-3日後ぐらい、教室-

今日もダレてた午前の授業は終了。いまからたのしいひるやすみ!
今日もあの場所を確保しようと準備していると、ましろと聖が声をかけてきた。

ましろ「遊佐君、よかったら一緒にお昼食べない?」
聖「断りたかったら断ってもいいんだぞ。」
遊佐「お、いいねぇ。是非とも!」
暗に聖が「断れ」と言っているので、ここは誘いを受けてみることにした。

中島「おーい、遊佐。一緒に昼飯……ってお二人さんも一緒?」
ましろ「あ、中島君も一緒に食べる?」
中島「これを断る男がいると思いますか?」

遊佐「どこで食べる?」
ましろ「そうだね、食堂は混みそうだし……」
中島「あそこでいいんじゃないか?」
遊佐「そうだな。ちょっと行ってくる!」
ましろと聖は何の事だか分かっていないようだが、俺と中島はアイコンタクトを取り、俺は場所の確保のために中庭へと急いだ。


-中庭-

遊佐「何でこんなに広いんだこの学校!」
何とか中庭に着いた俺は、肩で息をしながら例の場所を見た。
遊佐「あー、先客がいたかぁ……」
だが、目的の場所はすでに確保され……ってどこかで見た生徒だな。

霞「あ、先輩!」
遊佐「あー、君に取られちゃったか。仕方ないな。他を探すよ。」
霞「え? ああ、いいよ。 今日はあたし一人だから、一緒に食べる?」
うれしい申し出だが、すでに先約が。

遊佐「ごめん。今日はクラスメイトと一緒に食べる約束したから……」
霞「そっかぁ。残念!」
ましろ「そういうことならみんなで食べよう!」
椎府さんとそんなやり取りをしていたら、あとから3人が追い付いてきた。
そういうことなら願ってもないが……
ましろ「いいよね?聖ちゃん。」
聖「ああ、私は構わない……って椎府か?」
霞「あ、聖先輩!」
どうやら知り合いだったらしい。

聖「霞は各運動部からスカウトが来るほどの逸材だ。不二子も剣道部に誘ったそうだ。私も誘ったんだが……」
聖は西洋剣術、つまりフェンシング部に所属しているらしい。何でも次期主将候補だとか。
遊佐「確かに椎府さんは足速いからなぁ」
中島の『運動神経抜群で運動部全般からスカウトが絶えないらしい』という紹介を思い出した。

聖「走力だけじゃない。身のこなしも只者ではない。基本を押さえれば、間違いなく戦力になる。」
たしかに、最初のあの事故のときに、俺と電柱をひらりと避けたのは凄かったな。
遊佐「へー。潜在的に運動能力が高いんだろうな。」
これでも一応、平均より少し上の運動神経を持っている自信はある。
でも、彼女の走力に敵うとは思えなかった。悔しいけど。

遊佐「椎府さんは100メートル何秒ぐらい?」
霞「霞でいいよー。えっと、11秒7ぐらいだっけ。」
うん、女の子ならそんなものd……って50メートルじゃなくて100メートルを11秒台!?
遊佐「……それ、何かの間違いじゃなくて?」
霞「この前の基礎体力測定の記録だね。なんか先生がストップウォッチが故障したとか言って、3回も走らされちゃった。」
ましろ「すごーい!それって全国レベルじゃない?」
聖「だから言っただろう。只者ではないと。」
俺と中島は、特に意味もなくお互いの顔を見合わせた。男として、プライドが……

霞「あ、このから揚げおいしそう!いただき!!」
遊佐「ちょ!俺のから揚げが!」
なんて手の早い。
霞「うー、そんな顔しないでよ。この卵焼きあげるから。」
遊佐「から揚げと卵焼きが釣り合うか!ああ、俺の人生の楽しみが……ってこれは!」
霞ちゃんにもらった卵焼きを口に運んだ瞬間、まるで料理マンガのように口の中からパァァッと光が溢れた錯覚に陥った。
遊佐「こ、この卵焼き、うーーーーまーーーいーーーぞーーーーー!!!」
俺のボキャブラリーではこれが限界だ。しかしこれは!
霞「うわー、大袈裟だねぇ」
聖「そういえば、なぜか料理部からもスカウトがあったらしいな。」
遊佐「解説しよう!この卵焼きはそんじょそこらの卵焼きとはレベルが違う!! って、料理部からスカウト? これ霞ちゃんが自分で作ったの?」
霞「それ解説になってないよ。 そそ、朝時間があるときは、自分でお弁当作ってるんだ。」
遊佐「結婚してくださいそして俺に卵焼きを毎日作ってくださいむしろ卵焼きをください。」
中島「落ち着け!結婚は人生の墓場だ!」
遊佐「はっ!俺は一体……!?」
聖「噂には聞いていたが……。どれ、私も一口もらっていいか?」
ましろ「あ、私もー!」
霞「はいはい、どうぞどうぞ!」
中島「俺も俺も!」
霞「あ、なくなっちゃった……」
中島「チクショォォォォォ!」

聖「む、これは確かにうまい!」
ましろ「ほんと、すごく美味しいね!」
中島「俺にもその感動を分けてくれーーーーーーーー!」
ましろ「いいなー。料理が上手な人って憧れるよ。」
聖「確かに毎日食べたくなるな。そういう意味では、さっきのこいつ(遊佐)の反応もうなずけるのか?次やったら消すが。」
遊佐「箸で人を指さない。それに、消すってアナタ、妙にリアリティあって怖いですよ。」
中島「でも、ましろちゃんなんて、料理上手そうなイメージあるけどな。」
ましろ「私料理ダメなのよねー。」
遊佐「へー、意外だな。」
ましろ「お菓子はたまーに作るんだけどね。パイとかクッキーとか。でも、お料理はなぜかダメなんだよね。」
聖「ましろは、料理というか、刃物が全く使えないんだ。持つだけで怪我をする。」
遊佐「なるほど、納得。」
ましろ「ひどーい!」

遊佐「あれ?霞ちゃんどうかした?」
霞「え?あ、なんでもない。」
俺たちのやり取りを黙って聞いていた霞は、俺の問いかけに我に返ったような返事をした。
霞「仲がよくっていいなーって……」
聖「仲がいい?ましろはともかく、これ(遊佐)とこれ(中島)が私と?」
言うに事欠いて"これ"呼ばわりとは、一度痛い目に遭わせないとダメなようだな。
聖「勘違いするな。この二人はいつでも消せる準備がしてある。」
遊佐&中島「ガクガクブルブル」
ごめんなさいいごめんなさいごめんなさいごめんなさい……

あはは。と笑う霞は、今までの俺のイメージ-快活なもの-とは少し違った、さびしそうな印象を受けた。
最終更新:2007年01月27日 20:38