる販売形態を採用するべく所属アーティストと協力していると話している。

 「ファンがアーティストについていくためにオンラインに向かっていることは明白だ」とEMI North Americaの広報担当ジャンヌ・メイヤー氏は言う。同社はローリング・ストーンズ、ビースティ・ボーイズなどがオンラインで成功したときに所属していた。「その結果、合法的にオンラインで音楽を購入したいという大きな需要ができた」

 特に携帯電話などオンラインで購入した楽曲を再生できる機器が増えている今、オンライン配信の成長は業界の安定化に貢献するはずだと調査会社NPD Groupのアナリスト、ラス・クラプニク氏は語る。

 ミュージシャンにとって、オンライン配信は、複数の形態で楽曲を持ちたいというファンにすべての曲目を再販売する手段になると同氏は言う。

 それでもオンライン抵抗派は残っている。

 最後のCD支持派の1つであるビートルズは、いかなるオンラインサービスでも自分たちの楽曲を販売することを認めていない。ジョン・レノンのソロ曲はiTMSでは販売されていないが、MSN Musicなどでは購入できる。

 ビートルズの利益を守るレコード会社Apple Corpsは、りんごのロゴの使用をめぐって、Apple Computerと何年もさまざまな訴訟を繰り広げてきた。5月にはロンドンの裁判所が、Apple ComputerにはiTMSでりんごのロゴを使う権利があるとの判決を下した。Apple Corpsは、Apple Computerが、お互いの領分に踏み込まないと約束した1991年の契約に違反したと訴えていた。

 Apple Corpsは取材の申し込みを拒否した。

 レッド・ツェッペリンはオンラインでの販売を行っていないが、ジミー・ペイジとロバート・プラントのソロ作品はiTMSなどのオンラインストアで購入できる。Warner Music Groupの広報担当者はコメントを控えた。

 レディオヘッドの楽曲はダウンロード購入できないが、リードボーカルのトム・ヨークのニューアルバム「Eraser」はオンライン販売されている。同バンドの広報担当者は、取材の申し込みには応じられないと答えた。

 カントリー歌手のガース・ブルックスは2005年にCapitol Recordsを去り、Wal-Mart Storesと楽曲販売で契約した。彼は、1曲88セントで販売しているWal-Martのサービスも含め、すべての主要ストアで自分の楽曲をダウンロード販売することを認めていない。マネジャーのボブ・ドイル氏に電話で取材を求めたが、返答は得られなかった。(2006.8.21/IT Media)
最終更新:2006年08月21日 19:02