(途中です)
○商店街-夕方
見慣れぬ街の喧騒――何だか落ち着かない。
引越しの荷物の片付けに飽きてきた頃、親からちょっとしたお使いを頼まれてここまでやってきた。
学園は徒歩で行ける距離にあるので、駅自体を利用することはあまり無いだろう。
とはいえ商店街としては距離も大きさも申し分無い。度々利用することになりそうだ。
しかし小腹が空いたな。って考えてみると昼飯食べてなかったぜ!
ぐぎゅるるぅぅぅうううう
自分の腹の情け無い泣き声に急かされ、周囲に手ごろな食べ物屋でもないものかと見回した。
んー……お?
美味しそうなたこ焼きの香りが鼻をくすぐり出したぜ。
駅の改札を出たところに、「たこ焼き」と書かれた暖簾の下がっている屋台があった。
これまで住んでいた場所の駅にも、こんな屋台が立ってたな。あそこのたこ焼き、結構好きだった。
よし、あれで腹ごしらえしよう!
たこ焼き屋:いらっしゃい。
年季の感じられる立派なシワをこさえたおじさんが、にこやかに迎えてくれた。
俺:ひとつください。
たこ焼き屋:あいよ!
うーん、いい匂いだ。引っ越しても変わらないものもあるんだな、なんてちょっとしみじみ。
???:ヘイ、ボゥイ! 良いヒヤリですネ!
そんなしみじみをあっさりと壊してくれたのは、妙な訛(なま)りの入った日本語だった。
方言、というよりは外国語訛りって感じだ。
……というか、外国人そのものだった。
俺:……ひ、ひやり?
日本人では有り得ない金髪と碧眼。その長身かつスリムな体系も、やはり日本人離れしている。
何故俺が話しかけられたのか、何の用なのか、見当がつかなかった。
???:日和(ひより)、[l]ですよね、ローラ。
外国人の後ろには、ブロンドの頭より一回り小さい、ちょうど俺と同じ位の背を持つ少女が立っていた。
腰まで伸びている栗色の髪に手をかけながら、少女は流暢な日本語を続ける。いや、日本人か?
???:難しい言葉に挑戦することはとても良いことです。ですが、その前にもう少し物覚えを良くした方がいいかも知れませんわね。
言う人によってはきつく聞こえそうな言葉だったが、その少女の口から出ると何故だかとても柔らかい。
ローラ:Oh! サスガにカナデは手厳しいデスネ!
奏:あなたが、日本語の勉強に一生懸命であるからこそです。
ローラ:Ohh! 素晴らしい師匠を持って涙がチョチョギレそうデス。およおよおよ。
……何なんだこの二人は?
奏:あ、申し訳ありません。わたくしたち、たこ焼きを買いに来たのです。
俺:あ、あああ、なるほどなるほど。
ローラ:ということでオッサン、ワタシにも一丁クダセイ!
……オッサンて。どうやらわざとではないようだけど、ヤヤコシイ人だ。
たこ焼き屋:おうおう、ずいぶんと日本語が達者だな!
ローラ:Yeah! おぬしも達者デナ!
たこ焼き屋:はっは、面白い奴だ。
ローラ:ハッハ、very interesting ネ!
心の広いオッサン、[l]もとい、おじさんでよかった。失礼な言葉に怒るどころか意気投合したようだ。
奏:ここのたこ焼きは良く食べられるのですか?
ついには雑談にふけりだした二人をよそに、栗毛の日本人が俺に話しかけてきた。
俺:いえ、初めてです。昨日引っ越してきたんですよ。
奏:あらそうでしたか。わたくしもあまりこの辺りへは来ないのですが、今日はこのローラに手を引かれましてね。
俺:しぶしぶですか。
奏:ええ、しぶしぶ。
なるほど、上品な物腰といい、おしとやかな口調といい。良いトコのお嬢様ってことかな。
買い物とか掃除は家政婦さんにやらせちゃってたりして。
ローラ:ボゥイ! ヒッコシって何ですカ?
俺:えと、遊佐洲彬です。
ローラ:コレハ失礼ですた。クニアキはヒッコシをしたデスカ?
俺:は、はあ。
奏:親の都合などで、離れた場所から住居を移すことです。
ローラ:オゥ! ユゥ、moving? Really?
いきなり肩を掴まれた。
ローラ:ミー、トゥ! ワタシモ、ワタシモ moving from America!!
ごちゃごちゃな言語で頭がおかしくなりそうだ。
俺:ローラさんも引っ越してきたですか。
奏:ええ、もう10年程前ですけどね。
10年も日本にいてその喋り方とは! いや、そういうものなんだろうか。
まあ俺も外国で暮らして英語をすぐに覚える自信ないしな。納得しておこう。
ローラ:まだまだ修行がタリマセーンネ。
俺:頑張ってください。
ローラ:モチロンデス! 毎日が死に物狂いデスゼ!
……ちょっと疲れてきた。
たこ焼き屋:おう、できたぜ、お待たせさん!
ローラ:待ちくたびれマシター。たこ焼き早く食べてみたいデス。
代金を払い、香ばしい香りのたちこめる袋を受け取る。
あ、そういえばどこで食べよう?
ローラ:バスストップにベンチありますネ。
もしかして一緒に食べる気か。しかもバス停でとは、人の迷惑もいいところではないか。
奏:ちょうど空いてますよ、三人分。
奏にもあまり常識が備わっていないようだ。
俺:……じゃあ、座りますか。
俺も俺で、常識よりも女の子とたこ焼きとベンチを優先することにした。
最終更新:2007年02月06日 23:12