霞「うーん、風が気持ちいいー」
霞と一緒に昼飯を食べに屋上まできた。わざわざ屋上で食事をするような人はいないようだ。
遊佐「うん、意外と眺めもいいな」
ここからは町を見渡せる。
霞「ここからの景色は結構すきだなー」
遊佐「俺も嫌いじゃないな」
二人でフェンス越しに町を眺める。
霞「食べよっか」
遊佐「ああ」
屋上に設置してあるベンチに二人で座る。
が、何となく俺は端っこに座る。
霞「よいしょっと」
しかし霞はお構いなしに近くに座ってくる。
遊佐「ちょ……」
霞「ん?」
何か言おうと思ったが霞が気にしていない様子を見るとそんな気もなくなった。
遊佐「いや、なんでもない」
霞「さー、食べよ」
いつもの弁当箱を開ける霞をつい見ていると。
霞「今日も食べる?」
それに気づいた霞に尋ねられた。
遊佐「いや、そういうつもりじゃなかったんだけど」
俺はパンの袋を開ける。
遊佐「それじゃ、いただきます」
霞「いただきますー」
俺はカツサンドを食べる。
隣に霞がいることをつい意識してしまう。
なんだか石鹸の匂いまでしてくる。
男って女の子の匂いに弱いよな……たぶん。
なんて考えながらいつのまにかパンを食べ終わっていた。
霞「先輩、先輩」
突然霞が声をかけてくる。
遊佐「え、何?」
霞「これ、食べてみて」
箸に掴んだ玉子焼きが目に入る。
遊佐「え、え?」
霞「ほら、あーん」
いや、ちょっと待って。え、どうすればいいのこれ?
遊佐「あ、あーん」
なすすべも無く開けた口に玉子焼きが入れられる。
霞「えへへ、どう?」
俺は尋ねられてよく咀嚼して味を確かめた。
遊佐「えーと、うん。やっぱおいしいよ」
実際はそれどころじゃないのでよくわからないのだけど……。
霞「実は食べてもらおうと思って作ってきたの」
遊佐「え?」
霞「あはは」
それって、どういう意味だ?
霞「ね、先輩」
ふいに石鹸の香りが強くなったと同時に目の前に目をつぶった霞の顔が来る。
さっき転んだときにも見たかわいい顔。
そして一瞬口に、やわらかいものが当たる感覚。
遊佐「えっ?」
そして霞の顔が離れる。
霞「ごめんね!」
そして霞はまだ閉め切ってない弁当箱を抱えて走り出していった。
遊佐「え、え、えっえええぇえええぇ!?」
俺はもう何が何だか分からなくなってしばらくそこから動けずに居た。
霞『ごめんね!』
…………いや、何だろう本当。
これってそのまま考えていいのかな…………。
遊佐「いや、まぁなんだ」
錯乱と混乱。
遊佐「あぁあぁああ、もう! 何なんだ!」
怒っているわけもないし嫌だったわけでもない。
遊佐「わかんない……」
ここまでされればわかる気がするけど、自惚れるのも嫌なので自分に言い聞かせる
遊佐「まじでわかんない」
本当に嫌だったわけじゃあないんだ。
だから霞を嫌ったりはしない。これからもあの子と一緒に居られると楽しいだろう。
遊佐「……俺が気にしてたらきっと駄目だな」
というわけで、忘れる……事はできないだろうけどさっきのことは触れないようにしよう。
ただ、霞といる楽しい時間を壊したくないから。
壊れると決まったわけでもないけど……いや、考えるな。
遊佐「うん、そうしよう」
俺はベンチから立ち上がる。
遊佐「戻るか」
俺は一人残された屋上をパンの袋のゴミを持って出て行った。
最終更新:2007年01月30日 00:18